第75話 予想外の再会
「地図だとここら辺にあるはずなんだけど……」
潮風が心地よい昼下がり。
俺は車通りの少ない道路脇の歩道を一人で歩いていた。
海でひとしきり遊んだ後、三姉妹はそれぞれの分野の練習へと移行した。日比野さんも一夜さんにピアノを教えるということで、俺だけが一人リビングに残される形になっていたのだけど、手持無沙汰だったので夕飯の買い出しに出ることにしたのだった。
「ここら辺はあんまり来たことないから、道が合ってるのかどうかも分かんねえ……」
スマホを見ては辺りを見渡す、という忙しない行動を繰り返しながら道を進んでいく俺。今俺が向かっているのは、天王洲家所有のプライベートビーチの近くにあるという精肉店だ。
「海と言えばバーベキューだもんな」
当初の話ではロッジの冷蔵庫の中に食料が保管されているはずだったんだけど、どうやら行き違いがあったようで、冷蔵庫の中身は空っぽになっていた。一応もしもの時のために軍資金は渡されていたので、こうして買い出しに出てきたという訳だ。
「お、あれか……?」
傾き始めた太陽の下、暑さを耐えつつ歩いていると、古ぼけた建物が視界に入り込んできた。スマホに表示されている店舗の外観と同じだし、目的地はあそこで間違いなさそうだ。
夕食まで時間がある訳ではないので、俺は小走り気味に精肉店へと向かい、その扉をくぐる。古ぼけた見た目の割にまさかの自動ドアだった。こんなところに力を入れるよりもまず外観をリフォームした方がいいと思うんだけど……。
「いらっしゃーませー。ちょうど商品を補充しとるところやけん、好きに見ていって下さいねー」
「あ、はい」
店の中には店員が一人。ふわふわとした髪が特長の女の子だった。こちらに背中を向けているから分からないけど、年齢は同じぐらいに見えなくもない。あとなんかやけにカジュアルな接客態度だ。
店員さんに促されるがままに肉を物色し始める。焼くだけのバーベキューとはいえ、せっかくだからいい肉を用意してあげたい。でも予算の問題もあるし、いい感じのところで肉をそろえられればいいんだけど……。
「うーん……カルビは定番として、ロース……でも彩三の摂取カロリーを考えると鶏肉も欲しいよな……」
「ん? この声……あ、やっぱりそうやん!」
「え?」
店員さんが何かに気付いたように大きな声を上げた。思わずそっちを振り向くと、店員さんが俺の顔を至近距離から見つめていた。
「わあ!? な、何ですか!?」
「やっぱりセンパイさんやん。こんなところでなんしとーと?」
「……どこかで会ったことありましたっけ?」
「もー、ウチのこと覚えとらんと? まあ、今日は制服じゃなくて私服にエプロンやから気づかれんのも無理なかろーけど」
なにやら言葉を捲し立てたかと思ったら、数秒後。
店員さんは自身の豊満な胸(おそらく二葉よりデカい)をぽよんと優しく叩きながら、
「ご無沙汰しとるったい。アミアミのクラスメイトの、ふくちゃんでーす」




