閑話 イーキッシュ公爵領へ……避暑? 後編
前回の続き。
ちょっと長いかも?
コミカライズされました!
ピッコマ様で先行配信されております!
セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!
イーキッシュ公爵領のトレカンタ湖にてレイクグランデという巨大イモリを討伐しに来たジュエルエース騎士団。
ご褒美を用意してさっささと一掃してもらう予定だ。
「念の為言っておくけど、ミオラとノルファ、エリーが倒したらその部隊の実績にはならないから、しっかり自分達だけでトドメを刺してね」
副団長以上の三人が本気でやれば鐘一つ鳴る間に全て討伐しきってしまうだろうけど、今回は一人ずつ交代で出てもらう。
勿論、何かしらトラブル等で緊急対応が必要な場合は遠慮無く対処してもらう。
やがてミーティングが終わったようで部隊ごとに湖畔へ散っていった。
「さて……それじゃ私達も準備しよっか」
日陰に佇む五人に向けて頷くと彼女達も仕方無いねと苦笑いを浮かべた。
さすがに天幕から出ると日射しは容赦無く肌を突き刺してくる。白いワンピースが太陽光を跳ね返してやけに眩しく見えた。
こんな炎天下の中頑張ってくれている騎士達をしっかり労ってやらねばなるまい。
私は異空間に入れておいたテーブルを取り出すとどんどん並べていく。
これだけ頑張ってくれてる騎士団を労うために用意したのは当然バーベキューである。
真夏、湖畔の避暑地、体育会系の男と美女と来ればそれ以外ないでしょ。
あ、でも私のパートナー達に手を出したら死なない程度にボコボコにしてクビにするよ?
ちゃんと騎士団相手にはアネットの風俗部門から人手を借りてあって、後で本社のゲートからここに呼び出す予定にしている。
ざっと三十人をあちこちのお店から借りてきて一人当たり白金貨一枚の特別報酬を出すことで合意してもらった。
「それじゃみんな、頑張って討伐してくる騎士団を労うために用意しよう」
テーブルの上にこれでもかと大量の食材を並べていく。
美味しいと評判のワイバーンから定番のオーク肉はオークキングやオークジェネラルまで取り揃え、滋養強壮に良いと言われるオークの睾丸まで。
「汚らわしいっ」
「例え食材だとわかっていてもセシーリアに触ってほしくないわ」
ミルルやリーラインには酷く不評だった。
肉ばかりではなく、わざわざこのためにマズの漁業組合に行って海鮮まで買ってきた。
今ではデルポイの外食部門で大人気のタコ、イカ、海老、蟹、そして貝。
それ以外に当然野菜類も。
女性陣のために果物だって用意してあるし、お酒も樽で揃えた。
「騎士団は百人くらいなの。これは普通じゃ食べきれないの」
「一度私の魔法の鞄に入れておきます。食材が減ってきたら追加しますし、余ったら屋敷で使います」
そして何カ所にも大きな鉄板を用意しておく。
これなら食べそびれるような者は出ないはず。
実はこの鉄板もデルポイの商品で魔石があれば簡単に熱することが出来るので小さめサイズは冒険者達によく売れていると聞いている。
「この鉄板ってこんな大きなものもあったんだね」
「ここまで大きなものは私が作ったんだよ」
食材を捌く手を止めることなくユーニャの話にもちゃんと耳を傾けていた。
「今度アイカさん達ともこんな風に食事したいね」
「うぅん……あの二人はどうだろう? 多分あんまり賑やかなのは好きじゃないと思うよ」
まぁ誘うくらいはしてみてもいいけど。
さて……。
「とりあえず用意した食材は風俗部門の子達に任せて……私は新鮮な食材を手に入れてこようかな」
「新鮮って……あぁ、現地調達ってこと?」
「レイクグランデってハーブと一緒に焼けば臭みも消えるし、歯ごたえがコリコリして美味しいんだよ?」
「初耳なんだけど……」
また貴族院にいた頃、ギルマスに頼まれて討伐して食べてみたことがある。
ジュリア姉さんに「珍味よ」って言われてね。
そういえばもうずっとジュリア姉さんに会ってないなぁ……たまには冒険者ギルドに顔を出してみようかな?
「チェリー、ご飯取りに行くよー」
「わかったの!」
狩りに行くなら相棒はチェリーだろう。
リーラインも弓を使うような森の狩りなら良いのだけど、今回は水辺、もしくは水中なのでやっぱりチェリーのように長年戦い慣れてきた者の方が向いている。
騎士団の取り分を無くすわけにはいかないので私の時空理術を使いながら強すぎる個体を三体ほど間引き、ついでに他の食材も採取しておいた。
「お、大きい、のね」
「この湖に来てる中では一番強い個体だったしね」
体高だけで四メテル、体長ならば十メテルにもなる並みのドラゴンと同じサイズのレイクグランデである。
とは言え所詮は両生類なので氷付けにしてしまえば楽勝である。
「セシル、大きい穴を掘ってお湯を沸かすの!」
「まさか、茹でるんですの?」
「キングレイクロブスターは脅威度Aの魔物だけど、その身はすっごく美味しくて人気があるからね」
「あのハサミのとこが美味しいの!」
チェリーの要望通り地面に大穴を掘って壁面を炎で溶かしていく。
穴の中で茹でるだけでは泥が混じるかもしれないので、念の為の措置である。
「相変わらず芸が細かいですこと」
「セシルらしいけどね」
さっきからずっと批評ばかり話しているミルルとユーニャはほとんど手も動かしていない。
私がパートナー達には甘いことは完全に見透かされているから?
たまには厳しいところも見せた方がいいのかな。
「ミルル、ユーニャ。手を動かさないなら二人だけで屋敷に帰っても良いんだよ? 私はステラ達三人といっぱい楽しむから」
二人に少しだけ怒ってるよアピールをしつつ片手でステラを抱き寄せるとニヤリと口角を上げた。
ついでにステラも乗り気になってくれたので、シルクのような手触りがある彼女の脇腹をそっと撫で上げると「んっ」と小さく声を漏らしてしなだれかかってくる。
「あぁっ、ステラばっかりズルいよ!」
「そうですわっ!」
「ステラは働き者だからご褒美だよ。ちゃんとお手伝いしないと今夜は私一人で寝るからね? 連帯責任で!」
勿論寂しいからそんなことしたくないけど。
今日は地下でソロプレイに走る日じゃないし。
それでも脅しが効いたのかユーニャはテキパキと、ミルルもほとんどやったことがないであろう調理の手伝いをしてくれたのでいつも通りの夜を迎えられそうだ。
鐘一つほどの時間が経過して、湖とその周辺にレイクグランデの気配を感じなくなったので騎士団員を集合させることにした。
湖に入って狩りをしていた者もいたようで全身ずぶ濡れになっている者もいれば、汗だくでずぶ濡れになっている者もいる。
「みんなお疲れ様。貴方達の頑張りのおかげでこの辺りからレイクグランデはいなくなったよ。普段から頑張ってくれてるみんなのために食事とお酒を用意したから好きなだけ飲んで食べてね!」
当然ここの使用許可はディックだけじゃなくてお祖父様からも取ってある。
周辺警戒は私達の方でするつもりなので騎士団全員が酔い潰れても問題ない。
「それと汗をかいただろうから湖で泳いで汗を流しても良いよ」
ついでに折角だからいろいろなお遊びも企画している。
水泳、腕相撲、射的、水切りなど。大食いや早食いもやろうとしていたけど私の方で却下した。食べ物で競技をするのは前世で食べるものに困っていた記憶や引き取る前のソフィアのことを考えたらやる気になれなかったのだ。
それでも各競技の上位者には景品も用意してあるので頑張ってもらいたい。
とまぁいろんなことを考えていたんだけど。
「閣下、お注ぎに参りました!」
「あ、うん。ありがとう。私のことは気にせず楽しんでいいんだからね?」
「はっ! 美味しく頂戴しております!」
全員とそれなりに話してはいるけれど、気にしなくていいのになぁ。
「セシルがコンパニオンを用意してくれたけど、当主も奥様も美女揃いなら一度近くで見たいって思うのが男の心情でしょ」
「ふんっ、不謹慎な。まだまだ訓練が足りないようね」
「そう言うミオラもノルファも美人だし、エリーなんて年齢不詳なくらい可愛いじゃんか」
「私達は普段厳しくしてる分、怖がられているのよ」
確かにミオラはハードな訓練メニューを立てるし、騎士団の勤務シフトはなかなかのブラック風味だったけれど、それらは当主権限で相当に緩和してあげた。
「それにしても、ごくん。セシーリア様のワンピース姿って眼福ですねぇ……凛々しい姿も大好きですけど普通の町娘みたいで攫っていきたくなりますぅ」
エリーが串に刺さった肉を頬張りながら近寄ってきた。
そのソースでベタベタになった手で触らないでよ?
この子も仕事中は騎士らしい言葉をちゃんと使えるけれど、勤務終了後やベッドの上ではこんな風にあざとく喋る。
ちなみに先ほど年齢不詳などと言ったけれど、実は三十代半ばに差し掛かろうとしており、その話し方や仕草のほとんどが癖であり相手を油断させるための手法であることにミオラもノルファも気付いている。
普段は恐れられている騎士団の上位三人が近くにいるせいか中堅以下の騎士達が近寄れないでいるのを見かねた私は彼女達を下がらせると、割と親しみやすい雰囲気のユーニャを呼び寄せた。
「なぁにセシル?」
「特に用はないよ。近くにいてほしかっただけ」
「……もうっ、本当にセシルは女っ誑しなんだからっ」
顔を赤くしたユーニャが私の腕を取りながら隣に座ると、再び騎士達が何人も話しかけてくるのだった。
さて。騎士達の大騒ぎも終え、追加の食材で夕飯も済ませた彼等は男だらけというだけあってなかなか豪快だった。
そこらへんの地面に大の字を描きながら眠る者。
私の連れてきたコンパニオンにチップを払ってサービスを受ける者。
まだまだ胃袋に余裕があって食べ、飲み続ける者。
様々である。
ちなみにチェリーも騎士達に混じって食事と飲酒を続けていた。
私はユーニャを隣に侍らせ、後ろにステラが立ってはいるがいつも通りの空気感で薄い気配しか感じない。
満天の星空。
それを写す大きな湖。
魔物退治という大義名分はあったものの、みんなが楽しんでくれたみたいで良かった。
「セシルは?」
「ん?」
「なんだか『みんな楽しそうで良かった』って顔してたから」
ユーニャの勘というか、私限定でその能力が発動するのはなんでだろうね?
それでも素直に笑いかけた。
「勿論私もだよ。私にはこんなに大切なものがたくさんあったんだなって再確認出来たしね」
「そっか、良かった。私達はみんなセシルのことが大好きで大切なんだからね? 忘れそうになったら私が拳と唇で殴りに行くから!」
「あ、はは……唇はいつでも歓迎するけど拳は遠慮したいかなぁ」
ユーニャの本気で殴られたら私でさえ痛いじゃ済まないしね。
けどまぁ。
「忘れないよ」
「……うん。忘れないで」
星々に見つめられながら、ユーニャとそっと唇を重ねる。
貴族院時代に再会してからもう十年以上一緒にいる。きっとこれからその何十倍もの長い期間一緒にいることになるだろう彼女の左手を取ると、薬指にそっとシンプルな指輪を挿し入れた。
「指輪? セシル、これは?」
結婚指輪自体はこの世界でもよく知られているけれど、あまり身に着ける人はいない。例え貴族や王族であったとしてもだ。
これはただの自己満足でしかないけれど。だからこそ、敢えて伝えておきたかった。
「結婚指輪だよ」
「けっ、こん……って……。ふふ、セシル? 二十年くらい前に貴女が言ったこと覚えてる?」
「うん。『女の子同士じゃ結婚は出来ない』ってね。でも私はユーニャをお嫁さんにしたい、ユーニャにも私をお嫁さんにしてほしい」
「セシルッ!」
私の胸に飛び込んできたユーニャは、いつもと違ってちゃんと普通の力で女の子らしい重さだった。
「嬉しい。私、本当に嬉しいよ。愛してるよ、セシル」
「うん、私も……愛してるよ、ユーニャ」
そうして私達は再び唇を重ねた。
余談だけど、この後すぐ後ろで見ていたステラに咳払いをされて酔い潰れていた者や近くにいなかった者以外が私達の様子を息を顰めて見守っていた。
さすがに公開プロポーズは恥ずかしすぎました。
気に入っていただけましたら評価、いいね、ブックマーク、お気に入り、レビューどれでもいただけましたら幸いです。




