第544話 並列存在
コミカライズもよろしくお願いします!
最後に新築を建設中のアノンを表敬。
完成後に私の屋敷にも使われているエデノラガノフ装置を設置することを約束するためだ。
ちなみにコルのいるランディルナ侯爵家の屋敷にも設置してある。
掃除と空調機能のみで、巨大なフォルサイトと屋敷中に張り巡らせる金属線の配置などはこちらで一緒に用意しなければならない。
なかなか大変だしさすがにタダというわけにはいかないため黒聖貨程度の支払いはしてもらうことに。
何よりも金属線の用意が大変なので、アイカ達に頼んで迷宮で採取してきてもらおう。
そして屋敷へと戻り、夕食や湯浴みも済ませて寝室に籠もった。
「主、嫁、どうした」
「主様、一人寂しいなら隣で寝る」
ペットのスライムたちがぽよぽよとベッドの上で揺れている。
「大丈夫だよ。それよりムースはソフィアについていないの?」
「主の子、強くなった。ムース来ないで、言う」
「あらら……あの子に限ってテングになってるわけじゃないと思うけど、一応毎回戻ったらついていくか聞いてくれる?」
ぽよんと一回跳ねるムース。
ランカに魔石をいくつか放り投げて食べさせ、ムースにも魔力を補充してあげると二匹はそのままどこかへ行ってしまった。
屋敷の中は自由に動き回っていいと言ってるけど、スライムの姿でいられるのは限られてるから多分研究室だろう。
「さて」
ぶぉん、と空間が歪むような音がして寝室内に結界を構築した。
結界は私を囲うようにかなりの強度で作成して、異空間から一つの魔石を取り出した。
それほど強力なものを用意する必要はないと思ったものの、時間がないので取り出したのは複合ダンジョン産の人工魔石。これなら最初から多くの内包魔力がある。
「擬似生命創造」
魔石内にある魔力と自分のMPを大量に消費して魔石を核とした擬似生命体を作るスキル。
今の私ならMPさえ足りていれば生体神性人形を作ることが出来る。
神経を使いながらスキルを維持していき、鐘半分も経つ頃には目の前に想像通りの人形が出来上がっていた。
「よし、完成。ふぅ……疲れた」
私が作ったのは自分の外見と全く同じ生体神性人形。作りたてなので当然裸のままであり、さすがにこれを誰かに見られるのは憚れる。
ここに魂と呼ばれるものを入れればこの人形は動き出すわけだけど、ヴォルガロンデが前ジュエルエース大公だった時と同じことを私は自分の姿そのままでやろうとしている。
「なんかドキドキするね。並列存在」
初めて使うスキルではあるけど、説明文と字面からどういうものかは想像がつく。
スキルを目の前の人形に集中しながら使うと自分の意識がだんだん二つに分かれているような不思議な感覚を覚えていき、やがて鏡の前にいるかのように自分の前に自分が立っている状況を二つの意識の中で確認出来た。
「「成功かな?」」
私と私はお互いの手を合わせると同時に握ったり、片方ずつ握りあったりしてみる。
なんかすごく不思議。
私は私なのに、目の前にいる私も私だ。
そしてしばらく感覚に慣れさせるためにいろいろやってるうちに片方の意識をもう片方とリンクさせないようにする方法もわかった。
「なるほど、これなら私は私で」
「こっちの私も私なわけだね」
問題があるとすれば生体神性人形の私はレベルが千程度しかない。
今後は本当にずっと護衛をつけておかないと駄目かも。そこらの冒険者に負ける気はないし、冒険者稼業をするためにこの体を作ったわけじゃない。
「これならずっと屋敷にいて仕事してられるしね」
「まぁ仕方ないよね。使用人もデルポイの従業員も、それに学校の生徒やクランの子たちを放置するわけにはいかないから」
「一人の体じゃどうしても限界があるんだよね」
「いいよ、これは私がやる。それにスキルレベルを上げればもっといろんなことが出来るはずだしね」
そうそう。いずれは自分と全然違う外見にして一から冒険者をしてみるのも面白いかもしれないし。
まぁそれはよほど暇になったらでいいや。
「ところで……やっぱり私って、可愛いよね?」
「二十四年もこの体にいるけど、京子だった時に比べたら作り物みたいな可愛さだからね」
「……私は至って普通のノーマルな女子のつもりだったんだけどね? ユーニャとかいろんな影響もあってね?」
「私が私に言い訳しても仕方ないでしょ。したくなるのもわかるけど、ってか普通に一人でするのと同じようなものでしょ?」
何をするかって?
当然ナニをするんだよ!
私は目の前の私に抱きつくと、そのままの勢いで唇を重ねた。当然相手も私なので拒絶なんて全くしない。
さっきは一度解除した意識のリンクを再度繋げる。
「「コレは……ヤバいね」」
キスをする感触とキスされた感触が同時にする。
そのまま私をベッドに押し倒すと、当然ベッドに押し倒される感覚もある。
頭がおかしくなりそうだけど、折角だから続けてみようと思う。
いや、ごめん。もう自分相手に言い訳するのは止めよう。
てことで、始めるよ!
「おはよう私」
「おはよう。って寝てないでしょ」
結局夜が明けるまで続けてしまった。
普段は途中でダウンしてしまう奥さんたちを相手にしているけど、今夜の相手は自分なので同じだけの体力があったらしい。
これに関してレベル差はあまり関係ないようだ。
おかげで全く止まることなくずっと続けていられたよ。
「またそのうちやろっか」
「そうだね。クセになりそうだから本当にたまににしないと」
私と私は意識のリンクを切って体を清める。
「一応異空間に入ってるものは共通で使えるみたいだから平気だろうけど、上にいる間は普段と違う服を着るようにするよ」
「そうだね。私はいつも通りの普段着と仕事着、貴族服かな。視察も行かないといけないだろうし」
「うん、よろしくね。何よりもソフィアのことを気にかけてほしい」
「もちろん心得てるよ。そっちも、ユーニャ達を頼んだよ」
私一人じゃ出来ることに限界があるなら、もう一人私がいればいいじゃないか。
そんな発想の元に今回の計画は進められた。
屋敷にいる私は大公としてのセシルを、上にいる私は管理者代理代行としてのセシルを。
もうどうせ人間じゃないならとことん突き詰めていこう!
「じゃあね。長距離転移」
そして私は再びみんなが眠る上へ……九天ルミナスへと向かった。
眠りについているみんなに会えないまま何ヶ月かの時間が過ぎた。
会おうにも彼女たちはみんな白い繭に包まれていて現在の状況すらわからなかったのだ。
仕方なく私は時折外界にいる大公の私とたまに意識を繋いだりしながら管理者代理代行の仕事を学ぶことにした。
とりあえずそれほど大きなことが出来るわけじゃなくて、たまに誰か一人に神の祝福を授けたり、大地の組成を弄って宝石が生まれやすくしたりは出来る。
けど一番最初に行ったのは九天ルミナスの宮殿を変更すること。
ヴォルガロンデが嫌いとかそういうことじゃないけど、ちょっと私の好みには合わない。
ということでやってきたのは管理室。
この管理室こそがこの世界の法則やあり方を変える場所である。
尤も、今の私には法則を変えたりは出来ないけど。
さて、まずは基本構造は変えずに組成している宝石類を変えていき、床はペグマタイトをベースにしていたけれどこれをフローライトにして水晶で覆う。
ヴォルガロンデがいた玉座の間の前に部屋を一つ。
普段は入り口と出口一つずつにしておくけれど、万が一の時には十二の扉を用意。
それらは私の眷属達の宝石で作成。
その先はまた今度作るとして、玉座の間には十三の入り口から入れるようにしておく。
「玉座はどうしようかな……眷属のみんなにまた張り切ってもらおうか」
奥さんたちを座らせるための椅子も必要だし、眷属達を回りに立たせられるようにもう少し広くしておく。
ヴォルガロンデは水晶のクラスターで壁を覆っていたけれど、刺々しいので却下。
私の大切な人達、眷属達を象徴する宝石を大きく作り、金色の鎖を使ってガーランドとして飾った。
「ヤバい……綺麗すぎる……」
美しすぎる宮殿に無意識なまま自分の腰が動いていることに私は気付いていなかった。
「管理者代理代行は何一人で悶えてるのですか」
なのに横から私に辛辣な言葉を投げかけてきたのはヴォルガロンデが残して三人の女神の一人、ニーディイオーネ。
どの女神もすごく目つきの鋭い人達だったけど、彼女はそれでもまだマシな方だろう。どちらかというと常にジト目だ。少し残念なところは片目を濃い紫色の髪で隠しており、長く伸ばされた髪もあまり手入れをしている様子はない。
それでも美人であることは間違いないしスタイルもユーニャと同じくらい整っている。
そんなニーディイオーネは管理室に私が入ってきたときからずっとそばにいた。
管理室での作業は宙に浮かんだウィンドウに現れる情報を見たり、数値を変更していくものとなる。
ぱっと見はすごく地味な作業なだけに突然くねくねと動き出したから声を掛けてきたのだろう。
「この九天ルミナスの宮殿をもっと綺麗にしてみせるからね!」
「いえ、それは私の質問の答えじゃないですよね?」
「綺麗なものに心と身体が踊らされるのはよくあることでしょ?」
ね? と問い掛けるもニーディイオーネは首を傾げただけだった。
ヴォルガロンデはもう少し心の機微とか教えなかったんだろうか。
というか、彼に対する対応と私とでは大きな差があるよね?
「とりあえず管理者代理代行は何らかの疾病に冒されているわけではないのですね?」
「疾病とまで言う?」
「では引き続き踊っていてくださって結構ですので」
辛辣ぅ。
けど気にしない。
たかが女神の言うことにいちいち腹を立てていられないしね。この場合の『たかが』っていうのは女神は私にとってメルと同様の扱いで、世界の運営を機械的に行う装置だからという意味だ。
神自体を貶してるわけではなく、本来の意味としての『神』が世界を管理する者であるならば、最もそれに近しいのは女神ではなく私だから。
「というか貴女たちは仕事しないの?」
「しておりますよ。今こうして管理者代理代行と話しながらでも世界運営に関する業務は滞りなく」
「そうなんだ。じゃあ私は私で好きにさせてもらうよ」
「どうぞご自由に」
言葉が刺々しいニーディイオーネは放っておいて、私は九天ルミナスをどんどん改造していくのだった。
気に入っていただけましたら評価、いいね、ブックマーク、お気に入り、レビューどれでもいただけましたら幸いです。




