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デートしようよ!デートしようよ!

 山に登り、森でキャンプをし、お土産に山菜や鳥や魚や花なんかを持って帰って来たハリスは、おすそ分けついでにアンナをデートに誘った。

「もちろん、いいわよ」

「お、本当か。じゃあ、早速行こう!」と手を取ったところでやってきた父ドミニクが「よろしい、青春だね。いいデートスポットを教えてあげよう」なんてにっこりと横から出てきたので、ハリスは肩をビクッとゆらして「こんにちは!」と綺麗にお辞儀した。

「はい、こんにちは。デートだろ? デート……、いい響きだ。ちなみに俺はこれから、一つ向こうの伯爵夫人とデートだ。大丈夫、浮気じゃないし、そもそも相手は八十歳のお姉様だからな。デートのいいスポットはケヴィンが教えてくれるだろう」

「よう、義弟よ! デートと聞いて馳せ参じたお兄様だよ。デートといえば……」となにか言おうとするのを、アンナがぐいっと押しのけて「兄さんは、これを持って厨房にでも行っててよ」と持って来てくれた土産をどっさりと渡した。

「おやまあ」

「それじゃあ、私、いくから!」とぐいっと引っ張って、デートが始まった。

 まあ、デートと言っても、近所をぶらぶらするだけなのだが。

 そこらでお茶をしたりしつつ、あっていない期間なにをしていたか、なんていう話をした。

 ハリスはこのデートで、あの恋を自覚した場所に行く気だった。アンナに、恋のことは伏せていうと「ああ、あそこはうちのところだわ。いいわよ、行きましょう」と引っ張られて、馬車でとことこあの場所に向かった。

 時期が時期なものだから、まったくヒナギクは咲いていなかったが、ハリスは「ここだ!」と叫んであたりをみまわした。アンナの手をとって、昔、遊んだ川に向かい、林の中をがさごそ進んだりなんてした。

 アンナは一体こんな場所になんで来たかったのか不思議だった。

 彼はとてつもなくキラキラした顔でこんなことがあったな、と言ってくる。時々忘れていることもあるから驚きだ。

 最初はわあわあ楽しそうにピカピカの笑顔で走り回っていたハリスは馬車が見えるか見えないかの位置でぴたっと止まると、よおし! とばったりとその場に倒れこんだ。

「ハリス?!」

「はははは! いい天気だ」

「ちょっと何やってるの。服が汚れるわよ」

「うん」

「うんじゃないわ」

 ハリスは面映ゆそうにニコニコと目を細めてアンナを見つめて「うん」とまた言った。

「ハリス?」

「へへ、幸せだなあ、俺」

「まあ」

 その場に座り込んだアンナの手をとって「言うか言わないか、迷うんだが、まあ、俺がスッキリするから言おうと思う」と言った。

「うーん、実はな、ここでピクニックしただろ? あの時に、俺、アンナが好きになったんだ。こっちを向いてにっこり俺の名前を呼んでさ。なんでか好きになったんだ。だから、その、ここに一遍来たかったんだ」

「そ、そうなの……」

「そうです」

 と二人は押し黙ってそよ風に吹かれた。

 日はじりじりと照っていて暑い。アンナは影に行きたい、と思って立ち上がろうとした。それを、なんとなく止めようとして、ぐいっと引っ張った。

「あ」と驚き目を見開いて体がぐらりとなる。ハリスは慌てて、体で受け止めて「悪い! 怪我はなかったか?」と心配そうに覗き込んだ。

 はずだった。

 すべては不幸な事故なのだ。不幸じゃないかもしれないので、ミラクルと言っておこう。

 倒れこんでアンナがまず思ったのは、さっさと起き上がらなきゃいけないということだった。それでハリスの方は怪我がないか覗き込もうとした。

 そう要するにミラクルに口と口が合うという、万分の一の確率を叩き出したのだった。

 ハリスは即座に土下座した。

 ベタに柔らかいとか思う間も無く土下座した。

「あ、あの、ハリス……」

「事故だが、責任は取るから。思う存分、俺を殴ってくれ」

「いや、取るって言われても」

「ごめんなさい」

「いや、全然いいんだけど。むしろ、そんな土下座するほどじゃないと思う」

「え……するだろ。だって、どこに行っても、口にするのは最後だって。そう、結婚式の時だけだと……」

「いや、それは前のところだけでしょ」

「そう、なのか? 父と母がそう言ってたんだけど」

「……それは、多分、騙されてたんだと」

「嘘だろ?! あ、でも、最初に行った国だけだったかもしれない! え、と、言うことは、ここは結婚式じゃないのにしたとしても、あのぶっとい棒で親父さんからぶっ叩かれる心配がないということなのか?」

「むしろ、そっちの方が驚きよ!」

「不用意に娘さんにそういうことをすれば、親父さんにやられるんだ。たとえ将来を誓い合っていようが、結婚するまでそんなことするんじゃない。そういうのは結婚してからだ! ってぶっ叩かれる。あれは痛い、痛い上に怖い。特にお母さん側の目が怖い……。俺じゃなくて友人がやらかしたんだがな? 一週間くらいは、座れなかったらしい」

「まあ……」

「俺はそうなるまいと思って、今まで……! なんだったんだ、この努力は! だけど、どうせだから続けるぞ!」

「あ、うん、ご勝手にどうぞ?」

「……いや、やめとこう。うん、俺はできる男。狼だとしても紳士たる男だ。うん、帰る」

「馬鹿ね」と今度こそ立ち上がって、今度は手を差し伸べて「ハリス」とにっこりと笑った。

 それが昔のあの好きになった瞬間と同じで、ハリスは少し目を見開いた。

 彼は頬を染めながら、あの時には取れなかった手を取って「アンナ」とピカピカの笑顔で笑い返した。

 こうして、デートは終了したのだった。

 そろそろ学校が始まる。

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