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苦労して得られたものは価値がある

 翌朝、ソラはとある固定ダンジョンの前に佇んでいた。


「本当にここでいいんだよね……?」


 昨晩、冒険者協会のダンジョンオークションサイトにて、ソラはDランクのテンポラリーダンジョンを購入した。


 それはオークション終了日になってもまだ買い手が付いておらず、入札価格1万円と格安のダンジョンだった。

 都内にあるDテンポとしては破格である。


 不審には思ったものの、一万円という安値には勝てず、ソラはそのダンジョンの権利を購入した。


 冷静に考えてみれば、Dテンポが一万円はかなりおかしい。

 たとえば―― 一度目に落札した冒険者が、攻略に失敗して権利を売り戻したダンジョンである、とか……。


「やっぱり、間違えたかなあ」


 ソラはダンジョンを眺めながら、ぼりぼりと頭を掻いた。

 購入したDテンポは、目の前にあるダンジョンの中にある。


 固定ダンジョンの中にテンポラリーダンジョンが生じる通称『重複ダンジョン』は、比較的珍しいがないこともない。

 攻略難易度も、通常のテンポラリーダンジョンと同じだ。特別難易度が高いということもない。


「でもまあ、後悔しても仕方ないか」


 色々不安はあるが、ダンジョンが出現してからかなり時間が経過している。

 ソラは気を取り直して、Dテンポがある地点へと向かったのだった。




 Dランクのテンポラリーダンジョンの入り口は、特に不審な点は見当たらなかった。

 向こう側から感じられるマナの量も、極端に多いわけではない。


「妙なところはないか……」


 魔物をすり抜けやってきたゲートの前で、ソラは準備を整える。

 これまでテンポラリーダンジョンを攻略した経験はあるが、自分が購入したものを攻略するのは初めてだった。


「もし駄目そうなら、戻ってくればいい」


 ボス部屋とは違い、テンポラリーダンジョンは脱出が可能だ。

 変異さえしなければ、の話だが……。


 入念な準備をして、ソラは意を決してゲートに飛び込んだ。



 ゲートの中は、これまでと同じ洞窟タイプのダンジョンだった。

 見た目は、特に妙な部分はない。


「…………」


【隠密】を発動しながら、ソラはゆっくりと歩みを進める。

 しばらく進むと、一つ目の部屋に到着した。


「――ッ!」


 その部屋の中を目にした時、ソラは息を飲んだ。

 部屋の中には、おびただしい数のスケルトンがひしめき合っていたためだ。


(モンスターハウスかっ!)


 ソラはすぐに、状況を察知する。

 モンスターハウスは、一つの部屋に魔物が密集している状態を指す。


 たとえば以前に攻略した、アリのダンジョンがそうだ。

 ボスの前で、ソラはアリの大群に襲われた。


 量は質を圧倒する。

 いくらDランクの魔物が楽に倒せるからといって、一度に多数と戦うのは至難の業だ。


(とはいえ、乗り越えられないほどじゃない)


 ソラは一度深呼吸をすると、インベントリから一振りの剣を取り出した。


『怨嗟の炎剣』


 まっすぐ構えて、魔法を発動。

 先端から、燃え上がるような火炎が吹き出した。


 ――ゴゥ!!


 無数の魔物は脅威だが、今回はそれが徒になった。

 炎剣の炎がスケルトンを大量に巻き込み、一瞬にして灰にした。


 即座に炎剣をインベントリに収納。


「うおおおおおお!!」


 ソラは裂帛の声と共に、スケルトンの群れに突っ込んだ。





 テンポラリーダンジョンを出たソラは、近くのダンジョン壁に背中を預けた。


「はぁ、はぁ、酷い目に遭った……」


 無数のスケルトンと戦ったソラは、体力と精神力が尽きかけていた。


 その量は、これまで一度に戦った魔物の群れの中でダントツだ。

 しかも途中で、スケルトンの骨がくっついて、ボスに変体するなど想像もしていなかった。


 予め怨嗟の炎剣で数を減らしていなければ、今頃どうなっていたことか……。


「DじゃなくてCが適正だろ……」


 適正ランクがDとは、まったく思えなかった。

 これをDランク一万円でオークションに出した、冒険者協会が恨めしい。


「まあ……良いアイテムが手に入ったからいいか」


 インベントリを眺めて、ソラは笑みを浮かべる。


 今回手に入れたアイテムは三つ。

『仙丹』『完璧な水鉄砲(パーフェクトシュート)』『骸骨兵のイヤーカフ』だ。


名称:完璧な水鉄砲 ランク:SR

攻撃力:+55  精錬度:―

装備条件:AGI+50

説明:まるで本物のような質感がある水鉄砲。恐るべき魔導技術が込められた武器。使用回数は十回。一日に一度、水が補充される。



名称:骸骨兵のイヤーカフ ランク:R

SEN:+30  精錬度:―

装備条件:レベル40

説明:骸骨兵が装備していたイヤーカフ。生前、最愛の妻に贈られた思い入れのある一品。死んでもなお、このアイテムへの執着は少しも薄れない。



 想像以上の成果である。

 途中で攻略を諦めなくてよかった。


 ドロップにある仙丹は、前回出たものと同様だった。

 ソラはインベントリから取り出し、水と共に呑み込んだ。


〉〉SP40→50


「水鉄砲は、炎剣と同じで一日に一回チャージタイプか」


 それでも、使用回数は十回と炎剣に比べてかなり多い。

 さすがはDランクダンジョンのドロップといったところか。


 水鉄砲をインベントリから取り出し、確認する。

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