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第518話 次の調査地へ

コミカライズもよろしくお願いします!

 久し振りのegg持ちだったらしい。

 いっそオリジンスキルまで持っててくれたらよかったんだけど、魔物相手だとそこまでに至ることは稀だろう。

 ただオリジンスキル所持者同士だと一対一の戦いになるけれど、eggの所有権移譲戦闘は周囲にいる者が全て対象になるので、この場合ソフィアも眷属の二人も巻き込まれたことになる。


グアアアァァァァァァァァァァッ!


 シェイドレックスが再び影を集めてその身体を再生させた。

 しかもさっきより身体が二回りは大きくなっている。体高だけで四十メテルは超え、全長に至っては百メテルを遥かに超えているだろう。

 さすがに相当な力を持っているようで圧力が凄まじく、複合ダンジョン八十層のボスと同じくらいの強さはあると思う。

 なんだっけ……偽血王バルグレイっていう吸血鬼だったはず。多分アグラヴェインと同じくらい強いんじゃないかな。


「とりあえず、まずはこのドラゴ……いえ、トカゲを片付けなきゃね」


 出力制限を三十%から七十%まで解放する。

 苦戦するつもりはないけど、どうせ全力は出せないから七割が限度だろう。


「悪いけど、ソフィアの安全のためには何もさせるつもりはないから。剣魔法 光縛剣(ジャッジメント)


 手を上に向けて力を放つと、空を埋め尽くさんほどの光の剣が現れる。

 そのまま手を振り下ろすことで一斉にシェイドレックスに向かって降り注ぐ剣の雨。

 本当は自分の剣も使って戦うところを見せてあげたいところだけど、さすがに相手が大きすぎる。

 クドーなら相手の大きさとか関係なく大技でぶった斬ったりするんだろう。私の技だと金光剪ならいけるかもしれないけど、あれを使うと私も力を使い果たす可能性が高い。

 なので。


「剣魔法 神剣界絶斬(アーレスブレード)!」


 さっきの聖剣墜閃(クラウソラス)よりも巨大な剣を八本作り出し、まるでぶつ切りにするかのようにシェイドレックスへと振り下ろした。




「もうっほんっとすごくて! セシルママが格好良くて強くて凄くて!」

「ふふ、そうだね。セシルママは世界一だもの」

「いろんな意味で最強なの」


 シェイドレックスを退治した私達は一度屋敷へと帰ってきていた。

 帰ってくるなりソフィアは談話室にいた家族の中でユーニャを捕まえて私の戦闘の様子を興奮しながら語り続けている。

 口角泡を飛ばすとはこのことか、と。

 そしてチェリーは余計なこと言わなくていいの。


「私、セシルママと同じくらい強くなれるのかな」

「えぇ、ソファイアなら必ずなれるわ。事実、貴女はアルマリノ王国最強クランのクランマスターじゃない?」

「でも、ママ達より全然……」


 私達と比べるのはあまり意味がないんだけどね?

 私や奥さん達の強さは魔物と戦うための強さじゃないから。


「それはそうと、私達が出掛けてる間に作業の方はどんな感じ?」

「えぇ、アノンがドレスの設計図を持ってきてくださいましたわ」

「私も拝見しましたが、それぞれに個性があってとても良い出来かと思いました」


 ステラは気に入ったようで、いつもよりやや表情が柔らかい。他の奥さん達も気に入っているみたいでみんな一様に頷いている。


「へぇ。じゃあ私も見てみたいな」

「姉様は駄目です。当日まで楽しみにしてください」

「みんな凄く綺麗。だからセシル姉のも、私達のも、期待してて」


 ……え? 私だけ見れないの?


「えっと……完成したら試着くらいはあるんだよね?」


 まさか、と思って尋ねてみたけれど全員が首を横に振った。

 なんでよ。


「でも本当に良い物だったからお母様にお願いして最高の材料を取り寄せたわ」

「それとアノンからセシルに依頼が来てるよ」


 ユーニャから手渡されたのは何種類かの宝石の発注書。

 しかし極小さな物だけど、カットされてて穴を開けたもの?

 あ、ひょっとしてスパンコールかな?

 私はユーニャに了承の返事をすると明日には渡すと言っておいた。

 どんなすごいドレスになるんだろうね。

 それと正装用の金属糸もかなりの量を用意する。

 今まではミスリルやオリハルコンなどを用いることが多かったけれど、ヴォルガロンデや複合ダンジョン下層の人工魔石や人工金属をそれらと混ぜ合わせることによって非常に高い防御性能を得られる。加えて付与魔法も複数付与が可能になるはず。

 たださすがにこれはかなり時間がかかると言われてしまい、結婚式までに間に合わせるのは無理らしい。残念だけど、最高の物を作ってもらいたいから妥協しないようお願いした。

 おかげで私の宝石達もかなり数を減らしてしまった……まだ残り数十トンくらいあるけど、複合ダンジョンの魔石は残っていない。

 自分のレベル上げついでに少し集めておこうと心に決めて、私は家族が笑い合う談話室で一人微笑みを浮かべた。




 再び旅の空。

 文字通り、私は巨大砂漠上空を飛行していた。

 速度がかなり遅いのはソフィアを手助けせずに飛んでいるためだ。

 同行しているプレリはソールだけを天魔法で包んで飛ばしているだけで、ソフィアの手助けはしないよう言い含めてある。


「ソフィア、手助けはしないけど精霊は呼んでもいいんだよ?」

「ううっ……さすがに、ちょっと辛い、かも……」

「精霊をちゃんと行使するのも貴女の訓練になるんだからね?」

「……はい。じゃあ……来て、アルセイス」


 ソフィアが腕に着けたバングルへ呼びかけると早速彼女のすぐ隣に薄く向こう側が透けた全裸の女性が現れる。

 あれが森の精霊アルセイス。

 前世のゲームや小説で良く見た風の精霊シルフとほぼ同じ役割を持っている。

 白竜王のところで魔石を得た六体の精霊の他にもう一体探し出して魔石を手に入れているので、今は全部で七体の精霊がソフィアの眷属となっている。

 ちなみにサラマンダーとかウンディーネという良く聞く精霊型の魔物もいるけれど、ソフィアの眷属となっている精霊の王達はそれより更に上位の存在。

 もう少し彼女のレベルを上げたら私の奥さん達と並ぶ実力を持つのは間違いない。レベル差数千くらいソフィアなら軽くひっくり返せるはず。

 全く末恐ろしい娘に育ててしまった。


「アルセイス、ママと同じくらい速く飛びたいの」

「主では、まだ身体が追いつかん。多少速くは出来るが、もっと己を鍛えるのだ」

「ええぇぇ……セシルママ、駄目だって」


 おっと、それは流石に想定外だった。

 かといって魔人化を使いながらではいくら高レベルでMPが潤沢でも底をついてしまう。


「仕方ないか。じゃあこのままの速度で行こう」

「リーダー、そこまで気にしなくてももうすぐ目的地に着くから大丈夫だぞ」

「そうよぉ。セシルちゃんが宝石二つ眺めてるくらいの時間で着いちゃうわぁ」


 私が宝石二つ眺める時間って、どういう時間の数え方よ!

 しかし実際に魔法の鞄から取り出した宝石を眺めながらソフィアと同じ速度で飛行していたら、三つ目の宝石を取り出そうとしたところで目的地へ到着した。


「ほらね? お姉ちゃん、セシルちゃんのことならなんでもお見通しよ?」

「なんか悔しいから今度プレリをたっぷりいじめるよ」

「ええぇぇぇぇぇっ?!」


 ほとんど拗ねながらプレリから目を逸らす。

 頬が熱を持っているのは砂漠にいるからだ。そうに違いない。熱操作はちゃんと働いていないのかな。


「セシルママ、プレリをいじめちゃ駄目だよ!」

「う……」

「さすがソフィアちゃんね! でもお姉ちゃんはセシルちゃんに意地悪されるの嫌いじゃないからいいのよ」

「ちょっと、ソフィアの教育に悪いからそういうこと言うのは禁止だよ!」


 全くもう。

 これでソフィアが変な性癖に目覚めたらどうするのよ……。

 私は目的地の上空で大きな溜め息を吐き出すと、ゆっくり地上へと降下していった。

 砂漠のど真ん中だというのに、緑が生い茂り滾々と水が湧き出すオアシス。

 広さは野球のグラウンドくらいだろう。

 ソフィアと一緒にいるアルセイスがかなり嬉しそうにしているところを見ると、魔法の類では無さそうだが。


「魔物が一体。あとは小さな動物が僅か」

「俺とプレリでも倒せると思ったんだがなぁ……プレリの奴がリーダー連れていこうって言うからさ」

「ごめんねソール。ちょっと思うところがあるから」


 少し拗ねたように唇を尖らせたソールの腕に自分の腕を絡ませると、彼女は頬を染めて頷いた。


「リッ、リーダーと一緒に来れるならそれが一番嬉しいから……その……謝る必要なんてないぜ?」

「ありがとう。私もソールがいてくれて嬉しいよ」


 へへっと鼻を擦るソール。その仕草が可愛くてそっと頬に口付けしてあげると、彼女はもうご機嫌である。

 我ながらひどい眷属誑しだと思う。


「セシルちゃん、お姉ちゃんには?」

「もちろんプレリもありがとっ」


 ちゅ、とプレリの手の甲に唇を押し当てる。

 ただ……。


「さすがセシルママ……なるほど……こう?」

「主よ、そういうものはもっと心を込めねばあまり効果はないのだぞ?」

「うう……セシルママに追いつくには遠い道のりだ……」


 私と同じ道に入らなくていいから。

 アルセイス相手に私がプレリにしたのと同じ手の甲にキスを落とすソフィア。

 うん……本当に、この子も私と同じく同性がパートナーになる未来が見えてきたよ……。


「セシルちゃん、現れたわよ」


 娘が私を真似る姿を見て一抹の不安を覚えていたけれど、プレリの声に意識を切り替えた。

 それは生い茂る木々の間に突然生えてきた一株の植物。けれど、大きさはソフィアよりも大きく背の低いミルルと変わらないくらいだろう。やがて花が開くと同時にその植物は人型へと姿を変えた。


「こんなところまでニンゲンが来るとは思わなかった。……ニンゲン……は一人だけ?」

「え、魔物が……喋った?」

「ソフィア。貴女が従えてる精霊だって魔物だよ」

「話せる魔物ってそんなにいるの?」


 至極当然の疑問だと思う。

 私だってゼリューザクスやフルハとの出会いが無ければ驚いていたかもしれない。

 そしてそんなソフィアの疑問には私ではなくその魔物が答えることになる。


「ほとんどいない。私はマスタードライアド。私の楽園を侵す者は排除する」


 敵意は出していなかったはずなのに、マスタードライアドは警戒心を顕にしてその身の魔力を高めてきた。

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>「こんなところまでニンゲンが来るとは思わなかった。……ニンゲン……は一人だけ?」  これは悲しい。  満を持して「この人間風情が」しようとしたっぽいのに……(同情)
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