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第514話 式場決定!

コミカライズもよろしくお願いします!

「教会?」


 ヴォルガロンデの研究所、もとい工房である古城の最奥で入った部屋は教会を思わせる荘厳な雰囲気に満ちた部屋だった。

 入り口から真っ直ぐ伸びた白い大理石で出来た道が奥に設置された不思議な形のオブジェの下まで続き、そのオブジェの向こうには美しいステンドグラスがはめ込まれている。

 その不思議な形のオブジェは十字架のようであるものの、まるで槍のように一本だけが真っ直ぐで横向きのものはカーブしながら下向きに丸まっていた。

 どこかで見たことがあるような……?


「不思議な形の紋章だね」

「えぇ、まるで花のようね。エルフの国にいた時に森の中で見たことがあるわ」


 花?

 あっ!


「フレア、だ」


 シルバーアクセサリーで良く用いられるモチーフの一つ。

 フレア、リリィ、そして百合。


「奥の飾り窓も見事でしてよ」

「あれは……女性の集まりでしょうか」


 ステンドグラスに描かれているのは、中央に一人の女性がいて周りにも六人ほどの女性らしき姿がある。

 まるで一人の女性が何人もの女性を侍らせているかのよう。

 これをステンドグラスで描ききったことが純粋に凄いと思う。何せ透明で平らなガラスというのはここ数年でやっとデルポイから安定して出回るようになったものだし、こんな大昔からここにあったことが驚きだ。

 しかし、なんというか……思いっきりここ、百合の園って感じなんだけど……?

 でも、凄く神聖な空気に満ちているのはわかる。


「ここの場所はヴォルガロンデが最も力を入れて作っておったところじゃ」

「そうなの? でも彼は男性でしょ?」

「そうじゃ。何を思ってこのような場所を作り上げたのかは、儂にはわからん」


 彼が男性で、例えば好きな女性との結婚式の場を自分で作りたかったというならこんな場は作らないだろうし。

 ある程度彼について調べてわかったことも少しだけあったけど、またわからないことが増えちゃったよ。

 しばらくそうして部屋の中を見回していたけれど、不意に袖を引っ張られたので下を向くとネレイアが私を見上げていた。


「セシル姉、ネル、ずっと一緒」

「キューも、姉様と離れたくありません」

「……突然どうしたの? 貴女達のことはこの前みんなと話して受け入れたじゃない」


 私は二人を安心させるためにやや前屈みになりながら抱き締めた。

 この場所に何かを感じ取ったのか、二人の手が少しだけ震えている。


「二人ともこの雰囲気に中てられたのではなくて? 私もその気持ちわかりますもの」

「そう、だね。うん、私も……あっ! ねぇセシル、この場所でやらない?」

「やるって……何を?」


 ユーニャは興奮気味に私へと近付いてくると、キュピラとネレイアの肩に手を置いて全員に視線を送る。


「結婚式!」




 私達は銀竜王に別れを告げると早速アルマリノ王国の屋敷へと戻っていた。


「楽しめましたか?」


 早速息子であるコルに良い笑顔で迎えられた。

 ちゃんと出産の時には帰ってたのに、なんでそんな嫌味ったらしく言うんだろうと思っていたのだけど。


「まさか新婚旅行に行って奥さんを増やしてくるとは思いませんでしたよ」


 あ、そういうこと。

 それについては言い訳のしようもございません。

 ただ久し振りに帰ってきた我が家、そして主の戻った屋敷では使用人達がとても張り切ってくれた。

 ステラの料理に舌鼓を打ち、広いお風呂で汗を流し、夜は久し振りに奥さん達以外、女性型の眷属達を侍らせて肉欲に溺れた。

 数日は書類の処理やキュピラとネレイアの仕事の割り振り、夜のローテーションで費やしたが、ようやく一段落したところでソフィアも含めて肌を重ねない床についた時。


「ねぇソフィア、ママ達結婚式しようと思うんだけど、いいかな?」


 私とユーニャの間で微睡むソフィアに話し掛けると、彼女は眠気が飛んだのかバッと勢いよく起き上がった。


「いいと思う! セシルママ、ユーニャママ、ミルルママ、リーラママ、チェリーママ、キューママ、ネルママ……って、ママ多いよぉ」


 そんな風に笑うソフィアだけど、その顔は凄く嬉しそうだ。


「しばらくはこれ以上貴女のママは増えないから安心していいよ」

「私は別に増えてもいいと思うけど……ママ達みんな優しいから大好きだもん」


 ………ウチの娘が天使すぎるんだが。

 とにかく娘の許可は下りた。

 息子……コルには話しておいたけど「構いませんが、増えるたびに結婚式するのは止めてくださいね」と釘を刺された。

 しばらく増やさないから!

 結婚式に招待するのは家族と重鎮の使用人。

 残念だけどお祖父様はディックを呼ぶから無理。

 それ以外だとアルマリノ王国の王族はアルフォンス殿下とルーセンティア殿下が出席。

 リードとカリオノーラ様も出席。

 ユーニャのお父さん、前ベルギリウス公爵、エルフの国の女王、ガットセント王は出席。

 加えて、アイカのお母さんであるヒマリさんにも声をかけさせてもらった。

 そういえばクドーから肉親について聞いたことがないんだけど、彼のことについてはそのうちどこかで話を聞いてみようかな?

 ただキュピラとネレイアに家族はいないため彼女達の親類は誰もおらず、また天使族の集落からの出席もない。

 ただしこれは披露宴の話。

 結婚式だけは場所が場所だけに自分達だけで行うことに決めた。

 式場の外でも良いからと粘られたソフィアと彼女の護衛としてアイカとクドーには来てもらうことにしたけど。

 で、当然ウェディングドレスの話になるのだけど。

 現在デルポイの会長室でガチガチに固まっているアノンと対面していた。


「アノン部長、そう緊張されなくても大丈夫ですよ?」

「でっ、ででででででもっ! わっ、わたひっ、デッ、デルポイにっ来てからっ、かっ会長と会うのは初めてっ、だしっ……!」

「どうどう、落ち着いてよアノン。 安穏心(リラックス)だよ」


 会話の中に自然と光属性の魔法を使って彼女を落ち着かせる。

 前世でも今世でもずっと庶民で平社員だったわけだし無理もないけど、今はデルポイ開発部門の部長を任せるほどに出世している。


「貴女を雇い入れて本当に良かったよ。おかげでブランド部門もコモン部門も服飾系の商品は今やデルポイでも主戦力の一つだよ。ね?」


 私は応接セットの隣に立つイリゼに向かってウインクした。支援要請である。


「はい御当主……会長。ブランド部門で立ち上げたいくつかの服飾店、またコモン部門での格安大量生産品の販売。加えて風俗部門での各種衣装。どれもアルマリノ王国で七割、テゴイ王国では九割が我が社の販売によるものであり、その商品の約六割がアノン部長が開発、描き起こした設計図によるものです。当然ながら帝国、神聖国や西側諸国。他の大陸での店舗でも実績を伸ばしております」


 え、そんなに?

 ごめん、そこまでは把握してなかったよ。


「売上でおよそ年間黒聖貨十枚、といったところでしょうか」


 黒聖貨は日本円換算で百億円。つまり一千億円、ですか。


「こう言ったらなんだけど……アノンはウチにいていいの? 独立しても凄く稼げると思うけど?」

「無理ですよお……私に会社経営なんてぇ……お願いだからここで働かせてくださいぃ」

「いやウチは全然助かるからいいんだけど……イリゼ、アノンにちゃんと適正な給料は払われてる?」


 これだけ稼いでくれているアノンなのに給料が安いのでは申し訳ない。

 勿論部長なら年収白金貨二十枚はあるはずだけど。


「昨年の年収ですと、聖金貨一枚……白金貨換算で百枚です。今年は既に賞与を支給しており、昨年の年収を超えております」

「お金稼ぎたかったけど、こんなにあっても使えない……」

「ちゃんと仕事してくれるなら男を囲ってもいいんだよ?」

「……だって、社内規定で公序良俗に反しないことって……」


 あれ? ひょっとして、この子は法律に詳しくないのかな?

 まぁ学校とかに通ってたわけじゃないし、そういうことってなかなか教わることないしね。


「アノン、アルマリノ王国では一夫多妻制が認められてるけど、未婚なら何人もの男性と関係を持っても咎められないよ。勿論、人身売買は禁止されてるから違法に奴隷を所持するのは駄目だけどね」

「けど、本当に男の人はそこまで……」


 結局アノンはどうしたいんだろうか。

 仕方なくイリゼに席を外してもらって前世のことを聞き出すことにした。

 すると、どうやら前世ではコスプレが趣味でいろんな服を作っていたそうだ。

 それらは自分が部屋で着るくらいしかしなかったらしいが……。


「コスプレさせる専属モデル雇えば? ついでに家の家事もしてもらってさ」

「そんな人いますかねぇ?」

「更についでにそのコスプレモデルを画家に描いてもらうのも有りだね」


 実はカメラの魔道具の作り方がヴォルガロンデの資料から発見されたので、時間さえあれば作れるけど今は無理だ。

 それに出来れば彼女のお金は貯め込むのではなく、キチンと消費してもらいたい。


「とはいえ、まずは家を買わないとね。家事をする人、モデル、画家を全部専属で雇う。なんなら準男爵位くらいなら買える当てもあるし、貴族にだってなれるよ?」

「会長見てると、貴族は面倒っぽいんで嫌ですねぇ」


 とりあえず私は彼女の家から面倒を見てあげることにした。アノン専用の服飾工房、デザインアトリエがあり、モデルを描いてもらうための画家専用のアトリエもあって、尚且つそこらの貴族家よりも広い衣装室も兼ね備えた屋敷。

 聖金貨十枚に加えて毎年土地代として年収の一割。

 これは私の持つ土地に家を建てるからという理由ではなく、王都に家を建てると必ず発生する土地使用税のためだ。


「なんか、ちょっとだけ仕事のモチベーション出てきたかも……です」

「それは良かった。そこで私から個人的にお願いがあってね。今日来てもらったのはそのためなんだよ」

「はあ……って、それなら最初に言ってくれて良かったんですけど」


 そりゃそうなんだけど、なんかアノンに覇気を感じられなかったから面談してみただけなんだけどね。

 それはともかく。


「今度私の結婚式をやるから、そこで使うウェディングドレスを貴女に作ってほしいの」

「会長結婚するんです? え、お相手は……あ、そか副社長の……。てことは二着?」

「まぁユーニャもその一人だけど……私の奥さんになる人は七人。だから全部で八着。披露宴用のドレスも欲しいからそっちも八着。今後正装も必要になるから魔道具、防具としても利用可能なもので八着。計二十四着」

「……は?」


 そこまで話したらアノンはさすがに固まってしまった。

 けど、私の話はまだ終わっていない。


「それを二カ月以内に作ってほしいの。必要な材料は全部こちらで用意するから」

「え……の、納期ないじゃないですか……」

「報酬は貴女が望むものを用意するよ。社内での仕事じゃないから昇格は無理だけど、現金ならこれで」


 私は応接セットのテーブルにパチンと一枚の硬貨を置いた。

 黒光りする豪華なその貨幣は先ほどの話でも出てきた黒聖貨。


「ひゃ、ひゃくお……く……?」


 アノンは今度こそ意識を手放したようで、完全に白目をむいて気絶してしまっていた。

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>まるで一人の女性が何人もの女性を侍らせているかのよう。 >しかし、なんというか……思いっきりここ、百合の園って感じなんだけど……? >でも、凄く神聖な空気に満ちているのはわかる。 >「ここの場所はヴ…
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