第484話 エイガン戦を終えて
コミカライズされました!
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セシルもユーニャもとっても可愛く描いてもらっています!
さあっと風が流れてエイガンだった砂山はサラサラと流れて荒野へと散っていった。
---オリジンスキル保持者同士の戦闘終了を確認しました---
---egg所有者同士の戦闘終了を確認しました---
---世界への破壊行為を阻止---
---オリジンスキル選択権を与えます---
---所持していたeggの所有権が移ります---
「ふうっ……終わった、ね」
エイガンが強敵だったわけじゃない。
面倒な相手でもない。
ただ、長年気になっていたことが一つ解決した。それだけのこと。
喉の奥に刺さった小骨とでも言いたいけれど、ステラの料理でそんなことが起こるはずもないので、毛先に出来た枝毛を切り落としたくらいのものか。
---オリジンスキル選択を開始します---
---勝利者セシル。オリジンスキルを選択してください---
空間隔離はこのオリジンスキルを選択しないと終わらない。
それに、eggの所有権も譲渡されたなら孵化出来るようになったはず。なので更にもう一つオリジンスキルを獲得しておく必要がある。
「さて。どうしようかなぁ……」
「折角選べる状況なのだ。自分が気になるものを選ぶのだ」
相談しようと思ってメルを呼び出しておいたけど、参考にならない話しかしないなら聞かなくていいかな?
メルは無視して表示されているオリジンスキルのリストに目を走らせていると一つの名前が目に留まった。
「あれ? 前もこれあったっけ?」
「なんなのだ? ウルカグアリー? 聞いたことがないのだ」
「何で前世一緒だったのに知らないのよ。ウルカグアリーっていうのはインカ帝国の神話に出てくる宝石と金属の神様だよ」
「……ガイアと同じなのだ?」
「全然違うよ。ガイアは地母神で大地の象徴。宝石は大地の恵みだけど、大地の象徴であるガイアは宝石だけじゃなく大地そのものを司ってるの。対してウルカグアリーは純粋に宝石と金属の神様なの」
宝石のことをいろいろ調べているうちに見つけただけで私も詳しいことはわかってないんだけど、『宝石の神様』というだけで私にとっては信仰の対象になる。
そんな熱弁をしていたせいか、今回選ばれたのはウルカグアリーで確定してしまった。
後悔はないけれど、他にどんなオリジンスキルがあったのか確認くらいはしたかったな。
「セシルにピッタリで良かったのだ。ついでにeggも孵化するのだ?」
「そうだね。ここまで来たらついでだし、やっちゃおう」
私がステータスを開きながらeggの孵化を承認するといつものアナウンスが流れてくる。
---eggの孵化が承認されました。オリジンスキルを付与します---
---オリジンスキル『イシュタル』を取得しました---
---eggの孵化を終了します---
イシュタルって、これまた随分有名な神様の名前が出てきたんだけど? 確かメソポタミア神話の神様で……アフロディーテと同じ神様なんじゃなかったっけ?
でも違う地域、違う名前であろうと同じ神様でも別に扱うってこともあるし……。
ってよく考えたらオリジンスキルなのであって神様を従えているわけじゃないから関係ないのかな?
「どのみちスキル鑑定出来ないし、また今度ユアちゃんに調べてもらうしかないね」
「アイカでもわかるのだ?」
「わかるけど、アイカは誤魔化したり嘘吐いたりするからユアちゃんの方が間違いないと思ってる」
ごめんねアイカ。
信頼してないわけじゃないんだよ?
でもダンジョンマスターは嘘がつけないから情報を正確に答えてくれる。欲しい時情報があるならダンジョンマスターの方が向いているというだけのこと。
---オリジンスキルの選択を確認しました---
---空間隔離を終了します---
オリジンスキルの選択とeggの孵化が終わったところで空間隔離も解除されて、私は眷属のみんなと合流した。
「お待たせ」
私が声をかけると十二人の眷属達は一斉に膝をついて頭を垂れた。
「我が君、ご無事で何よりでございます」
「セシーリア様のお力、改めて感服致しました」
みんなを代表してジョーカーとエースが顔を上げると、それぞれが私を讃えてくれる。
「ありがと。みんなも頑張ってくれたおかげだよ」
これでようやく本来の目的であるヴォルガロンデの研究所へ入ることが出来るね。
眷属達を褒めつつ、まずは一休みしようということになり久し振りに組み立て済のテントを取り出すことにした。
以前視察旅行に行った際に使っていた中がすごく広くなっているものである。
空間魔法で収納していたテントを出してすぐ中に入ると、私は備え付けてあるベッドに横になった。
眷属達も中に入ってきてみんな思い思いの場所に腰を下ろす。本来なら見張りで誰か外に置くのだろうけど、このテントには『祭壇』と同じ効果が施してあるのでよほどの悪意を持っていない限りは近付けない。
そんな悪意を持っていそうな相手は先程いなくなったばかりなので、この大陸ではあまり心配していない。
「失礼します」
ぼけっとしながらみんなの様子を見ていると、ラメルがベッドの側に座って私の手を取った。
何をするでもなく、ただ手を繋いだまま彼女は凪いだ海のように穏やかに微笑む。
「あら。じゃあお姉ちゃんもぉ」
少しの間そうしていると今度はプレリがやってきて私の頭を持ち上げると、その柔らかい太股に乗せてくれた。
「うふふ。セシルちゃん、お疲れ様」
「ありがと。でも二人もちゃんと休んでね?」
「私はご主人様とこうしているだけで十分休まりますから」
「私もよぉ」
本当かなぁ、と抗議したかったけれど、あまりに心地よかったので二人の好意に甘えることにして、しばらくの休息で体を休めるのだった。
エイガンとの戦いを終え、一時間くらい休憩した私達はそれからすぐにヴォルガロンデの研究所へと入っていった。
今度は入るのにどんな仕掛けがあるのかと身構えながら入り口まで行ってみると、エイガンでは開けられなかったであろう扉はあっさりと開いた。
理由がわからずに首を傾げたけれど、入れるならば問題はない。
しかしそれなりの広さがある研究所ではあるものの、中に入ったのは眷属達の半分。
ラメル、レーア、プレリ、イリゼ、ルージュとシアンの六人。
他はみんな研究所の入り口や扉の前で控えているとのこと。
理由は何となくわかるけど……この研究所は錬金術の工房も兼ねていたようで様々な素材や薬が置かれている。
だからこそすごく匂いがきつくて私も早めに出ていきたいと思う。
「これは……アイカが喜びそうだけど、私には何が何だかわからないし下手に動かしていいのかも判断つかないや」
「それならアイカをここに寄越せば良いのだ。……セシル、そこのテーブルの上に乗っているバングルを見るのだ」
アイカの話をしていたと思ったら突然話が変わったので、私もメルに言われるままテーブルの上に視線を流した。
ややくすんだ金色のバングル。平べったい無骨なデザインに、ワンポイントで小さなサファイアが入っているので全体的に落ち着いた雰囲気のある装飾品である。
恐らく男女どちらがみにつけても問題はないけれど、これは金ではなく真鍮で作られているので価値とはしてはほとんどないようなものだ。
「まさか、これ?」
「これが『階の鍵』なのだ」
まさかヴォルガロンデの研究所に置かれているとは思わなかったけれど、簡単に手に入るならそれが一番良い。
ここにはアイカを連れてやってくるのが一番良いと判断した私達は早々に研究所を後にすることとした。
そして研究所を出た私は眷属達を屋敷へと連れ帰り、屋敷の裏手にある離れへと足を向けた。
「おん? なんやセシル、戻っとったんか。何やオモロいモンでも……」
と何か言おうとしているアイカの腕を掴むとすぐにまた転移で第四大陸へと向かった。
そしてその先は当然。
「うえぇぇぇえぇぇぇぇぇんっ! アイカあぁぁぁぁあぁぁぁっ!」
「だあああぁぁあぁぁっ! もうっ、鬱陶しいわっ! セシルっ、覚えときやあぁぁぁぁっ!」
「はいはい。ちゃんと覚えておくから」
と、ヒマリさんの前に強制連行した。
執務室で仕事中だったけれど、お構いなしにやってきた私に対して警備に当たっていた騎士から凄い眼で睨まれたけれど、そんなの気にしないし親子の感動の再会に水を差しそうだったので物理的に執務室から退去いただいた。
そのことに対して宰相から一時間くらい小言を言われているけど、その分ヒマリさんとアイカの時間を取れたと思えば安いものだろう。
「聞いておるのですかな、ジュエルエース閣下!」
「はいはい勿論聞いてますって。でも陛下との約束でしたので」
「だからといって一国の王の前に前触れも無く突然やってくるなど暗殺を疑われても仕方ないのですぞ!」
「陛下にそんなこと出来るのなんて私以外にそうそういないし大丈夫じゃない?」
「ジュエルエース閣下に悪意がないことは存じていますが、貴女にも相応の立場による体面というものがあるでしょう!」
「いや、あんまり……自国ってわけじゃないし大陸も違うし……そもそもいつでも連れてきていいって話だったし?」
「だからそういう問題ではないと申し上げております! 良いですか?! 閣下の大公という立場は王家とほぼ同じだけの力があり……」
あぁ、この話聞くのももう四回目だよ。
やっぱりいきなり転移はやりすぎだったかなぁ?
でもさ、アイカを説得して連れていくのは絶対無理だと思うし。私もいろんな親子の形があるとは思っていたけれど、実はアイカも家出してから時間が長く過ぎたせいで顔を出し辛いってだけだったから無理矢理連れてきたのであって。
そろそろいい大人なんだからちゃんと考えなきゃと思うものの、衝動的にやっちゃった感は否めないね。
「聞いておるのですかな、ジュエルエース閣下!」
「はいっ! ちゃんと聞いてますってば」
おぉう……またこのループが始まるのかな。
「宰相、そこまでにせよ」
しかし長く続いていたお説教はすっかり落ち着いたヒマリさんがやってきたことでやっと終わりを迎えた。
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