第260話 オリジンスキル
最近更新忘れが多いので数回分予約しておくことにします…。
本当にすみません。
さて、私達の真ん中に黄色い玉がいます。
とても綺麗な黄色です。
多分真球です。
そこに顔だけ浮かんでいるのです…。とてもコミカルな顔で前世のケータイに入っていた顔文字にしか見えない。
ちなみに今の顔は『怒り2』くらいだと思う…。
「…なんやもう…ギャグを通り越してもうてて、笑うに笑えんのやけど…」
完全に絶句していた三人の中で立ち直りが早かったのはアイカだった。
突発的な事象に強いのは彼女の強みだよね。
「なんだと! 貴様! わっちのどこがギャグなのだ!」
「…いや、そないなこと言われても存在自体がギャグにしか見えへんやろ…」
アイカの言葉に追従するように何度もコクコクと首を縦に振る。
「セシル! 貴様までそれでどうちゅるのだ!」
更に怒りを増した黄色い玉は色をオレンジ色に変えて顔も怒ってる表情に変わった。
顔だけでわかるから色まで変えなくていいのに。
といういかコレ、話し方はすごく尊大なのにやたら高い声な上に舌っ足らずで話すものだから小さな子と話してるような気分にもなる。
なんというか話していて落ち着かない。
「えっと…。とりあえず私達も冷静になりたいの。だから今はちょっとだけ静かにしててくれる?」
「む…。ふむ、仕方無いのだ。わっちだってようやく出られたとは言え、セシルはわっちのことを覚えてるはずないちの…」
するとオレンジ色の玉はさっきまでの黄色に変化し、それを通り越して緑から青、そして薄い水色へと変わっていった。
えっと…色から察するに、落ち込んだのかな?
まぁ静かになったことだし、今のうちに。
「アイカ、クドー。これって…」
「…俺には全く事態が理解出来ないが、セシルのオリジンスキルと見ていいのか…?」
「ウチにもわからへん…。けど、状況からしたらそうなんやろうな…」
「えぇぇぇぇ…。ていうか『メルクリウス』って何の神様だったっけ?」
私の質問するとアイカが「あぁ」と頷いてすぐに説明してくれた。
曰くローマ神話における旅人や商人の神様だと。
「なんでそれが私の『欲望を叶えるためのスキル』なの? 別に旅人になりたいわけでも商人になりたいわけでもないんだけど」
「そんなんウチかてわからんわ」
「…今のところこちらに対し不満はあるようだが敵意はないようだし、直接聞いてみるのが一番だろうな」
クドーに言われ私達はポンと手を打った。
確かに、クドーの言う通りだ。
しかも話し振りからするとこっちが知らない事情をいくつも知ってそうな感じだもんね。
私達はお互いに首肯し合うといつの間にか元の黄色に戻っていた玉に向き直った。
「ごめんね、お待たせしました」
「構わんのだ。話はちゅいたのだ?」
「うーんと…結局よくわかんないから教えてもらおうと思って。貴方はその…『メルクリウス』ってスキルなの?」
私が遠慮気味に尋ねると黄色い玉は驚いた表情を浮かべた。玉の上部に細かい縦線が入ってるので予想外の質問だったのかもしれない。
「わ、わっちが…ちゅ、スキル…?」
「あれ? 違うのかな?」
今度は玉の方が慌ててしまった。
しかし正体不明すぎて本当に扱いに困る。
「…ちゅまんのだ。取り乱ちた」
思ったよりも早く立ち直ったようで、落ち込んだ顔のまま玉を下方向に少しだけ回した。
頭を下げた、んだと思う。
それから玉の話を私達は三人でじっくり聞くことになった。
結局この黄色い玉がオリジンスキル『メルクリウス』であることは確定した。
本人も無自覚ではあったけれど、私との繋がりは確かに残っているがこうして自我を持って別の存在になっていることが本来ならば有り得ないことらしい。
「じゃあ私って、元々貴方がずっと転生を繰り返してきたうちの最後だったってこと?」
「しかもセシルが前世で最期に願ったことが原因で今までの苦労が全部水の泡になってもうたと」
「しかしそれなら何故今は分かれてしまったんだ?」
私とアイカの質問には「うむ」と尊大な答えをしたものの、クドーから聞かれたことには眉を寄せた顔になって悩んでしまった。
「恐らく、セシルの中に入っていたわっちの望みがeggによって浮彫になったのだ。セシルの望みよりもわっちが表に出たいと思う欲求の方が強かったのだ」
「えぇぇぇぇ…。あれだけ死ぬような思いを何度もして集めたのに自分のために使えないとか…」
「何を言う! わっちとセシルは同じ体に入ってるのだからわっちの欲求もセシルと同じなのだ!」
そんなに自信満々で言ってるけど、考えてることが違うんだから無理矢理なこじ付けだと思うんだけど?
「まぁしゃあないやん。もうeggは孵化してもうたんやし、『やり直しは出来ない』って最初に聞かれとったんやろ?」
「そう、だけどさ…」
やっぱり腑に落ちないので苦虫を嚙み潰したように表情を歪ませていた。
落ち着いて話を聞こうと思った時に用意したお茶を一口飲んでみたものの、やっぱりすっきりしない。
「だがわっちの本来の望みは『管理者』になることなのだ。セシルにはまだまだ頑張ってもらうのだ」
「管理者?!」
ずっと気になっていたことをさらっと言われたことで驚いた私は勢いよく立ち上がった。メルクリウスが驚いてまたもや色が青くなっていたけど構わずにがっしりとその玉を掴んだ。
「詳しく話して」
青を通り越して紺色になりかけていたメルクリウスに言い寄ると玉のクセに痛いだの潰れるだの言っていたけど「早く」と促すのみだ。
そしてメルクリウスから聞き出した話はこうだ。
『管理者』とはその文字が示す通り、管理する者。
管理対象はその『世界』で、それこそそこに存在する生き物からエネルギーまで。思考を誘導して進化する方向を示してみたり、突発的に天変地異を起こして不要と思われる生き物や種族を滅ぼしたり。
例えばこの世界には魔法があり魔物がいてダンジョンもあるけど、そういうシステムを設定するのも管理者の仕事らしい。
基本的には前任者からの引継ぎで行うものの、今この世界には管理者がいないのでその座に就くための試験中だと、メルクリウスは言った。
聞けば聞くほど私達の思う『神様』と同じようなものだと思っていると、事実私の前世を知るメルクリウスからは『似たようなもの』と説明された。
「システムを設定するって…気に入らんかったら削除したりするん?」
「中にはやる者もいると聞くのだ。わっちはそんなことしないのだ」
どうやら新しく管理者になるとその世界の管理とは別に新しい世界を与えられて一から創造することになるので、その新しい世界で自分好みをシステムを構築していくのが普通だと。
今この世界に管理者がいないのは原因がわからないそうだけど、メルクリウスの上司にはそのまま管理してくれると助かると言われたようだ。
「…あのさ、申し訳ないんだけど私『神様』になりたいとは思わないんだけど…」
「なっ?!」
「というか、人並みの幸せと宝石さえあればいいと言うか…」
「『管理者』になればその世界の全てを得ることになるのだ。人並みとかちょんな矮小な視野の話ではないのだ!」
「世界の全てとかいらないし」
「むっきゅおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
何か変な声で怒り出した。
さっきのオレンジを通り越して今は完全に真っ赤な玉になっている。
「…けど、世界の全てはともかく管理者になるんやったら『自分が考えた最強装備』やのうて、『セシルの考えた最高に輝く宝石』も作れるんとちゃう? しかも宝石に囲まれた生き方も思いのままなんとちゃう?」
「………うそ、ほんとに?」
私は疑惑の眼をメルクリウスに向けた。
疑うのは仕方ない。
だって本当にそんなことが可能なんだとすれば、望まずにいられるはずがない。
期待させるだけさせて実は無理でしたなんて言われたくないので、最初から出来ないものと思ってた方が楽だもんね。
「何を言っておるのだ」
「…ほら、いくらなんでも出来るはずな…」
「そんなもの、気分次第でいつでも出来るに決まっておるのだ」
「…らしいで?」
自分のセリフを途中で止めた私はそのままのポーズでフリーズしてしまった。
この玉は一体何を言った?
気分次第でキラキラな宝石に囲まれた生活が出来る?
いつでも?
しかも新しい宝石だって作れる?
「…それこそ、宝石で出来た家とか作ってみたり…?」
「わっちの知ってる管理者で世界の主食をお菓子にちて、自分はお菓子の家で仕事をしておるのがいたのだ」
「…聞いてるだけで気分が悪くなるな…」
「クドーは甘い物苦手やさかいな」
さすがに宝石を食べる世界を作りたいとは思わないけど。
でも、私だけが宝石に囲まれた生活は出来ると?
「…やる。私管理者、やる」
「いや焚きつけたんはウチやけど、本気にならんでも良かったんやで?」
「やるよ! 絶対宝石の家に住むから!」
「それが目的かいっ! …あー、メルクリウス? 御覧の通りやから、後はうまいこと導いてやるんやで?」
アイカに促されたメルクリウスは「うむ」と尊大に頷くとものすっごく良い笑顔になった。というか泣き笑いの顔だね。
「よろしくね、メルクリウス。…って長いからメル、でいいかな?」
「うむ。今後はいろいろ助言ちゅるのだ!」
大きく鼻を鳴らしたメルの頭? を撫でると同時にお願いしたいことがあった。
最近の立場上、常に私の近くにいられると困るかもしれないので姿を隠すことが出来るかどうかということ。
それは割とすぐに解決した。
どうやらオリジンスキルとして登録されて一度使ったことになってる今なら私の思うままに設定出来るとのこと。出し入れも、メルが消えてる間も周囲のことを把握出来るようにするもしないも、私の自由らしい。
なので隠し部屋に入る時は絶対に何もかもをシャットアウトすることにして、それ以外は私が呼び出すまでは出てこないようにした。但し話だけは姿が見えてなくても可能なのでいろいろと便利に使うことが出来そうだった。
しばらく出したり消したりを繰り返した上でもう一度呼び出すと更にお願いを追加した。
それは勿論、話し方だよっ。
今日もありがとうございました。




