第486話 コスモス・グリッドナイト
コミカライズされました!
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セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!
「ふわああぁぁぁぁぁぁ……」
まだ加工さえされていない原石に見入ること、鐘一つ。
南中していなかった太陽は既に頂点を越えて傾き始めている。
宝石自体は濃い藍色であるものの、透明感があるためラピスラズリとは違う。どちらかといえばロイヤルブルーサファイアの方が近い。
よくサファイアの最高品質はコーンフラワーブルーだと思われることがあるが、実は間違いであり産地限定の呼び名である。
カシミール地方で産出される最高品質のブルーサファイアをコーンフラワーブルーサファイアと呼び、ロイヤルブルーサファイアより彩度が高く赤みが少ない。あまり市場に出回らないので希少性はロイヤルブルーサファイアよりも高い。
サファイア自体はコランダムなのでそれほど珍しいものではなく、特にブルーサファイアは数も多い。青と赤以外のサファイアはファンシーカラーサファイアと呼ばれるが、こちらも小さなサイズならばそれほど珍しいものでもない。
私の能力によって巨大化させられた様々なカラーのサファイアは今も屋敷の地下で大切に展示されている。
こんなことを考えていたらサファイアも欲しくなってきた。
今度『祭壇』に行って採取してこようかな?
さて、話は今採取した宝石に戻る。
「本当に銀河を丸ごと閉じ込めたような宝石……」
濃い藍色の中で小さな白色光がキラキラと渦巻いている。
これはどんな加工をするべきかな?
順当にいくならば、この宝石の中の宇宙を楽しむためにカボションカットが良いだろう。
案外百四十四面体にしても良いかもしれないし、最近はルースの作成はクドーに頼らず自分でやっているためかなり自由度は高い。
ゲイザライトなんかは面数を増やすことによって内部の光が増えてとても綺麗なルースになるので、この百四十四面体を採用している。
とりあえず、どんな加工するかも楽しみの一つとして大きめの原石をいくつか回収して魔法の鞄に入れ……。
「一応鑑定しておこうかな……ん? これ、グリッドナイト、なのっ?!」
私の道具鑑定の黄色い画面には『コスモス・グリッドナイト』と記載されていた。
『コスモス・グリッドナイト
最高品質のグリッドナイトであり、内部の魔力を含んだインクルージョンが指向性を持っているため回転しているように見える。
極微弱な魔力のため魔石とは判定されず、魔石化したコスモス・グリッドナイトは内部のインクルージョンが高速回転することによって強い光を放つ』
「へぇ?」
強い光を放つ宝石?
……やらないわけにはいかないでしょうっ?!
以前ヴォルガロンデの研究所で見つけた技術によって宝石へ通常の基準を大きく超えた魔力を込めることが出来るようになっている。
あれからまた技術に磨きを掛けたものの、それほど多くの魔力を込めた魔石を用意する必要がないためどこまで出来るかは試したことがなかった。
「さて、じゃあやってみよっかな」
平原の真ん中で独り言を呟くと、まずは出力制限を解除。コスモス・グリッドナイトへ付与魔法で大量のMPを送り込んでいく。
自重無しでやっているため、いきなり十億ものMPが付与されて魔石化した。
しかし付与魔法の効果は途切れることなくどんどんMPが込められていく。
魔石化している関係で宝石はその間光るので、このコスモス・グリッドナイトがどうなっているかわからない。
やがて私のMPの半分以上を込めたところで、ようやく付与魔法の効果が切れた。
「はあぁぁ……凄かった……。まさかこんなに入るとは思わなかったよ」
魔石化したコスモス・グリッドナイトを見ると光が収まることなくそれ単体で眩しいほどの輝きを放っている。
よく見れば中のインクルージョンが凄い速さで回転しており、それによって強い光が出ているのだが……。
「なんか、熱い?」
なんだ、これ?
よくわからない現象が起きてしまったので仕方無くメルを呼び出した。
「なんなのだ宝石採集は終わっ……なっ、何をしているのだあぁぁぁぁぁっ?!」
「何って……コスモス・グリッドナイトを魔石化してみたんだけど?」
「普通の魔石のレベルを超えてるのだ! コスモス・グリッドナイトは少しの魔力でも通常の魔石より千倍以上の魔力を出力するのだ!」
「そんなの知らないんだから仕方無いでしょ。……で、これどうしたらいいと思う?」
魔石化したコスモス・グリッドナイトから放たれる光は更に強くなり熱もかなり高くなってきていた。
普通の人なら火傷するには十分過ぎるほどの熱量を持っているが、私は火魔法耐性が高過ぎるためまだ素手で触っていられるものの、そろそろかなり熱い。
「一体どれほどのMPを込めたのだ?」
「私のMPの半分ちょっと」
「並みの冒険者のMPが三万位だと何度も言われたのだ? セシルのMPの半分は一兆なのだ?!」
「そうだね」
普通なら三千万くらいで済むのに一千兆もの莫大なMPを持つ魔石になったわけか。
……うん、どうしよう。
「それで、これこのままだとどうなるの?」
「今はまだ回転しているだけだから魔力が外に出ようとしているのだ。この魔力の回転によって出力が千倍になるのだ。しかしバカセシルのバカMPで回転しているから多分千倍じゃ済まないのだ。そして回転の元になっているMPが無くなると今度は魔石内部に収まろうとするけれど、コスモス・グリッドナイトはその収まろうとする力を受け止めきれず、砕け散って膨大な魔力が周囲にまき散らされるのだ」
「よくわかんないから簡単に!」
「恒星の超新星爆発はわかるのだ? あんな感じなのだ」
超新星爆発って太陽が寿命を迎えたときに爆発するってことじゃなかったっけ?
「ってそんなのがここで起きたら世界が滅んじゃうじゃんか?!」
「……実際にはこの魔石の質量なら超新星爆発のような超高エネルギーの爆発など有り得ないのだ。それでもこの第四大陸全土、下手をすると第五、第三大陸までもが更地になるのだ……」
ちょっとした実験のつもりが滅茶苦茶大事になってしまった。
「で、結局これをどうにかするにはどうしたらいいのっ?!」
「この魔石に内包されているMPを使い切れば、大丈夫、だと思うのだ……」
「だと思うって……なんでそんな自信無さそうに言うのよ」
「仕方無いのだ! 本来こんなこと有り得ないのだ! 世界にだって『デシグナーレ』されていないのだ!」
『デシグナーレ』? って、なんだろ?
とにかく、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「わかった。じゃあ今から魔石に入ってるMPを全部使い切ってみる」
「……言い方がきつかったのは謝るのだ。出来ればセシルには最も遠い第二大陸に避難してほしいのだ」
「……駄目だよ。私がやらかしちゃったんだし、責任は取らなきゃ。それに、第四大陸にはヒマリさんとアイカもいるし、第三大陸にはみんながいる。私だけ逃げるわけにはいかないから」
腹を括って一つ呼吸をすると、手の中にあるコスモス・グリッドナイトに視線を落とした。
いつまでこの状態が続くかわからないけど、多分急いだ方がいいと思う。
自分のMPを使い切るだけなら強力な魔法を空にでも向かって放てばいいけど、魔石の中にあるMPを使い切るにはどうしたらいいか。
最も多く魔力を使うもの……魔道具くらいじゃ駄目。あれは繊細な回路や魔法陣を組み込むことで成り立っているから。
それなら。
「いくよ。『神技』」
レジェンドスキル『武闘技』は今や『神技』に融合してしまったので、神技を使うことで私のステータスは跳ね上がった。
神気も使って膨大に膨れ上がった魔力を何とか抑え込みたい、いや使い切りたい。
オリジンスキルを頼りたいところだけれど、今回やることにおいてはあまり使えそうにない。能力を上げるためのものならば『セミラミス』や最近取得したばかりの『イシュタル』『アスタルテ』なんかもそれにあたりそうだけど、まだ使い方を理解していない。
「レジェンドスキル『擬似生命創造』!」
魔石をベースにして擬似的な生命を作り出すスキルである擬似生命創造は魔石に込めたMPが大きいほど強力な個体が生まれてくる。
そして同時にあらゆる属性の魔力も練っておき、魔石内のMPを取り込みつつ生まれてくる擬似生命に魔法の適性を与え、ついでのようにいろんなスキルまで付与していく。
効果があるかはわからないけれど、やらないよりはマシだ。
あらゆる権能を持たせた擬似生命なんてまるでランカとリンクしてるステラみたいだけど、ランカよりも遥かに多くのMPを持っているので様々な能力を付与してもなかなか使い切れない。
「くうぅぅぅぅっ!」
本来ならこんなに気合いを入れて発動するようなスキルではないのに、膨大なMPを全て使い尽くしての擬似生命創造は思ったよりも体に負担がかかるらしい。
私自身のMPだけでなく神気までもがどんどん消耗していき、一つの生命を一から作り上げようとしているのだ。
失ったばかりの肉体を人形にするでもなく、少しずつ私の魔力に馴染ませた魔石で眷属を生み出すでもない。
永遠に続くかと思ってしまうほどの切迫感に押し潰されそうになりながらスキルを使い続けていた。
しかし、私にも限界というのはある。
MPはkの表示が消え、神気すらまるでガス欠のエンジンみたいに断続的にしか放出出来なくなってきた。
意識も朦朧とし始め、魔渇卒倒の一歩手前まで来ている証拠だった。
「や、ばい……かな……?」
「セシル! もうちょっとなのだ!」
遠くでメルが叫ぶ声が聞こえる。
もうちょっとって、それがどれほど大変か……。
「ユーニャもミルリファーナもステラもリーラインもチェリーツィアも、眷属達もセシルを待ってるのだ!」
「……っ! そ、うね……だったら……だったらいっそ限界までぶっ飛ばしてあげるよ! レジェンドスキル『限界突破』!」
初めて使うスキルではあるけれど、チェリーとエイガンも使っていたからどんなものかはわかっている。
けど、ここまで来たらもう後には引けない。
ほぼ力を使い果たしていたはずなのに、体の奥底から溢れてくる力が金色の波動となって全身を覆い尽くした。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
叫ぶことで自身を奮い立たせ、尚も力の限りを尽くしていく。
力を使い果たし、限界を超え、一つの命を作り出そうと足掻く私はこの時、確かに神の領域へと間違い無く踏み入れた。
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