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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園

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"乙女な荒くれ者" メント

「えーと、名義はパーラって子になっていると思います」

「えー、20号室です」

「分かりました。ありがとうございます」


 10歳程度の子どもがカラオケへ入れると思えなかったので、一応偽装身分証を用意していたが、それは杞憂に終わった。ルーシはパーラたちの部屋へ行く。


「ルーちゃん!! ようやく来た!!」

「ああ、またせたな。とりあえず、そちらの方との自己紹介だ」


 顔立ちは普通。いや、平均以上だろう。だが三白眼で目つきが悪い。髪色は緑。この国ではありふれた髪色だ。髪の長さはショート。一番のポイントは、パーラの同級生ということは16歳か17歳なのに、胸を強調するためにできているようなセーターを着ていても、そこへはなにもないことだ。


「はじめまして。ルーシ・レイノルズと申します。今回はこのような突発的な集まりへ参加いただきありがとうございます。お名前はメントさんですよね?」

「……気に入らねえ」

「はい?」

「オマエ、ランクAだろ? 10歳でランクAとか聞いたことねえ。どんなトリックを使ったんだ?」


 ルーシは鼻で笑い、

「そうですね……。実際に闘ってみればわかると思いますよ?」

 余裕たっぷりの笑顔を見せる。


「ならいますぐだ。あたしの上に立つヤツが、あたしより弱えことは許されねえ」

「それも良いですが……パーラ、メリット、アーク。どう思う?」


 パーラはあたふたと慌てていた。一触即発の雰囲気だ。無理もない。

 メリットは楽しげな顔をしていた。面白がっているのであろう。

 アークは表情筋を失っていた。どうやらこちらの話も聞いていないらしい。


「……学校に模擬戦用の地下室がある。いますぐ行くぞ」

「怖いですねェ。不良みたいじゃないですか」

「いいや……単純に強いかどうかを確認したいだけさ」

「そうですか……。3人とも、酒買っておいた。飲んで待っていろ。メリット、ほら」

「ちゃんと1ミリ買ってきた。どうも」

「気にするな。さて……。行きましょうか、メントさん」


 *


(なんでおれは落ち着くことができねェんだろう。カラオケで酒飲みながら親睦を深めようと思ったら、よくわからん女と闘うことになっちまった)


 模擬戦地下。真っ白な空間だ。なんでも魔術が適応されるらしく、1瞬で相手が死んでしまうような攻撃を加えた場合を除き、相手が闘えなくなったらそこで強制終了となる。


「準備できていますよ。そちらさんは?」

「できてる……行くぞっ!!」


(さァ、なにが来る? おもしろけりゃ良いが)


 メントは矢印のような現象を出してきた。矢印。黒い矢印。サイズは数メートルほど。

 触れればどうなるのか。ひとまずルーシは触れてみた。


「なるほどねェ……」


 存在しない法則を操り、ルーシはメントのスキルを解析する。

 いわゆる爆発系だ。触れた瞬間爆発するのだ。なかなか殺傷性の高いスキルである、


「……効かないっ!? だったら!!」


 メントはルーシのスキルを反射系だと思ったのか、今度はさらに巨大な矢印を出してきた。

 そして、ルーシは何事もなかったかのように、それを打ち消した。


「そうですねェ……。たぶん、メントさんじゃ私には勝てないと思いますよ? だからこうしましょう。私のスキルを当てられたら、メントさんの勝ち。当てられなかったら……」


 距離感は10メートルほど。ルーシは1歩ずつメントへ近づいていく。


「殴り合いでもしてみますか」


 当然、小バカにしている。ルーシだって理解していないスキルを、メントが分かるわけない。ルーシは1歩ずつ、コツコツと、彼女との間合いを狭めていく。


「……っっっ!! なめるなよぉ!!」


「おお、すごいですねェ」


 黒い矢印? いや、もはやカラスの群れのようだ。当たれば木っ端みじんになるのは間違いない。そう、当たれば。


「おもしろい現象、見せましょうか?」


 ルーシのスキル。簡潔明瞭だ。「存在しない法則を操る」ものだ。ただ、それがどこまで通用するかは当人にもわかっていない。だから理解できていない。

 そして、ルーシは、メントのスキルを強制的に()()()()()


「っ!? なにが……?」


 反射ならばメントは直撃を受けて死んでいる。

 操作でもこんなめちゃくちゃなことはできない。

 なら、なにをした? なんで魔術がすべて自分のもとへ戻っている?


「それを当てるのが醍醐味でしょう。ところで、メントさんのランクは?」


「……Bだ」


「なら、すこし考えてみたらわかるかもしれませんよ?」


 そんなことをいっている間にも、ルーシはゆるりゆるり距離を縮めていく。


 されど、メントに恐怖の感情は芽生えなかった。


「……どんな意味不明なスキルにも、必ず穴がある。それを突いてやる!!」


 そう。穴はあるのだ。この世に完璧なものはない。無敵もいない。

 ルーシにだって弱点はあるはずだ。そこをどうやって突くか。


「へェ。おもしれェな。先ほどの攻撃が必殺技だったんなら、もう心がへし折れていてもおかしくねェのに……まるで目が死んでいねェ。そういうヤツは大好きだ」


 ルーシの口調がわざとらしい敬語から、普段使いのものへと変わった。


「当たり前だ! こんなよくわからないクソガキに、MIHのランクAを奪われたあたしの気持ちにもなってみろ!! ランクAはわずか5人! キャメル、ウィンストン、ラーク、ピアニッシモ、ホープの5人だけだった! あたしは、コイツにかなわないって思ってた! でも……アンタには勝ち筋が見える」


 怒号のような声から一転、メントは強気な笑顔を見せた。


「……と、いうと?」


 ルーシはメントのことを気に入っていた。精神的に強く前を向ける人間が大好きなのだ。ルーシが男娼にまで堕ちても、薬物依存症になっても、それでも日本裏社会を征服したように、どんなときでも前を向ける人間が大好きなのだ。


「あたしはメント!! アンタを超えて、ランクSになる女だ!!」


 刹那、絶対の防御を誇る「存在しない法則」が破られ、ついにルーシの身体へ魔術による攻撃が通った。

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