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第41話 ジュリと新たな出会い 3

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

明日も更新です。




 すっかり夜も更け、酒場ロルマリタも看板を片付ける。

 最後の客を見送ったアレックスは店に戻ると深いため息をつく。

 

「そのため息は、さっきの話のせい?」

「マリー……。なんだか気が滅入ってしまってな。どうしてもアンバーやメイジーと重ねてしまうんだ」


 アレックスの言葉にマリーも目を伏せる。

 先程、客の会話の中でハーフエルフの少女の話が出た。

 といってもジュリのことではない。密航した船に乗っていたという少女のことだ。

 密航といっても半ば遭難したような者らしく、船員たちは皆大人しく従ったと言う。問題は少女の保護者がいないということなのだ。

 保護法が成立されたとはいえ、自身の意志を示さない少女。そんな彼女には保護者が必要だという話になっているらしい。


「……いくら保護法があっても、自分の権利を守るには意志を示す必要があるわ。まったく話さない状況だと言うし、誰かが保護する必要は確かにあるのよね」

「あぁ、だからといってその保護者はどこまで信用できる人物なんだ?」

「……えぇ、そうね」


 マリーもアレックスと同じ懸念を抱いているのだろう。眉を顰める。

 ハーフエルフという希少性、整った容姿、人に見せびらかし、自身の名誉欲を満たすために引き取ると申し出る者達がいることは容易に想像出来ることだ。

 そのために保護法が出来ているのだが、今の少女の現状では保護者が必要となるのも否定できない。


「子どもを守るのが大人の役目だと言うのに……」


 そう言うアレックスは亡くなった姉の子二人を引き取った。

 そんな彼の優しさはマリーには眩しく映る。

 皆が彼のような心根であればと、母との確執を抱えたマリーは思う。

 しかし、現状ではハーフエルフの少女に二人がしてやれることなどないのだ。


「――やるせないわね」


 視線を窓側に逸らしたマリーの表情はアレックスの方向からは影になり、表情が良く見えない。

 だが、アレックスにはその悲しみに染まった表情が見えるようで、胸がつまるような思いになるのであった。


*****


 エレナは眠りについたようだが、ジュリはその日、なかなか寝付けない。

 リビングの窓際に座り、空を眺めているとシリウスが近寄ってくる。

 何も言わず、座り込んだジュリに寄り添うように座るシリウスに、ジュリは口を開く。


「……シリウスというのは星の名らしい」


 その言葉にシリウスは窓の外の夜空を見上げるが、あいにく曇って星はぼんやりとしか見えない。


「あぁ、ここからは見えない星なんだ。魔女が教えてくれた星でな、魔女の国で最も輝く星らしいんだ」


 初めて聞く自身の名の由来にシリウスはじっとエレナの横顔を見つめる。

 星がうっすらとしか見えない空を眺めつつ、ジュリは話し続ける。

 シリウス、その名を魔女が教えてくれたのはいつのことだったか、ジュリはもう思い出せない。

 だが、魔女が語ったシリウスという星の話は印象的で、今もジュリの中で消えることはない。


「星の中で一番輝く、それがシリウスなんだ。暗い闇を照らす光だな」

「――良き名を私は主に頂いたのですね」


 嬉しそうにどこか誇らしそうに言うシリウスをジュリはぎゅっと抱き寄せる。

 魔女がいなくなった後、シリウスを保護したが、その存在に救われていたのは自分自身であったとジュリは思う。

 初めて味わった孤独を癒してくれたのは、言葉の通じないシリウスの存在であった。じっとこちらを見つめるシリウスの瞳に、その温度に、ジュリは安堵したものだ。


「私は主にとって、その役を担えるでしょうか?」

「シリウス……」


 ジュリの抱える迷いや葛藤をシリウスは察したのだろう。

 じっとこちらを見つめる瞳は優しいものだ。

 その瞳の優しさにジュリは自身の考えを静かに語り出したのだった。



「――主のお考えはわかりました」


 話を聞き終えたシリウスがそう言うと、ジュリは不安げにその次の言葉を待つ。

 そんなジュリにかけられたシリウスの言葉は、迷っていた彼女を後押しするものだ。


「まず、それをエレナやジョーさんにお話しください」

「だが、その……」


 もし皆に話しても、拒まれるのではと思っているのだろう。ジュリは言い淀み、視線を彷徨わせる。

 少し首を傾げ、シリウスはジュリに尋ねる。


「今、お一人でかかえている――その状態の方がお辛いのではないでしょうか。エレナ様と出会い、主の世界は広がりました。今はもう、お一人ではないのです。……私ともこうして会話が出来る」

「あぁ、そうだな。魔女の、エレナのおかげで私の世界は広がった。ずっと側にいてくれたシリウス、お前のおかげでもあるな。だが、それでも怖いんだ」


 自分の不安を口に出来るだけ、ジュリは成長したのだとシリウスは思う。

 しかし、ジュリ自身はそれを弱さだと感じている様子で、エレナ達に打ち明けることを躊躇しているようだ。

 

「私に打ち明けてくださったということは、主の中でも迷いがあるということ――シリウスという名に与えた私を信じて頂けないでしょうか?」

「……そうだな。シリウスの言う通りだ。私の決断には皆の協力は不可欠なんだ。恐れていては解決できない」


 いつかのようにシリウスを抱きしめながら、ジュリは呟く。

 曇ってかすかにしか見えない星空、けれどジュリにはシリウスという光がこんなに近くにいる。

 抱きしめ、伝わるその温もりに、ジュリは皆に決断を打ち明ける決意を固めるのだった。

 


*****


 ジュリが朝食の準備をし、それをエレナが手伝う。

 いつもと変わらぬ光景のはずだが、ジュリの変化にエレナは気付いている。

 トントンと野菜を刻む音が響くが、ジュリは何もしゃべることはない。

 おそらく、なにかをジュリは考えている――そして、そこにはあのハーフエルフの少女が関わっているのだろう。

 カトラリーを用意しつつ、ジュリの背中にエレナは視線を送る。

 食卓にスープの皿を置き、椅子にジュリも座る。

 

「で、あたしに話したいことってなに?」

「! ……まだ何も言っていないぞ」

「だって、ジュリすっごく真剣な表情なんだもん」


 エレナに打ち明けねばと考えていたジュリの表情は自然と硬くなっていたようだ。

 自分で打ち明けるタイミングを見計らっていたジュリは、エレナの問いかけに何から切り出してよいかと迷う。

 そんなジュリにエレナはくすりと笑う。


「ここはジュリとエレナの相談所なんだよ。あたしがジュリに、ジュリがあたしに相談してもいいんじゃない?」

「……エレナ」


 話しやすいようにと心を砕くエレナに、ジュリは胸が詰まるような思いだ。

 これからジュリが打ち明けようとしていることは、エレナの生活にも大きな影響を与えるのだから。

 再び考え込んだ様子のジュリにエレナは微笑む。


「でも、まずはごはんだね! このスープ、美味しそうだね」

「あぁ、春が近くなって野菜も増えたんだ」


 ジュリも口元を緩め、リビングにはやっといつもの空気が流れるのだった。



「……そっか。ジュリはそう思ってるんだね」


 朝食を終え、先程の話をジュリはエレナに打ち明けた。

 エレナは少し目を伏せる。ジュリは緊張しつつ、エレナの答えを待つ。

 言葉を選ぶように少しずつ、エレナは話し始めた。


「ジュリと出会って、一緒に暮らして働いてあたしの生活は凄く変わったんだ。自分の居場所が出来たんだ……って安心したもん」

「……私も同じだ。エレナと出会って世界が広がった。シリウスのことも、ジョーやテッドと出会えたのも、相談所を開けたのだってそうだ。その……感謝している。ありがとう、エレナ」

「あたしもだよ。ありがとう、ジュリ」


 お互いの顔を見つめ合い、二人は自然と微笑む。

 出会ったことでジュリの日々もエレナの日々も大きく変わった――より良き方向にだ。

 そんな二人に注がれる視線、シリウスである。

 期待したようにしっぽをゆらゆらと揺らす姿にジュリもエレナも気付く。

 目で合図を送り合い、軽く頷く。


「もちろん、シリウスにも感謝しているぞ」

「うん、私達を守ってくれてるもんね」

「い、いえ……私なぞ……」


 そう言うシリウスだが、耳はへにょりと下がり、しっぽは先程より強く揺れる。

 シリウスの喜びようにジュリもエレナもつい笑ってしまう。

 わしゃわしゃとシリウスの頭をジュリは撫でる。


「あの子にも居場所が必要なはずだ」


 小さな呟きにエレナは静かに頷くのだった。



ジュリとエレナのお話もあと数話を残すばかりです。

最後まで書き進めますので

お楽しみ頂けると嬉しいです。

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