青嵐の場合
夕方6時過ぎ、ロスト・エンジェルス市民は驚愕に包まれた。ある者は家族を失い悲しみ、ある者は軍靴の音に歓喜し、しかしほとんどの者は言葉を失っていた。
ブリタニカ軍による、ノースLTAS民間港及び軍港の爆破。それはつまり、隣国かつ不倶戴天の敵である彼の国との戦争を意味していた。
この危機的状況では、最高指導者の資質が問われる。大統領クール・レイノルズは、本日の19時に会見を開くと発表した。報復措置として宣戦布告するか、遺憾の意という弱腰外交へ走るか。
全ロスト・エンジェルス市民が注目する中、会見まであと10分を切った。
その頃、クールは今後の展開について最終調整を行っていた。大統領執務室には、国防長官及び、連邦国防軍参謀総長もいる。
参謀総長は沈痛に言う。「……ロスト・エンジェルスへのテロリズムを看破することはできません。できませんが、ブリタニカとの戦争は得策ではないでしょう」
国防長官も同様だった。「それに、この〝青嵐の場合〟作戦はブラシリカへも兵士を展開することに……いや、もはやブラシリカへの介入がメインプランといえるでしょう」
クールは椅子から立ち上がり、窓の外の景色を見つめる。
「なぁ、この国は市民の力がなければ決して作れなかったよな。この文明は」
摩天楼が並ぶ街並み、国歌を流しながら通り過ぎていく車、空にはヘリコプターや飛行機。それらをじっくり眺め、クールは国防長官と参謀総長に向き直す。
緊迫した雰囲気に包まれる中、クールは宣言した。
「だが、ブリタニカが我々の文明を破壊するというのなら、当然こちらも黙っていられない。そうだろう?」なにかを言いかけた国防長官に言葉を被せる。「なに、大丈夫だ。ブリタニカは大陸と植民地のふたつの舞台で闘ってる。それに、軍事専門家の君らなら分かるだろうが、ロスト・エンジェルスは不沈空母でもある。昔の戦争を思い出してみろ。ブリタニカとガリアとヒスパニアと闘っても、ロスト・エンジェルスは勝ったじゃあないか」
クールの自信は、なにも無根拠ではなかった。ロスト・エンジェルスはひとつの本島と複数の小島、及び海外領土で構成される〝シーパワー〟国家。そもそも、本島へブリタニカの連中が上陸することもできないと踏んでいた。
「よって、ロスト・エンジェルスは24時間以内に、ブリタニカがロッキー港事件の首謀者を差し出さなかった場合、あの薄汚い豚どもへ宣戦布告する。すでに外務省にはその旨を伝えてあるからな。あとは〝青嵐の場合〟作戦の成功に賭けよう」
*
こうなると、ルーシは多忙である。彼女は私設兵隊『ピースキーパー』を所有しており、その数は10000人を数えている。なので、ロスト・エンジェルス連邦国防軍と協力して戦役に突撃しなくてはならない。
ただ、この状況は面倒というわけではない。かつて世界征服を目論んだ男が、こうした状態を喜ばないわけがなかった。
「──以上になります。CEO」
ピースキーパーの司令官、狐の被り物が特徴的な八千代は、ルーシに連邦国防軍の動きの報告を行った。ルーシは目を子どもらしく光らせる。
「なるほど。いくつか質問させてもらうぞ」
「はい」
「この喧嘩の目的は、ブラシリカの資源獲得だ。つまり、ブラシリカ方面に展開される軍がもっとも重要といえる。そこに配置された〝セブン・スターズ〟は誰だい?」
「ゴールデンバッド少将です。特殊旅団〝オウガ・バトル〟を率いています」
「なら〝まやかし〟を起こすブリタニカ方面は?」
「ジョン・プレイヤー中将が、特殊師団〝JPS〟を展開するとのことであります」




