第38話 ずっと一緒に
「もう人前に出られない……」
床に崩れ落ちたまま、滝のように涙を流す彩三。二葉によってマイクロビキニに着替えさせられた彩三だが、ぶっちゃけほぼ全裸みたいなものだった。
「ただでさえ布の面積が少ないのに、紐とかだるんだるんだから何も隠れてないじゃない」
「二葉の身体のサイズに合わせられているんだから、当たり前か」
「ごめんね彩三。私、気遣いが出来てなくて」
「この慰められ方は不愉快です! あたしが貧乳だからじゃなくて、双姉が太ってるせいと言ってください!」
「彩三。次はガーゼ水着を着せてあげようか?」
「君はどうしてそんなに変なコスチュームばっかり所持してるんだ」
オタクのマストアイテムとか言っていたけど、どこで使うんだよそんな服。コミケでもそうそう見ないぞそこまでの露出レベルは。
「ふぅ……さて、じゃあそろそろお開きにしますか。俺、キッチンの方を片付けてきますね」
「待ちなさい」「待って」「待ってください」
肩を回しながらキッチンの方へと一歩踏み出したまさにその直後、三姉妹が目にもとまらぬ速さで俺の身体にしがみ付いてきた。バニースーツとマイクロビキニとかいう馬鹿みたな露出度の服を着られているせいで、彼女たちの柔らかな肉体がこれでもかというほどに密着してきている。
「何ですか? 俺は今から片付けの用事があるんですけど」
「なに一人だけ逃げようとしているのかしら」
「理来だけ無傷なのはおかしい」
「センパイにも罰ゲームを受けてもらわないと、フェアじゃないですよ!」
「王様ゲームってそういう余興じゃねえだろ」
罰ゲームのバランスをとろうとするんじゃないよ、まったく。
「そこまで俺に罰ゲームを受けさせたいなら、俺の数字を当てて命令すればいいだけの話だろ」
「くっ……その余裕、すぐになくしてあげますよ……!」
「彩三、二葉。姉妹の絆を見せる時よ」
「プランBでいく」
いったい何をするつもりなのか知らないけど、俺の数字を何の情報もなしに当てられるはずがない。ここは動揺せず、平静を装うのが吉だろう。無駄な情報を与えなければ、俺はこのまま罰ゲームを受けずに終われるのだから。
テーブルの中央にくじが用意され、俺たちは再びそれに手を伸ばす。
「それじゃあいくよ。せぇーっの――」
「「「「――王様だーれだ!」」」」
引き抜かれた四本のくじ。その中で、王様権利を手に入れたのは――
「私のようね」
胸元がガバガバのバニーコスに身を包んだ一夜さんだった。
「さあ、理来。覚悟はいいかしら?」
「ふっ……当てられるものなら当ててみてくださいよ」
「一番」
「……………………」
一夜さんから手元のくじへと視線を移す。そこには「1」と書かれていた。
「……ふぅ。すいません、そういえば今日日直だったので学校に行ってき」
「「確保ォーッ!」」
「ぐわー!」
なるべく自然に椅子から立ち上がろうとしたのも空しく、二葉と彩三に覆い被さられてしまった。大きい胸と小さい胸が同時に俺の顔面に直撃し、痛みと癒しのマリアージュが襲い掛かる。
俺は二人に押し潰れされたまま、なんとか空気の通り道と視界を確保する。
「――ぷはっ! ま、待ってください! 何で俺の番号が分かったんですか!?」
「フッ……簡単な推理よ」
一夜さんは得意げな笑みを浮かべながら、
「二葉と彩三が見せてきたくじに他の数字が書かれていたから」
「八百長じゃねえかぁあああああああああああ!!!!」
姉妹の絆ってそういうことかよ! 絆というよりただ結託して八百長しただけじゃねえか! こんなのアリ!? ずるいだろ!
「いやー、姉妹の絆って素晴らしいね」
「以心伝心」
「いやいやいや! ただのズルだろ! 絆でも何でもねえよ!」
「まあまあ、諦めましょうよセンパイ。証拠もないんですし」
「さっき一夜さんが自白したじゃん!」
「は? 何のことかしら」
「こ、この貧乳バニー……ッ!」
「ちょっと! 誰が貧乳バニーですって!?」
つい罵倒を口走ってしまった。でも、二葉と彩三が腹を抱えて笑っているからまあ問題はないだろう。一夜さんは怒ってるけど、今回ばかりは俺の方が正しいはずだ。
「い、いいから、命令するから静かにしなさい!」
「はぁ……もう何でもいいですよ。好きにしてください」
恥ずかしいゲームぐらいは我慢しよう。さっきその場のノリで姉妹を恥辱に塗れさせたりしたしな。よくよく考えたら二葉だけ無事な気がしないでもないけども。
一夜さんは王様のくじを掲げながら、俺に向かって命令を下す。
「一番は、私たち三姉妹とずっと一緒にいること」
「…………はい?」
「おー、その命令いいね。一姉もたまにはいいことするじゃん」
「ぐっじょぶ」
「ちょ、ちょっと。それ、命令になって無くないですか?」
つい口を挟んでしまった。
だって、ここで言われるべきは恥ずかしい命令であって、こんなのは……。
「異論は聞かないわ。王様の命令は絶対だもの」
「そういう話じゃ……」
「それとも、理来は家族と一緒にいるのは嫌?」
くじで口元を隠しながら、一夜さんは言った。
……流石に、ここで気づけないほど鈍感じゃない。
一夜さんは、俺のためにあんな命令をしてくれたのだ。
家族の一員として迎えられたけど、今後もそれが続くかは分からない。いつかはここを追い出されるかもしれない――ネガティブな俺がそんな不安をまた抱くかもしれないから、あえて逆らえない形で言ってくれたのだ。
――あなたは私たちの家族だ、と。
「……ははっ。そうですね。王様の命令には逆らえません」
「ええ。逆らったら承知しないんだから」
「これでセンパイはあたしたちのものですねー。よーっし一生からかえるぞー」
「理来とずっと一緒。嬉しい」
一夜さんが微笑む隣で悪戯っぽく笑う彩三。二葉も無邪気な笑みを浮かべている。
「じゃあ、そろそろ王様ゲームは終わりにしましょうか」
「そだね。お腹ペコペコだよー」
「冷蔵庫から取ってくる」
仲睦まじく食事の準備を始める三姉妹。
同じ時間と楽しみを共有できる、大切で特別な家族たち。
そんな彼女たちのことを眺めながら、俺はこれから紡がれていくであろう家族の時間を想像し――ついニヤけてしまうのだった。
【あとがき】
次回で第一章完結です。
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