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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第76話 その名はふくちゃん


「まさかこんなところでセンパイさんと会えるなんて思っとらんかったったい」


 ふわふわな髪を揺らしながら、嬉しそうににへーっと笑うふくちゃん。

 エプロン越しでも分かる大きな胸についつい視線がいきそうになるけど、普通に失礼なので俺は鋼の意思で彼女の顔に視線を向けた。


「俺も予想外だったよ。今日はバイトか何か?」

「んーん。このお店、ウチのおじいちゃんおばあちゃんのお店っちゃん。夏休みの間は今みたいにたまーにお店番をしとるとよ」

「なるほどね……」

「それよりも、センパイさんはこんなところでなんばしとるん?」


 こくん、と可愛らしく首を傾げるふくちゃんに、俺は今回の旅行について軽く説明をした。


「あー、そういえばアミアミ達のプライベートビーチってここら辺やったねー」

「場所も知ってるのか……まあ、そういう訳で、小旅行をしてるって感じなんだよ。で、俺は夕飯のために買い出しに来たという訳だ」

「なるほどなるほどー。センパイさんったら、相変わらずモテモテっちゃねー」

「どうしてそんな話になったんだ……?」


 天才美少女三姉妹と美人ピアノ教師と一緒に海に遊びに来ているからか? 確かにその情報だけを聞けばモテモテだと勘違いされるのも無理はない……か……? 実際には俺はただの付き添いみたいなものなんだけどな。

 なんだか気恥ずかしさが増してきたので、照れ隠しに髪を軽く掻きながら、


「そういう事だから、肉を買わせて欲しいんだ。なんかオススメとかあったりするか?」

「全部おすすめったい」

「それはそうかもしれないけど、そういうことじゃなくてね……?」

「あははー。冗談とよ、冗談。センパイさん、ちゃんとツッコんでくれるけん、ボケ甲斐があるったい」

「わざとかよ!」


 恐るべしマイペース。油断するとすぐに会話の舵を持っていかれてしまうな。彩三がいつも振り回されているだけはある。

 ふくちゃんはガラスの商品棚を指で軽く叩きながら、


「おすすめはやっぱりカルビかいな。後は牛タンもいいし……あ、今日は地鶏が入荷しとるったい。後はねー……んー、とりあえず全部買わん?」

「そうしたいのは山々だけど、流石に予算が足りねえかな……」


 右から左まですべての商品をください、なんて金持ちみたいなセリフを人生で一度ぐらい言ってみたい欲はあるにはあるけど、残念ながら今の予算ではそれは叶わない。

 さて、どうしたものか……いい感じの肉をおすすめしてもらって、それを買うことで事なきを得るか――そんなことを考えていると、


「あ、じゃあ、こっちのお願いを聞いてもらう代わりに、お肉をサービスするってのはどー?」

「どういうことだ?」

「実はねー、ちょうどセンパイさんにお願いしたい事があるっちゃん」


 そこから、ふくちゃんが俺にお願いしたい事についての説明が始まった。

 長い説明になっていたので、簡単に要約すると。

 ・ふくちゃんの祖父母が自分達で野菜を育てている。

 ・その野菜を店に並べようとしているが、その前に味の感想が欲しい。

 ・そもそも客足の少ない店なのでそれを頼める人に困っていた。

 ・ちょうどいいところに俺登場。野菜を試食する代わりに肉をサービスで提供。

 とのことだった。


「俺としては嬉しい申し出だけど……本当にいいのか? 野菜をタダでもらうだけじゃなくて肉までサービスしてもらえるなんて」

「まあ、アミアミ達のご両親にはウチの家族もお世話になっとるけんねー。こっちのお願いとの交換条件ならおじいちゃん達も文句は言わんと思うったい」

「なるほど。そういうことならその交換条件を呑ませてもらおうかな」


 そもそも、野菜は無料で肉は予算内で大量に貰えるというこの条件、こちらとしては断る理由なんて一ミリも存在しない。

 ふくちゃんは嬉しさを表現するようにいろんなものを揺らしながらその場で軽く跳ねると、


「じゃあ、すぐにお肉と野菜を箱に詰めちゃうけん、ちょっと待っとってー」


 そう言って、店の奥へと引っ込んでいった。



 数十分後。

 俺はふくちゃんと共に夕暮れ時の歩道を歩いていた。

 俺達の腕の中には、肉と野菜がたっぷりと敷き詰められたダンボール箱が。腐らないように中には保冷剤やら何やらも一緒に詰め込まれている。

 ふくちゃんはダンボール箱をむぎゅっと抱えるように抱えたまま、にへらと笑う。どうでもいいけど、身体と箱の間で胸が押しつぶされているせいで、隣を歩いているものとしては目のやり場にかなり困る。


「ごめんねーセンパイさん。おじいちゃん達がいれば送ってもらえたっちゃけど……」

「いや、こうして一緒に運んでくれるだけでも助かるよ。それよりも、店は勝手に閉めちゃって大丈夫だったのか?」

「おじいちゃん達には連絡しとるけんだいじょーぶったい。そもそもあの店、お客さんとかほとんど来んし」

「えぇ……」

「趣味みたいなもんやけんねー」


 お店が趣味とは漫画みたいな話だな。もしかして、彼女もお金持ちなんだろうか。

 そんな疑問が顔に出ていたのか、ふくちゃんは柔らかく笑うと、


「アミアミ達と比べれば見劣りするやろーけど……ウチも結構お金持ちったい」

「やっぱりか……そうじゃないかとは思ってたんだ」

「ふっふっふー。あんまりお家の自慢をするのは好きじゃなかけんボカして言うけど、ウチ、島ばいくつか持っとるとよ?」

「オーケー。これ以上の詮索は止めておくよ」


 島を持っている家なんて金持ちじゃないはずないからな。他人の家の事情なんて掘らないに限る。


「ふっふー。センパイさんってやっぱり面白い反応ばしてくれるったい。からかい甲斐があるわー」

「お褒めに預かり光栄でございます」


 褒められているのかどうかは定かではないけど、とりあえずいい感じに話を流しておくことにした。

 そんな雑談を展開しながら道を歩くこと約十分。


「あれ? センパイと……ふくちゃん?」


 スポーツウェアを身に着けた彩三と遭遇した。


「やほやほ、アミアミー。ランニングしとるん?」

「え? うん。筋トレ終わったから、ちょっと走ろうかなって……え、何でこんなところにいるの?」

「センパイさんがウチの店に買い物に来たったい」

「あ、そういえばふくちゃんのおじいちゃんのお店、この辺だったっけ」


 彩三もあの店のことは把握しているのか。確かに付き合いはある程度あるのかもしれないな。


「というか、何ですかその大荷物。お肉を買いに行ったんじゃなかったんです?」

「ちょっといろいろあってな。野菜とか譲ってもらったんだ」

「へー」

「ふふふー。センパイさんとお話ばしとったら、いつの間にか譲っちゃっとったったい」

「その言い方は語弊がないか?」


 全部を説明すると長くなるから仕方がないのかもしれないけど。

 だが、どうやら彩三には困ったことに、間違った意味で伝わってしまったようで……。


「ふーん……センパイって相変わらず女たらしですよね」

「何の話からその発想になったんだ」

「一姉に二姉にさおりんにふくちゃんに……目を離すとすぐ女性と一緒にいますもん。へえへえ、随分なご身分なことでぇ」

「ただの偶然だってば」


 あえて女性と一緒になることを狙っているみたいな言い方はやめてほしい。女性との交際経験すらない俺にそんな器用なことが出来るはずないだろう。

 俺の顔をいぶかしげな様子でじろじろと見てきた後、彩三は露骨に肩を竦め、溜息を吐いた。


「まあ、いいです。センパイの女たらしぶりは今に始まったことじゃないんで。それに、ふくちゃんならそこんところ信用してるんで、大丈夫でしょうし」

「アミアミ、照れ隠しならもっと可愛くした方がええと思うばい?」

「ばっ……誰が照れ隠しをしてるって!? あたしは今呆れてるだけなんだけど!?」

「センパイを独り占めできんくて拗ねとるとよねー?」

「そ、そんなんじゃないもん!」


 子供みたいに声を張り上げる彩三。相変わらずふくちゃんが天敵のようだ。

 せっかく可愛い姿が見れたので、俺もちょっと乗っかるとするか。


「そうか……ごめんな、相手してやれてなくて。まさか彩三が拗ねてるだなんて思いもしなかったんだ」

「だーかーらー! 拗ねてなんかいませんから! センパイまで悪ノリしてくるのやめてください! もう、何でこの流れであたしが追い詰められるの……もー!」


 悔しそうに地団太を踏む彩三に、ついつい笑みが漏れてしまうのだった。

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