『デウス・エクス・マキナ』(*)
クール・レイノルズとポールモールは突如入ってきた情報に耳を疑った。
「NLAが地図上から消滅した? たしか姉弟が向かってたよな?」
「ええ……。ルーシは学生たちも根こそぎ動員しようと北へ向かったはずですが……」
慌ただしく動く情報。クールはひとまずスターリング工業の持つ偵察機の映像を待つ。
そこには、無慈悲な現実が待ち受けていた。
「…………きれいさっぱり消えてやがるぜ。ポーちゃん」
「ええ……緊急幹部会を開きます。NLAに進出していた子分たちも全滅したと考えるべきですから」
最高幹部及びルーシと親しい無法者の少年リヒト、連邦保安本部に2重スパイとして務めるマーベリック、そしてタイペイ。
「おめェら、緊急事態だ。我らのボス、ルーシがNLAで死んだ可能性が極めて高い」
クールの落ち着き払った態度とは裏腹に、出席者はひとりを除いて全員驚愕に包まれた。
「また、NLAにはおれの妹もいた。アイツも死んでしまっただろう。ポーちゃん」
「ノース・ロスト・エンジェルスの総人口は200万人。これはLTASの5大都市の中で1番の人口です。これだけのヒトを滅多殺しにした、いや、滅多殺しにできる存在といえば……」
幼女になった兄が好んで着ていたグレーの艶ありスーツと赤のシャツ。それを着込んだタイペイが、この動乱の中まったく慌てることなく言う。
「うん、守護天使だね」
「どの守護天使だ?」クールは冷静に訊く。
「クイン・ウォーカー、かな」
「クイン・ウォーカー? 聞いたことねェな」
「うん、かつて神様にもっとも近い存在と言われてたヒトだからね。クールくんが知らないのも無理ない」
その言葉に参加者は固まる。この世界に神とやらが実在するのならば、それに近しい存在の実力は計り知れない。
重苦しい雰囲気の中、されどタイペイはまったく慄いていなかった。
「さて。デウス・エクス・マキナでNLA消滅事件をなかったことにしようかな。神様の力の片鱗ってヤツだね」
見えざる神が現れ、物語を強制的に終わらせるという演劇装置『デウス・エクス・マキナ』。タイペイが落ち着いていた理由とは、このいんちきじみた法則を使えるからなのであろう。
「DEMを使うのか? リスクだってでかいはずだが?」ポールモールはそう言う。
「うん。でも先に仕掛けたのはあっち。天使だけが使えるご都合主義、いまここで使わなきゃ私たち負けちゃうよ?」
負けてしまえば意味がない。いままで積み重ねてきた悪行も、勝つことで正当化される。だからこそ、負けてはならない。
「……分かった、タイペイ。デウス・エクス・マキナでNLAを蘇らせてくれ」
「りょうかい」
リスクは高いが、リスクを恐れていたら無法者などできない。
*
「……はッ!?」
ルーシとメリットは再生されたNLAにて目を覚ました。
「やっぱりどうやら生き残れたみたいで。誰かのデウス・エクス・マキナかな」
「アイツがやったみてーだな……」
NLA全体を包み込むほど巨大化した天使がいた。
クーアノンの頭領だとか、守護天使だとか、そんな話はあまり関係ない。
「メリット……」
「なに?」
「無神論国家に天使は必要ねェよな?」
「もちろん」
「なら……やってやろうぜ」
デウス・エクス・マキナは古代ギリシアの演劇で使われていました。物語が収束不可能になると、絶対的な神が一石を投じすべての問題を解決してしまいます。いわば『ご都合主義』です。略して『DEM』でお願いします。




