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第527話 蛙の子は蛙

コミカライズもよろしくお願いします!

お盆期間連続投稿!

 早速ガットセント王、エルフの女王、ヘイロン、ヒマリさんが我が家に預ける子を連れてきた。

 これ披露宴の翌日の昼だよ?


「確かに預かるとは言ったけど、早すぎない?」

「俺は別に良いだろ。泊まってたんだからな」


 ヘイロンに関してはそうだけど、ガットセント王とエルフの女王はそれぞれ国に送り返したと思ったらデルポイのターミナルステーションを使ってすぐ戻ってきた。

 ヒマリさんが一番遅くて、つい先ほど戻ってきたところだ。


「まぁいいけど……さて、私がセシーリア•ジュエルエースだよ。アルマリノ王国で大公なんだけど……国の仕事はほぼしてないから気にしないでね」

「私が娘のソファイアです。ソフィアって呼んでね」


 堅苦しい挨拶をするつもりはないので私達が軽い気持ちで自己紹介すると、それぞれも自己紹介を始めた。一番手はヘイロンの娘のランファ嬢から。


「魔王ヘイロンの娘、ランファと申します。ソファイア様とは昨日初めてお会いしましたけれど、今後ともよろしくお願いします」


 丁寧な挨拶だけど……出来ればもうちょっと砕けた感じで良いと思うんだけど。


「はじめまして。エミルシル•ディオ•メイヨホルネと申します。セシーリア様の奥様、リーライン様の遠戚になります」

「アルーリリス•ガットセント、です。よろしく、です」


 おや、チェリーの姪っ子は普通の子っぽいね。あんまり王女としての教育が進んでないのかな?


「ミサキ•トウゴウと申します。ブルングナス魔国元帥、シゲカタ•トウゴウの娘。以後お見知り置きいただきたく」


 ヒマリさんから紹介されたのはブルングナス魔国軍で元帥を勤めている人の娘だ。

 父親はこちらに預けることをとても反対したらしく、それで時間がかかったのだとか。結局、娘さんの「行ってみたい」という言葉に折れて送り出したんだって。甘い、もとい優しいお父さんだね。


「さて、貴女達はソフィアの友だちとしてしばらく一緒にいてもらうことになります。なんだけど……しばらくはみんなで仲良くなるための時間にするといいよ」

「そうじゃのぉ。童ども、外で遊んでくると良い」


 ヒマリさんからもそう勧められたからか、ソフィアが私にチラリと視線を向けてきたので、一つ頷いてあげると、皆を伴って食堂から出ていった。

 万が一があってはいけないので、ペットのランカとムースを護衛としてつけておくのは忘れない。

 それ以外の身の回りの世話は別でメイドがいるからね。

 ただまぁ……見事に女の子ばっかりだったね。ソフィアも将来は私みたいになるんじゃ……。


「ところでちゃんと子どもたちは納得してるんだよね?」

「無論。孫娘には王女である前に戦士であれと伝えてある。強くなるまでは帰ってくるなとな」


 馬鹿野郎。ガットセント王の脳筋馬鹿め。

 はあっと頭を抱えて大きく溜め息を漏らした。


「セシル、気持ちはわかるの。父上は家族のことになると途端に馬鹿になるの」


 ぽんと肩に置かれた手に自分の手を重ねると、つい甘えたくなってしまう。


「わたくしもちゃんと説明しましたよ」


 エルフの女王はとても良い顔をしている。

 ちなみにこの後コルのところへ執事見習いを連れていくことになっている。

 私もその子に会ったが、とても背が小さく出会った頃のコルと同じくらいだった。なのに年齢は三十歳と、エルフは成長も人間とは異なるらしい。

 なのでエミルシル殿下はソフィアよりやや背が高く、リーラインと比べても妹としか思えないような外見をしていたから確認すると。


「あの子、確か六十を過ぎたくらいじゃなかったかしら」


 とリーラインに教えてもらった。

 ランファ嬢は見た目も年齢もそのままだし、ソフィアとも同い年だ。

 昨日と違ってドレス姿ではなく、令嬢らしい部屋着ではあったけど、既に溢れる気品を感じさせている。

 あの子が、ヘイロンの娘、ねぇ?


「昨日のうちに娘と話してソフィア嬢と一緒にクランで活動するよう話しておいた」

「別に強制するつもりはないよ?」

「仮にも魔王の娘だぞ? 強くなってもらわねば俺の威厳にも関わる」


 魔王の威厳とか言うならシーロン商会のトップをやってるのはどうなのよ。

 私も似たようなものだけど、別に威厳とかどうでもいいし。


「んで、オカンはなんで来たん?」

「そりゃウチだけ仲間外れなんて寂しいやん」

「ほぉん? そないな理由でトウゴウのおっちゃんの娘を連れてきたんか、ドアホ」

「親に向かってドアホとはなんや。ドアホ言う奴の方がドアホなんや!」


 とりあえず小学生レベルの言い争いしてる親子は放置するとして。

 何故かもう一日滞在することになった王達とのんびりした時間を過ごしつつ、私は最後の準備にとりかかっていた。




 結局、ヴォルガロンデに会いに行くのは新婚旅行と一緒のメンバー。

 私と奥さん達で決まった。

 アイカとクドーで行くことも考えたけれど、あの二人にはソフィア達を見ていてもらうことにした。当然だけど私の眷属たちも見守っているけれど、今のところはまだ訓練がほとんどだからね。

 出発の日取りを決めようとしている中、ミルルが呼び出した珠母組のマリナが報告に現れてくれた。

 彼女はリーンとマルギットも連れており、今は三人で行動しているのだとか。

 帝国内での行動になるから慎重に慎重を期しているのはわかるけれど、あまりにも厳重な気はする。しかしそれにもちゃんと理由がある。


「結局フィアロの行方はわからない、と」

「申し訳ございません」


 三人を代表してリィンが頭を下げた。


「ううん、それは貴女が謝ることじゃないよ」

「わたくしの監督不行届ですわ。本当に申し訳ありません」


 私の隣で頭を下げるのは奥さんの一人であり、珠母組を仕切っているミルルだ。

 実はここ数ヶ月……いや、一年以上もフィアロからの定期連絡はない。私に絶対服従な珠母組の中でも隊長を任せているフィアロは特に忠誠心が高かった。

 そろそろ彼女の補佐をさせるべく追加の人員を送ろうと思っていた矢先の出来事である。

 なので死んだのかなとも思ったのだけど……。


「帝国軍のフィアロ中将の活躍は耳に新しいですわ。つまり彼女は生きてはいるけど、報告が出来ない状況、と見るべきではなくて?」


 フィアロはいつの間にか中将の地位まで上り詰めていた。

 ダンジョン攻略旅団の中で中将の地位まで上がった者は彼女が初めてであり、初の女性中将でもあるのだとか。

 自室も与えられているのに何故珠母組の報告に現れないのか……答えを出せないでいる。


「それも一つの可能性。ただ……ひょっとしたら私の魔法を上書きされた可能性もある。どちらにしろ結論は出せないね」

「セシル、まさかフィアロを助けに行くなどと言いませんわよね?」

「私が? フィアロを? まさか」


 ミルルの疑問を鼻で笑い飛ばす。

 彼女達はあくまでも使い捨ての道具。

 危なくなったらちゃんと切り捨てられる。

 勿論魔物なんかに殺されるのは面白くないから助けることはあるけど、潜入中に捕まったりダンジョン内で死んでも構わない。

 元々敵だったわけだしね。


「感覚共有が使えなくなってるからおそらく上書きか洗脳だろうね。元々人形でしかないのだからどう扱われても良いんだけど……」


 椅子に座って組んだ手に力が入る。

 フィアロ自身の身体や命になんて興味はない。


「けどねっ……あの子の中にある宝石は私のものだっ! 私は私の宝石(愛するもの)を奪った奴だけは許さない。絶対に、許すもんかっ……!」


 最近は神の祝福のおかげで勝手に力が溢れ出ることはなくなったので怒りのせいで屋敷が壊れたりとか、そういう心配はない。

 だからこそ、私がここまで怒っているところを見たことがある人はとても少なかった。

 それでも突き刺すような殺気に晒されたリィン達三人は顔を青褪めさせている。


「ミルル、悪いけどしばらく珠母組の帝国での活動は休止にしてくれる?」

「えぇ、わかりましたわ。マリナとリィン、貴女たちは第四大陸でそれぞれベルフェクス共和国とデンタミオーガ王国へ向かいなさい」


 ミルルが指示を出すと二人はその場に跪いて命令を受諾した。

 ただの協力者であるマルギットにはそこまでさせるつもりはないので、彼女は立ったままだ。


「マルギット、貴女もリィンと一緒にいたいのなら第四大陸へ向かってもらうけどいいかな?」

「え、えぇ……アタシはリィンについていくわ」

「ありがとう」


 早速彼女達はブルングナス魔国にあるデルポイの支店へとターミナルステーションから向かってくれることになった。

 マルギットには付き合ってもらっているので餞別としていくつかの装飾品を渡しておく。彼女の二つ名『スカーレットアックス』の名に恥じないよう真っ赤なスピネルとガーネットをあしらった腕輪にはかなり強固な防壁を作る機能と彼女自身の身体能力と魔力を高める効果がある。

 リィンと二人がかりなら脅威度S中位の魔物相手でも遅れを取ることはないはずだ。

 とりあえずこれでやるべきことは一通り終えたことになる。


「セシーリア様。出発の準備は出来ております」


 ステラは執務室の入り口に控えたままいつも通り無表情で告げてきた。


「うん。それじゃ、そろそろ私達も一つの区切りをつけなきゃね」


 さっきまでの荒ぶる気持ちに蓋をして、私は椅子から立ち上がった。

 懐かしの、アドロノトス先生に会いに。

 そしていよいよヴォルガロンデにご対面といこう!

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