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第530話 ヴォルガロンデ

コミカライズもよろしくお願いします!

お盆期間連続投稿!

 玉座に座っている覇気のない男。

 彼がヴォルガロンデだということはすぐにわかった。理由はないけれど、私の直感がそうだと告げている。

 見た目は私とほとんど変わらないくらいの若者だけれど、この世界には外見がほとんど変わらないまま歳を重ねる種族がいるし、何より彼は管理者代理代行という立場だ。

 メルからも聞いているし、私にも言えることだけど老衰による寿命はない。だから見た目が若そうに見えたところで惑わされることもない。

 ただ如何せんあの覇気のない様子からして、かなり長い期間生きてきたのだろうということは想像出来た。


「ヴォルガロンデ様……ついに現れましたよ」

「我々の望んだ者が」

「アドロノトス、よく……本当によくやってくれました……」


 ヴォルガロンデに寄りかかっていた三人が顔を上げて彼に呼びかけた。

 見た目からはわからなかったけれど、三人は皆女性のようで彼をとても慕っているのだろうことはわかる。

 そして礼を言われたアドロノトス先生は部屋の入り口に立ったまま深く頭を下げていた。


「……あ、あぁ……。やっと、来てくれたんだ……」


 虚ろな目したヴォルガロンデが三人の女性に揺すられているとようやく意識がはっきりしてきたのか、水滴を落としたような小さな声を零した。

 しばらく瞬きをして、焦点がはっきりするとヴォルガロンデはやや前屈みになりながら私を真っ直ぐに見据えて眼球をユラユラと動かす。

 何も感じなかったけれど、恐らく何かしらの鑑定をされたとすぐにわかった。

 多分私の持っている鑑定とは全く別の何かなのだろうけど、何を見られても困ることもないけれど!

 乙女の秘密を覗かれているようで気分が良いものじゃないよ!


「……なる、ほど……」


 鑑定は済んだのかヴォルガロンデは再び目を閉じて玉座にもたれかかった。


「覗き見は終わったかな?」

「無礼なっ!」


 からかう気持ちも含めて気軽な気分で声を掛けたら隣にいた最も眼が鋭い女性が間髪入れずに声を荒げた。

 なるほど、ヴォルガロンデ同様歳を取っていない……のか、それとも新たに迎えた側仕えか何かか。どのみち、彼の女性の趣味がよくわかる外見だ。

 目つきの鋭い、スタイルの良い美人。男の人はあぁいう女の人が好きなんだろうね。

 私の奥さんには一人もいないけどね。

 ユーニャはスタイルは良いけど優しそうな垂れ目だし、リーラインは目つき鋭いけどとてもスレンダーな体型だもの。

 ……あれ、私が一番近い?


「ニーディイオーネ、良いよ。ビルザニッグ、エッツォワーナも口を出さないで」


 なかなか発音しにくい名前の側仕えたちを窘めると、ヴォルガロンデは一つ大きく息を吸い吐き出した。


「……素晴らしい……いや、待った甲斐があったよ」

「つまり、貴方の希望には添えたってことでいいの?」

「それ以上だよ。正面からゼレディールに勝利したこと。偏屈者のアグラヴェインの依頼を解決したこと。勇者のタレントを持つこと……出来れば魔王もあればというところだけど、時間の問題。驚異的なレベル。そして、まさか隠しイベントをクリアするなんて……」


 隠し、イベント?

 ……まさか、だけど……。


「ひょっとして、ヴォルガロンデも転生者なの?」

「前世のことなんてもう何一つ思い出せないけど、そうだよ」

「そう……まぁ今はそんなことを話に来たんじゃないからどうでもいいけど」

「そうだね」


 それからも私とヴォルガロンデの会話は終わらない。

 神の祝福を持つこと。私が幼い頃に初めてeggを獲得したこと。リードのこと。両親を魔物に殺されていること。同性のパートナーが出来たこと。後ろにいる奥さん達との出会いのこと。全て見てきたように話していた。


「特筆すべきは隠しイベントだね」

「それって結局何なの?」

「僕の工房で結婚式を挙げたじゃないか」


 ……あぁ、あれかっ。

 思い出すと照れる気持ちもあるけど、ヴォルガロンデに対して強い怒りを覚えてしまう。


「前世でやってたゲームでそんなのがあった気がした、思いつきで設定した覚えがある。レベル一万以上で六人以上の百合ハーレム、が最高難易度の条件だったはず」

「……見事に当てはまってる。けどすごく嫌な気持ちになったから、もうあんなの止めなよ」

「一組限定のイベントだからもう起きないよ」


 それなら良かった。

 それさえ無ければ場所としては最高だったからソフィアが使いたい時は気にしなくて良さそうだね。


「僕さ、女の子が百合百合してるの見るのが好きでさ……本当は挟まれたいんだけどね」


 ヴォルガロンデのその一言は私の奥さんたちが一気に逆上し始めてしまいそうだけど、実は彼からかなり強い威圧が放たれていてステラでさえ顔を上げることもままならない状態だったりする。


「人の性癖にとやかく言うつもりはないけど、絶対させないよ」

「そうなんだよねぇ……この子たちも見てる分にはいいけど、絶対挟ませてくれないし」


 ヴォルガロンデは大きな溜め息とともに彼に寄り添う三人の美女に目を向けた。

 彼女達はヴォルガロンデの性癖を満たすために侍らされているのだろうか。


「セシルはとても綺麗で可愛いし、君の奥さんたちも可愛い子だらけだから見ててとても楽しかったよ」

「覗きもいい趣味とは言えないけど、貴方の立場ならそれは仕事みたいなものなんだろうね」

「まぁそうだね。それと、宝石が好きみたいだね」

「えぇ、私が何よりも愛してやまないものだよ」


 そっと、自分の胸に身に着けたブローチを撫でる。

 ここに来たのも私が宝石を愛で続けることが出来るからという理由からだし、奥さんにもいろんな宝石をもっともっと身に着けてもらいたい。

 それこそ、未来永劫ずっと。


「僕は錬金術や魔道具の開発のためにたくさんの宝石を求めたけれど、君は宝石そのものが目的なんだね。それならこの宮殿には驚いただろう?」


 ヴォルガロンデが指し示したところにはいくつもの宝石、魔石、人工魔石もある。剥き出しのクラスターになった水晶も。それらは私の興味を駆り立てるし、欲望のままに愛でてみたい気持ちでいっぱいだ。

 私の視線や表情の緩みを返事と見た彼はくつくつと笑いながら何度も頷いている。


「やっぱり、セシルが最適だね」

「貴方の跡継ぎに、という意味で? 正直私には貴方の寿命が尽きかけているというのが信じられないんだけど。だって老いによる寿命は無くなっているでしょう?」

「……僕は長く生きすぎた。長過ぎる生の中で生き甲斐を見つけたつもりになったことも何度かある。けどね、もう駄目なんだよ。生きることに飽きてしまった……このまま管理者になれないままずっと生きると考えたら……その退屈さには絶望しかない」


 だからもう終わりにしたいと、彼は続けた。

 世界の記録にヴォルガロンデが出てくるのは六千年も前。それまでずっと彼は退屈を紛らわせるために生きてきたと言う。

 前世と合わせて数十年しか生きてない私には、地球で文明が起こってから私が死ぬまでと同じくらい生きてきた彼に届かせる言葉は持ち合わせていなかった。


「……さて、それじゃあ早速引き継ぎを、と言いたいところだけど……きっとセシルから僕に言いたいことがいくつかあったりするんだろう?」

「そうだね。でも、その前に奥さん達が話せるようにその凶悪な威圧を止めてもらえない?」


 私も対抗してヴォルガロンデと三人の美女に殺意を向けてみるも、彼は一人平気な顔をしていた。女たちは顔を真っ青にしていたので、少なくともこの場での脅威はヴォルガロンデただ一人ということだ。

 彼は悪びれる様子もなく威圧を解除してくれたので、私も合わせ『殺意』」スキルを解除して後ろを振り返った。

 この中で一番言いたいことがあるのは私じゃない。


「ご無沙汰しております、大公様」

「そう、そうか……ジュエルエース大公か。君の姿にどこか懐かしさは覚えてたんだ。また会えて嬉しいよステラ」

「私も以前の主様にお会い出来たことを嬉しく思います」


 ステラははっきりと今の主が私であり、ヴォルガロンデは過去になっているのだと告げた。

 彼も彼で『以前、か』とだけ呟き、話の続きを促した。


「生きておられたのであれば会いに来ていただきたかった、ただそれだけです」

「ステラの言い分はわかる。それに関しては完全に僕が悪い。ただ僕が行かなかったことで君は今最高の主を得ることが出来たのも事実だろう?」

「はい。セシーリア様は貴方より遥かに素晴らしいお方です。この方にお仕え出来ることは幸福以外のなにものでもありません」


 隣で聞いてるこちらの方が恥ずかしくなるような話だけれど、ステラがいたって冷静であることが嬉しい。

 感情的になったら、それはまだ彼女がヴォルガロンデに対して思うところがあると告白しているようなものだしね。


「一応言い訳しておくと、あの時呪いによって殺された生体神性人形は完全に破棄せざるを得なかった。同時に僕も百年ほど眠りにつく羽目にもなってね……目覚めた時にはジュエルエース家は滅びていたし、勝手に屋敷を浄化することも出来なくなっていたんだ」


 私に渡る前のジュエルエース大公家の屋敷は国が管理して教会が維持していたから、両者の思惑が入り組んでしまって死んだはずのヴォルガロンデが手を出すことが出来なかった。

 結局、ステラも呪いによって亡霊になってしまったのだと勝手に思い込み忘れることにしたそうだ。


「自分勝手な男だね」

「まったくだ。だがそもそも自分勝手じゃない男なんていないよ」


 いきなりそんな極論を持ってこられても困るのだけど。

 そしてヴォルガロンデは一度だけはっきりと頭を下げた。それを見届けたステラは私に会釈して引っ込んでいった。


「あとは?」


 まだ何かあるのかとヴォルガロンデのは面倒くさそうなにしつつも残りメンバーの話を聞くつもりはあるらしい。

 そして今度はキュピラとネレイアが私よりも前に歩み出た。


「……天使族? また珍しい種族を奥さんに迎えたものだね」

「はじめまして。天使族のキュピラと言います」

「同じくネレイア」


 二人はヴォルガロンデにカーテシーで挨拶すると真っ直ぐに武器を構えた。

やっとヴォルガロンデを登場させることが出来ました。


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>目つきの鋭い、スタイルの良い美人。男の人はあぁいう女の人が好きなんだろうね。  いいえ。 男でひとまとめにされても困ります。 男だって人それぞれ好みがあるので。  と言うかその容姿を美人とするのは…
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