第540話 騎士団入団志望転生者?
コミカライズもよろしくお願いします!
ノアと一緒にクランハウスへ向かっていたのだけど、騎士団本部の前を通り過ぎようとしたところへ大きな声が聞こえてきた。
「なんで騎士団に入れないんだ!」
「何度も説明している。今は新規団員は募集していない。そのうちまた募集することもあるから、その時に応募すると良い」
「俺は今すぐ入りたいんだ! 俺の実力を知れば入団は確実だ! 後になって後悔しても知らんぞ!」
「わかったわかった。せいぜい私を悔しがらせてくれ」
あっちへ行けと言わんばかりに一人の騎士が手を振ると声を荒げていた男は尚更激昂したようで、今にも騎士に斬りかかりそうな勢いだ。
「どうかした?」
無視しても良かったんだけど、男の様子が尋常じゃないことが気になって声をかけていた。
騎士には口に人指指を当てることで口を出さないよう指示しておくのは忘れない。
「なんだアンタは? 関係ないんだからお嬢さんはどっか行ってくれ」
私のことをさっと上から下まで視線を走らせた男は迷惑そうな表情で手を振った。
今日の服は貴族らしい服でも冒険者らしい装備でもない。屋敷内で着てるような普段着のまま出掛けてきたので、そこらの貴族令嬢に見えないこともない。
ただ同時にノアの身体に力が入ったのを感じたので、左手をそっと上げて制しておく。
「ここにいるってだけで関係ないかどうかはわかるんじゃない?」
「……じゃあアンタが俺を騎士団に入れてくれるとでも言うのかよ」
「騎士団に? 話はちょっと聞こえたけど、なんでジュエルエース家の騎士団に入りたいの? 他にも騎士団はあるよね? ベルギリウス騎士団なんていつでも新規団員を募集してるよ?」
「うっ、うるさい! 俺はここがいいんだ!」
質問を投げすぎてしまったせいか、男は何も答えてくれなかった。
仕方ないので男を鑑定しようと『人物鑑定』スキルを使う。
ぱちん
「あれ?」
「……アンタ、今俺を鑑定しようとしたな? 何のつもりだ」
「『鑑定阻害』スキルでも持ってるの?」
「いきなり人のことを鑑定しようとするような奴に答えることなんか無い」
ありゃへそを曲げちゃったか。
それならと私は『戦闘解析』スキルを使う。
ゲーヒェ
総合戦闘力 51,952
総合技能 57,208
うーん……。
騎士団の中で言えば確かに入りたての見習いに比べたら強い、かな?
ゲーヒェの前に立っている騎士は総合戦闘力、ほぼレベルのみの話で倍以上ある。
総合技能は確かに高いけど、あれが『神の祝福』によるものならそれ以外のスキルの合計数値が七千くらい。
多分冒険者ランクで言えばBくらいかな。
というか、そこの騎士!
貴方五番手くらいの実力だよね? なんで門番なんかやってるの?
ちなみに私に戦闘解析を使うとこうなる。
セシーリア•ジュエルエース
総合戦闘力 260,028G
総合技能 53,300k
これに出力制限を外して、DIVAとかのバフを乗せまくったら省略される文字がGを超え、Tさえ凌駕してPにまで至るだろう。
ふぅ。さて。
「とりあえず貴方の実力はわかったけど、その程度の力でジュエルエース騎士団に入れるとは思わない方が良いね」
「なんだとっ?!」
「入ったところで雑用がいいところだし、今は掃除夫は足りてるはずだから」
「テメェ……女だからって俺を馬鹿にしたら許さねえぞっ」
男、ゲーヒェは頭に血が上りすぎたのか私に向かって手を伸ばしてきた。
けど、それは一番やっちゃいけないことだよ。
「貴様……主に手を向けるなど我が許すはずなかろう」
当然後ろに控えていたノアが手を伸ばしてきてゲーヒェの腕を掴んだ。
ちなみにノアとゲーヒェとでは能力の桁が五つは違うので相手になるはずもない。
「主もこのような小僧を煽るような真似は控えていただきたい」
「私に我慢して生きろって言うつもり?」
「……失礼した。お好きになさってください、主の敵は我が全て地獄の底へ叩き落としてご覧に入れます故」
「うん、よろしくね」
ちなみにさっきからゲーヒェは悲鳴を上げてるんだけど、完全に無視してます。煩いだけだし。
ノアが思いっきり腕を掴んだものだから、完全に腕が砕けちゃってるよ。
とりあえず迷惑だからまずは腕を治療してあげるかな。
私は回復魔法を当てながら悲鳴を上げるゲーヒェに再度問いかけた。
「さて、まだ騎士団に入りたいの?」
「……入りたい」
「貴方、多分冒険者でしょ? 稼ぎなら十分あると思うんだけど」
Bランクなら普通に食べていく分には問題ないはず。それなりに豊かな生活をしたいならAランクにならないと駄目だけど、毎日食べられて拠点となる家だって買えるくらいには稼げる。
「……だって、折角転生したのにチマチマとなんてやってられっかよ」
ふぅん? どうやら彼も転生者らしい。
まぁ鑑定が弾かれた時点で神の祝福を持ってるか、転生者かのどっちかだったんだけど。
そして聞けば彼は十六だという。
「騎士団は無理だろうけど、クランなら紹介してあげようか? それでも多分訓練からになるだろうけど」
「訓練なんてやらなくたって俺は十分強いんだ!」
……なんだろうなぁ。
たまにこういう人いるけど、神の祝福があろうと最初からレジェンドスキルを持ってようが訓練しなくて強くなれる人なんて滅多にいないのに。
私は例外かもしれないけど、今でも訓練はするし子どもの頃は訓練ばっかりしてたよ。
「なら一人でやればいいじゃない。Sランクにでもなれば貴族扱いだよ」
「そこまで、強くなれるかはわからないし……」
「参考程度に教えてあげるよ。騎士団は団長、副団長二人、各部隊の隊長、副隊長、計十五名がSランク相当だよ。三番手から六番手までがAランク相当。その下は騎士とは名ばかりの兵士、雑兵扱いだけどBランク相当だね。クランのリーダーとそのパーティーメンバーはSランク。サブパーティーはAランクだけど全員実力はSランク相当。三番目のパーティーはAランク相当。それで貴方がどれほど強いって?」
騎士団員の上位になると私から強制訓練という名のパワーレベリングを受けることになるから一気に強くなる。それでも脅威度Sの魔物を単独で討伐出来るのは副隊長クラスまでではあるものの、我が家だけでそこらの国と戦争しても勝てるくらいの戦力があるしね。
もちろん私と奥さん達、眷属たちは全員Sランクだし、この世界で十本の指に入るのもほぼその中のメンバーだ。
それなのに敢えて我が家の騎士団に志願する根性は認めるけど、実力不足は否めない。
「なんで、なんでアンタにそんなことがわかるんだよ!」
「うん? 当然だよ。私がジュエルエース大公家当主、セシーリア•ジュエルエースだからね」
「……は? あのなぁ、貴族を騙ると罪になることも知らないのか?」
あ、またノアが苛ついてる。
ちょっと落ち着きなさいっての。
「呆れた。貴方、我が家の騎士団に志願しようとしたくせに私のことも知らないの? 不敬にも程があるでしょ」
「だいたい貴族がそんな話し方するわけないだろ!」
「というか、私は今すぐ貴方を不敬罪で斬り捨てることさえ出来るの。こんな問答してるのはただの気まぐれだってこと、そろそろわかってくれる?」
私の気配が変わったことをノアと門番の騎士が感じ取ったらしく、二人とも自分の剣に手をかけた。
「なっ?! おっ、おいっ、止めろよ! アンタが当主なんだろ!」
「ここで私が一言『無礼者』って叫べば次の瞬間には貴方の首は身体とさよならすることになるでしょうね」
スラリとノアと騎士が剣を抜き放った。
これ以上時間はかけてやらない。
「選びなさい。一、ここから逃げ出して細々と冒険者を続けるか。二、騎士団の雑用でもするか。三、クランで訓練を経てからパーティーを組むか。四、この場で斬り捨てられて次の転生に賭けるか。次の言葉で答えなければ自動的に四が選ばれる」
私がほんの少しだけ身体に魔力を纏わせるだけで一般人はドラゴンに出会ったのと同じかそれ以上の脅威を感じる。
ただの貴族令嬢に見えていただろう私からそれほどの威圧感を感じればいかにゲーヒェが馬鹿でも答えは間違えないだろう。
しかし二を選ぶと思っていま私の予想を裏切り、彼の取った行動は……。
「うっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
まさかの逃亡。
ノアが逃げ出したゲーヒェの背中に向けて手を伸ばしかけたけど、私はそれも止めた。
「主、あぁいうのは生かしておいても良いことなど何もない」
「虫を見かけたら全部殺すわけじゃないでしょ。もしそれが毒虫だったとしてもね」
「逆恨みなど無ければ良いが……その時は止められませんよう」
復讐なんてするほどの根性は無さそうだけどね?
もし復讐に来るなら評価を改めてあげよう。その時はノアに全て任せることにする。
「仕事の邪魔してごめんね」
門番をしていた騎士に声を掛けると、彼は剣を収めてからしっかりと敬礼を返してくれた。
ちなみに名前は知らない。
「とんでもありません! 閣下自らご対応いただきまして申し訳ありませんでした!」
ただの気まぐれだから気にしなくていいんだけどね。それをそのまま彼に伝えると苦笑いされてしまったけど。
さて、無駄な時間を取られたけど予定通りクランハウスへと向かおうかな。
距離はそれなりにあるけど、敷地でいえばすぐ隣なので徒歩でもあっという間だ。
あんまり歩いて出掛けるとセドリックが馬車を使ってくれと煩いんだけど、遅いし狭いからあんまり好きじゃないんだよ。
「こんにちは」
クランハウスに到着すると、入り口に配置した受付に声を掛ける。
「セシーリア様っ。こんにちは! リーダーにご用でしょうか」
「うん。ソフィアは執務室?」
「はい。先ほどまでは訓練場にいましたけど、少し前に戻られました」
受付にお礼を言ってから私は建物の奥へと向かう。
ノアは受付で留守番。特にソフィアの近くは女の子ばっかりだからね。
コンコンコン
ドアをックをすると中から「どうぞ」という声がする。
そのままドアを開けて中に入ると、一番奥に立派な執務机とその両脇にも大きな机が。
ソフィアはその一番奥の机に向かって何やら書類と格闘していた。
「セシルママッ! っととお母様……でもなくて、オーナー?」
「あはは、公式な場じゃないし好きに呼んでいいよ」
部屋の中には各国から預かった娘さん達も揃っていて、各々が何かしらの仕事をしているようだ。
特に魔王ヘイロンの娘ランファとエルフのエミルシルはソフィアの両脇の机で彼女の仕事を手伝ってくれているようで、二人の前には書類が山積みになっていた。
ブルングナス魔国から来たミサキとチェリーの姪アルーリリスは応接セットに座って地図と依頼書を並べて眺めている。
「みんなも仕事中にごめんね」
「いえ、セシーリア様ご機嫌麗しく存じます」
「下に行ってお茶の用意をさせましょう」
丁寧な挨拶を返すランファともてなしのために立ち上がったミサキの好感度はかなり高い。
でも邪魔してるのはこっちだから気は使わないでほしいね。
「お茶なら私が淹れてあげる。みんなはそのままでいいよ」
とりあえず、あれから数ヶ月。
ソフィアと友だちの関係を確認させてもらおう。
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