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第546話 ダンジョン攻略とランファの……

コミカライズもよろしくお願いします!

「ミサキ、休憩の交代をお願い出来るかしら」

「うむ、承知した。エミルシルとアルーは少し休むと良かろう」


 私達は再びダンジョン攻略に来ていた。

 今回は第五大陸。

 ランファのお父さん、魔王ヘイロンが商会を営んでいる町のすぐ側だった。


「ラ、ランファ、危険はないと思うけど、気を、つけて」

「えぇ。アルーも少し眠った方が良いですわ」


 交代で休憩を取りながら攻略を進めていること自体、私たちダイヤモンドリリィにしては珍しい状況だ。

 普通のダンジョンなら休憩中でも魔物が襲ってきたら誰かしらが気付く。

 でもここのダンジョンについては魔物が脅威にはなっていなかった。


「そもそもこんな罠だらけのダンジョンがあるなんて聞いたこともないよ」

「ダンジョンマスターの性格が悪いのではなくて?」

「ふんっ、武人の風上にも置けんな」

「ダンジョンマスターは武人じゃないでしょ」


 しかも普通の罠なら通路や扉、宝箱なんかに仕掛けられているのに、このダンジョンでは突発的にいろんな罠が発動する。

 内容も様々で対処が簡単なものから、ただただ時間がかかるものまで。


ガタン


 突然通路の奥で音がして何かの罠が発動したようだ。

 なのにまだ何が起こったかわからない。


「……何も、起きない、か?」

「まだ、わかりませんわよ……」


 私達の中に斥候タイプの人員はいない。

 アルーの感覚が鋭いのと、エミルシルが魔力感知に長けているので普段は二人を頼りにさせてもらっている。

 だからこういう罠なんかは力技で粉砕してきたのだけど、二人は今休憩中だしここではそうもいなかった。


「なんか、音が、する?」

「……うむ、ザザッという音……?」

「……私、物凄く嫌な予感がしましてよ……」

「まさか、この音って……ひ、ひいぃぃぃぃぃぃっ?!!」

「むっ、虫いぃぃぃぃぃぃっ!」


 数秒後、私達は虫の大群に襲われて辺り一面を火の海にしていた。




「これ、さっきも通った印がついてるよ」

「えぇ、でもおかしいわね。さっき印を書いた時は通路の左側に書いたはずよ?」

「……まさか、とは思いますけれど……ここ通路が動いているのではなくて?」


 虫の大群に襲われた後、休憩から復帰したエミルシルとアルーと一緒にダンジョンを更に進んだ。

 ダンジョンへ入る前にセシルママに確認したところ、このダンジョンは最下層が六十八階らしい。メルクリウスに頼むとダンジョンの場所と最下層がわかるって言ってたけど、便利だよね。

 そして今は六十六階。

 十字とT字の通路ばかりで構成されている狭い通路型のダンジョン。

 魔物は出てこないんだけど、この階層に来てから既に半日以上経過してるのに進んでる気がしない。


「ほ、ほとんど同じ見た目の通路、と変わらない景色、だから……通路が動いていたら、わ、わからなくなる、です……」

「全く、本当にここのダンジョンマスターは性格が悪過ぎましてよ……」

「臆病なだけかもしれないわよ」


 確かに通路を進むだけなら紙に書くとか出来るけど、通路自体に動かれたらどう対処したらいいかわからない。

 こう何度も進行方向を変えられたら方向感覚なんてあっさり失ってしまう。


「どうしよう……」

「手持ちの食料はそれなりにある。攻略出来るまで粘ることは出来る、が……」

「そ、それだと、セッ、セシーリアさんに、今後はダンジョン攻略なんて、させて、もらえないかも、です」

「そうよね。私もリーライン様に叱責されてしまうでしょうね」


 こういう時セシルママならどうするんだろう。

 あれだけなんでも出来る人だけど、斥候系のスキルはほとんど持っていないはずで、ダンジョン攻略はアイカさんに頼るところが大きいって言ってた。

 でもいくつものダンジョンを単独で制覇してもいる。

 中にはすごく意地悪な罠だってあるはずなのに。


「っ! またここですわ! もうっ、何度同じところに戻されたか!」

「いっそ通路を無視して真っ直ぐ進めたら楽なんだがな」


 真っ直ぐ? 通路を無視?


「それだ!」


 ミサキの言葉を受けて私は自分の中にいる悪魔たちを召喚した。


「ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブ、ベルフェゴール、みんな来て!」


 私が悪魔を呼び出すことで使える能力は彼等の力だけじゃない。

 一体ごとに身体能力が大幅に向上するので、物理的な攻撃力も跳ね上がる。五体も呼び出せばMPは凄い速度で減っていくけど、時間をかけるつもりもない。


「魔人化! いっ、けえぇぇぇぇぇっ!」


がごおぉぉぉぉんっ


 全力で通路の壁を殴り付けると、物凄い音がして壁に大きな穴が空いた。

 穴の向こうはまた別の通路になっている。


「行ける! みんなついてきて!」


 四人の返事を待つことなく壁に空いた穴に飛び込むとその先の壁にも大きな穴を空けて先へ進む。


「むっ、無茶苦茶よ!」

「ははっ! だがいいじゃないか! 道が無ければぶん殴って作ればいいということか!」

「チェ、チェリーツィアさんみたいなの!」

「はあ、素敵ですわソフィア……」


 後ろからいろいろ言われてるけど私は聞いていられるほど余裕がない。

 何度目かの壁を破壊すると、今度は通路が無くて何もない真っ暗な空間があり、二十メテルくらい先に別の通路が見えただけだった。


「エミルシル! アルー! どっちが正解の道か方向だけでもわからない?!」

「多分このまま真っ直ぐで合ってるです! 違ったらごめんなさいです!」

「その時はその時だよ!」


 私達は真っ暗な空間を飛び越えて、その先にある通路へ飛び込むと再び壁を壊して先へと進んでいった。


 その後、下への階段を見つけた私達はボスを倒してダンジョンマスターと会うことが出来た。

 とてもヒョロっとした男の子みたいな人だったけど、会うなりとても怯えた表情をしていたのが印象的だった。

 やっぱり臆病なだけだったようで、他のダンジョンマスター同様戦闘能力はほぼ無いみたい。

 結局汚染されていることもなく、私達はご褒美をもらってダンジョンを後にした。

 そして魔王ヘイロンに謁見する。


「そうか、何事もなかったんだな?」

「えぇ、私達が魔物を間引きしましたし近々に連鎖襲撃(スタンピード)が起きるようなことはありませんわ」

「あぁ、ご苦労さん。疲れただろうしランファ、今日はみんなでここに泊まると良い」


 このままターミナルステーションへ向かって屋敷へと戻ろうかと思っていたから、予想外の提案にランファも私達に苦笑いを向けてきた。

 ランファのあの表情は頼みにくいけど、お願いしたい時の顔だと思う。


「それじゃヘイロン陛下、お言葉に甘えさせていただきます」

「あぁ、しっかり休んでいってくれ」


 まぁたまには良いよね?


「だが俺のことを『陛下』なんて言わなくていいからな?」

「わかりました、ヘイロン様」

「……ま、今はそれでいい」


 そういえばランファもセシルママのことを『閣下』って呼ぼうとしたら訂正させられてたっけ。

 何となく似てるよね、セシルママとヘイロン様って。

 そして私達はランファに案内されてシーロン商会に併設されている高級宿の一室に泊めさせてもらうことになった。

 夕食や清拭を終えた私達は巨大なベッドの上で思い思いに転がりながら話し込んでいる。


「それにしてもひどいダンジョンだったわね」

「うん。でも、私達に足りないものがはっきりしたよ」

「斥候の能力、です」


 火力だけなら十分過ぎるほどなんだけど、罠もそうだし攻撃以外の魔法を使われた時に防ぎきれないかもしれない。


「ねぇソフィア、セシーリア様にお願い出来ないでしょうか。あのお方なら何か良い方法を知ってらっしゃるのではなくて?」

「うぅん、多分いろいろあると思う。帰ったら聞いて……いえ、みんなで行ってみようよ」

「ソファイアと違ってただのパーティーメンバーでしかない私達が行って迷惑ではないかしら?」


 セシルママがエミルシルたちを迷惑に思うことがあるかな?

 宝石を見てる時じゃなければ怒ったりしないと思うんだけど。


「もし迷惑だったら私がちゃんと怒られるから大丈夫」


 寧ろセシルママに怒られたことなんてないから新鮮かもしれない。

 もちろん今この場で遠話(トーク)を使えば話せるんだけど、ちゃんとすぐ近くで話したい。


「ふあぁ……僕ちょっと、眠くなったです」

「ずっとダンジョンの中で寝泊まりしていたからな。今日は早めに休んだ方がいいだろう」


 アルーのあくびを優しい目で見ていたミサキは彼女の隣へと転がっていくと、その頭をゆっくりと撫でた上でバラバラに寝転んでいた私を含めた三人に手招きしてきた。

 外泊するときには何故かみんな固まって眠る習慣がついてしまい、今日もそうしようということだと思う。

 私がミサキの隣で横になると、逆隣にはランファがきて腕を取られ指まで絡ませてきた。


「もう、ランファ暑いってぱ」

「嘘ですわね。実際ソフィアの近くは気温がちょうど良いですもの」


 まぁ一応熱操作で私の近くの気温は調整してるしね。


「では、話の続きはまた明日以降だな」


 ミサキはそれだけ告げるとアルーと一緒になって寝息を立て始めた。


「私も休むわね、おやすみ」


 エミルシルにおやすみと返したくらいで私の記憶も曖昧になってきて、あっさり眠りに落ちてしまった。

 夢と現の間で揺蕩いながら、仲間たちと過ごすこの時間がとても愛おしく思う。

 きっとセシルママもこんな風に思っていたのかもしれない。

 それこそ、いつか私にもセシルママにとってのユーニャママのような人が出来たらいいなと思いながら。


 どれほど眠っていたかわからないけれど、体の一部が熱を持っている気がして意識が浮き上がってきた。


「んっ……」


 意識の靄が晴れてきたところで、突然聞こえてきた声。

 何か力がこもったような声。

 それは凄く近いところから……。私の隣にいたのはランファだったはずだけど、それよりもっと近いところから。

 次にもう一度声が聞こえたとき、私はそれがどこから聞こえてきているかわかってしまった。


「素敵ですわ、ソフィア……もっと、聞かせてくださいまし」


 それは私自身から発せられた声だった。

 隣にいたランファの手によって。その囁くような声とともに齎される刺激に私は翻弄されるだけで、はしたない声を上げることしか出来ず。

 そういえば……いつだったか、ママたちの寝室からも今の私と同じような声が聞こえてきたっけ……。

 アネットさんからあれはママたちが愛し合ってる声だから邪魔しちゃいけないって教えてもらった。

 なら、今ランファが私にしていることは……?

 よく、わからない。

 結論が出ないまま、私はふわりを体が浮き上がるような感覚と共に意識が白く弾けて途切れてしまった。

血は繋がってなくとも子は親に似るもので……。


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― 新着の感想 ―
>血は繋がってなくとも子は親に似るもので……。  ホントもうさ、リックだけが頼りよ。 セシーリアの血筋を守れそうなの。  あの国のトップから何から、血筋をどうか残してくれと強く強く願ってるでしょうね…
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