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第277話 商会立ち上げ

 まさかの事態に私の頭は混乱中です。

 現在応接室には私が上座に座り、隣にはステラとユーニャ。後ろにセドリックとミオラが控えている。

 そして右手側にはブリーチさん。左手側にはカンファさんが座っている。

 なんでこういう状況になっているのか思い出してもよくわかならいけど、商人を含めたいろんな話をまとめて済ませるのにこっちの方が都合がいいとユーニャに押し切られた形だった気がする。


「さて、それじゃ早速私の用事から話して構わないかな?」


 どう切り出そうか考えてる内にカンファさんから始めてしまった。まぁこういうところは年の功ってことでいいかな。


「…私が先に来てランディルナ伯と商談をしていたのですが…?」

「ははっ、ブリーチ君の商談は難航していたようだからね。私の話で一息ついてもらおうとしただけさ」

「…私は貴方よりも年上ですよ?」


 うわぁ…なんかいきなり険悪なムードなんだけど。

 というかブリーチさんってカンファさんより年上だったんだね。確かカンファさんは二十六のはずだから三十くらいなのかな。

 私が雰囲気の悪い部屋で頭を抱えていると隣にいるユーニャが一歩前に出た。


「みなさん、セシーリア様はこのような話を聞くためにお時間を割いてくださったわけではありません。努々お忘れなきよう」


 普段のにこやかなユーニャの顔ではなくあからさまに不快な様子を表情に出した彼女はなかなか凛々しい。

 うん、かなり格好いい。

 無骨なガントレットだけじゃなくてやっぱりいろいろと飾り付けた方がいいと思うよ。今度話してみよう。


「失礼しました。それでランディルナ伯、以前話しておりました件を覚えておいででしょうか」

「…以前?」

「はい、私が新たに商会を立ち上げるという話です」

「なっ?! ヴィンセント商会を出て独り立ちしようというのかっ?!」


 なんかブリーチさんが面倒くさい。

 もう追い返そうかなぁ。


「ブリーチ・モンド殿。今はカンファ・ヴィンセント殿が話しているところです」


 しかし私が何か言うよりも先にユーニャがあっさりと彼を制してしまった。

 すごく頼りになるね。


「そういえばそんな話があったな。しかしもう一年ほど先になる予定だったのでは?」

「はい。それはセシーリア様が『平民の冒険者のままだったら』ということです。至宝伯を叙爵された今では何の意味もありません」

「ふぅん…そんなもの?」

「セシーリア様」


 カンファさんと話している内につい元の口調が出そうになってしまい後ろにいるセドリックから苦言が入る。

 っていうかもう面倒くさい。

 だってここにいる人はみんな私の素を知ってるんだから、なんでいつまでもこんな茶番をしなきゃいけないの。


「やめやめ! もうここから普通に話すから! 堅っ苦しいの嫌いなんだよ」

「セシーリア様」

「私がいいって言ったらいいの!どうせ知らない仲じゃないんだから」


 そうしないと本音で話なんか出来ないからね!

 お金が絡むんだから身内で腹の探り合いしてても意味ないよ。


「ははっ。私はそういう『セシル』の方が親しみもあって好きだけどね。じゃあ早速本題に入るよ」


 カンファさんが私を『セシル』と呼んだことでステラやセドリックから少しだけ険のある気配がしたけど私が片手を上げると何事も無かったように引っ込めた。

 忠誠心高いのはいいけどやたらと好戦的なのは困るなぁ。


「それでだ。もう北大通りに良さそうな物件を抑えてあるから、後はセシルの権利を使わせてもらえばすぐにでも動けるんだ」

「私の権利?」

「『商会を立ち上げる際の登録料がかからない』『優先的に登録が進められる』『税は仕入れと販売にかかるのみで利益からは発生しない』の三つよ。その代わり、商会の看板にはランディルナ家の紋章を掲げる必要があるわ」


 私の疑問をユーニャがあっさりと答えてくれた。

 最近有能具合に拍車がかかってない?


「そんなことなら別に問題ないよ」

「但し問題があればそれはランディルナ家の問題として扱われることになるわ」

「問題なんて起こさないでしょ?」

「ある程度の問題ならこちらで対処するさ。どうにもならないことが起きた時は相談ということで」


 どうにもならない問題とか起こるのかな?

 カンファさんなら相手が大物貴族や王族でもうまく立ち回ってなんとかすると思う。

 彼の顔を見ると自信に満ち溢れた表情で今にも光り出すんじゃないかってくらい良い笑顔をしている。


「カンファさんに任せるよ。その代わり、自分で好きなように動ける以上は今まで以上に私のために動いてくれると思っていいよね?」

「勿論さ。セシルのために今後も働かせてもらうよ。仕入れに関してはセシルもよく知ってるカボスを引き抜いてやらせる予定だ」


 カボスさんか。あのおじさんからは何度も原石や小さなクズ石を買わせてもらったっけ。


「取り扱い商品に関しては任せるから、そのあたりはインギス……いや、ウチで雇っているモルモと話してくれる?」


 カンファさんから承諾の返事を貰ったところで紅茶を一口飲んだ。

 やれやれ、これで問題は解決かな。


「セシーリア様、ブリーチ・モンド殿の話を…」


 じゃなかった。

 すぐそこにいたのに存在をすっかり忘れてた。


「えっと…ウチに何か売りたいんだったっけ」

「は、はい…。ですが…カンファ・ヴィンセント殿がいるのであれば…」

「確かに私はヴィンセント商会の者だけど、新しい商会を立ち上げる以上はそこまで強い力があるわけじゃないよ。…尤も、ランディルナ家の威光はあるけどね」


 ふむ。

 さてどうしたものか。

 さっきも考えた通り、別に突っぱねても問題はない。けど元々ユーニャがの取引相手ということもあるし、出来れば何とかしたいところだけど…。


「セシーリア様。カンファ殿が商会を立ち上げるとなれば私もヴィンセント商会からは去らないといけません。ちょうど良いタイミングなので私も店を持とうかと思います」

「うん? ユーニャも? 確かカンファさんが貴族向けでユーニャは平民向けの店を開くって話だったよね?」

「はい。そしてそこで取り扱う商品の仕入れ先をモンド商会にしたいと思います」

「そっ、それは願ってもない! 勿論最大限協力、いやユーニャさんの力にならせてもらうよ!」


 ブリーチさんに行商がてらアルマリノ王国内のあちこちに行ってもらって、いろんな物を仕入れてユーニャのお店で売るようにすればそれだけでも利益は馬鹿にならないか…。

 うん、それなら有りだね。

 いくつか不安なところもあるけど、それを取引相手のブリーチさんに任せるのはさすがにちょっと怖いから、それさえ何とかなれば。

 いくら勉強してきたとはいえ、店の運営に関してはユーニャだって初めてだし納税に関するところも不安が残る。

 誰か経験があってうまく教えてくれるような人がいればいいんだけど……あ。


「よし、それじゃその方向でユーニャとブリーチさんも話を進めてくれる?」

「わかりました。それで…それぞれの店での取り扱い商品を決めておこうじゃないか」


 話を切り上げようとした私にカンファさんが追加の議題を出してきた。

 出来れば早い内にモルモと相談したかったけど、それは決めておくに越したことはない。そうしないと準備の方向性も定まらないからね。

 その後の話し合いでカンファさんとユーニャの店の利益から三割が私に入ることが決定したけど、この時はそれがどれほどの金額になるか全くわかってなかったのである。

 そしてカンファさんの店には貴族向けの魔道具と一部の装飾品を。ユーニャの店には平民向けの魔道具やブリーチさんが行商で仕入れてきた商品を置くことになり、その作成に私とアイカ、ディックがしばらくの間掛かり切りになることもわかってなかった。アイカに至っては薬も置くことになったので私達以上に忙しくなるはずだけど…まぁ何とかしてくれるはずだ。何より彼女自身も調薬や錬金術、魔道具作りが好きみたいだしね。

 あ、ブリーチさんが持ってきた箱はいくつかパターンを考えてそれぞれの店で販売することになったよ。

 特に金属で作った職人用の道具箱とかかなり出来が良く、作った職人本人が愛用しているらしい。

 ちなみに魔法の鞄も販売する。

 貴族向けに装飾過多な鞄タイプと箱タイプ。容量によって金額に幅はあるものの、白金貨五十枚から聖金貨五枚のものまで。平民向けにほとんど鞄の容量と変わらないけど重さが無くなる程度のものから荷馬車二台程度のもので金貨一枚から白金貨三十枚まで。

 ブリーチさんには行商のため荷馬車十台分は入るものを渡しておいたのでかなり楽になるはずだ。


「ってところかな? 私の方もちょっとやることがあるから、魔法契約書とかはユーニャに任せるよ」

「承知しました」


 いつも通り『セシル』とも呼ばず、従者としての話し方をするユーニャがブリーチさんとカンファさんに会釈をするとセドリックに対して契約書の用意をするように頼んでいる。

 仕事の話をしている時のユーニャってすごく凛々しいなぁ…。有能な秘書って感じがする。水色の髪が冷静な雰囲気をより醸し出してるからかもしれないけど、五割増しくらいで美人に見える。

 それにしても今回話したことでわかったけど、この三人がいるだけでもうまくいきそうな感じがする。

 話をそこで切り上げた私はステラだけを連れて応接室を出ていき、もう一度文官の執務室へと足を運んだ。


「え……、私の両親を、ですか?」

「うん。少ない賃金で借金を返したりしてるんでしょ? 自分のお店を持つのとは違うけど、私とユーニャのために力を貸して貰えないかなって」


 私が声を掛けたのはモルモだ。

 彼女の両親は少ない賃金で働きながら借金を返し続けている。それならウチで雇って借金返済後はまた自分の店を持ってもらえばいい。そのくらいの力は貸してあげようじゃないか。

 モルモからは両親に手紙を出すと了承を貰ったのでそこに私が書いた手紙を同封させてもらった。

 これでモルモ一家もウチで働いてくれれば一気に問題解決だ。

 いいね。

 なんかすごく軌道に乗ってきた感じがするよ!

 

今日もありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] >なんかすごく軌道に乗ってきた感じがするよ!  ヒャッハーー! 新鮮なフラグだぁーっ!(錯乱)  この台詞が入るって事は、トラブル発生が確実になったフラグがビンビンに建った証拠だぜぇーっ…
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