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第251話 主人になってみました

投稿予約したつもりになっていました…

「こんなにも温かい皆様に囲まれる貴女様の優しいお心が心地よく、大好きになってしまいました」


 顔の周りに百合の花が浮かびそうなほどに良い笑顔を向けるステラに私は軽く硬直してしまった。

 ユーニャもそうだけど、あんまり「好き」って言われ慣れてないんだからそんな素敵な笑顔で断言されると照れちゃうし、どう反応していいかわからない。


「えっと…ありがとう?」

「なんでそこで疑問形やねん。セシルの百合百合フラグビルダーっぷりにはウチも敵わんわぁ」

「ちょっと! 変な呼び名付けないでよっ! タレントとか二つ名が増えたらどうするのよ!」

「手遅れやろ」


 そう言ってユーニャを指さすアイカ。

 見ると頬をリスのように膨らませたユーニャが殺気すら感じられる眼で睨んでいた。


「い、いや…ユーニャ誤解だから…っていうか、私そんなことしてないしっ! …というか、そもそもユーニャともそういう関係にはなってないよねっ?!」

「ち…。もう一息やったのに…」


 油断も隙もないね。

 ユーニャはユーニャでまだ睨んでるし…。

 そもそも私は普通に男の人が好きですからっ。

 多分。最近かなり自信が無くなってきたけど。

 ひょっとしたら私宝石しか愛せない女になったかもしれない。

 …いや別にいいのか? 現状維持ってことになるんだし?

 私の自己嫌悪と自己探求が続いてる中、ステラはその様子を微笑みながら見守っていた。


「やはり…とても素敵な方々だと思います」


 うっとりするステラに何とも言えない苦笑いを浮かべると彼女は徐に立ち上がり、私の前に来た。


「私の全てはご主人様の物でございます。どうかこの想いを受け入れてくださいますようお願い申し上げます」


 跪き、頭を垂れるステラに対して周りを見渡すといつも通りの面々。アイカはニヤニヤ、クドーは無言、ユーニャは…苦笑いしながらもこくりと頷いた。

 ステラに聞こえないよう「はぁ」と溜め息をつくと私も彼女の前に膝をついた。


「わかった。それでステラが満足するなら受け入れるよ」

「…あぁ…ありがとうございますっ」




 そんなことがあってから私達はステラに案内されて屋敷の地下へとやってきた。

 何でもこの先の部屋に改めて私が主人となるための物が設置してあるらしい。


「こちらです」


 ステラは扉をすっと通り抜けてしまったけど、私はそうはいかないので普通に扉を開いた。

 部屋の中はとても無骨な石造りの部屋で、余計な物は一切置いてない。

 ここにあるものはただ一つ。


「なんやこれ…こないにデカい魔石初めてや…」


 思わず呟いたアイカの一言が全てを物語っていた。

 部屋の真ん中に地面から生えたように鎮座する私の背よりも大きな水晶。

 これ一つが巨大な魔石。

 浮いてたりしたら某国民的RPGの転職システムみたいな雰囲気になりそうだけど、これは地面から生えてる。

 真ん中に特に大きな結晶があるクラスターだ。

 すごい…こんなの初めて見た。


「この魔石や屋敷内のあちこちに設置された魔石、それと本人のコレクションから彼はジュエルエース大公と呼ばれるようになったと聞きました」

「ふぇぇぇ…すごい…。じゃあセシルと似てるね。セシルも宝石大好きだもんね」

「そう、なのですか?」


 ユーニャに釣られてステラもこちらに振り返る。

 なんかすごくキラキラした目で見られてるんだけど。


「そうだよ」


 こんな巨大な水晶がある屋敷なんてすごいし、こんなところに住めるなんて嬉しい以外のなにものでもない。

 けれどそれよりもジュエルエース大公のコレクションというのが気になる。


「もしご主人様と大公様が同じ時代に会っていらしたらきっと素敵なご友人になれたかもしれませんね」


 そう言って優しく微笑んだステラは私を手招きして水晶の前に立たせた。


「この水晶を魔力で満たすことが出来たら、この屋敷と私は正式にご主人様のものとなります」

「魔力で、満たす?」

「はい。ご主人様は付与魔法というものはご存知でしょうか。味方の能力を上げたり、魔道具に魔法を登録したりできるのですが…」

「うん、知ってるし使えるよ」


 微笑んでいるステラに促されて水晶に手を当てる。

 最近では魔石となる宝石に触れるだけで大体どのくらい魔力を込められるかわかるようになってきている。

 例外は私のバングルについた宝石達。

 あれはどんどん上限を上げていってるところだから私が満足するまで注ぎ込み続けるよ。

 話が逸れた。

 それでこの水晶である。


「ジュエルエース大公はどのくらい魔力を込めてたの?」

「大体週に一度、自身の魔力が枯渇寸前まで入れていただいておりました」


 となると、彼のMPが普通の魔法使いの十倍程度だったと仮定すれば約三十万くらいか。

 けどこの巨大水晶に入るMP…内包魔力の上限は凡そ二十億。満タンにするには国が動かないとどうにもならないレベルだよ。

 とは言え、だ。


「それだけ入れればステラは大丈夫なの?」

「……お見通しでしたか…」

「まぁ、なんとなくだけど…」


 そしてステラから聞かされた話はこうだ。

 元々ステラは水晶に宿る精霊の一種だった。最初は自我も何も無かったのだけど、この屋敷に魔石として設置され魔力を込められている内にこうして話せるようになったらしい。

 この巨大水晶は屋敷内にある魔石と連動していて様々な魔法を発動出来る司令塔であり、貯蔵庫であり、屋敷の本体そのものだと言える。そのために必要な魔力をこの巨大水晶に蓄えておくために膨大なMPが必要になるのだとか。

 そしてステラは巨大水晶に宿る精霊の一種から家精霊(シルキー)へと変化して、彼女自身が屋敷内にある魔石と連動するようになった。

 家精霊としては屋敷内にある魔石を自由に使えるなら万能もいいとこだよね。

 当然巨大水晶の魔力量そのものがステラの力そのものになるわけだ。多分以前はこんな不透明な身体でも触れない身体でもなかったんじゃないかな。


「それにしても家精霊って、なんか不思議だね。座敷童とは違うの?」

「全然ちゃうやろ。それより早よう片付けた方がえぇんちゃうの?」

「それもそうだね。それじゃ入れられるだけ入れちゃうね」


 ステラに確認を取るより早く付与魔法を使った。

 私の中にある魔力は常人のそれを遥かに上回る。

 なので付与魔法を使い始めてすぐステラの顔色が変わった。

 そりゃかつてジュエルエース大公は魔渇卒倒寸前までMPを注ぎ込んでも三十万くらいしか入れられなかったのに、私が開始一秒で入れたMPはそれを簡単に上回る一千万程度。


「これでいい?」


 それから一分くらいかけて限界までMPを注ぎ込むと水晶から手を離して振り返るとステラはまたもや跪いていた。


「恐れ入りました…。まさかこれほどの魔力をお持ちとは思わず…しかもまだまだ余裕がありそうな…」

「大体十分の一くらいだよ。それよりどう?」


 私の魔力で限界いっぱいいっぱいまで魔石を満たしたので残りカス程度でしかなかったジュエルエース大公の魔力は霧散している。今のステラの中は私のものでたっぷり満たされてしまっている。

 …別にやらしい意味じゃないよ。


「とても、力が漲ります…。今なら…」


 ステラは跪いたまま両手を組んで祈るような仕草をすると、突然彼女の身体が眩く輝い出した。


「なっ、なんやねん?!」


 みんなあまりの眩しさに腕で両目を覆っていたが、次に目を開けると周囲は元のまま。

 とりあえず何事だったのかとステラを問い詰めようと近寄った時。


ふにっ


「…あれ? え? 触れる?」

「嘘やろ? ……ほんまや…。何が起こったん…」

「ふふ…。セシル様のおかげです。皆様、上へ戻りましょう」


 狐に化かされた気分でステラの後を追い、階段を上るとそこはさっきまでの廃墟ではなくなっていた。


「な、んで?」

「こ、ここどこ?」

「なんや? 転移装置でもあったんかいな?」


 綺麗に掃除が行き届いた屋敷。

 赤い絨毯が敷かれた大理石で出来た床。

 天井から吊られているシャンデリアはさっきまで床に落ちて大破していたはずなのに元に戻っている。

 そして何よりも。


「ステラが実体化してる。しかもさっきよりすごく健康そうな感じがする」

「はい。セシル様に魔力をいただきましたから。あれほど大量の魔力をいただいたのは初めてでしたのでどのくらいの力が戻ったのかわかりかねてしまいました」


 つまり一気に屋敷が綺麗になったのはステラが自重せずに力を振るったせいってことか。

 あまりの変わりようにキョロキョロしていると窓から外の様子も見て取れたので、もしやと思い外へ出てみた。

 するとそこには見事に整備された庭園が広がっていた。

 庭木は綺麗に刈り揃えられ、薔薇の咲き誇る垣根に囲まれたガゼボもある。すっかり枯れ果てていた噴水も見事な大きさの物が現れ綺麗な水を噴き続けている。

 他にも屋敷の脇には厩舎があり、その前には馬車を停めるための駐車場を完備。屋敷を囲う塀も綺麗になっており、門もくすんだ色合いから重厚感のある黒い金属製の門扉へと変わっていた。

 きっとこれが元の、ジュエルエース大公が使っていた頃の姿なのだろう。


「…これでセシル様がお住まいになられても問題無いかと思われます」

「あ…はは、まぁ、そう、だね」


 豪華過ぎて落ち着かないから帰りたいとは言えない私だった。

 その後、屋敷内を全員で一通り見て回ることにした。

 部屋は数が多過ぎてよくわからないけど、私達が集まるためのリビングを決めてから各自に部屋を割り当てた。

 私は執務室が必要になるからその隣にある一番上等な部屋を。他の部屋でいいってみんなに言ったけど、当主だから駄目だって。ユーニャの部屋は私の隣。普通に使用人用の部屋だったみたいで私の部屋の半分の広さもない。私もそのくらいで十分なんだけどな…。

 ちなみにアイカは裏庭にすぐ出られる位置に。裏庭で薬草を育てるための畑を作りたいっていうから勿論許可した。

 クドーは離れがあったのでそこを工房として改造して自室にもするんだとか。彼ってちゃんとベッドでぐっすり寝るのかな?

 お風呂はステラに言えばいつでも沸かしてくれるということだったけどなるべくみんな揃って入ることになりそうだ。

 クドーは工房の近くに自分用のを作ると言っていたので後で魔石だけ渡してあげようと思う。

 次に台所はレストラン並みに広くて設備もしっかり整っているものだった。

 あちこちに魔石が使われていて普通に水も出るし、コンロもあれば冷蔵庫、冷凍庫まである。

 問題になったのは排水設備。これはトイレもお風呂も同じだけど、私の魔法で生き物が軒並みいなくなってしまったので汚物処理をするスライムがいない。

 台所はひとまず後回しでもよかったけどトイレはそうはいかない。そのためユーニャが取り扱いしているお店を知っているということだったので彼女に金貨が入った袋を渡してクドーと一緒に買ってきてもらうことにした。

 さすが駆け出しとは言え商人だけあっていろんなお店を把握しているのはすごいよね。今後もいろいろ相談させてもらおっと。

今日もありがとうございました。

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