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とある買取店の末路

名称:亡者のローブ ランク:R

防御力:23→41  精錬度:―→6

装備条件:なし→AGI+60


「こんなところか。にしても……」


 同じボスからドロップしたローブと比べて、短剣の性能が頭一つ抜けている。

 これはランクの差にも表れている。

 亡者のローブはR。対してライフブレイカーはSだ。


「仙丹とライフブレイカーが当たりドロップなのかな」


 ボスドロップの中にも、当たりと外れが存在する。

 良い性能のアイテムが当たり、そこそこが外れだ。


 ソラには【完全ドロップ】があり、一度に全てのドロップを入手出来るため実感はない。

 だが当たりドロップは、そもそもドロップ率が低い武具の中でもさらにドロップ率が低い傾向にある。


 中にはボス挑戦一万回で、うち武具ドロップが百回。その中で当たりは一回、と言われるものまである。


 今回のライフブレイカーが一万分の一に該当するかは不明だが、希少な当たりドロップであることは間違いない。

【完全ドロップ】様々である。


「ひとまず、精錬はこの辺にしておいて、足りないステータスを振るか」


 ソラは新たな武器を入手した。

 ゴブリンキングの剣よりも、攻撃力が倍以上高い短剣だ。


 しばらくの間は、この短剣があれば十分だ。

 STRを増やすより、AGIに振って機動力を上げた方が良いかもしれない。


 そうと決めると、ソラはすぐにSPを振り分けた。



名前:天水 ソラ

Lv:29 ランク:D

SP:30→0 職業:中級アサシン

STR:50 VIT:40→50

AGI:56→60 MAG:0 SEN:15→31

アビリティ:【成長加速】【中級二刀流術】【弱点看破】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】

装備(効果):ライフブレイカー、ゴブリンキングの剣、革の胸当て+、亡者のローブ(隠密性+)、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ(隠密性+)、吸血の腕輪(AGI+16)、緩衝のネックレス(VIT+16)



 ステータスを振り終えたあと、ソラはFと書かれた冒険者カードを眺めていた。


 今日、店で杖を売却しようとしたところ、店員に因縁を付けられてしまった。

 その理由が、これだ。


 Fランクのカードを見た途端に、店員の態度が豹変した。


(もし僕がDランクだったら、態度は変わってただろうか?)

(たぶん……変わってたんだろうな)


 冒険者社会は、力こそがすべてだ。

 自分より強い者に従い、弱いものを蔑ろにする。

 それは、二十年前にダンジョンが出現してから、少しずつ日本の社会を蝕んでいった病巣だ。


 この問題の恐ろしいところは、本人には一切、見下している意識がないことだ。

 これを、言葉で理解させるのはなかなか難しい。


 Fランク冒険者は弱い。一人ではなにも出来ない。お荷物。

 そんなイメージが強固である以上、ソラがたった一人で立ち向かうのは不可能だ。


 ならばどうするか?


「……ある程度強くなるまでは、このまま行こうと思ってたんだけどなあ」


 実害を受けて、そうも言っていられなくなった。

 ステータスボードのランクがDに上がった今、一度は更新しておいた方が良いかもしれない。





          ○



 翌日、ソラは再び冒険者協会本部へと足を運んだ。

 ここで、ソラはカードの更新を行う。


 更新には二十万円の手数料がかかる。

 そのお金は、これまで蓄えてきた魔石を売って入手した。


 魔石を用いたシステムに手を乗せ、能力を測定する。

 更新されたカードが手に入るまで、一時間もかからなかった。

 また測定時に問題が発生することもなかった。


 新たなカードに刻まれたDの文字を見ながら、ソラは冒険者協会本部を後にする。


「これで、懸案事項も解決だな」


 懸案事項とは、Dランク以降の固定ダンジョンへの入場についてだ。

 Dランク以降の固定ダンジョン付近は常に封鎖されている。

 その封鎖線を越えるためには、冒険者カードを利用してゲートを通過しなければならない。


 Fランクのカードでは入り口で弾かれてしまうかもしれないと思い、ソラはDランクの固定ダンジョンに足を運ぶことをためらっていた。

 しかしDランクのカードを入手した今、ためらう理由がなくなった。


「折角だし、Dランクのダンジョンでレベリングするか……っと、その前に」


 ソラは、とあるダンジョンアイテム買取店へと向かうのだった。



          ○



 ソラはある買取店の前に佇んでいた。

 そこは、ソラを糾弾した店員がいたお店だ。


 彼女にいま、Dランクのカードを見せたらどう思うだろう、と思ってやってきたのだが――。


「まさか、これはまったく想像してなかったな……」


 お店が閉まっていた。

 それも、休業ではない。閉店である。


 昨日今日で、いきなり閉店するとは思ってもみなかった。


「そういえば昨日、春日さんが、それらしい事を言ってたような?」


 ソラが逆襲を怖がった後のことだ。

 

『そうならないように手も打ちますしね』


 春日はたしかに、そう言っていた。


(その手って、これか?)


 春日の一言で、店が潰れるなどにわかには信じがたい。

 ただのCランク冒険者に、店を潰せるほどの権力はない。


「……まあ、いっか」


 お店が潰れたのであれば、これ以上ソラが貶められることもないだろう。

 Dランクのカードを見たあの店員がどう思うか、少し興味があったけれど、店が潰れてしまったのならばしょうがない。


 ソラは気を取り直して、Dランクのダンジョンへと向かうのだった。


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