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第490話 クラン発足

コミカライズされました!


ピッコマ様で先行配信されております!


セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!

 第五大陸へ向かう用意をしているある日のこと。

 自身の能力の把握はユアちゃんにしてもらったけれど、どのくらいの力があるのか確認するために屋敷地下の複合ダンジョンへとやってきていた。

 エイガンとの戦闘自体は大した苦戦をした気はしないけれど、特殊な能力を持つ相手には無駄に戦闘時間が長くなることがわかった。

 我が家の戦闘能力は力押しに頼ることがとても多い。何かしら自分達だけの能力があっても良いのではないかと思ってのことだ。


「セシーリア、何を言ってるのだ?」

「セシーリア、貴女にそんなもの必要なのかしら?」


 尊大な態度なのがチーちゃんこと、チーハエギニ。

 大人の女性みたいに喋るなのがレニマジム。

 見た目はショタとロリでしかないので混乱しそうになるけれど、二人ともチェリーと同じくらい長生きのはず。


「だって、万が一苦戦とかしても面白くないし」

「話は聞いたけれど、セシーリアは苦戦なんてしていないじゃない」

「我もそう思う。だいたい我らの部屋まで簡単に辿り着いたではないか」


 我が家の複合ダンジョンは私のアイデアとチーちゃんレニちゃんの手によって魔改造が施され、五十一階層から先は立ち入りを厳しく制限している。

 その代わりボスを倒すと十階ごとにダンジョンマスタールームへ直行出来る仕掛けを作って貰った。

 現在百階層まで出来たこのダンジョンの下層にいる魔物が一体でも外に出ようものならアルマリノ王国は確実に滅んでしまうほど、おかしいレベルになっている。


「ランキングに入っていたら間違いなくぶっちぎりの首位だな」

「ダンジョンポイントもよ。貴女と貴女の奥さんと眷属が入ってくるだけで普通のダンジョンの何百倍ものポイントになるのだから」


 強力な魔物からは強い魔力を含んだ魔石が手に入る。

 ジョーカー達は常にここで魔物と戦って鍛えているため、どんどん強くなっていた。

 それでもまだ七十階層あたりで行き詰まっているけれど。


「さすがにもうこれ以上強い魔物は作れないわよ? 貴女達で言う脅威度S上位の魔物を更にレベルアップしているし」

「まぁ百層にいるボスはゼレディールと同じかそれ以上の強さだったし、物足りないけど仕方ないね」

「レベル四万を倒しておいて『物足りない』と言われるとは思わなんだ。アレを倒せるのはさすがにまだセシーリアだけだな。他の者では及ばぬ」

「というか百層まで来てるのなんて私くらいでしょ」

「ん……まぁ、そうだな」


 顎に指を添えて頷くレニちゃんだけど、そんなの考えるまでもないと思う。

 ここがダンジョンの中でなければ決闘システムが稼働していたのは間違いないけれど、ダンジョンは通常とは異なる空間になるためシステムが関与出来ない。

 それにとても頑丈なので私が全力で戦っても壊れないのは良いよね。


「じゃあ結局私だけの能力を身に着けることは出来ないってことだよね」

「よほど特殊なオリジンスキルでも見つけるしかない」

「それをセシーリアが強く望んでいるなら自ずと身に付くはずよ」


 そこまで言われるともう何も言うことは出来ないね。

 やっぱりeggを集めてオリジンスキルを手に入れていくのが特殊な能力を得るのに近道であることだけはわかった。

 何も解決しなかったので、八つ当たりとばかりにもう一度百層のボスである『悪神竜ボルグレノン』とかいうどの世界のラスボスだよってドラゴンを倒して出てきた。

 体のあちこちがメカニカルなパーツで覆われていて、体も金色だし放射能を吐く怪獣と戦う王様ギドラさんかと思ったよ。


「……あのドラゴン、特別クラスのセインに見せたら喜びそうだけど……一瞬で死んじゃうよねぇ」


 セインとは私の学園の特別クラスにいる転生者。

 『変身ベルト』という神のスキルを与えられて自分の望む者に変身出来る。

 特撮が大好きって言ってたし、そのうち連れて行ってあげたいところだが……レベル四万なだけじゃなくて百層の部屋自体に突風が吹き乱れ、相手は高度五十万メテルから下りてこないときてる。

 ブレス一発で大陸崩壊クラスの攻撃力を誇るので我が家でも連れていける人は今のところ存在しない。

 私は手の中で鈍く白金色の光を放つ悪神竜ボルグレノンから手に入れた魔石を握り締め、研究室へと入っていった。




 パチ。

 左腕に身に着けたバングルへと白金色の魔石を嵌め込むと私の魔力を強く流し込んだ。

 元々が強大な魔物であったために内包魔力は一兆を超えてくる。


シルヴァリウム:透明度の高い人工金属で様々なエネルギーとの親和性が非常に高い。内包魔力2,200G。悪神竜ボルグレノンの魔石。


 これが当初の魔石の鑑定結果。

 この時点でもいろいろ聞きたいことがあるよ。誰が作ったんだ、とかね?

 まぁそれもヴォルガロンデなんだろうけどさ。

 ちなみにこのシルヴァリウムにしろ、以前テゴイ王国で前王が使った魔道具で呼び出された黄金騎士の魔石であるゴルダナイトにしろ、私のオリジンスキル『ガイア』で作り出すことは出来なかった。

 どうやら大地由来の宝石じゃないと無理みたいで、予想はしていたけれどこういう人工魔石は作れない。

 ただヴォルガロンデの研究資料のお陰である程度の目処は立ったから、いずれは私も作れるようにはなると思う。

 それはさておき。


「八体かぁ」


 バングルに嵌められた魔石を眺めながら一人ごちる。

 第四大陸にも脅威度Sの魔物はいたけれど、どれも下位の魔物でしかなかった。

 おそらくエイガンかヒマリさんによって狩り尽くされてしまったのだと思う。

 すると残るはここ第三大陸と第五大陸、もしくはダンジョンにしか強力な魔物は存在しない。

 一応第三大陸にいる脅威度S上位の魔物がどこにいるかは見当がついているので、いつでも探しに行ける。

 というか、眷属達に行ってもらっているのでしばらくすれば手に入るはず。救援要請もないしね。

 今回エイガンとの戦いで感じたのだけど、対集団戦闘になった時にいつも私一人で戦うわけにはいかない。

 万が一、なんて考えたくもないけど私と同等以上の相手がいた時に消耗したまま戦うなんて自殺行為だ。

 だからこそ眷属達にはより強くなってほしいし、騎士団も育てるし、クランの発足も急ぎたい。

 そしてそれとはまた別の隠し玉も用意したくなった。

 やりたいことばかりあれこれと思い浮かぶ中で、足下を疎かにも出来ないので学園を作ってからそろそろ一年が経とうとしている中、本格的にクランについて考え始める時がきたと考えていた。


「でも実際名前ってなににしたらいいと思う?」

「クランの名前なのだ?」


 ぽんっと小気味良い音を立ててメルが現れた。

 眉間に皺が寄った顔文字になるとメルは一人唸り始める。


「セシルのクランなら宝石を入れた方が良いのだ?」

「いや別に必ず入れなきゃいけないってわけじゃないよ? ただ私が宝石を好きなだけなんだから」

「けどクランのメンバーにも装飾品は渡すのだ」


 それは勿論。

 寧ろ私に関わりがあって宝石を身に着けない人がいたらお断りするレベルだよ。


「シンプルにクラン『宝石』でどうなのだ?」

「シンプル過ぎない? せめて何とかの宝石、とか至宝のとか、ねぇ?」

「そもそもの話、名前なんてどうでも良いのだ」

「いやいや、重要でしょ? 私がいる限り存続する可能性高いし、その私の寿命なんてないんだから」


 亜神になってしまったために私の寿命は無くなった。

 今のところ『セシル』としての人生は23年ほどでしかないので寿命がないことに対する違和感はないけれど。


「あれ? そういえばヴォルガロンデは管理者代理代行なんでしょ? 彼も寿命ないんじゃないの?」

「肉体の寿命はないのだ。しかし彼の者の精神はそうもいかなかったのだ」

「というと?」

「ヴォルガロンデは管理者になれなかったのだ。上位種族とはいえ、普通の生物がそこまで長期間生きていてまともでいられるはずもないのだ」


 そういう意味での『寿命』ってことなのね。

 だとしたら、それこそなるべく早く彼の元に辿り着く必要がある。

 管理者代理代行がどこまで出来るのか知らないけど、正気を失って世界のシステムを変えてしまうことだって有り得るのだから。


「メル。なるべく急ぐよ」

「やっとやる気を出したのだ? ならクランの名前なんか後回しにしてさっさと旅の支度を始めるのだ」

「いや、それとこれは話が別だから」


 それからメルの黄色い身体は真っ赤に変わって私に文句を言ってきたけどさっさと姿を消してゆっくり考えることにした。

 結局一人で考えていても埒が明かないので夕飯の時間になってみんなに相談してみた。

 すると。


「そないなもん『宝石箱』でえぇやろ」


 早速アイカから声が上がった。


「セシルのクランなんやし、妥当や思わん? あんまり長ったらしいクラン名にしてみい? どうせ略されて呼ばれることになるさかい、それならシンプルな名前の方がえぇんや」


 メルのシンプルな名前の案を却下したばかりだったけれど、アイカの話を聞くと妙に納得してしまった。


「私もそれが良いと思うな。多分いくつものパーティーを抱えることになるだろうから、パーティー名にも宝石の名前を付けたりしてさ」

「でしたらパーティーメンバーにはお揃いの宝石で作った装飾品を身に着けさせるのも良いのではなくて?」


 何それすごく良い!

 絶対採用する!


「ならエースチームになる特別クラスの子達はより特別な装飾品を用意してあげましょう?」


 特別クラスにいるのは転生者を含む神の祝福を持って生まれた子達である。

 ナナはアイカの助手みたいな立場になっているので冒険者をするかどうか微妙なところだが、ジルバ、セイン、クローディアは既にパーティーを組んでいる。確か特別クラスにいる子と五人で、だったかな。

 卒業後はとっておきの装飾品を用意しておかなくちゃ。

 しかし、エースというのは些か問題がある。


「そうね。けど、クランのエースでリーダーは……ソフィア。貴女にやってもらうから」

「なっ……セシル?! 貴女正気ですの?!」

「正気だし本気だよ。クランを纏め上げるのはジュエルエース家の者でなければならない。ソフィアだけでもそれだけの力があるし、同行者としてムースをつける」


 家がどうとかではなくソフィアには優しいだけの世界で生きていてほしいと願う私と相反するように、厳しくも強く生きてほしいとも願っている私がいる。


「名実ともに、私を継ぐ最強の冒険者として名を馳せてみせてソフィア」

「セシルママ……うぅん。お母様、承知しました! わたくしソファイアは必ずセシーリア・ジュエルエースの後継者と言わしめてみせます!」


 椅子から立ち上がったソフィアにかつての弱々しく非力な様子は見えなかった。

 まだまだ頼りなく荒削りなところばかりだけど、自分の足で立つ意志はしっかりと見て取れた。

 私は彼女の前までゆっくりと歩を進めると、その右腕に一つのバングルを嵌めてあげた。


「ソファイア・ジュエルエース。貴女にクラン『宝石箱』を任せる。しっかりね」

「はいっ!」


 その日今後数百年以上もの間、最強の名を轟かせ続けるクラン『宝石箱』が正式に発足された。

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>「そないなもん『宝石箱』でえぇやろ」 >「セシルのクランなんやし、妥当や思わん? あんまり長ったらしいクラン名にしてみい? どうせ略されて呼ばれることになるさかい、それならシンプルな名前の方がえぇん…
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