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第36話 皆さん揃って自己紹介

8/5 題名追加

 部屋に腰ベルトだけ置いてきた私はファムさんに連れられて領主様の執務室へ向かっていた。

 屋敷だけどエントランスと違いこの一角にはカーペットが敷いてある。土足で通るんだから汚れが大変なことになりそうなものだけど、それを綺麗にするのがメイドさん達の仕事ってことなのかね。私だけが気にしても仕方ないのだろうけど自分の靴に洗浄(ウォッシュ)を使って汚れを落としてから歩いている。

 私が特異魔法を使ったところを見たファムさんは口に手を当ててとても上品に驚いていたけど追及するようなことも無く落ち着いて先導してくれている。

 廊下を歩いてしばらくすると両開きの重厚な扉があり、そこで立ち止まるとファムさんはノックをしてから扉を開いた。


「旦那様、セシル様をお連れ致しました」

「あぁ、待っていたよ。入ってくれ」


 促されるまま中に入ると執務机に座った領主様とその隣に控えているクラトスさんともう一人クラトスさんによく似た青年が立っている。クラトスさんが白髪をオールバックにしているのに対し、もう一人の男性は紺色の長髪で後ろに束ねていて前髪もしっかりとセットされている。二人ともしっかりとした身嗜みで出来る男の雰囲気がすごい。前世の職場にもいた成績トップの営業さんに雰囲気が似ている。結局ほとんど話したことなかったけど。

 その二人以外にも応接セットのソファに腰掛けているのが村からベオファウムに来るまで同行していた騎士団の団長ゼグディナスさんとリードだ。


「ここにいるのが今我が家に仕えてくれている使用人達のそれぞれの取り纏め役達だ」

「私は先ほどご挨拶致しましたな。執事のクラトス・フェンレインでございます。屋敷内のメイド達の取り纏めと旦那様の身の回りのお世話をしております。もし何か不都合が御座いましたら遠慮無くお申し出ください」


 クラトスさんはそう言いながら入口ドアの脇に控えているファムさんにチラリと視線を向けた。その視線を受け取った彼女は困るんじゃないかと思っていたが、全く動揺することなく綺麗な姿勢で立っている。存在を感じさせないところといい、かなりの教育を施されたプロなのだろう。


「私は領内の政治関係を取り仕切っているナージュ・フェンレインだ。後でリードルディ様の授業スケジュールについて話をする」

「セシルです。わかりました、お願いします。ところで、フェンレインということは?」

「はい、ナージュはこのクラトスの息子にございますよ。この通り無愛想な男ですので執事として仕えることは出来ませんでしたが頭が良く、ここで高位文官として一緒に仕えさせていただいております」


 私の質問にナージュさんはむすっとした顔のまま特に答えることなく腕を組んで目を閉じたままだったので代わりにクラトスさんが答えてくれた。しかし似てるのは外見だけで中身は全然似ても似つかないね。クール系イケメンであることは間違いないけどもう少しくらい愛想良くしないといろんな勘違いが生まれそうな人だった。


「俺のことはもう解ってるだろうが、改めて紹介させてくれ。このクアバーデス領騎士団の団長をしているゼグディナス・レグルスだ。領内の見回り、魔物退治、領主様の護衛が主な任務となっている。よろしくな!」

「はい、私も改めましてセシルです。今後ともよろしくお願いします」


 ゼグディナスさんはガッチリとした筋肉で覆われた大柄な人で明るい茶髪を短く刈っているスポーツマンタイプの男性だ。2メテルはある身長とよく鍛えられた筋肉のせいで近くにいるだけですごい圧迫感を感じる。でもすごく爽やかで、それでいてちょっと熱血気味なところがあるとっても良い人だ。

 道中でも何度か話をしたけど子ども扱いされること以外は嫌なところが全く無かった。そもそも子どもの姿なんだからそういう扱いをされるのは仕方ないけどね。


「とまぁ、以上が主だったメンバーとなる。何かあればこの3人に相談するといい。ゼグス、疲れてるところ済まなかったな。もう戻っていいぞ」

「は。では失礼致します」


 領主様が右手を軽く上げてゼグディナスさんに退室を促すと彼は素早く立ち上がり敬礼してから静かに退室していった。確かに彼はずっと馬で馬車に併走しており村で宿泊している時も警備のため交代で夜間も待機していたはずなので相当に負担を掛けてしまっているはずだ。領主様は優しいね。


「さてそれではナージュ、セシルにスケジュール等の話をしてやってくれ」

「はい。ではセシルにはこれからリードルディ様の武術に関する家庭教師をしていただきます」

「武術の?だけでいいの?」

「…続きを話しても?」

「あ、すみません」


 めっちゃ睨まれた…。そんなに怒らなくてもいいのにね。


「今君も聞かれた通り、最初は武術だけの予定だ。現在リードルディ様には4人の家庭教師がついています。君が担当する武術、最近始まった魔法、それと歴史や地理など座学、間もなく控えている社交デビューに合わせて礼儀作法。この4つだ」


 おぉ、なんかとっても大変そうだ。


「君は闇の日の朝食後から4の鐘が鳴るまでの間に武術の教師をしてもらうことになる」

「…えっと、すみません。4の鐘とはなんでしょうか?」

「…君はそんなことも…」

「ナージュ、彼女のいた村には鐘など無い。時刻を知る術はないのだ」

「…失礼した。この街では1刻毎に時計塔の鐘が鳴る。朝の2刻は2回、昼の4刻は4回だ。それぞれ2の鐘、4の鐘と呼称している」


 なるほど、この街には時計塔があるんだね。これでちょこちょこ自分を鑑定して時間を見る必要は無くなるかな。…いや、細かい時刻を見るために結局鑑定は使うだろう。

 それと鐘の話の前に言われた闇の日と言うのは曜日のようなもので、魔法の属性に沿って闇火水風地光の6曜が順で回っている。1週間は6日間で5週で1か月となる。


「わかりました。授業の内容は私に一任していただくということでよろしいでしょうか」

「それは任せることになる。が、あまりお怪我などさせないように。リードルディ様は次期領主となられるお方で…」

「死なない程度にならやってくれて構わんぞ。こいつの性根を鍛えてやれ」

「と、父様?!セ、セシルにそんなこと言うと…」

「わかりました、痛いの嫌だったら頑張って強くなってくださいね。リードルディ様?」


 私はリードに向けて花が咲きそうな笑顔を向けてあげた。あ、いや。自分の後ろに花が咲くようなエフェクトが出たら嫌なのでただ明るく笑いかけただけです。


「ザイオルディ様…。コホン。では続いて条件についての話をしよう。既に聞いてるだろうが、君にはこの領主館に住み込みで家庭教師をしてもらう。その間の食事や身の回りのことはこちらで対応する。また手当として毎月最初の闇の日に給金を渡す。額は金貨5枚とする」


 …え?金貨5枚?銅貨が一枚10円くらいのはずだから金貨だと…50万円!?前世の私の給料の倍以上あるんですけど!


「えっと…その金額は…適正なのでしょうか?」

「ふむ、さすがに安くしすぎたか。ナージュ、もう少し上げてやれ」

「かしこまりました。では…」

「いやいやいやいやいや!十分です!住むところもご飯も出るのにこれ以上貰えません!」


 あっさり給料を上げようとしてくるので私は急いで止めに入った。敬語ができてなかったけどこの際気にしない。いや気に出来なかった。そんな大金貰ったら心臓に悪すぎる。


「良いのか?確かに住み込みではあるが他の家庭教師に比べると大分安いのだが」

「じゅ・う・ぶ・ん・で・す」


 ナージュさんが確認してくるが私としては断固これ以上貰うつもりはない。

 お金はあって困るものじゃないかもしれないけど、一番人がダメになってしまう元だからね。もう少しお金に慣れるまではそこまで持ちたくはない。


「それと闇の日の授業以外は自由にしてもらって結構。図書館で勉強するもよし、街に出てもよし、敷地内で自己鍛錬に励むもよし。無論街で冒険者登録等をしても構わないが、闇の日の授業だけは必ず行うように。後は何か質問等はあるか?」

「いえ。しかし本当に武術だけでいいのでしょうか?」

「とりあえず、な。しばらく様子見だと思ってくれ」


 領主様は以前村長宅で見せた悪戯っぽい笑顔を浮かべているが隣から「旦那様」とクラトスさんから声を掛けられて顔を引き締めた。


「わかりました。それじゃ折角なので私も勉強したり街に出たりさせてもらいます」

「あぁ、あの村にいたのでは知らなかったこともいろいろあるだろう。しっかり学ぶと良い」


 領主様はそう言うと今度は本当に嬉しそうな顔で微笑んでくれた。ひょっとしたら私に時間を持たせることでいろいろ勉強させようとしてるのかもしれない。それなら時間を無駄にしないためにも私もしっかり勉強させてもらうことにしよう。


「それとクラトス。セシルにこの屋敷に入るに当たって相応しい服を用意させろ。いくらなんでもここまで村人然とした恰好のままでは不味かろう?」

「承知致しました。ファム、よろしいですね?セシル様の採寸と合わせて明日中に手配を済ませるようになさい」

「畏まりました。後ほどセシル様にはお時間頂戴したく存じます」


 なんか相変わらず私抜きでどんどん話が進んでいくね。別にいいけどさ。

 それに新しい服が着れるならそれも良いよね!私だって女の子なんだから少しくらいは可愛い服着たいしね。

 労働条件についての話や服の話、館内での食事や入浴(お風呂がある!)の話をしているとかなりの時間が経過していた。しかしこれで一通りの話は終わったので、あとは慣れていくだけだろう。

 新しい生活に胸を膨らませていると…うん、本当に膨らんで欲しい。

 そんな時突然ノックも無しにドアが開いて一人の男性が入ってきた。


「お、オスカーロ先生…?」


 今まで完全にソファの上の置物状態だったリードが教えてくれた。

 彼はオスカーロというらしい。

 で?何事なのよ?

今日もありがとうございました。

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