第485話 金竜王
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セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!
「ホンマ、感謝しとる。宰相はメッチャ怒っとったけど、ウチからしたら感謝しかあらへん。この通りや」
テーブルを挟んだ反対側で手をつき大きく頭を下げるヒマリさん。
それこそ額がテーブルについてしまっているくらいに。
「そんなこと止めてください。私は約束を果たしただけなんで」
「セシルはん……けど、まさかこないに早う全部片付けるとは思わへんかったわ」
「そこはホラ、私だし?」
「……ぷ……あひゃひゃひゃひゃっ! せやな! さすがセシルはんやな!」
念願のアイカとの再会も果たしたヒマリさんはとにかく楽しそうだった。
数百年続いていた隣国同士の戦争も終わったし、目障りだった新人魔王もいなくなった。
これで彼女を悩ませるものは何もないはず。
「はんっ、ウチからしたら騙されて連れてこられたようなもんや。セシルもオカンも楽しそうで良かったなぁ」
一人拗ねているのは私に強制連行されてきたアイカだ。
さすがにヒマリさんの隣にいるのは気まずいのか、今は私の隣でチビチビとお茶を啜っている。
「こらアイカ。セシルはんには今も十分世話んなっとるんやろ? そないな口の効き方があるか」
「そんなんウチの勝手や。なんなら別にウチは出てったってかまへんのやし」
あぁ、まずい。
こういう口喧嘩が元で変な意地を張ることになるのがアイカの悪い癖だ。
私に悪いところがなかったわけではないし、ここは私から謝って話を変えておいた方がいい。
「ごめんねアイカ。余計なお世話なのはわかってたんだけど、ちょっと羨ましくて」
「余計なお世話やわかっとったんなら放っといてくれてえぇねん。……まぁセシルの事情も知っとるし、もうえぇわ」
ぷいと顔を背けたアイカは多分私が謝ったのはこれ以上険悪な雰囲気にならないようにした意図もわかっていると思う。
それでもちゃんと「もういい」と言ってくれるあたりが彼女の優しいところで私は大好きだったりする。
「けどセシルはん、お母さん亡くなってもうてるんやろ? もし甘えたなったら遠慮せんとウチのとこ来てえぇんやで?」
「あはは……もし本当に甘えたくなったらそうするよ」
そんな日は来ないだろうけど。
なんだかんだ言って甘えたくなったらパートナー達にべったりするし。
「そないなこと言ってもセシルが甘えるわけないやろ。こいつ、世界でも稀に見る女たらしやねん」
「ちょっと、誤解を招くようなこと言わないでよ」
「何が誤解やねん。今何人奥さん抱えとんのかわかっとるんか?」
「そりゃ……まぁ、五人、だけど……」
「あと何人増えるか見ものやな」
返す言葉もございません。
「えぇことやん。強いもんが多くの女を侍らすのは当たり前のことや。まぁ女が女を侍らすんは珍しいけどな」
カラカラと笑う親子に私は孤立無援で小さくなるばかりだった。
「んで、ウチをここに連れてきたんはホンマにオカンと会わせるためなんか?」
雑談が一段落したところでアイカはカップの中のお茶を飲み干した。
近くに控えていた執事らしき高齢の男性がおかわりを注いで離れていく。
「違うよ。この大陸にあったヴォルガロンデの研究所が錬金術関連っぽかったからアイカを連れていこうと思って」
「ほぉん? そら面白そうやな。ほな早速……」
「いや、ちょっと待って。その前に」
すぐにでも出発したいアイカは腰を浮かせたけれど、私は手のひらを突き出してそれを制した。
「ヒマリさん、この大陸の竜王ってどこにいるの?」
「おん? なんでそないなこと知りたいん?」
ヴォルガロンデの研究所も階の鍵も見つけた今となっては竜王に会うこと自体あまり必要のないことではある。
ただ今までの大陸で竜王に会ってきたのにこの大陸だけスルーするのも申し訳ない。
「あまり意味はないけど……ただ会ってみたくて」
「別に竜王に会ったかて強くなれるわけでも何や強い武器が貰えるわけでもあらへんよ? 戦ってみたいとかならもっと無駄でウチより弱いしな」
ヒマリさんより強い相手なんてこの世界にあと何人いることか。
ゼレディールはそりゃもの凄い強さだったけど、ヴォルガロンデの関係者を除けば多分いないんじゃないかな?
「ほんとに、ただ会ってみたいだけだよ」
「ほぉん……まぁ、そこにおるけどな?」
「へ?」
ヒマリさんの予想外過ぎる答えと、彼女の指差す方向を見て私の口から間抜けな声が出てしまった。
そして、その指が示す先にいたのは……先程の老執事がいた。
「ヒマリ殿、いきなりバラさないでいただけますかな?」
「別にえぇやん。セシルはんがアンタをどうこうするつもりがないことくらいわかるやろ」
やれやれと大きな溜め息をついた老執事はふわりと片腕を振るうとその体に白い煙を纏い、次に現れた時には煌びやかな金色の衣に身を包んだ青年が立っていた。
だがただの青年ではなく、見た目では判断出来ない圧迫感を持ち縦に開いた瞳孔と頭には短いながらも鹿に似た角が生えている。
「改めて。私は金竜王。この大陸の竜王をしている」
「……派手な服やな……」
アイカ、第一声がそれなのはどうかと思うよ。
私だってそう思ったけど言わないように我慢してたのに。
「名をアウルーオルールと言う。覚えおく必要はないがな」
「ご、丁寧に……ありがとうございます。私は……」
「既に存じている。ヒマリ殿からも聞いておるし、白竜王達からも話を聞いた。セシル殿、今更私と話したところで本当に実りのあることなど何もないのだぞ?」
やっぱり私のことは筒抜けみたいだね。竜王達独自の通信が出来るのかは知らないけど、今のところは知られて困るようなことはない。
本当にただ会っておきたかっただけで用事は何もない。
しいて言えば。
「なんでヒマリさんと一緒にいたの?」
「私の無限に続く寿命の暇潰し、だな」
「それ言ったらウチの暇潰しも兼ねてっちゅうことになるんやけどな」
「……長く生きると、暇になるんだね……」
私も亜神になってしまった以上は寿命がないので今後二人と……いや他の竜王も含めて長い付き合いになるかもしれない。
「本当はいろいろ聞きたいことはあるけど、とりあえず他の竜王にも聞いてるから…この大陸で宝石が取れる場所教えて!」
そんな私の言葉に金竜王だけでなく、アイカとヒマリさんまでもが呆れたような顔をしていた。
アイカをヴォルガロンデの研究所へ連れて行った後、私は例によって一人で第四大陸で行動していた。
この大陸にはめぼしい宝石はないと言われたけれど、なんのなんの。
しっかりありましたとも、ダイヤモンド!
山ではなく平原のど真ん中で意識を集中しながら遥か地下へと魔力を進めていく。
ダイヤモンドは露天掘りも多いし、意外でもなんでもないけれど、本来ならこれらが地上に出てくるのは何千年も何万年も先のことになるはずだっただろう。
でも私は自分に与えられた能力を最大限使って手に入れます。
やりたいことをやりたいように生きるのが転生した私達の生き方だから。
「お? 捕まえ、たっ!」
まるで海で巨大魚を釣り上げるかのようにダイヤモンドの鉱床を引っ張り上げていく。
かなり深いところまで探っていたので、その場所の温度と圧力は凄まじいものだったと思う。
やがて大地から芽が出るように突き出てきた鉱床は私の背丈を遥かに超えて巨大な岩となって現れた。
「出てきた出てきた! うん、ダイヤモンドは原石でも嬉しいね!」
一人興奮している私だけど、実はさっきまでメルもいたのだ。
しかし。
「まぁたセシルの宝石採集なのだ? 付き合うのも良いがわっちは退屈なのだ。好きにやるのだ」
と言って消えてしまった。
別に一人が寂しいってわけじゃないし、宝石があるだけでも楽しいからメルのことはどうでもいい。
思考がそれてしまったけれど、引き続きダイヤモンドの一本釣りを続ける。
広大な平原の真ん中にいながら地下を探索しているので、一人ぽつんと立っているようにしか見えないだろうが、かなり集中して鉱脈を探っている。
さっきの一つだけでなく案外浅いところにも鉱脈があったりするのはマントルによって押し上げられたものだろう。
本来ならダイヤモンドはキンバーライトが入り込み、マントルの高温、高圧状態の炭素が一気に地表近くまで移動したものが発見される。
なので大陸プレートの移動とは関連がない比較的安定した内陸部で見つかることが多い。
まぁそこを私は力業で無理矢理地下から引っ張り出しているのだけど。
鉱床の一本釣りを繰り返しているうちに平原から突き出た巨大な岩は九つにもなっていた。
「だがっ、まだだっ! さっきから何かを感じるっ! 絶対、まだ何かの宝石があるに違いないっ!」
ダイヤモンドの鉱脈を探る内、更にその地下に極小さな、しかし確かな存在感を放つ何かを感じたのだ。
私が知っている宝石なら探査している段階で気付くけれど、そのどれにも当てはまらない。
ただ単に今まで出会ったことがない宝石なのか、それともこの世界独自のものなのかはわからないけれど、こんなに主張されたら何としてもでも手に入れたい!
「ううっ! くっ……ぬ、うううぅぅぅりゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
周辺地盤への影響など完全に無視して遥か地下から小さな鉱床を無理矢理地表へと引き上げる。
魔法の力で行っているこれも、実は結構な力仕事だったりするので、その鉱床が現れた時には肩で息をしていた。
「はあっ、はあっ、はあっ……やっと、出てきた……」
一体何の宝石なのか、岩の表面に出ているものをよく見てみるとそれは濃い藍色をした石であった。
一瞬ラピスラズリかとも思ったけれど、それなら私が知らないわけはないし、それにしては透明度もある。
そっと母岩から取り外して太陽に透かして観察さると、なんと中にまるで銀河を閉じ込めたようなインクルージョンがあり、しかもそれがゆっくりと動いてさえいた。まるで銀河系が回転するかのように!
「なんかすごい宝石見つけちゃった!」
私は一人興奮して加工前の原石を何度も見つめ、太陽に透かし、あまつさえ口付けしながら新たな宝石の発見を喜んでいた。
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