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天才美少女三姉妹は居候にだけちょろ可愛い。【書籍発売中】【3巻発売決定】  作者: 秋月月日
第三部

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第72話 サンオイルは優しく塗って


 俺が一夜さんと彩三によって海に放り投げられた後、俺達は学生らしく海を堪能していたーーのだが。


「加賀谷くぅーん。先生に日焼け止め塗ってくれないかしらぁ?」

「早速学生らしくないイベントが来たな……」


 パラソルの下にうつ伏せの状態で寝転がりながら、俺の名を呼ぶ日比野さん。さっきの三姉妹水着イベントの衝撃がデカすぎて軽くスルーしていたけど、彼女もかなり過激な水着を身につけている。なんだよあの紐みたいな水着。アレで服を名乗るのは服に対する冒涜では?

 俺は作っていた砂の城から手を離し、砂を払いながら彼女の元へ歩み寄る。


「俺じゃなくて一夜さんとかに頼んでくださいよ。同性なんですから」

「教え子にそれを頼むのってパワハラになるからね〜」

「未成年の男に頼むのはパワハラ超えて犯罪になるのでは……?」

「背中にオイル塗るだけだから平気よ、平気。そこから一線超えちゃったら話は変わるかもしれないけれど」

「そういうもんですかね……?」


 なんだか言いくるめられているような気がする。


「いいからいいから、背中にオイル塗ってくれないかしら? 手が届かないせいで一人じゃ塗れないのよ」

「はあ。まあ、それぐらいなら……」

「ありがと〜♪ このオイルを塗って頂戴ね♡」


 日比野さんからボトルを受け取り、彼女の背中に数滴垂らし、手で広げていく。


「んっ……いい力加減ね……ああ、そこっ……気持ちいいわ……」

「……あの、変な声出すのやめてもらえますか?」

「ごめんなさーい。でも、本当に力加減がちょうどよくて……凄く、気持ちいいのよ……」


 大人の女性から放たれる嬌声はいろいろと気まずいから本当にやめて欲しい。ただでさえ慣れない女体の感触に心臓が爆発しそうだというのに。


「……ふぅ。こんなもんですかね。終わりましたよ」

「あら、もう終わり? それなら、次は前の方をーー」

「沙織、次は私の番」

「……なんで順番待ちしてるんだよ二葉」


 いつの間にか俺の後ろにしゃがみ込んでいた二葉に俺のツッコミが炸裂する。

 二葉はキョトンとした顔のまま、


「日焼け止めを塗り忘れてたから、理来に塗ってもらおうと思って」

「一夜さんか彩三に頼みなよ……」

「姉妹に身体を触られるの、恥ずかしい」

「俺に触られる方が恥ずかしいのでは……?」

「理来にならどれだけ触られても構わない」

「俺が構うんですけど!」


 さっきのこともあってか、水着姿の二葉のことをどうしても意識してしまうし。程よく肉付きのいい彼女の身体に触れるなんて、本能が許しても理性が絶対に許さない。

 しかし、日比野さんに日焼け止めを塗った手前、二葉だけ断るというのもバツが悪い。なんとかして彼女を傷つけない形で断れないだろうか……と。


「二葉、日焼け止めなら私が塗ってあげるわ」

「あたし達と塗り合いっこしようよ、二姉」


 さっきまで海で水を掛け合っていた長女と三女が現れた! 願ってもいない救世主の登場だ。……でも何故だろう、彼女達の背後に修羅が見える気がする。


「私は理来に塗って欲しい。二人はそっちで塗り合いっこしてるといい」

「いいえ、ここは姉妹水入らずで塗り合いっこしましょう!」

「そうそう! 二姉だけセンパイに塗ってもらうなんてズルーーじゃなくて、センパイも大変だろうからさ!」

「……羨ましいの?」

「「羨ましいに決まってるでしょ!!!!」」


 正直でよろしいと思いました。


「二葉ばっかり理来とイチャイチャして……私だって! 理来に甘えたり日焼け止め塗ってもらったり態勢崩した時に後ろから抱きしめてもらったりしたいわよ!」

「知らない歴史を生やさないでくださいね」

「そうだよ! 二姉ばっかりセンパイをドキドキさせてずるいよ! あたしだってセンパイを赤面させたり興奮のあまり股間抑えさせたりあたしの胸に顔を突っ込むラッキースケベを起こしてセンパイの心臓を爆散させたりしたいもん!」

「なに? 俺は警察に通報すればいいの?」


 一夜さんはともかくとして、彩三の要望があまりにも物騒すぎる。最終的に俺死んでるじゃん。


「待ってください。そもそも俺は日焼け止めを塗るとは一言も言ってません」

「「でも先生(沙織ちゃん)には塗ってあげてた!」」

「あれは日比野さんから無理やり迫られただけです。ブラック寄りのグレーなセクハラです」

「ジャスタモーメント加賀谷くん。それだとわたしが救いようのない性犯罪者みたいじゃない?」


 未成年の男子に日焼け止め塗れって迫ってくる成人女性なんだから疑惑でもなんでもないだろ。

 日焼け止めを塗り終わったのに未だにトップスの紐を緩めたままの際どい日比野さんにため息を零していると、彩三がいきなり両手をぽんと打ち鳴らしてきた。


「むむぅ……ハッ。いいこと思いつきました!」

「全然いいことじゃない気しかしないけど、一応聞こうか」

「あたし達三人とも、センパイに日焼け止めオイルを塗ってもらえばいいんですよ!」

「「それだッッッ!」」

「そこに俺の意思は含まれてるか?」

「些細な問題なのでひとまず横に置いておきます」


 些細じゃねえよ。男子高校生の性欲舐めんな。

 名誉ある未来のために抗議の声を上げようとするが、それを遮るかのように三姉妹の会話が盛り上がっていく。


「そうと決まれば早速順番を決めよう! 二人とも、じゃんけんでいいよね!?」

「問題ない。ゲームにおいて私は最強」

「華麗に勝利を収め、誰よりも先に理来とイチャイチャしてみせるわ!」

「もうすでにわたしが塗ってもらっているのだけれどね」

「先生は黙りながら辞世の句でも考えておいてください!」

「え、わたし殺されるの?」


 急に命の危機においやられた大人に悲しい過去ーーなんてことはなく、再びシンプルに一夜さんの怒りを買っただけだろう。理由はよく分からないけど。

 まあ、それはそれとして。


「言っておくけど、時間的にも塗れるのは一人だけだからな。海で遊ぶ時間が無くなっちまう」

「うっ……仕方ないです。それならセンバイに日焼け止めオイルを塗ってもらえる権利を賭けて、じゃんけんをしましょう!」

「「異論なし」」


 撃ち合い前のガンマンの様に、拳を構えて向き合う三姉妹。

 膠着状態が数秒ほど続いた後、言い出しっぺの彩三が口火を切ったーー


「それじゃあいくよ! じゃーんけーんーー」

「「「ーーポン!」」」



「それじゃあ塗っていくぞ」

「よ、よろしくお願いします!」

「なんで声上擦ってるんだよ」

「う、上擦ってませんけど!?」


 パラソルの下のシート上。

 じゃんけんで勝利した彩三は俯せになりながら、俺に無防備な背中を晒していた。日焼け止めオイルを塗るためにトップスは外されており、少しでも姿勢がずれれば見えてはいけない部分が見えてしまいそうだ。

 俺は彼女の背中にオイルを垂らす。


「ひゃっ……」

「あ、すまん。冷たかったか?」

「別に冷たくなかったですけど!? 冷たくなさすぎてマグマかと思いましたよ!」

「それはそれで問題だろ」


 背中の皮膚がただれてドロドロになるだろ。

 何故か強がってくる彩三に苦笑しつつ、俺は作業を続行する。


「ひやぁ……なにこれ、へんなかんじがしますぅ……」

「変な声出すなよ。ただでさえ海の方から視線を感じるのに」


 ちら、と横目で海辺を見やる。そこでは一夜さんと二葉が水鉄砲で撃ち合いながら遊んでいるはずなのだけど、何故か二人とも俺たちの方をガン見していた。それはもう、ガッツリと。


『あわわ……背中をあんなにがっしり掴んで……羨ましい……』

『気持ちよさそう。前も頼めばやってくれるのかな』

『ま、前!? それはハレンチ過ぎじゃないかしら……?』


 なんか不穏な会話してるなあの二人。つーか前ってなんだよ前って。そんなの年頃の男の子が耐えられるシチュエーションじゃないだろ。

 観客から与えられた雑念をひとまず振り払い、俺は彩三の背中にオイルを塗りたくっていく。


「……ん? なんか背中……というか肩の周り、やけに凝ってないか?」

「あー……やっぱりセンパイにはバレちゃいますか。最近ちゃんと勉強するようになったんですけど、どうしても肩が凝っちゃって……」

「それはいい傾向だけど、陸上に悪影響が出るかもしれないからな。ついでにマッサージしておくぞ」

「ありがとうございます〜♪」


 根っからの勉強嫌いだったあの彩三がまさか自ら勉強を始めていたとは。家庭教師を任された立場としてはかなり嬉しい気持ちになる。

 緩みそうになる頬に力を入れつつ、オイルを塗りながら彼女の背中を解していく。


「あー……そこ、ばり気持ちいいです……力加減も……ふぅ……ちょうどよくて……」

「君が練習から帰ってきた後にマッサージできるように密かに練習していたからな。練習の成果が出ているなら何よりだ」

「センパイって本当に器用ですよね……いろんなことができますし」

「どれだけ努力しても人並みにしかできないから意味があるかどうかは分からないけどな」

「センパイの言う『人並み』のレベルはかなり高いところに設定されてると思いますよ……?」

「あはは。お世辞だとしてもそう言って貰えると嬉しいな」

「お世辞とかじゃないんですけど……」


 日本有数の天才から褒められると悪い気はしない。

 俺は自分の頬がすっかり緩みまくっていることなど気付かないまま、彼女のマッサージを続行するのだった。

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