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第543話 ちょっと確認

コミカライズもよろしくお願いします!

 数日かけてスキルの検証を行い、自分に出来ることを確認させてもらった。

 ついでに自分の体の変化も確認するために寝室に愛人を何人か連れ込んだりもした。


「時間をかけたおかげでようやく自分の体のことがわかってきたよ」

「それは何よりなのだ。セシルの次の目標は管理者代理になることなのだ」

「管理者代理? でもヴォルガロンデは六千年かけてもなれなかったんだよね?」


 もしヴォルガロンデが管理者代理だったら彼の寿命はもう少し長かったかもしれないし、私はどこかのタイミングで彼によって殺されていたかもしれない。


「というかさ、メルって私の統合されたオリジンスキルに組み込まれたのになんで今まで通りなんだろうね?」

「オリジンスキル『セシーリア』の能力は宝石化、絆の強さによる強化の加算、威圧系能力の強化、回復•即死能力の強化、案内系能力の発現、とアイカに聞いているのだ?」


 メルの言葉に頷くと、屋敷に戻った日にアイカの神の眼で見てもらったことを思い出した。

 今までで一番呆れた顔をしていた気がする。


「その案内系能力の発現、というのがわっちなのだ」

「けどヴォルガロンデの足跡を案内するのが本当の役目だったわけでしょ? 今更何を案内するの?」

「セシルは管理者代理代行を引き継いだが、何をするかわかるのだ?」


 そういうことか。

 当たり前だけど、いろんなことが出来るのはわかるけど何をどうしていいかさっぱりわからない。


「そこをフォローしていくのがわっちの役目なのだ。今までは制限されていて説明出来なかった世界のシステムについても触れられるようになっているのだ。残念だがデシグナーレには触れることは出来ないから説明してやれないのだ」

「あ、それいつか言ってたよね? どういう意味なの?」

「今説明出来ないと言ったばかりなのだ」


 むぅ……デシグナーレ、ねぇ?

 スペルとしてはdesignare? ……design? 


「つまりは世界のデザイン。設計とか計画とかそういうこと?」

「だから説明出来ないと言ってるのだ」


 まぁそういうことだろうね。

 ようするに現時点では与えられた選択肢から好きに選ぶことは出来ても、選択肢自体を作ることは出来ないとかそういうことだと思う。

 余程の暇人くらいしかそんなことしてる時間ないでしょ。百年後とかはそういうことになってそうな気がしなくもないけど。


「まぁその時が来たら説明してもらうとして、制限されて説明出来なかったことって他には?」

「アイカの神の眼と同じくらいのことは出来るのだ。他にもこの世界についての百科事典と言えばわかりやすいのだ?」


 なるほど、とひとまずは納得することに。そうしないとこの顔文字はいつまでも喋っていそうだしね。


 メルを引っ込めさせた後、カリカリと執務室で一人いくつかの書類を作成していた。

 大公になってから私自身の仕事はほとんど無いも同然の生活なので書類仕事といえばデルポイ、騎士団、クランについてなのだけど、今回は珍しく貴族としての仕事である。

 と言ってもこれは実験の一環なのだけど。


「よし出来た」


 作り終えた書類を封筒に入れて封蝋を押す。

 宛先はエギンマグル侯爵。

 久し振りに国内の鉱山を視察しようというもの。この忙しいタイミングで、しかも娘はパーティーでダンジョン攻略しているというのに、という疑問はもっともだけど、ちゃんと実験という理由がある。


「セドリック、これを出してきてくれる?」

「畏まりました」


 セドリックもそろそろ引退を考えてるのか、彼は家令を呼んで早速手紙を届けてもらうようだ。

 以前よりも執事や家令の人数が増えているのは、引退に向けての準備なのではと勝手に思っている。


「返事はすぐに届くでしょう」

「そう? 一月くらいは覚悟してるんだけど」

「今のアルマリノ王国でセシーリア様の手紙を後回しに出来るものなど誰もおりませぬ」


 私そんなすぐにヘソ曲げるほど子どもじゃないんだけど?

 ちょっとジト目でセドリックを見てみるけど彼は気付かない振りをしたままだった。


 その後イリゼとラメルを引き連れて各所を回った。

 さすがに二カ月も空けてしまうと多少の変化はあるものだし、しばらく顔を出していなかったところへ出向くことにしたのだ。


「ねぇセシル、アタシ前にも言ったよね? 急に来ないでって」

「あはは、ごめんね」

「ベルーゼ、何度も言うが会長を拒む扉などこのデルポイには一枚足りとも存在しないんだよ」

「はいはい。それじゃアタシはお茶を淹れてくるわ」


 ということでやってきたのはテゴイ王国にあるカジノである。

 カンファの運営に不安なんてないけど、たまには顔出さないと彼も寂しがる……わけないね。


「カジノは相変わらず順調だね」

「勿論さ。カジノというよりかはテゴイ王国を使った娯楽王国はデルポイ全体の四割ほどの利益を出しているよ」


 うん。

 私も報告書で気付いたけど、いつの間にか花町というか歓楽街が本当の町になっていたし、風俗以外にも酒場やリフレ、浴場など様々なサービスが相当数増えているのである。

 この町で働いている人は男女含め千人以上いるだろう。

 表向きな店で働いている人達の労働時間はちゃんと厳守させているからある人物を除いては問題ないはず。

 それと商店街とブランドストリートがある町。

 どちらも拡大を続けており、商店街はもはや倉庫がお店になっているようなものだったりする。

 対してブランドストリートは相変わらずの高級路線のため、店は大きいが置いてる商品は多くない。

 そして商品一つあたり聖金貨百枚以上のものまで扱うようになっているので、それらはオークションを開催して競り落としてもらうようにしたのだとか。

 そのオークション会場はテゴイの王城よりも豪華な建物であり、アルマリノ王国の王宮と比べても遜色ない。


「一応聞くけど、ちゃんと稼いだお金は使ってるんだよね?」

「当然だろう。私もコルチボイス社長も生粋の商人だからね。金は貯めるだけでは意味がないことをよく知ってるさ」


 それも報告書で知ってるんだけど、なんか稼ぎすぎな気がする。

 だからこそヘイロンのところとの取引や第一大陸のガットセント国、第四大陸のブルングナス魔国での新規開店でどんどんお金を使ってもらっている。

 第二大陸のエルフの国ではあまり大手を振って商売出来ないけど、それ以外の町には出店してるし第三大陸との間にある群島地域にも出店した。


「やっぱりデルポイはもう私がいなくても大丈夫そうだね」

「会長の作った魔道具は本社に相当数在庫があるんだよね?」

「うん。今の販売ペースなら五十年くらい平気だね」


 オーダーメイドは都度対応すれば良いだけだし、魔石への魔力付与は私以外にも出来る社員を何人か育てて確保している。


「なら大丈夫さ。しばらくは好きに遊んでいたらいいんじゃないかな。ずっと何かやっていたのが落ち着いたんだろう?」

「……そう、させてもらおうかな」


 やっぱりカンファにはお見通しだったらしい。


「それに新婚なんだ。少しは奥さんたちとゆっくりするべきだろう。もちろんユーニャさんは復帰したらバリバリやってもらうよ?」

「はは、ユーニャはお金稼ぐの好きだから止めても働くよ」


 息子で社長のコルに聞いたら絶対休めって言われるのが目に見えているので聞けなかった。

 でもカンファに言われたことでストンとそれが私の胸に落ちた。

 ありがとう、と端的に伝えた私はベルーゼの淹れたお茶を喉に流し込むとすぐにまた別のところへ転移することにした。


「オーナー!」


 私の姿を見つけると駆け寄ってきたのはテゴイ王国の花町を任せているメーミス、彼女の部下であるキキルだ。

 以前社畜御用達の魔道具を与えてからすっかり私に信奉している凄く優秀な女性。

 彼女は恐ろしいほどの記憶力で毎日変わる花町全体のシフトや在庫状況を完全に把握している。

 やや野暮ったい感じのする女性だけど、以前よりもかなり健康そうに見える。


「キキル、久し振りだね」

「今日は部長に用事でしょうか?」

「ううん、ちょっと様子を見に。キキルはあれからちゃんと休み取れてるかな?」


 聞けば最近は部下が十人以上ついたので一人で全部把握はしないようになったとか。おかげで週に一日以上休めるんだって。

 ついでに課長に昇進したので給料も大幅に上がったそうな。ヨシヨシ。


「おや、セシル嬢じゃないか。どうしたんだい? 貴族を辞めて娼婦になるってんならアタシが一から鍛えてやろうじゃないか」

「部長! オーナーに失礼なこと言っちゃ駄目ですよ!」

「さすがに私が男の相手なんかしたら奥さんたちに離婚されちゃうよ」

「はっ、アンタも損な人生だね。男の良さってもんを知らないとは」


 一応感覚共有とかでちょっとだけ知ってたりはするけど、生のものはこの先永遠に知ることはないかもしれない。

 とは言え、私の愛情を向ける優先順位は宝石が一番、奥さん達が二番のたくさんいる愛人たちが三番だし、特に問題はない。


「まぁちょっと様子見に寄っただけだから」

「そうかい。ここはいつも通りさね。人の欲望の掃き溜め、平和なもんさ」


 欲望の掃き溜めと言ってそれを平和だと笑うのはメーミスくらいなものだろう。

 だからこそ安心して任せられる。


「まだ隠居されちゃ困るんだから長生きしてよね」

「馬鹿言ってんじゃないよ。アタシがいなくなったら困る女どもが山ほどいるんだ。アンタもあいつらの人生守るためにしっかり働きな」


 さすがにメーミスほどの人が相手だとレベルでは測れない威圧感がある。

 苦笑いのまま軽く頷きを返すと私たちは花町から転移してアルマリノ王国へと戻ることにした。


「イリゼ、ちょっと確認したいんだけど……今デルポイで働いてる従業員ってどのくらいいるんだろ?」

「会長の定められた規定に則って数えるならば正社員、準社員までとして四千百八名です。見習い、試用期間中などを含めますと三百名ほど増えます」

「そのうち役員は八人で課長以上の管理職は?」

「正式に課長という役職を与えられていない者もいますが、課長職と同程度以上の給与を与えているものは九十一名です」


 それだけの人と彼等の家族を含めたら一万人くらいの人生を背負ってるってことだよね。

 でもそういうのはコルに丸投げ。好きでやってるはずだし。

 それに私には他にも家の使用人たち、騎士団員、学校に通う子どもたち、クランメンバーと気にしなきゃいけない人達はもっとたくさんいる。

 私と会うことで彼等にとっての張り合いになるかはわからないけど、やっぱりずっと放置するわけにはいかないよね。

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― 新着の感想 ―
>「今のアルマリノ王国でセシーリア様の手紙を後回しに出来るものなど誰もおりませぬ」 >私そんなすぐにヘソ曲げるほど子どもじゃないんだけど?  国で抱えきれない恩を国が抱えてて、国どころか大量の大陸に…
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