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第482話 エイガンの能力

「ぐっ……ふうっ……」


 ぐちゃぐちゃの肉塊にしたはずのエイガンは驚異的な治癒力を見せ、まさかの完全回復してしまった。

 若干魔力の減少が見られるものの、決闘が始まる前とほとんど変わらないし私達レベルの戦いにおいては誤差範囲でしかない。


「私のことを散々言ってくれたけど、貴方こそ化け物ね。何をどうしたらあんな肉の塊になって生きていられるの」


 既に二度ほど勝ったと思えるほどの攻撃をしたというのにエイガンはまるで何事もなかったかのように立ち上がると、その整った顔を邪悪に歪めた。


「くくっ……ふはははっ。こいつは愉快だ。アルマリノ王国最強の貴様にもわからんことがあるのだな?」

「最強なのと物知りなのは関係ないでしょ」


 さっきくらいの攻撃なら何度でも出来るけれど、このままエイガンを倒せないまま続けるのも面倒臭い。

 何よりこんな男に苦戦するなんて失態は眷属達全員が見てる前で犯したくなかった。


「どうせオリジンスキルのおかげなんでしょ」

「オリジンスキル、か。くっ……ふ、ふははははっ! 違うな! 俺のこの力はオリジンスキルのものではない!」


 私が適当にカマをかけてみたらエイガンはそれをいとも簡単に否定してきた。


「貴様はやはり馬鹿だな。強さとは何も全てがオリジンスキルによるものではないっ! これは俺が手に入れた最強の力なのだ!」


 エイガンは右腕を曲げて大きな力こぶを私に見せつけた。上半身裸になっているためその身体がとても鍛え上げられたものだとよくわかる。

 私の身体は高いレベルとかスキルのせいであまり筋肉がついてるようには見えない。

 あと、筋肉は好きだけど相手がエイガンだと気持ち悪さの方が勝るというのは一つ学習したよ。


「貴様のように強力なスキルによる力とは違う、真の強者にだけ与えられた力なのだ!」

「……まぁ、私のことくらい好きに言っていいけどさ。でも、貴方だって私に攻撃出来なきゃ勝てないってことわかってる?」

「無論だ。さぁ……散々好きに殴ってくれた礼をしようじゃないかっ!」


 話が終わると同時にエイガンは強く踏み込んで私に接近してきた。

 思ったよりも早いけれど、それでもチェリーほどではない。


ガンッ


 力いっぱい振りかぶった拳を私の頭目掛けて振り下ろしてきた。

 エイガンの方が私よりも頭一つ高いので、その拳もそれなりの威力があったはず。

 それを私も同じように拳で受け止めてみると、やはり力もチェリーほどはないしユーニャと比べたら大人と子どもくらい差がある。


「ならばこれでどうだ!」


 ぶつかり合っている拳から強い冷気を感じたと思ったらピキピキと音を立てて私の腕に氷が貼り付いてきた。

 エイガンが一番得意としている氷魔法であり、さすがに先ほど見せられた炎魔法に比べると威力は高いが……。


「ミルルの魔法の半分以下だね」


 エイガンの魔力では私の腕に氷を貼り付かせるくらいで腕自体を凍り付かせるほどのものではない。


「せめてこのくらいはしてほしいね。新奇魔法 極獄凍流波(コキュートス)!」


バキバキバキバキ


 私の魔法が放たれるとエイガンの腕は瞬時に凍り付き、その身体もまるで氷に蝕まれるように冷たくなっていく。


ガコン


 やがて全身を凍り付かせたエイガンは身体が半分に割れて地面に落ちた。

 これで終わってくれればいいけど。

 しかし私の甘い希望はやはりエイガンの驚異的な治癒力によって打ち砕かれてしまう。

 彼の身体は氷の中から肉が盛り上がるようにして膨らむと徐々にその身体を元通りにしていく。


「……相変わらず、化け物のような力だな」

「氷付けにされても復活するような本物の化け物には言われたくないね」

「黙れえっ!」


 ほとんど全裸同然になったエイガンは右手を突き出したかと思うと、その手のひらがぱっくりと開いて何かの液体を吐き出した。


「きたなっ?!」


 予想外の攻撃ではあったものの、エイガンの吐き出した汚物を避けるとさっきまで私が立っていた地面が妙な煙を出しながらドロドロと溶けていった。

 僅かに流れてきた臭いからして相当酷い臭いなのは間違いないけれど、それだけではなく何かしらの毒を含んでいるようだ。


「本格的に人間じゃないね」

「貴様にだけは言われたくはないがなっ!」


 エイガンは続けて手のひらから汚物を吐き出して私に当てようとしているけれど、さすがにあんなに汚いものを受け止める気にはなれない。

 毒は無効に出来るけれど、酸がかかったら私の身に着けている宝石にどんな被害が出るかわからない。

 もし表面に僅かでも曇りが起きようものなら泣くよ?


(セシル! わかったのだ! 奴の使っている攻撃はこの大陸にいる魔物のものなのだ!)


 必死にエイガンの攻撃を避けていた私に突然メルからの声が響いた。


(魔物? エイガンは魔物なの?)

(似てはいるけど違うのだ。奴は魔喰族なのだ。魔喰族は喰らった相手の能力を奪う種族で世界に十人もいないのだ)


 なんでそんな災害みたいな種族がいるのよ。

 というか、それだけじゃエイガンが不死身であることの説明がつかない。


「ちいっ! ちょこまかと避けおって!」


ばしゅっ


 毒攻撃が当たらないことをようやく理解したのか、今度は指を鋭い棘にして撃ってきた。

 その棘を両手の短剣で簡単に撃ち落としていくもエイガンは懲りずに撃ち続けている。


(しかも奴は恐らく『スキル強奪』も持っているのだ)

(えぇっ?! って、私よりレベルが高いってことはないだろうから奪われることはない?)

(だがそうやって魔物や人間から奪ったスキルやらeggやらで強くなったと考えるのが妥当なのだ)

(……弱者を食い物にするエイガンらしい種族とスキルだね)


 メルのおかげでエイガンの能力はわかったけれど、それでも不死身の説明はつかないし倒し方もわからない。

 さて、これ以上どうしたものかな。


(奴の不死身はバグスライムの『無限再生』という魔物特有スキルのせいなのだ)

(それで、結局どうやって倒したらいいの?)


 メルと話しながらもエイガンの攻撃は続いている。

 今は剣に電撃を纏いながら打ち込んできており、私はそれを丁寧に短剣でさばいていた。

 これも恐らくは第四大陸にいるサンダーシープという電撃を使う羊型の魔物の能力だろう。


「はああぁぁぁぁっ!」


ガキィィィィィン


 エイガンから打ち込まれた剣を右の短剣一本で受け止める。

 剣と短剣が常に接触する形となってしまったためにそこから私の身体に電気が流れ込んできた。

 高ランク冒険者でさえ即死レベルの強力な電撃ではあるものの、私なら耐えられないものでないが。

 ないけれど。


「くっ……いちちちちちっ!」


 痛いものは痛い!


「……これだけの電撃を、痛い、だけで済ませるのはさすがとしか言いようがないなっ」


 キン、と音を立ててエイガンが私から剣と一緒に身体を引いた。


「身体への負担が大きいから、なるべく使いたくはなかったが……仕方あるまい! 魔人化!」


 どうやらエイガンはまだ魔人化を使っていなかったらしい。

 あのスキル自体は貴族院での決闘時点でも使っていたから不思議じゃないけど、負担が大きいとはどういうことだろうか。

 首を傾げて彼の動作を見ていると、次の瞬間には私の目の前で剣を横薙ぎにしている姿が映った。


「はっ?! ちょっ!」


 思った以上のスピードだったために驚いてしまい、必死に身体を後ろに下げながら結界魔法で壁を作って剣の軌道を逸らしていく。

 パリンパリンと剛柔堅壁(イクストルデ)が砕けていくが、完全に逸らすことまでは出来そうにない。


「くっ!」


ガキィン


 迫る刃に対して咄嗟に短剣で受け止めたが、本当にギリギリであったために魔闘術などで強化出来ていなかった。

 だからその刀身には大きな亀裂が入ってしまい、今にも壊れてしまいそうになっている。


「……これクドーに謝らなきゃなぁ……」


 こんな使い方したなんて言ったら多分怒られちゃうけど、やってしまったものは仕方ない。


「剣を失ったか。どうやら勝負は見えてきたようだな?」

「……何言ってるの? 貴方相手に剣なんていらないよ」


 さすがにやや強がりであることは否めないけれど、本当に剣が無いと勝てないとは思っていない。

 ただエイガンの能力を何とか出来れば、という条件はついてくる。


(で、結局エイガンの能力を何とかする方法ってないの?)

(一番確実なのは一瞬で塵にしてしまえば良いのだ。だがさすがに今のセシルでもそこまで火力のある攻撃はないのだ)

(駄目じゃんか)

(いい加減真面目に最大火力を出せる攻撃を編み出すのだ。それ以外ならばオリジンスキルを含めた暗黒魔法しかないのだ)


 オリジンスキル?

 そういえば私のオリジンスキルってメルクリウスとガイアは頻繁に使うけど、それ以外はあまり意識したことがない。

 アフロディーテは『魅了』スキルの強化版と発情の状態異常を耐性を無視して自分と他人に与える。

 セミラミスは私のレベルが上がるほど、宝石を集めるほど、恋人やパートナーが出来るほどにより多く得られるようになるという神の祝福『経験値1000倍』をより強力にするような能力。

 そしてセクメトは命を作り、奪う。

 なんでセメクトが私の欲望を表しているのかはわからない面もあるけど、この力のおかげで眷属達により人間的な感情や強い力を与えられているとすれば感謝しかないね。

 そして、今ここでは多分凄く役に立つ。


「貴様の強がりなどお見通しだが……よかろう。無様に大地に転がったところを、そこにいる眷属どもに見せつけてやる」

「私は残念だよ。貴方がどんなに醜く命乞いするのか見せられる相手がいなくてね」


 さっきノアが回収していったミネルダはまだ気絶しているため、それは叶わない。

 けど、今回は命乞いなんてしてる暇があればいいね?


「相変わらずっ……よく回る口だなあっ!」


 エイガンはまたも大きく剣を振りかぶって斬り下ろしてきた。

 まずは調子に乗ってるところを何とかしてあげなきゃかな。


「戦帝化!」


---レジェンドスキル「戦帝化」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---


 都合良く聞こえてきた声に口角が自然と上がる。

 さぁ、一気に終わらせよう!

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― 新着の感想 ―
>一番確実なのは一瞬で塵にしてしまえば良いのだ  可能なら1番楽なのは、超重力をいくつか生成して、それによって引き千切って欠片を押し潰してすり潰す。  逆に囲むように超斥力で中心に集まるよう弾いて、…
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