第523話 結婚式の後は
コミカライズもよろしくお願いします!
お盆期間連続投稿!本日より開始です!
とりあえず条件は満たしたみたいだけど、状況自体は終わっていない。
私達の前にはそれぞれ半透明のモニターが浮かんでいて、そこには例によってオリジンスキルが並んでいるのだ。
私は慣れたものなのでとりあえずすぐに選択して新しく『ニュクス』を。eggからは『イザナミ』が孵化した。
ちなみにニュクスを選んだ理由はガイアに並ぶ神様の力があるんじゃないかと思ったからで、『夜』に関しては特に思うところはない。ないのです。
日本の神様の名前を冠するオリジンスキルの存在は知っていたけど、クドーの持つ武器のことを考えるとなかなか選べなかった。
もう気にしないことにしたけどね。
「なんでセシルはそんな簡単に選べるの」
「慣れかな。もうこれで十個目だし……とにかく『自分の欲望』にピッタリ嵌まるものを選ばないとうまく扱えないから気をつけて」
思えば随分増えたものだ。
私のアドバイスを聞いてどう結論を出すかはユーニャの自由だしね。
「でも……これ名前だけだからよくわからないよね。セシルはわかるの?」
そういえばそうだ。
オリジンスキルは何故か前世の神様や英雄などの名前が当てられており、それに近しい能力を使える。
ただこのリストの中には私の知らないものもあるし、その中にはひょっとしたら別の世界の神様の名前も入っているかもしれない。
問題は何故私がわかるのかと聞かれると説明出来ないということ。
「まぁ……なんとなく?」
「ふぅん? セシルがいろいろ言えないこと抱えてるのは知ってるから別にいいけど、それなら選んでくれない?」
なるほど、それは良いかもしれない。
eggの孵化に関しては私が関与出来ないけれど、こうして選ぶ分には私から口出しは出来るしね。
さてユーニャに合いそうなのは、とリストを眺めていたら横から袖を引かれたので目線を下に下げた。
「セシル姉、ネルも選んでほしい」
「キューもっ、キューもぉっ!」
そこには天使の双子が不安そうな目で見上げており、更に言えば他の奥さんたちもじっと私を見つめている。
「あ、はは……じゃあ順番ね。ユーニャから見ていくから、ちょっと待っててね」
そう言ってユーニャに選んだのは『ヘルメス』。
彼女のeggが孵化してのオリジンスキルは『パルヴァティ』。
ミルルは『エーオース』でeggからは『ジャンヌ•ダルク』。
ステラは『バンコ』でeggは『ギルガメッシュ』。
リーラインは『ヘカテー』で孵化したオリジンスキルは『クロヒメ』。
チェリーは『カーリー』と『セイテンタイセイ』。
キュピラには『アルテミス』と、eggから『ブリュンヒルデ』。
最後にネレイアは『フォルトナ』と、孵化したeggからは『シグルドリーヴァ』。
---オリジンスキルの選択を確認しました---
---決闘システムを終了---
---空間隔離を終了します---
オリジンスキルを選び終えたことでようやく空間隔離が解除され、室内に立ち込めていた閉塞感も霧散していった。
ちなみにここまでで結婚式開始から鐘一つ分経過している。
ガチャ
教会の扉を開けると、陽の光が入ってきて目を細めた。
次に目に入ってきたのは今にも泣き出しそうな顔をしたソフィア。苛つく感情を剥き出しにしたアイカ。相変わらず無表情なクドーの三人。それと我関せずな銀竜王。
「お待たせ。ごめんね、長くなっちゃった」
「ママッ!」
ドスンと高レベルなソフィアの突進は本来そこらのドラゴンくらいはね飛ばせるのだけど、それを軽く受け止めた。
「ママ達みんなが入ってからっ、ずっと変な雰囲気になって、扉も開かないしっ、アイカさんにも『待て』って言われるしっ、どうしたらいいかって……っ!」
どうやら空間隔離は教会の扉にまで及んでいたらしい。
「それに、ママ達みんな血塗れだしっ!」
そういえば……全員で殴り合いというか殺し合いをしていたせいで自分や相手の血でぐちゃぐちゃになったままだ。
さっきステラが『洗濯』と言っていたけれど、魔法で綺麗にすることも出来る。なのに何故かそんな気になれないのは不思議。
「いろいろあってね。別に魔物がいたとかじゃないんだけど……少なくともヴォルガロンデの性格が悪いことだけはよくわかったよ」
今までも何度か思ったけれど、今回のは決定的だったよ。
「……本当にもう大丈夫なの?」
「えぇ。服は血塗れですけれど、身体には傷一つありませんわ」
「ソフィア嬢は心配しすぎ」
ソフィアとほとんど背丈の変わらないネレイアが娘の頭に手を乗せて弾ませる。
それに合わせてかキュピラも一緒にソフィアの手を取って微笑んでいた。
「……まぁ、無事に終わったんなら何よりや。あとでキッチリ説明してもらうけどなっ」
「アイカ、ごめんて。私もまさかこんなことになるなんて思わなかったし」
「ホンマいっつもどこででも面倒ごと起こしよってからに!」
いつものように悪態をつくアイカだけど、その目が少しだけ潤んでいたのを私は見逃していない。
「心配かけてごめんね」
「ふんっ! もうえぇわっ! 宝石バカでドアホのセシルはどんだけ言っても聞かへんのやしっ! だいたいやな……」
「アイカ、そのへんにしておけ」
アイカのお説教が長くなりそうなところへずっと黙っていたクドーがようやく口を開いた。
「折角のめでたい日にあまり喚くものではない」
「ウチは、喚いとらんわっ」
「あぁ、そうだな」
声を震わせるアイカの顔を私に見せないようクドーが自分の胸に抱え込むと、私たちに向けて指を立てて古城の奥を指さした。
「そろそろ着替えてこい。いつまでもその格好でいるからこいつも気が高ぶるんだ」
「そうだね。わかったよ」
クドーの言葉を言い訳変わりに私達は全員自分の控室へと戻ることにした。
それでも心配そうな顔をしているソフィアだけは私と一緒に控室へとやってきたけれど、着替え自体はすぐに終わる。
装着でいつもの服に着替え、肌にこびり付いたままの血糊を落とすべく洗浄を使った。
ようやく身綺麗になったところで一息つくために椅子に腰を下ろすと、案の定すぐにソフィアが近寄ってくる。
「セシルママ、結婚おめでとう」
「ありがとう。あとで他のママにも言ってあげてね」
「うん。でも、中で何があったの?」
「気になるだろうけど、それはアイカとクドーも揃ったところで説明させてね」
結婚式しようと思ったら結魂式だの血痕式だの言われて全員で殴り合いとか殺し合いとかしてました、と説明したらアイカは呆れて「アホくさ」とだけ呟いていた。
クドーは「そうか。無事ならいい」といつものようにぶっきらぼうだっけれど、ソフィアはというと。
「それ、結婚するくらい仲が良くて強くないと起きないってことなのかな?」
「多分そうじゃない? なんかそんなこと言ってたし」
「……いいなぁ……私もそんな相手欲しいなぁ……」
ぼそっと呟いた一言だけど、ちゃんとセシルママの耳には入ってるからね?
うん。そろそろソフィアの交流関係を確認しておこう。
とりあえず着替えも終えた私は古城の廊下でそんな話をしていたのだけど、しばらくすると奥さん達もちらほらとやってきた。
最後にミルルがやってきたところでようやく全員集合である。
「さて、それじゃ銀竜王。私達はこれで帰るよ」
「うむ。達者でな。ヴォルガロンデにもよろしくな」
社交辞令だけこちらに投げかけると彼はその場で踵を返して古城の奥へと消えていった。
相変わらず竜王達は自分勝手だよね。
ヴォルガロンデほどじゃないけど。
第五大陸の古城から屋敷へ帰った私達は使用人達から一斉に歓迎された。
「セシーリア様、ご結婚心よりお祝い申し上げます」
その使用人達を代表して花束を渡してきたのは初期から私に仕えてくれていたミオラだった。
他にもノルファやエリー、アネットも奥さん達へと花束を渡し、晩餐が執り行われた後、ようやく私達は夫婦……婦婦? だけの時間に入ることが出来た。
「はああぁぁぁぁぁ……疲れたねぇ」
ぽちゃん、と天井から落ちてきた雫が湯船で跳ねて小気味良い音を立てる。
全力で戦ったのはいつ振りだろうか。
しかも相手が奥さんとかね。
ユーニャとは何度か殴り合いをしたことがあるし、ミルルとも全力には程遠かったけれど戦ったことがある。チェリーとは言わずもがなだ。レベルが一万を超えたせいかみんなすごく強かったなぁ……それでもやっぱり私は輪をかけて強かったけどね!
「疲れた、と言う割には嬉しそうね、セシーリア」
「わかるの! 私も久々に全力で戦ったからスッキリなの!」
……おかしい。
私はチェリーほど戦闘好きではないはずなんだけど、その気持ちはよくわかる。
「無理もないよ。最近のセシルはずっと装飾品作ってたし、複合ダンジョンでもあんまり本気出せないみたいだしね」
「複合ダンジョンを踏破出来る者など世界でもセシーリア様くらいかと思われます」
今日だけはステラも絶対一緒に入るようにと厳命したので彼女も一緒になって湯に浸かっている。
ちなみにアイカとクドーは本日外泊。ソフィアもクランハウスにお泊りだそうで。
どうやらかなり気を使ってもらっているようだ。
他の使用人やメイドも私が呼ぶまでは別館で待機。ノルファとエリーのみ屋敷周辺をリビングアーマー達と見回りしてくれているけれど、屋敷の中には私達しかいない。
ここしばらくはメイド達やノルファ達とも体を重ねていないので、近いうちにお誘いしておこう。
「セシル、今私たち以外の女性を思い浮かべましたわね?」
「……セシル?」
「姉様……キューたちのこと好きじゃない?」
「ネルどうしたらいい? セシル姉になら何されてもいい」
ちょっ、なんでウチの奥さんたちはこんなに勘が鋭いの?!
「誤解だってば! 今日までいろんな人が準備に協力してくれたなぁって考えてただけだって」
「本当かしら……?」
「セシーリア様は嘘を付く時に耳の後ろを掻く癖があるのでまず嘘でしょう」
「えっ?! 嘘っ、私そんな癖あったのっ?!」
「はい、嘘です」
……ステラに、やられた……。
湯船の中で私はみんなから一斉にじっとりとした目で睨まれることに。
でも周りの人がいろいろ協力してくれたり、気を使ってくれていると思ったのは本当なのに。
「……ふふっ、今更そんなことでセシルのこと怒ったりなんてしないよ」
「それもそうですわね。いったい何人愛人やお妾さんがいるのやら……」
えへへ……最近は数えたことありません。
「でも、今夜だけは私たちだけを見てほしいわ」
リーラインの上目遣いは危険なくらい魅力的で、今すぐ押し倒したい気分になってしまう。
けれど我慢。
「なら、余計なこと考えなくて済むように早く寝ようか」
「キュー、今夜は朝まで寝ませんから」
「ネルも。今夜は寝かさない」
どこでそんなの覚えてきたの!
年上のロリ双子に呆れつつ、私達は湯船から立ち上がると全員で裸体を晒しながら脱衣所へ向かっていった。
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