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第91話 紹介状の中身は気にしない

 二人で紅茶を飲んで落ち着いた後、「それで」と王都ギルドマスターのレイアーノさんが話し始めた。


「セシルさ……貴族院に入られている貴女に『さん』付けもおかしいですかね。『セシル殿』とお呼びしましょうか」

「止めてください。私は確かにクアバーデス次期侯爵であるリードルディ様に仕えている身とは言え本来はただの平民の冒険者です。年上の男性に『さん』付けされることすらどうかと思ってるんですから」


 さすがに相手が今の私と同じような貴族の従者ならともかく、冒険者であるならそれを笠に着るつもりはない。面倒くさい輩に対しては有効に活用させてもらうかもしれないけど、今はまだ謙虚に済ませておきたいと思っているのは事実だ。


「ふふ、そうですか。ではセシル、改めてようこそアルマリノ王国王都冒険者ギルドへ。あの脳筋ブルーノからの紹介でしたのでどんな人が来るのかと思っていましたよ」

「…あれ?その言い方だと私が紹介状を持ってくるよりも前にブルーノさんから話を聞いてたってことですか?」

「そうですね、十日くらい前に彼からの手紙を受け取っています。

『ベオファウムで登録したすごい子どもが行くから面倒を見てやってほしい』

彼の手紙を要約するとそう書かれていました」


 要約すると、って…本来の文面はどんなものだったか怖くて聞けない…。

 レイアーノさんの表情は出会ってからずっと穏やかな微笑みを浮かべたままなのでその真意のほどはわからないが、ブルーノさんを『脳筋』と言い捨ててるところといい彼に対してはあまり良い感情を持っていないのだろう。

 だからこそどんな厄介事なのかと警戒していたのかもしれない。


「それで貴女は採集、採掘、討伐依頼のスペシャリストだと聞いていますが…これは本当ですか?失礼ながらその年齢ではとても…」

「『とても信じられない』ですか?試してみてもいいですけど?」

「いえ。ひょっとしたら別の強力なパーティーメンバーがいたのではとね」

「基本的に私は一人で活動してましたね。一時的にパーティーを組んだことはありますけど、遅い弱いうるさいと良いことがなかったので」


 そこまで話すと私はテーブルの上に置かれたカップを手に取ってお茶を飲み干した。

 それを見てレイアーノさんは自ら立ち上がると後ろに置かれたティーポットを取って私のカップにおかわりを注いでくれた。


「なるほど。…貴族院に入るほどの教養、短期間でBランクまで上がる能力、機を掴む運とその器量。確かにあのブルーノが期待の新星だと言うだけのことはありますね」

「期待の新星かどうかはともかくですけどね。今のところ依頼の失敗はなかったですし、採集や採掘ならよほど遠くの素材でなければだいたいなんとかなります。討伐に関しても倒せないと思った魔物は…ほとんど遭ったことがないですね」

「…それが本当なら、お願いしたい案件がいくつもあるのですが…まぁ今はまだ置いておきましょう。私から聞きたいことはもう特に無い…というより後は依頼の達成を以て証明してもらうより他無いですからね。セシルから何か私に聞きたいことはありますか?」


 レイアーノさんからの質問は終わりらしい。

 目の前の彼は既に紅茶を飲み干し、おかわりを注ぐつもりもなさそうなので話を打ち切るつもりなのかもしれない。

 私と同じくらいまで伸ばした明るい緑色の髪をさらさらと流すように耳に掛け、エメラルドより深い緑色…グリーンガーネットのような瞳を興味深そうに向けてくる。

 折角なので私からは王都でよくある依頼について尋ねてみることにした。


「…と、だいたいこんなところでしょう」

「ありがとうございます、だいたいわかりました。とにかく私が得意な薬草採集や採掘は頻繁に来る依頼なんですね」

「同時にいくつもの依頼を出してくるお店がありましてね。大きな商店でないのですが、変わった素材や珍しい薬草、条件付きの鉱石なんかを頼みに来ることが多いと聞いています」


 なるほどなるほど。

 とりあえず護衛依頼中心ということはなさそうで一安心だ。

 聞いた感じだと遠出しないと採集、採掘できない依頼もあるにはあるものの大半は王都の近くで達成可能なものが多いみたい。

 あとは、アレだね。


「それで、このあたりで採掘可能な鉱石ってどんなものがあるんですか?」

「鉱石?そうですね…」


 レイアーノさんは立ち上がって王都周辺の地図をテーブルの上に広げてくれた。

 大凡の採集、採掘場所や生息している魔物の情報がかなり書き込まれていてここに書いてある情報だけでもかなりの金額になるのではないだろうか?


「心配しなくてもこの地図はギルドで販売していますよ。尤も、かなり乱獲された後だから目安程度にしかならないでしょうし、この場所に行ってももう何も残ってないなんてことはザラにあるのですけどね」


 …意味ないね…。

 いや、逆にここに書いてあるもの以外なら高値で取引できるということかもしれないね?

 私は地図の上でざっと視線を走らせてその情報を見ていく。

 鉱石は金、銀が極僅か。鉄と銅は鉱山近くで。ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンは産出されていないようだ。

 というか金属しか書いてないじゃんかっ!

 いやもちろんそれも大事だけど。


「えっと…宝石って出ないの?」

「宝石?…王都の近くではあまり聞いたことがないですね。水晶なんかは鉱山近くでたまに見つかるみたいですけど、そういう依頼は宝石商が冒険者に直接依頼しているはずです」


 むぅ…。

 一番欲しい情報が手に入らない。

 仕方ない、今度露店で原石を扱うところを見つけたらそこから情報を仕入れてみることにしよう。

 絶対いいネタが転がってるはず。

 私だったら小さい粒みたいなものでも集めてそれなりの大きさにしてしまえるわけだし……ふふ、楽しみは後に取っておかないとね!

 その後この王都のギルドについて教えてもらったけど、やっぱりランクが上がるほど待遇がよくなるようにしているとのこと。確かにそういうわかりやすい目標があったほうが普通は必死になるのかもしれないね。

 低いランクの冒険者は高いランクを担当している受付に話し掛けることすらできないらしい。

 Bランク以上はあまり人数もいないので特にわかりやすいだろう。Aランクで十人程度、Sランクに関してはこの国には二人しかいないらしい。


 そんなこんなでギルドマスターのレイアーノさんとの会合を終えると私は再び一階のホールへと戻ってきた。

 私が「聞きたいことはもうないです」と言ったら、彼もすぐに興味を無くしたのか「そうですか、では頑張ってください」とだけ言って自分の執務机に戻ってしまったしね。

 私も特別扱いされたくないし、注目だってされたくないのでこのくらいのスタンスでちょうどいい。

 とりあえずさっき私を案内してくれたBランク担当のお姉さんがいるカウンターへと向かう。

 ざっくりレイアーノさんからよくある依頼は聞いてるものの、時間があまり無くなってきたので今日のところは実際に出てる依頼を確認だけしていこうと思う。


「こんにちはお姉さん」

「…あ、さっきの女の…こほん、セシルさん。マスターとの話は終わったのですか?」

「うん、とりあえず王都のギルドのことについて教えてもらってたんだよ」

「そうですか。では改めまして、私がセシルさん達Bランクを担当していますクレアと言います。今後Aランクに上がるまで、もしくはCランクに落ちるまでよろしくお願いします」


 …ランク落ちのことは別に今言わなくてもいいんじゃないの…?

 多分この人はアレだ。前世でもたまにいたけど、毒を撒き散らさないと生きていけない類の人だ。聞き流しておけば問題ないはず。


「セシルさんのように幼い女の子がまぐれだけで続けられるほど冒険者は甘くないですよ…?そんな危ないことは男性に任せて早めに結婚する相手を見つける方がいいと思います。それでどうされましたか?」


 …結婚とか考えたくないですから。

 もし今のところ候補を挙げるならリードだけど、もうちょっと……って、何を考えてるの私はっ?!

 雑念を念入りに振り払ってクレアさんに向き直るとひくつくこめかみをそのままに再度話し掛ける。


「今出てる依頼はどんなのがあるか見てみたいなと思って」

「なるほど、暇なんですね?」

「…暇じゃないから早くしてくれる?」


 いい加減にしないとさすがの私も怒るぞ…?


「失礼しました。この時間にようやく来るほど余裕があるようなのでてっきり。今あるBランク相当に依頼はこちらです」


 …この人、多分私が貴族院に入ってること知らないよね?

 かなり癪に障るけど、いちいちイライラするのも馬鹿馬鹿しいので早めに用事を済ませよう。

 彼女に出された依頼書を一通り眺めてみる。


「バルムング草の採集。高純度金鉱石の採掘。ブラッディエイプの討伐。王都管理ダンジョン下層の調査…ダンジョン?」

「あぁ、これはパーティー用の依頼ですね。セシルさんのようにソロで活動している方には向きません」

「そうなの?」

「はい。例えばダンジョン内で大怪我をした時に仲間がいれば何とか外まで連れて帰ってもらえますけど、一人だったらどうにもならないでしょう?」


 なるほど。私なら有り余る魔力にモノを言わせて回復魔法を使っちゃうけど、普通はそうはいかないってことか。

 他にも後ろから魔物に襲われた時の対処を頼んだり、トラップ解除をするための専門家を連れて行くのが普通とのこと。

 うん、確かに私じゃトラップがあってもわからないし解除なんてできそうにない。


「またダンジョン内では魔物は素材として残ることはなく、絶命してすぐにダンジョンで消えてしまいます。その時に魔物が持っていたアイテムを落とすので、それを回収することがダンジョン攻略の醍醐味でしょうね。何よりも希少な物が多いため高値で取引されます」

「へぇぇ…例えばどんなものを拾えるの?」

「珍しい薬草や含有率の高い希少金属の鉱石、魔道具を持っている魔物も確認されています。あとは強力な個体からはかなり内包魔力の高い魔石も落とします」


 魔石かぁ。魔石もぱっと見は普通の宝石に見えなくもないから私も興味がないわけじゃない。

 自分で作った方が高品質の物ができるのは置いておくとしても。


「魔石ではなく魔力の籠もっていない宝石を落とす魔物もいますが、魔石に比べると高価ではないので高ランク冒険者達は無視する傾向にありますね」

「なんでよ!?勿体ない!馬鹿じゃないの?!」


 クレアさんから宝石を無視すると聞かされて激昂してしまい、勢いよく立ち上がってクレアさんに怒鳴ってしまった。

 さっきまでざわついていたホール内がそのせいでシーンと静かになってしまう。

 …やばい。うっかり感情的になってしまった…。

今日もありがとうございました。

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