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第73話 やっぱりかわいいね

「父さん、母さん、ディックー、朝ご飯できたよー」


 帰省して二日、昨日の夕飯から私がご飯を作るようになっていた。以前は腑に落ちないと思いながら作っていたのに今は作るのが楽しくて仕方ない。

 領主様の屋敷にいると食事は黙っていても出てきたし、料理をするのなんて依頼で帰れないときくらいだった。


「おはよーセシルちゃん」

「ねえねおはよ」


 仲良く寝室から出てきたイルーナとディックに微笑むとスープをよそってテーブルに置く。二人が席につくと同時に眠そうなランドールも起きてきてようやく全員揃った。

 ここにいたときに作っていたものを出しても良かったが、折角なのでパンケーキとフルーツを盛って出してみた。本来なら生クリームも欲しいところだけど、それはまだ私も手に入れてない。

 スープは具沢山のスープを魔法で圧縮、加熱することで作った煮込みスープ。異世界転生定番のコンソメスープを作りたかったけどそこまでの時間をかけてられない。家庭料理なんてそんなものよ。


「なんか貴族様が食べるような料理が出てきたな」

「今朝だけよ。昼からは普通になるから期待しちゃダメだからね」


 スープを一口啜ったとき、パンケーキを一口食べたときに悲鳴にも似た歓喜の声が上がったのを少し照れながら見つつ私も朝食を済ませた。




「じゃあ今日は村のあちこちに行って挨拶して、明後日にはまたベオファウムに戻るの?」

「うん、それでもギリギリなんだけどね」


 今日は十七日なので本来の馬車の旅ならもう出発しないといけないのだけど、私なら空を飛んで行けるのである程度ギリギリまで滞在できる。


「折角だしディックも一緒に村に行く?」

「僕はいい」


 あら…。

 かなり端的な返事に少しがっかりするけど、彼には彼の友だちもいるだろうし無理に私に付き合わせる必要もないか。

 私はディックを連れていくのを止めて一人で家を出た。

 以前と変わらない風景の中を歩いていると、これまたやはり以前と変わらずに農作業中のおじさんおばさん達が話し掛けてくる。「久し振り」やら「元気にやってるか?」など在り来たりな言葉ばかりだけど、その変わらなさが良いよね。


 しばらく歩いて村の広場に出ても私の足は止まらない。目的地の最初はここって決めていた場所だ。

 村を抜けて軽い上り坂を登っていく。すぐ目の前にその丘の頂上はある。

 村を出るときに地魔法や植物操作でちゃんと整えておいたけど、この丘も変わらない景色が広がっている。

 頂上に一本だけ生えた木。的を取り付けたりぶら下げたり…いろいろお世話になったし無茶もさせたと思う。

 丘の法面にところどころ飛び出た岩。石灰の成分を多く含んでいるのかところどころ白くなっていてこの景色に溶け込んでいる。

 すぐ近くを流れる川。小さくて川幅もないけど綺麗な水が流れていて魚もかなり泳いでいる。

 その少し先に広がるあまり危険のない森。ガーキンを狩ってはよくここで食べたっけなぁ。

 懐かしい気持ちがどんどん溢れてくるけど、ここに居座るわけにもいかない。私の探し人はここにはいないようなので直接家に行ってみることにしよう。


 丘を下って住宅が集まっている区画へ歩みを進めると、その目的地にはすぐ辿り着いた。

 私が帰ってきたら家族以外には一番喜んでくれる人。

 しかしドアをノックしようと家に近付いたところで後ろから誰かが走ってやってきたようだ。


「セーシルちゃーーーーーん!」


 声がした方を向くと薄い赤毛をポニーテールにした元気そうな女の子が走ってきていた。


「…キャリー?わぶっ?!」


 その子は私に対して全力で走ってきたかと思えば止まることなく私に思い切り突っ込んできた。後ろに倒れたりすることはなかったものの予想外のことにかなり驚いた。


「セシルちゃん!久し振り!」

「キャリー…うん、久し振り。でも女の子なんだからもう少しお淑やかにしなきゃだよ?」

「もー、セシルちゃんまで!久し振りに会ったのに大人と同じこと言うなんて!」

「キャリーは絶対素敵な女性になれるんだから、今からでも間に合う。自衛団より花嫁修行を…」

「あーーーー!もう聞きたくなあぁぁぁいっ」

「…ぷっ…あっははははは!えぇ?こんなこと本当に言われてるの?」


 私がからかったせいかキャリーは小動物のように頬を膨らませて拗ねてしまった。

 キャリー、しばらく見ないうちにキャラクターが変わったというか…ただの元気っ子だったのにね?

 今も牛になったかのように「もー!もー!」と言い続けているが、それもまた可愛い。

 確かに大人達も気が気じゃないのかもしれない。


「ふふっ、くっ…ねぇ、ごめんってば。そろそろ機嫌治して?」

「もー!また大人みたいなこと言ったらホントに怒るからねっ?!絶対だよ!」

「うんうん、約束」


 可愛い外見にばかり目が行っていたけど、よく見るとキャリーは私より背も高く、かなり鍛えているのか全身に筋肉が身につき始めている。

 腰に差したショートソードと背にしている弓もかなり使い込んだ跡があり、本人の努力が見て取れる。


「それで、今日は見回りなの?」

「うん。それと昨日副団長から『娘が帰ってきている』って聞かされてたから見回りついでに探してたの」

「そっか。家にいたかもしれないのに」

「それはないでしょ。村にいたときから散々あちこち走り回ってたんだしさ。あとセシルちゃんなら家族の次に会いに来るとしたらここだろうなって思って」


 むー…キャリーってば天然みたいなキャラクターの割にはよく私を見ていたらしい。

 そんなキャリーは置いといて、とにかくドアに向かおうとして再びキャリーから声がかかるが、それは私にとって予想外のことだった。


「ユーニャちゃんならいないよ」

「…どっか出掛けてるのかな?村の中で見掛けた?」

「ううん、もう村にはいないよ」

「…え?」


 ちょっと、キャリー?何を言ってるの?


「セシルちゃんが帰ってくる少し前に王都の学校に行くってコールと一緒に村を出たんだよ」

「…うん?王都に行ったの?」

「うん、王立国民学校だったかな?」


 以前インギスさんから聞いたことがある。平民向けの学校で将来国の重要な役割を担えるかもしれない子どもたちの教育をする機関だったはず。

 そういう官僚とかだけでなく、戦闘に特化した子には軍に入ったり、またはどこかの豪商の見習いになることもあると聞いている。

 一つ言えるのは間違いなくエリート養成学校だと言うこと。


「そっか。ユーニャも王都の学校に行くんだね」

「うん…って、『ユーニャも』ってことはセシルちゃんも学校行くの?」

「うん、ユーニャとは違う学校になるけどね。領主様のご子息と一緒に貴族院に行くことになってるの」

「うわぁ……なんだかセシルちゃんがすごく遠い人になっちゃった感じがするよぉ」

「いや、変わらないでしょ」


 慌てたようにキョロキョロするキャリーはかなり可愛いけどちょっと落ち着け。

 そのままユーニャの家の前で話し込むのも変なので二人で村の広場に移動してからまた話し始めた。

 私がいなかった間のことをキャリーから聞いて。

 私が領主様の屋敷で何をしているか、冒険者としての話までいろいろと二人で話した。


「そういえばハウルはどうしたの?」

「ハウル…。ふーん、セシルちゃんハウルのことが気になるの?」

「え?そりゃ村にいたときはずっと遊んでたんだし気になるよ?」

「…ハウルなら今日は村の外周の見回りだから、そろそろお昼の交代で戻ってくるよ」

「そっかそっか。どう?少しは強くなったのかな?」

「…知らなーい」


 どうもキャリーの様子がおかしい。

 ハウルのことを聞くとあからさまに態度が刺々しくなる。

 ははぁん?これは…あれか?初恋ってやつですか?

 私は下世話な笑みを浮かべ…ているかどうかはともかく、口角を上げて優しくキャリーに話し掛けた。


「大丈夫だよキャリー。私は私より弱い人に興味なんかないから。ただ懐かしい幼なじみがどうしてるか気になっただけ」

「……ほんとに?」

「うん、ほんとほんと。キャリーから取ったりしないから安心して」

「べ、別に取るとかそういうんじゃなくて!ずっと一緒だし、兄弟みたいなものだし、最近頑張ってるし、背も高くなってるし、たまにちょっと優しいし…」


 はいはい、御馳走様です。

 二人の将来に幸せがいっぱい訪れる呪いでも掛けてやる。くそぅ。

 あ、そうだ。

 私は腰ベルトから極小さなシトリンを二粒取り出すと、両手で二つ纏めて握り込んだ。


「付与魔法。魔力は限界まで。付与は…幸運、位置登録、位置探査」


 自身の魔力をシトリンに流し込みながら付与魔法で三つの加護を登録していく。小粒な宝石なので魔力を限界まで注いだところで三つまでしか登録はできない。もちろん一般的な付与魔法では一つ登録するだけでも莫大な金額を請求されることになるだろうけど、私は未だに付与魔法で金銭を要求したことがない。

 ちなみにヴァリーさんに聞いた感じだと今私が作った魔石と付与魔法三つでだいたい白金貨百五十枚くらいだったはず。

 ね?持ってるのバレたらつまらない小悪党が村にやってきそうでしょ?

 付与の終わったシトリンは私の魔力が込められて既に魔石となっている。それを二つともキャリーに渡した。


「はい、あげる」

「あげるって…これって宝石?そんな高いの貰えないよ」

「宝石は宝石なんだけど…私が作った魔石の御守りだよ」

「まっ魔石っ?!そそ、そんなもっともっと高いのなんか貰えないよ!」


 キャリーは渡された物が魔石とわかると手を突っ張って私に返そうとしてきた。無論、私が受け取るはずもない。


「大丈夫だよ。元の宝石はただみたいな物だし私が作った魔石だからお金もかかってない」

「…本当に?」

「うん、本当に。でもあんまり他の人に見せたりしないでね?盗まれたりするくらい何でもないけど、キャリー自身に何かあったら困るから」


 実際はキャリー自身の心配ともう一つ。私のことがどこかから漏れて魔石作りを依頼されたくないからだ。

 そんなことになったら私の宝石が無くなっちゃうからね?

 それだけは許されない。


「セシルちゃん…。うん!絶対みんなには秘密にするよ!」

「ありがとう。その魔石にはちょっとだけいい事が起こるように『幸運』ともう一つの魔石がある場所がわかるように『位置登録』と『位置探査』をつけたから、ちゃんとハウルに渡してあげて」

「場所がわかるって…それすごいことだよね?!」

「私とキャリーとハウルだけの秘密だよ?」


 結構本気でバレたら強奪されてもおかしくないレベルの付与をしてしまったかも…。ただ二人の位置がいつでもわかるというのもすごいけど、実際は方角とある程度の距離くらいなものではある。私みたいに精度の高い位置探査をしようとするとちゃんと魔法を使わないと無理だろう。

 そんなわけでユーニャもいないということでキャリーと一緒にハウルを探しに行くことにした。

今日もありがとうございました。

挿し絵とか用意したいなと思うことがたまにありますが、晴真の絵心は壊滅的なレベルなためいつも思うだけで終わります(笑)

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