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賢者は探し物が得意です  作者: 橘由華


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19/40

19 実験場(4)

ブクマ&いいね&評価&誤字報告ありがとうございます!


「ありがとう。大きな町の塀まではいかないけど、これで大分塀の耐久度が上がると思うわ」

「どれくらいの効果があるのでしょうか?」

「そうね……。ワイルドボアの突撃くらいなら余裕で耐えられると思う」



 ざっくりとかける魔法の効果を述べただけでは、どれくらい防御力が向上するかが思い浮かばなかったらしい。

 テッドさんが効果について問いかけてきた。

 わかりやすいように、草原に偶にいる魔物の名前を挙げて具体例を示す。

 ワイルドボアは猪型で、突進力が高い魔物だ。



「ワイルドボアのですか? それなら……」

「数十匹の大群に襲われない限り、大丈夫じゃないかしら?」

「そんなに!?」



 現状の魔物除けの魔法しかかかっていない木造の塀でも、ワイルドボアの一度の体当たり程度で壊れることはない。

 けれども、何度も突撃されれば壊れるだろう。

 十数匹程度の群れに襲われた場合、下手をすれば一時間もしないうちに塀を突破されることもあり得る。


 しかし、予定している魔法を全てかければ、それに耐えられるようになる。

 限界値として数十匹とは言ったけど、通常ワイルドボアがそれほど群れることはないので、実質ほぼ被害は心配しなくても良くなると言ってもいいかもしれない。

 だからだろうか、テッドさんは非常に驚いていた。



「取り敢えず、塀に魔法をかけてから、村の状況を見て回る予定よ。こちらは勝手に見て回るから、貴方たちは普段通り作業をしていて構わないわ」

「わかりました。ですが、何か失礼があってはいけませんので、倅を同伴させていただけますでしょうか?」



 作業は私だけで行う予定なので、トムさんたちにずっと側に付いていてもらう必要はない。

 向こうも仕事があるだろうしね。

 だから、勝手に見て回るって言ったんだけど、用心のためにテッドさんが付いてくることになった。

 テッドさんとしても、私がどういう風に村の環境を改善していくのかが気になるらしく、勉強させて欲しいと言ってきたので、快く頷く。

 そうして、テッドさんを引き連れて、村の入り口へと再び足を向けた。



「じゃあ、始めましょうか」

「はい」



 村の入り口に着いたので、作業の開始を宣言する。

 テッドさんが頷いたのを確認して、まずは鑑定魔法を塀に向かって使った。

 鑑定魔法で塀の状態を確認すると、建てられてから年月が経っているからか、少し耐久度が落ちているようだった。

 とはいえ、この程度なら当面は問題なさそうなので、次は魔法で諸々の効果を付与する。


 保存効果に物理防御向上、魔物除けの魔法をかける度に、塀がぼんやりと白く光っては消えてゆく。

 あ、ついでにアレも向上させておこう。

 その場の思い付きで、追加で魔法防御向上の魔法もかけた。

 魔法防御を向上させておけば、うっかり魔法が塀に当たっても壊れないし、何より防炎性能が上がるのよね。

 うん、これでよし。



「えっと……、終わったのでしょうか?」

「えぇ、終わったわ。待たせたわね」

「いえ……。あの、お嬢様は詠唱を必要とされないのでしょうか?」

「そうね、必要ないわ」



 最後の魔法をかけ終わり、塀の光が落ち着いたところで、テッドさんが恐る恐る問いかけてきた。

 詠唱が必要ないことを認めると、テッドさんはあんぐりと大きな口を開けた。

 こういう反応をされるのは久しぶりね。

 我が家の人間は私の行動に慣れ過ぎて、最近はどんな行動をしても反応がないのよ。



「そ、そうでしたか。すみません。魔法には詠唱が必要だと聞いていたので……」

「気にしないで。一般的にはそう言われているし、無詠唱で魔法を使える人なんて、宮廷魔道師団にもほとんどいないわ」

「はー。やっぱり、お嬢様は凄いのですね」

「【称号】のお陰よ。【称号】がなかったら無理だと思うわ」



 現世では、魔法を使う際には詠唱が必要とされる。

 詠唱には正式、準正式、略式の三段階あり、正式が最も長く、略式が最も短い詠唱――魔法名を唱えるだけのもの――となる。

 そして、詠唱が短くなるにつれて、魔法を発動させるのが難しくなり、より多くの魔力が必要になる。


 けれども、一般的に言われているだけで、必ずしも詠唱は必要ではない。

 技術と魔力は必要になるけど、詠唱なしで魔法を発動することもできるのだ。


 どうして無詠唱でも魔法が発動できることがわかったかというと、前世の記憶を基に試したことがあるからだ。

 ただ、テッドさんには宮廷魔道師団に無詠唱で魔法を発動できる人がいるようなことを言ったけど、実際にできるのは私とお父様だけだ。

 副師団長様は後一歩といったところか。


 もちろん、私があっさりと無詠唱で魔法を使うことができたのは前世の知識と、【賢者】という【称号】の恩恵があってこそだ。

【称号】の恩恵で、正式な詠唱で魔法を発動するのと同じ程度の技術と魔力で、無詠唱で魔法を発動できるのだ。

 もしも、【称号】がなかったら、無理だったと思う。

 技術は練習すれば何とかなるけど、魔力の方がね……。

 つくづく、【称号】の恩恵は凄いと思った。



「それじゃあ、次は村がどういった感じか見せてもらえるかしら?」

「わかりました。それでは、右側から一周する感じでよろしいでしょうか?」

「えぇ。お願い」



 塀の強化が終われば、後は村全体の状態を確認して今日の作業は終わりだ。

 畑の開墾はまた後日。

 昨日の今日では、開墾する場所もまだ決まってないだろうしね。

 そうして、後はテッドさんの案内で隅々まで案内してもらったのだった。


お読みいただき、ありがとうございます。


大変長らくお待たせいたしました。

本日より更新を再開いたします。


再開に伴って、1話から修正を入れております。

話の流れはほとんど変わっておりませんが、文の量が増えた所もあり、最新話は以前よりも少し時間が巻き戻っております。

3/11の更新で以前の最新話まで話が追い付くかと思います。

それまで、増えた部分をお楽しみいただければ幸いです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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