第253話 屋敷の整備
ステラが私に仕えてくれるようになり、家の中のことはかなり彼女に任せられるようになった。
家事は完全にお願い出来る。炊事洗濯掃除から庭の手入れ、楽器の演奏も出来るらしい。今度お願いして何か弾いてもらおう。
朝ステラの用意してくれたご飯を食べ終えた私とユーニャは食後のティータイムで今日の予定を話し合っていた。
「私はヴィンセント商会に行って仕事してくるね。他に細々と足りない物があったからついでに買ってくるよ」
「わかった。請求は回していいからユーニャに買い物は任せるよ。私は……屋敷の防衛に関して考えた方がいいかな」
確かにこの屋敷は高い塀に囲まれて門扉も頑丈だ。
ステラが管理している魔道具で外敵が来た際に大抵の相手なら問答無用で黒焦げに出来る。ただそれほどの殺傷能力がある物でも常に使い続けるわけにもいかない。
魔道具は話さないからね。
ちゃんと応答の出来る人間の兵士や使用人が必要だと思う。
「セシーリア様、屋敷の防衛なら私が…」
ステラが私の思考に割り込んできたけど、それを笑顔で遮った。
「ありがとう、ステラが一生懸命やってくれるのはとても嬉しいんだけど多少は普通の人も受け入れておく必要があるからさ。それともステラは私達以外の人がここに入ってくるのは嫌?」
「いえ…もうこの屋敷も私もセシーリア様のものですから。ただ…私がお役に立てていないのではと」
ステラってひょっとして自己評価低いのかな?
役に立っていないわけがない。
横着、面倒臭がり代表のアイカ。武具作りを始めると寝食を忘れるクドー。ユニークスキル『暴力』のせいでガントレットを外せないユーニャは家事なんて出来るはずもなく。かと言って仮にも当主である私が家事をするわけにもいかない。
この面子におけるステラの貢献度は非常に高い。だから私達も安心して他のことに意識を裂けるんだけど…。
何をどう説明したところで防衛だけは完全に他の人に任せることにしたらステラの自己評価は変わらないかもしれない。
「それじゃあ屋敷の防衛に当たってステラに手伝ってほしいことがあるからユーニャが出かけたら一緒に作業しようか」
どうせなら私のスキルと余りに余りまくっているMPを使っておいた方がいい。
それに折角宝石、魔石御殿とも言うべき屋敷にいるのだからそれ相応の防衛設備を整えるべきよね。
ステラから巨大水晶に干渉するための方法を聞いた私はクドーの離れを訪れて彼から必要なものを受け取ってから屋敷の裏庭へと出た。
裏庭にはアイカが早速柵を作って自分の薬草畑を作ろうとしていた。
アイカの地魔法と錬金による薬品があれば今はまだ荒れた土にしか見えない畑もすぐに緑溢れる姿を見せることだろう。
それはさて置き。
「セシーリア様、このようなところで一体何を…?」
「うん、折角だからステラに役立ってもらえるような防衛戦力をね。普通、伯爵くらいの貴族なら私兵を雇ったりして少なくとも小隊規模の戦力を持ってるでしょ? だから私のランディルナ家もそれに倣おうと思ってね」
「…えっと…話が見えてこないのですが…私がお役に立てて、しかもそれなりの数の戦力を持とうとしているということでしょうか」
彼女の疑問に「そうだよ」と軽く答えると、剣帯についた魔法の鞄の一つをポンと叩いた。
これ結局私の腰の位置にあるし、剣帯もベルトみたいなものだし腰ベルトって言ってもいいかな。
公式の場でだけは言葉使いに気を付けるとしても普段なら構わないよね。
そして私は腰ベルトから一つ一つが小指の先くらいの大きさの宝石をいくつか取り出した。
トパーズ、ルビー、サファイアをそれぞれ一つずつ。ガーネット、アクアマリン、シトリンを四つずつ。残りは水晶を適当にだ。
それらをステラに用意してもらったテーブルに並べると付与魔法を使い全てに限界までMPを込めて魔石に変化させた。
「セシーリア様が身に着けられているものに比べると質は良くなさそうですが、こんなにたくさんの魔石を用意してどうなさるのですか?」
「ふふっ、今から兵隊を作ろうと思ってね。だからさっきクドーのところから作ったり、ダンジョンで手に入れたまま魔法の鞄に眠ってるような武具をいろいろ貰ってきたの」
私の説明にもステラは未だに首を傾げたままだったけど、更に詳しく説明するよりも見た方が早いと思ったのでクドーから受け取った魔法の鞄の中身を裏庭に放出した。
ガシャガシャガシャガシャッ
私の想像としては二十もあればいいかなと思っていたのだけど、想像を超える量の武具が入っていてそれらはクドーが言うところの「鞄の肥やし」なのだそうだ。
また溶かして材料にすればいいのにと思うけど、その必要があった時にだけやればいいとのこと。
それに現在だと私がいて材料の調達に困ってるわけじゃないからこれらの武具は好きにしていいと言われている。中にはどう見てもAランク冒険者が高いお金を積んでようやく買えるような代物まであるけど、クドーからすると「どうでもいい物」か「失敗作」らしい。
さて。
「ステラ、ボロボロになってる物以外を全部整理して並べるから手伝ってくれる?」
「承知致しました」
クドーの魔法の鞄から出てきた武具のうち、大半が剣ではあったもののいくつかは私の狙い通り全身鎧があり、その数は三十着程度になった。
それらを地面に横たえるように並べると剣や槍などの武器も同じように整理して並べておいた。
うん、やっぱり普通じゃない防具もそれなりにある。
とりあえずそういうのはそれ相応のものを与えなきゃね。
並べられた鎧の上に魔石を一つずつ置いていくとステラを少し下がらせた上で自重無しに魔力を放出した。
「擬人製作」
レジェンドスキル『擬似生命創造』。
百万から五千万程度のMPを込めた魔石でしかないけど鎧という寄り代があるので簡単にゴーレムを製作出来る。
一番楽なのは岩だけどあれだと弱いし見た目も人の姿から乖離し過ぎて貴族の屋敷には似合わないからね。
「よし。整列」
全てのゴーレムが起動したことを確認すると起き上がった彼等に対し命令を下す。
どれも問題無く指示を聞いているところを見れば失敗作は無かったようだ。
一つずつ用意したトパーズ、ルビー、サファイアを核にした強力な装備品のゴーレムを隊長にガーネット、アクアマリン、シトリンの分隊長を作り出し、更にその下に水晶を核にした雑兵レベルのゴーレムを十五体で計三十体。
これも魔石で制御出来るので地下にある巨大水晶とリンクさせてしまえばステラでも管理出来るようになる。
一応今のところ屋敷にいる私、アイカ、クドー、ユーニャそしてステラの五人からの命令のみ受け付けるようにしてある。
ということを含めてステラに説明すると彼女はメイドとしての礼をして頭を下げた。
「セシーリア様の魔力が凄まじいことは存じておりましたが、これほどのゴーレム軍団を瞬時に作り上げるとは思っておりませんでした。どうやら私は未だにセシーリア様のことを甘く見ていたようです」
「…まぁどう見られているかはともかくだけど、これを管理するならステラでも問題無いよね?」
「はい。屋敷内にあるもので魔石で繋がっているなら全て私の管理下になります」
「うん。じゃあ任せるよ」
ステラは早速鎧ゴーレム軍団に指示を出すと彼等をあちこちに配置させていた。
門の警備と庭園の巡回、裏庭への配置などかなり細かい設定だったけどそれなりにMPを込めた魔石を核にしているのでなんとか運用可能だった。
それにしても…金属製の鎧だから雨の日に外出してたら錆ちゃうんじゃないかな? そのうちアイカに言って彼等に使うグリスみたいなものを用意してもらおうかな…。
さて、警備の件が片付いたついでに屋敷内の施設をいくつか改造して回る。
殆どがステラを介して使用可能なのであまり困ることはないけど台所もMPの少ない一般の人でも使えるようなコンロを設置したことを皮きりに。
トイレでも水洗用の低出力な魔石と洗浄用の魔石を。
主人用のお風呂もこの世界にある一般的な湯船だったけれど、かなり大きな大理石を並べて作り直してみた。
あえて不陸を正さずにゴツゴツした表面をそのままに、隙間だけが出来ないようにそこだけは丁寧にカットして底面も同じように加工した。これなら水が漏れる心配もない。
底面はゴツゴツした表面だけでは擦れて痛いかもしれないので水晶を球体に加工した水晶玉砂利を敷き詰めておいた。
そこへ給水用の魔石と洗浄用の魔石、洗い場にもシャワー用の魔石を設置する。
最後に壁の一部を少し迫り出させてチタンで作った枠に水晶で作ったガラスを嵌め込めば、外の景色を見ながらお風呂に入ることが出来る豪華な岩風呂の完成だ。
ちなみにここの灯りだけは間接照明にして雰囲気ばっちりだよっ。湯船の中にも何色かの灯りの魔石を入れてあるからアイカとクドーがそういう雰囲気になったらムード作りは完璧さっ!
ちょっと調子に乗りすぎて前世のいかがわしいホテルにあるお風呂みたいになったのはご愛嬌ってことにしよう。
そうしよう。
「ふぅ…出来たぁ」
「セシーリア様…ここだけとても拘ってらっしゃいましたね…」
「あー……まぁお風呂くらいゆっくり入りたいからね」
ちなみに外の景色や空は見れるけど、外からは中が見えないように邪魔法を付与した魔石を設置してある。外からお風呂を見ても黒い壁にしか見えない。
そして最後は庭園。
ここは今のままで十分なんだけどね。
ハーブはアイカが育ててくれるって言ってたし、屋敷の前にあるもので気になるのは一つだけ。
「この噴水だよね」
「何か…お気に召さないところがありましたか?」
「綺麗なんだけどね。ちょっとだけ物足りないかなって」
流石に噴水そのものを水晶に出来るほど大きな物は持っていないので出来ないけどお風呂で調子に乗って作った色とりどりの灯りの魔石でライトアップくらいしてみようかなって。
チタンと水晶で作ったパラボラアンテナをもっと深くしたものにガラスを嵌め込んだ形を作り内部に魔石をセットすれば大きな懐中電灯みたいになった。
それを池に沈めて斜め上の噴水を照らすようにすれば完成。
「…なんだか、随分派手でらっしゃいますね」
「え? 貴族って派手好きの見栄っ張りなんじゃないの?」
「今の時代の貴族がどういうものかは解りかねますが、過分に齟齬があるかと思われます」
「そう、なのかな? まぁいいよ。どうせ滅多に人なんて来ないだろうから」
この時はそう思っていた私だけど、後日遊びにきたミルルがあまりに自重しなかった私の屋敷改造に殆ど悲鳴に近い声で驚いたのを見てようやく自覚することになるのだった。
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