第84話 盾使いカイザック
ご褒美をチラつかされて試験とは関係のない試合をすることとなった私。
相手のカイザック殿はやる気満々。盾と短槍を持ち、挑発なんていうスキルまで使ってくる。
相手の得意なやり方なのかもしれないけど、異常無効スキルのおかげで無意味な突進をさせられることはなかった。
私も盾相手なのでどう攻めるか考えているが、カイザック殿から挑発以外をされていないところを見ると彼の戦法は基本的に「後の先」か「対の先」なのかもしれない。恐らくは前者だろうけど。
とはいえこのままにらめっこしていても意味は無い。
「いくよ」
口に出すと同時に足の親指に力を込めて踏み込むと地面が大きな音と同時に爆ぜて私の体を高速で前進させた。
彼の盾に到達するのはあっと言う間だ。
ガギィィン
私の短剣が彼の盾に防がれて大きな金属音が鳴り響く。
防がれたとは言うものの、最初から盾に向けて攻撃したもの。様子見も兼ねて一撃入れてみたけど、かなりの強度があるようで傷一つつけられない。
「まぁ想定内だけどっ！」
着地と同時に今度は盾を構えていない左側から短剣を振るう。しかしカイザック殿の短槍がそれを弾き、そのまま私を突いてくる。
まだ様子見程度だが彼の突きは速く、間合いの詰まった今の状況だと普通は避けきれないだろう。
それを無理矢理に体を動かして右に避けると今度は盾の上から後ろ回し蹴りで押し込む。
軸足が踏み込みと回転の速さで地面が抉られるほどの威力があるにも拘わらず彼の盾はそれすらも防ぐ。
私の体勢が若干崩れたところで彼の短槍が再び迫る。一撃一撃はそこまでの威力はないが、今度はさっきよりかなり速くなっている。
まだ魔人化も使っていない今の私の身体能力ではこのレベルの突きを見てから避けるのは無理だ。
ガッ キィン キィン
立て続けに繰り出される突きを短剣で捌いていくが、彼の攻撃はなかなか止まない。
そこで少し左側に向けられた突きを大きく弾いて彼の隙を作ると今度は私から連撃を放つ。
しかしそれはカイザック殿の盾捌きで全て防がれてしまう。
「ふはははっ！素晴らしい！これほどの凄まじい攻撃！だが私の盾を突破することはできない！」
カイザック殿は盾を動かしながら楽しそうに笑い私の攻撃を全て防いでいく。
しかし本当に盾捌きが上手い…そして邪魔だね。
盾に足を当てて踏み込み、大きく後退して距離を取る。
「どうしたんだい？さぁかかってきたまえ！」
「ちょっと休憩だよ。貴方の攻撃は私に当たらないし、私の攻撃も貴方の盾に防がれて通らないからね」
「ふふ、確かにね。だが私にはこの盾がある限り絶対に負けない！」
余程自信があるみたいだけど攻撃に疲れたところを攻めるつもりなのかな？
さっきくらいの攻撃なら私は一日中やっていても体力が切れることはないんだけどな。
現に息も切らせてないことにまだ気付いてないみたいだし…まぁそれは向こうも同じか。
あれだけ私の攻撃を捌いていたというのにカイザック殿は息を切らせるどころかまだまだ余裕がありそうだ。
「それじゃ第二ラウンド行くよ」
両手の短剣を収納するとボソボソと口を動かして手を突き出し魔力を集中する。
「魔法かっ！さっきの剣技に加え魔法まで使うとは！」
「獄炎弾！」
突き出した右手から炎の塊が発射される。
まだ手加減しているので速度も威力もないし一発だけだ。
「フレイムシールド！」
私の魔法がカイザック殿に届く瞬間に盾を突き出した。
オレンジ色に盾が光ったかと思うと私の炎魔法がぶつかった瞬間、消滅してしまった。
何、あれ？あんなの有りなの？
驚いた表情をしていたのだろう。彼も得意そうな顔をしている。
「魔法を使うとは恐れいったが、その程度ならこうして簡単に防ぐことができるのさ」
さっきから言い方一つ一つがお芝居のセリフみたいに喋っててなんかイラっとしてたけど、この言葉で完全で私を怒らせたよ？
視界の端にリードが見えたが、その顔が青褪めているのを確認した。
リードも訓練中に私を怒らせて何度も酷い目に遭っているからそれを思い出したのかもしれない。こんな無駄なことをさせたリードにも後でしっかりお仕置きしないといけないし…確かにちょっとだけ本気を出した方が良さそうだ。
「じゃあ…次行くね。凍殺弾！」
次に出したのは氷魔法の弾丸。弾丸と言えば聞こえはいいが、さっきマウイ殿を倒した氷の塊よりも大きい上に触れると凍りつくオマケ付きだ。
「アイスシールド！」
しかしそれもカイザック殿の出した水色に光る盾によって相殺されてしまう。
その次の暴風砲と岩弾砲もそれぞれ緑色、黄色の盾に防がれて消滅した。
なるほど、それぞれの属性にあった盾を出すことでそれを相殺する盾ってことよね？
「驚いたな…まさか四属性全てを使えるとは。しかし、私には通じないようだ。まだ魔法で遊ぶつもりかい？」
……イラッ。
本当に、もうどうでもいいから魔人化を使って全力で殴りたい。多分あの盾なんて簡単に砕ける。
でも折角の機会だし、私も自分の魔法がどこまで使えるものか試してみたいね。彼なら強力な魔法じゃなければ死ぬこともないだろうし……多分。
「極炎弾」
「また火魔法かい？それはさっき通じなか………おいおい…」
確かにさっきと同じ魔法だけど、少しだけ手加減を忘れてあげます。ブルーノさんにギルド加入審査をされた時にも使った極炎弾五十連発。以前は私の周りに出して立て続けに発射したけど、今回は彼の周りに浮かべている。死角はない、三百六十度全方位から発射される。
「これならどうやって防ぐのか、教えてね？」
ぐっと突き出していた右手の手の平を握ると同時に全ての炎の塊が彼に向かって発射された。
速度はさっきの倍以上、威力は三倍程度。あの盾を出せば問題無く防ぐことはできるだろうけど全方位となるとどうかな？
「くそっ！フレイムバリアー！」
さっきから名前が短絡的なものばかりだよね。どういう効果があるのか聞かなくてもわかるから、私はありがたいけどセンスとしてはどうなの？
彼を中心に半透明なオレンジ色の半球が広がったかと思うと、五十発の炎の塊はそれに触れた瞬間消滅してしまった。
ちょっと悔しいので追加でもう百発ほど発射してみたけど、やはり消滅してしまう。
しかし私の放った魔法の余波、その高熱が闘技場内に広がり気温が急上昇している。
試験がギリギリ終わっていたミオラは入り口近くに待避していたが、もう一組は完全に巻き込まれてあまりの高温のため両者とも膝をついている。試験官も同様で、今は待機していた別の試験官達によって全員が避難させられている。
「はぁっはぁっ！ど、どうだ！防ぎきったぞ？！」
「……あ、うん…」
カイザック殿はその様子を見ていられるほど余裕はないようで最早私にしか目を向けていない。
それにしてもあのバリアーはかなり消耗するみたいでさっきまで平気そうだったのに今は肩で息をしているし武器や盾を持つ手にも力を感じない。
「奥の手も私には通用しなかったみたいだな！この勝負私の勝ちだっ！」
勝ち誇って短槍を私に突きつけているカイザック殿。
でもね？
それが奥の手なんて言った覚えはないんだよ？
ニヤリとほくそ笑むと再び魔力を集中していく。さっきと同じだけの魔力量なのでだいたい八万程度。私にとっては微々たる程度だが、一般的な魔法使いと言われている人達の魔力量は四万くらい。Bランク冒険者のイルーナですら四万くらいだったのだからその倍となれば通常なら魔力が枯渇していてもおかしくない。
しかもさっきそれを三回分使用した上でもう一度同じことをしている。
「…馬鹿な……なんだその馬鹿げた魔力はっ？！」
「じゃあ続きいくよ？凍殺弾」
「アッ、アイスバリアー！」
急速に冷凍される甲高い音が周囲に響き渡る。
さっきのような単発の使用ではないため、いかに防いでいてもその余波だけで闘技場内の地面が一気に冷やされて凍らされていく。
ついさっきまで高温になっていた場内が今度は氷点下くらいまで気温が下がっている。通常なら体温の維持だけでも体力を消耗するだろう。現にカイザック殿はかなりきつそうだ。
私は相変わらずの熱操作で今も常春気分で戦っていられる。汗もかいてないし、当然まだまだ息切れするほどじゃない。
「次行くよ？」
「くそっ！なんなんだその魔力量はっ？！なんでこの環境で平然としているんだ！この化け物めっ！」
「…自分の理解が追いつかないからって化け物扱いするなんて最低だね。ちょっと強めに撃つからね？」
「じょ、冗談じゃない……なんでこんな理不尽な実力差があるんだ…」
久々に言われたよ、理不尽って。それだけだったらまだ私の機嫌も悪くならなかったのにね？
化け物扱いは非道いよ。
その後天魔法、地魔法でも同じように、もとい少し威力を上げて数を倍にして撃ったが彼はなんとかそれを耐えきった。
周囲の気温は既に元に戻っているが彼はバリアーを連続で使用していたため最早膝をついたまま立ち上がることできないでいる。
「そろそろ降参する？」
「ば、馬鹿を言うな…騎士たる私が君のような幼い子どもに膝をつかされたまま降参などできるはずもない」
まったく理解できない。
死ぬようなことはないと思っているからだろうし、私も殺す気なんてない。というかまだ人殺しなんてしたことないからしたくもない。
でも事故はあるんだし、死んだらそれで終わりなのに。私みたいにどこかの世界に転生できるとは限らないんだよ？
そう思うともっと腹が立ってきた。
「貴方が何にそんな意地になってるか知らないけど、この試験にそこまでする理由がわからない。理不尽だの化け物だのと好きに言ってくれたし、絶対許さないんだから」
低い声でそれだけ告げると彼も何かを悟ったのか必死に力を入れてなんとか立ち上がって盾を構えた。
もう満身創痍じゃない…早く降参すればいいのに…男って馬鹿ばっかり…。
私は今までとは比べ物にならないくらい魔力を両手に集中していく。魔力の使用量で言えば凡そ百万。
先のケツァルコアトル擬きとの戦闘を経て、新しく作った特異魔法だ。加減はするけど、万が一のときには私も覚悟しよう。
「新奇魔法 精霊の舞踏会」
今日もありがとうございました。
