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閑話 ステラのとある一日 中編

GW連続投稿中です!

 ランディルナ家では朝食と昼食は個人でバラバラなのですが、夕食だけは皆さん揃ってくださいます。

 セシーリア様曰く、「朝が弱い人とか夜更かししちゃう人がいるのは仕方ない」のだそうです。

 セシーリア様もたまに地下室でかなり夜遅くまで籠ってらっしゃいますしね。昨夜は早めに切り上げてらっしゃいましたが、あんなにずっと…おっと、私は何も見てませんよ。

 ディッカルト様の食器を下げ、皆さまは食後のお茶だったりお酒だったりと思い思いに過ごしております。

 歓談されている間に私は食器を食洗機に入れておき、食堂の隅に控えます。

 そしてそれと同時に地下の巨大魔石に接続して浴場の湯舟に湯を張るようにしておきます。


「ねぇアイカさん。冒険者向けの解毒薬が少し多めに入用(いりよう)なんだけどお願いできる?」

「なんや? 体力回復用のポーションやのうて解毒薬が多めなんて珍しいなぁ?」


 アイカ様は自前で用意したお酒を小さなショットグラスに注いで小気味良く煽ってらっしゃいます。

 いつも露出度の高い服をお召しになっており、部屋では様々な薬品を調合したり魔道具の製作をしているはずです。独特の話し方をされているのでたまに何を仰ってるのかわかりかねるのが困りものです。


「町に出た時に耳にしたな。確かエビルトードが大量発生したんだったか」

「そうそう。Cランクの依頼なんだけど、あまりにもいっぱいいるからほとんどのCランク冒険者が掛かり切りなんだって。けど毒液飛ばしてくるし、引っ掛かれたり、噛まれたりだけじゃなくて触るだけでも毒がうつっちゃうんだって」

「あぁ…そういや四十年前くらいにもそないなことあったなぁ。ほんなら明日の朝までに二百本くらい用意しといたるわ」

「ありがと、助かるよ」

「ならば弓を使う者も多いだろう。俺も矢を用意しておいてやるから持っていけ」


 クドー様もアイカ様が用意されたお酒を飲んでいます。

 二人ともかなり強いお酒を飲んでいるのにこれから一の鐘が鳴るくらいまでは平気で作業なさいます。

 お二人ともセシーリア様の大切なご友人であり、冒険者としての仲間なのだそうです。セシーリア様にパーティを組むならこの二人以外はあり得ないと言わしめるほどの猛者らしいのですが、あまり強そうには見えません。

 ですが穏やかに微笑むユーニャ様もAランク冒険者に匹敵するほどの強さであると聞いています。あの方がずっと着けているガントレットはセシーリア様の魔石の効果もあって成人男性十人分くらいの重さがあるそうで、それを着けていないとあまりの怪力に何も手に出来ないのだとか。

 今も軽々しく持っている紅茶のカップはアダマンタイト製で魔石を操作して重さを変えないことには持つことすら出来ません。

 とは言え、最も強そうに見えないのはセシーリア様でしょうか。

 見た目だけで言えば女神のように美しく、眼差しは月光のように柔らかで…ではなく。貴族の令嬢にしか見えませんが、世界中でも数少ないSランク冒険者で十万もの魔物の群れを単独で殲滅せしめるほどの戦闘能力を有しているそうです。

 初めてお会いした際に見せられた魔法には本当に驚きました。

 精霊である私を消滅させられるほどの魔力を込めた魔法を平然と手にしていましたから。


「僕そろそろ部屋に戻るね」

「うん、おやすみディック。魔道具作りもほどほどにね」

「ねえね、それは無理」


 紅茶を一杯だけ飲んだディッカルト様は一足先に自室へと戻られました。

 セシーリア様の血を分けた弟であり、唯一の肉親でもあるディッカルト様は年齢以上に幼いところがありますが魔道具作りに関しては天才的な才能があるそうです。

 今はまだアイカ様やセシーリア様には及ばないそうですが、成人するまでには間違いなく上回るほどの頭脳を持っているのだとか。

 本当に人は見掛けによりませんね。

 うん? どうやらお風呂の用意が出来たようですね。


「セシーリア様、浴場の用意が整いました」

「そっか…それじゃそろそろお風呂入ろうかな。ユーニャとアイカは?」

「ウチはこれからすぐ調合するさかい、夜中に入るわ」

「私もこれから帳簿つけちゃうから後にするよ」


 当然ながらクドー様に声は掛かりません。

 あの方はいつもアイカ様と一緒に浴場へ向かいますから。稀にセシーリア様とアイカ様が一緒に入浴する際は夜中に一人湯舟に浸かりながら晩酌してらっしゃるのを知っています。

 アイカ様と一緒に入ってる時は当然ながら…えぇ、本当に獣のようですよ。お二人とも。

 あぁでも今この部屋にいる本当の意味での『人間』はユーニャ様だけでしたか。


「セシーリア様、お着換えはご用意しておきますのでお向かい下さい」


 私が促すとセシーリア様はお一人で浴場へと向かいました。

 しばらく間を置いてから脱衣室へ入るとセシーリア様が着ていた服が籠の中に入っているのを見つけそのまま洗濯乾燥機へと持っていきます。これは現在三台用意していただいており、一つがセシーリア様専用。もう一つがアイカ様やユーニャ様用。そしてそれ以外の人達ということになります。

 セシーリア様の服を他の者達の服と一緒に洗うなど不敬も良いところですからね。

 籠の中身を洗濯乾燥機に入れていくと最後に隠されたように下着が出てきました。基本的にセシーリア様は自身で『洗浄(ウォッシュ)』を使い綺麗なまま洗濯に回されるのですが、これは脱ぎたてですのでまだ少し温かいです。しばらくそれを両手で包み込むように愛おしむと泣く泣く洗濯乾燥機に入れます。

 いくらセシーリア様を敬愛しているとは言え、使用人の一人でしかないので匂いを嗅いだり舐めたりなんてほとんどしませんから。


「ステラー?」

「っ?! はいっ、いかがなさいましたか?」


 セシーリア様に呼ばれ少しだけ声が裏返ってしまいました。

 大丈夫、動揺は隠せているはずです。


「タオル忘れちゃったから持ってきてくれるー?」

「はいっ! ただいまっ!」


 なんということでしょう。

 セシーリア様から望んで中に入って良いとお許しをいただけました。覗き見ならいつもしていますが直にお目にかかるのは初めてです。

 高鳴る心臓など私にはありませんが妙に身体が震えます。これが緊張というものでしょうか。

 そして恐る恐る浴場のドアを開けるとそこには一糸纏わぬセシーリア様が…。


「失礼致します。セシーリア様、どうぞお使い下さい」

「ありがとう」


 なんと神々しい…。

 このお姿はさすがの精霊女王すら裸足で逃げ出すに違いありません。

 鍛え抜かれた身体、余計な贅肉も筋肉もない均整の取れたスタイル。少し小振りながらも上向きに主張しているお胸。なんと言っても無駄に毛深いこともない美しい肌。

 私、あと千年はセシーリア様にお仕えしたいと本気で思います。


「ステラ? もういいよ? ごめんね仕事中に呼んじゃって」

「とんでもございません。セシーリア様の身の回りのことをするのが私の仕事ですので。…僭越ながらお背中を流させていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?」


 しまった。

 つい欲望が口をついて出てしまいました。

 これでは心の広いセシーリア様と言えど私を断罪してしまうかもしれません。


「じゃあお願いしてもいい? それなら私もステラの背中流すから一緒にお風呂入ろうよ」


 …神はいらっしゃいました。

 いえ、女神はセシーリア様でした。

 これこそ正に災い転じて福となす。

 決して動揺を悟られぬよう脱衣室へ戻り急いで服を脱ぎ始めます。

 が、どうしても脱げません! 何故っ?!

 …あ、私の服は魔力で作った物でしたね。イメージするだけで簡単に全裸になれます。

 服を散らした後、再び浴場へと入るとセシーリア様は既にお一人で身体を洗い始めておりました。

 出来れば全身洗って差し上げたかったのですが、元々平民だったセシーリア様は自分で出来ることは自分でしてしまいますから仕方ありません。


「お待たせ致しました」

「大丈夫だよ。じゃあステラ、背中洗ってくれる?」

「は、はい。畏まりました」


 いけません。動揺を隠そうにも隠し切れません。

 絹のよう? 玉のよう? いえそれ以上です。セシーリア様の肌はそれはそれは美しく、それこそ月光そのものと言えるでしょう。

 その柔らかい肌に石鹸を包んだタオルを当て、優しく擦り始めます。間違っても傷一つつけてしまわないように。


「んっ…」

「セッ、セシーリア様?! どこか痛かったでしょうか?!」

「ん、うぅん。気持ちいいよ。もう少し力入れてくれるとくすぐったくなくていいかな」

「か、畏まりました」


 言われた通り、さっきよりも力を入れて擦るとそのたびにセシーリア様は「んっ」「ふぁっ」「くぅ」などと声を上げられます。まずいです。私の理性がこの世界から飛んでいきそうです。アンデッドになっていた私と同じように襲い掛かってしまいそうです。別の意味で。

 しかしそんな至福の時間も長くは続きませんでした。


「も、もういいよ。じゃあ今度は私が洗って…」


 私の手を払いのけるようにこちらを振り向いたセシーリア様はピタリと動きを止めてしまいました。

 背中を流せなくて残念ですが、至近距離からセシーリア様の裸体を拝見出来て幸せです。泡で見えなくなっているところがまたたまりません。


「あの?」

「ステラって、スタイルいいんだね。いいなぁ…その胸」

「これ、ですか? 私のものよりセシーリア様のお胸の方が美しくて羨ましいです」


 確かに私の胸はユーニャ様と同じくらいありますからね。


「ま、まぁいいや。じゃあ前に座って」

「はい。…あの、本当に私のような使用人にセシーリア様自ら背中を流されるなどよろしいのでしょうか?」

「いいからいいから」


 そう言うとセシーリア様は自身の手に石鹸を持って手ずから私の背中に触れてマッサージするかのように洗い始めました。

 あの手で、直接、触れていただいているのです!

 これは何のご褒美でしょうか。毎日誠心誠意セシーリア様にお仕えしている褒美なのだとすれば、私は明日からも全力を注ぐつもりです。


「背中は終わりぃ。じゃあ…こっちもね!」

「はっ?! セシーリア様?!」


 突然セシーリア様は私の背中に抱きついて手を前に回して胸を洗い始めてしまいました。

 胸を触られていることなど大したことではありません。

 セシーリア様のお胸が私の背中に当たっているのです!

 ここが楽園でしたか。

 今日朽ち果ててしまうのだと言われても満足出来るほどの素晴らしい体験です。とても柔らかいです。


「むぅ…やっぱり大きい…。いいなぁ」

「わ、私のものを差し上げられるのでしたらいつでも喜んで差し出すのですが…申し訳ございません」

「あ、あはは…。ごめんね、悪ふざけが過ぎちゃった。さ、洗い終わったし湯船に入ろっか。『湯雨(シャワー)』」


 セシーリア様の魔法で泡を洗い流すとお互いの全てが灯りに照らされて目の当たりになります。そろそろ私は限界です。


「セシーリア様、私は先に出てお着替えの用意を致しますのでどうぞゆっくりお浸かり下さい」

「あぁ…そういえば仕事中に急に呼んだんだった。悪いけどお願いしてもいい?」

「はい。それではお先に失礼致します」


 セシーリア様に頭を下げて浴場から逃げ出すように飛び出すとすぐに魔力で服を着て脱衣室からも出ていきます。

 やはりこれ以上裸で側にいたら危険です。

 最早あの裸体は危険物です。

 ユーニャ様がいつもセシーリア様に熱の籠もった視線を向ける理由がわかった気がします。

今日も読んでくださってありがとうございました。

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