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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第80話 青春を楽しめ


 バーベキューを堪能した後、俺はいそいそと後片付けを行っていた。


『ふくちゃんいくよ! はいパース!』

『ふっふー。いいパスばいアミアミ。一夜さん、次はそっちに飛ばしますねー』

『ま、待って。海の中だから上手く動けなくて……きゃあーっ!?』

『ごぼごぼ……ぷはっ。一姉、転ぶならせめて一人で転んで欲しい』

『けほけほっ……ご、ごめんなさい。すぐ近くにいたから、つい手を伸ばしちゃって……って、二葉!? あなた水着は!?』

『あ、またどこかいってる』

『二葉さんの水着ならこっちに漂流しとるばい。ウチがとってあげ……ひゃっ!? う、ウチの水着も脱げちゃったったい……』

『わーっ! 二姉とふくちゃんの爆乳がセンパイに見られちゃう! 隠して隠して!』

「何やってるんだあの人たちは……」


 海の方から聞こえてくるドタバタ劇に思わず苦笑してしまう。水着が脱げたとか聞こえたし、あまり見ない方がいいだろう。

 四人の声に耳だけ澄ましつつ、紙皿をゴミ袋に入れていく。


「加賀谷くん。こっちは粗方片付いたわよ」

「ありがとうございます、日比野さん。すいません、手伝ってもらっちゃって」

「こういうのは保護者であるわたしにさせておけばいいのよ。あなたも一緒に遊んで来たら?」

「いえ、これはサポーターである俺の仕事ですから。むしろやらせてください」

「あなたって意外と頑固よねぇ。もう少し甘えることを覚えたら?」

「甘えたい時は甘えさせてもらってますから。こういう時ぐらいちゃんとしておかないと、みんなに合わせる顔がありませんよ」

「はぁ……高校生とは思えない程に達観しているわねぇ……」


 やれやれ、と肩を竦める日比野さん。


「それにしても、あの子たちったら本当に元気ねぇ。若い子が体力が有り余ってて羨ましいわ。青春ね、青春」

「あはは。みんないつも頑張ってるんですし、こういう時ぐらいたくさん羽を伸ばしてもらいたいっすね」

「発言がもう保護者なのよ。……で、どうなの?」

「どうなの、とは?」

「あなた、あの子たちの中で誰が好きなの?」

「げほぉ」


 予想だにしない質問が不意に飛んできてしまったせいで、思わず咳き込んでしまった。今のはあまりにも回避不能すぎる。

 咳き込んだ拍子に滲み出た涙を手の甲で拭いつつ、俺は日比野さんに冷たい視線を向ける。


「いきなりなにバカなこと聞いてんですか」

「バカなことなんかじゃないわよ。至って普通の質問でしょう?」

「それは……そうかもしれませんけど……」

「保護者として気になるのよね。あの子たちとずっと一緒にいるんだし、そういうことを考えたことぐらい何度もあるでしょう?」

「そんなこと言われても……」


 確かにないとは言い切れない。

 でも、それはちょっと魔が差した時だけの話で――


「あんまり考えたことないですよ。俺とあの人たちはそういう関係じゃないですから」

「えぇー?」

「俺は下心があって一緒にいる訳じゃありませんから。あの三人がそれぞれのステージで最高のパフォーマンスを発揮できるようにサポートする……そのために傍にいさせてもらっているだけです」


 こんな言い方をした事が一夜さん達にバレたら、きっと怒られるんだろう。

 家族に遠慮なんかするな、などと説教をされてしまうかもしれない。

 でも、この境界線だけは超える訳にはいかない。

 何故なら、俺は心から、彼女達をサポートしたいと考えているんだから。


「なるほど……それが今のあなたの答えなのね」


 どこか含みのある言葉を吐く日比野さん。その顔には、どこか寂しげで――俺を慈しむかのような、優しい笑みが浮かんでいた。


「あなたは本当に優しい子なんだと思う……けど、ちょっと達観しすぎだわ」


 日比野さんは俺に優しく微笑みかけながら、俺の頭の上にゆっくりと手を添えた。

 細くて長い、ピアニストらしい指が、俺の髪を梳いていく。そのこそばゆさに、つい姿勢を正してしまう。


「でもね、思春期ってすぐに終わってしまうなの。だから、あんまり達観しすぎるのも良くないとお姉さんは思うわ」


 彼女の指は徐々に高度を落としていき、そのまま俺の頬に優しく添えられた。


「少しは青春を人並みに楽しむことも意識した方がいいかもね。あなたがどれだけ達観していても、恋愛真っ盛りの高校生であることに変わりはないんだから……ね♪」


 そう言って、日比野さんは俺の頬から手を離した。


「じゃ、わたしはこのゴミをゴミ捨て場に運んでおくから。後はお願いねー」

「あっ……は、はい」


 遠くなっていく日比野さんの背中に、俺はなんとか絞り出した声を送る。

 青春を人並みに楽しむことを意識しろ、か……そんなこと、考えたこともなかった。


「…………」


 作業の手はいつの間にか止まっていた。

 海で遊ぶ三姉妹を遠目で見ることに、意識の全てが向けられていたから。


「青春を楽しむ、か……」


 定まらない俺の思考を現すかのように、不定形の夕焼けが海にぼんやりと映し出されていた――。



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