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第249話 ジュエルエース元大公邸

「なんや体よく不良債権押し付けられたようなもんやな」

「私もそう思う…」

「で、でもセシル…セシーリア様ならきっとなんとかなる、ます、よ?」

「ユーニャ、今ここには俺達しかいないのだからいつも通り話せばいい。セシルはセシルのままだ」


 叙爵の儀式が終わった翌日、私はアイカ、クドー、ユーニャに声を掛けて一緒にジュエルエース元大公家の屋敷を見に行くことにした。

 決して一人で行くのが怖かったとかそんな理由じゃないよ。

 ジュエルエース元大公…長いからもう『屋敷』でいいか。屋敷は王都の一番北西に位置していて、国民学校よりも更に先にあるためユーニャも話は聞いていたものの近くにすら行ったことはないという。私もそんなところに用事なんて今まで無かったのだから行ったことはないし、王都に長く住んでるアイカやクドーも知らなかったみたい。

 ジュエルエース大公はかなり変わった人だったらしく、客が来ることを嫌がったためにあんな王都の端っこに住むことにしたのだとか。

 人が嫌いなわけではなく、来客が嫌だったみたいだとレンブラント王子からは聞いてるけど…どんな屋敷なんだろう?

 北大通り側である貴族街と西大通り側の職人街に挟まれたそこは同じ王都の中だというのに人はほとんど歩いていない上に進むごとに空き家が増えていく。というより、これは人が住まなくなってから相当時間が経っているみたいで空き家と言うよりも廃墟と言うべきだろうね。

 その立ち並ぶ廃墟の先に違和感しかないほど立派な塀に囲まれた屋敷が現れた。

 しかし敷地に入るための門には夥しいほど頑丈に何重にも鎖がかけられ、巨大な鍵が取り付けられていた。


「あぁ…これアンデッドもいるね…」

「せやなぁ…。というか雰囲気出過ぎやろ」


 これは、まるっきりお化け屋敷にしか見えない。

 呪われてるとか、ここ()()よとか言われても普通に信じてしまえるほどおどろおどろしい気配が漂っている。

 まぁ本当に呪われているんだけど。

 実際私の時空理術には屋敷の中から感じられるアンデッドの濃厚な気配を感知しているので間違いない。


「ほな、ウチの出番やな」

「うん、アイカお願い」

「任しとき」


 アイカは唯一中の様子が探れる格子状の門の手前に立つとじっと目を凝らす。

 でもあれって端から見るとすごく目つきの悪い女にしか見えないんだよね。

 けれど効果は抜群、というより人の領域を超えた能力を発揮する。

 彼女の瞳が銀色に変わり、敷地内だけでなく門や塀、そして恐らくは屋敷の中までも見通しているはず。

 しばらくしてアイカは大きく息を吐き出してこちらを振り向いた。

 その時には既に瞳の色はいつもの茶色に戻っていた。


「おーけー。ちゃんとわかったで」

「流石だね。それで?」

「とりあえずメッチャ広い家やな!」


 そんなの見たらわかるよ!

 けれどその言葉を言ったらアイカをただ喜ばせるだけなのでしっかり飲み込む。


「ちなみに部屋の数は三十はあるで。ひっろいキッチンと主人用の風呂、使用人用の風呂、トイレは五カ所、地下室も完備っちゅう至れり尽くせりやな」


 間取りも聞いてないしっ!


「庭は表が五百坪くらいやなぁ…。井戸は屋敷の中にあるみたいや。裏庭もあるんやけど、そっちは二千坪ってとこやな」


 聞いてるとすごく便利な能力であることがよくわかるね。


「表だけでテニスコート五面くらいで裏庭はサッカー場くらいやと思ってくれたらえぇな」


 いい加減そんな説明は求めてないって言うべきだろうか…。


「それで、肝心な呪いの内容はわかったのか?」


 私が言おうとしていることをクドーが代わりに言ってくれた。

 さすがアイカと長くて深い付き合いなだけあるね。


「んー…せやなぁ…。普通の呪詛みたいなんやけど…なんやろなぁ。なんか変なんがおるなぁ」

「変なの?」

「レイスでもないしリッチでもない。けどやたらと力の強い亡霊みたいなんがおるんや」

「そのジュエルエース大公かな?」

「それはわからへん。というかウチかてこんなん初めてやで」


 アイカの神の祝福である『神の眼』でもわからないってよほどのことなんじゃないかと思うんだけど。

 私は視線を閉ざされた門の向こうにある屋敷へと向けた。

 私が感じられるのは強力なアンデッドの気配だけだ。

 とはいえ、今の私ならそこまで苦戦することはない。実際エルダーリッチになったデリューザクスほどの力は感じないのだから。


「とりあえず私の新奇魔法で浄化しちゃおうと思うけどいい?」

「ま、それしかないんちゃう?」

「そうするのが一番だろう。悪霊になってまで現世に縛られる死者がいるのならば解放してやるのが何よりの手向けだ」


 ユーニャも二人に倣ってコクコクと首を縦に振っている。

 本来なら教会にお願いするような浄化作業だけど、私の新奇魔法『聖浄化(ホーリークリーン)』ならほとんどのアンデッドを浄化してしまえる。

 今までは狭い範囲でしか使えなかったけど、レベルも上がって進化もしたし、体中に身につけた魔石の効果もあって出来ることが増えた今ならこの敷地内全てに効果を及ぼすことが出来る。


「いくよ。『聖浄化(ホーリークリーン)』」


 範囲を想定して魔法を発動する。

 私の手から放たれた魔法が屋敷全体を包んでいく。

 新奇魔法は普通の魔法よりも遥かに込める魔力が多いので多少の溜めが必要になっていたのだけど、進化した今では溜めなんて必要ない。そんなことしなくても溢れる魔力が勝手に魔法を強力にしていく。

 敷地だけでなく周辺の廃墟など半径千メテル以上を光のドームが包み込むと門の向こうからアンデッド達の悲鳴にも似た呻き声が聞こえてくる。

 汚された魂が少しでも洗われて新しい生へと向かえるよう、少しだけ祈りながらそれを後押しするように過剰であることを承知の上でもう一度唱える。


「『聖浄化(ホーリークリーン)』」


 巨大な光のドームは更に輝きを増していく。

 そして目を開けていられないほどの光になったところで光のドームは弾けて消えてしまった。

 私達の周りには金色の光の粒が降り注ぎ、屋敷の中から感じていたアンデッドの気配は完全に消え去っていた。


「はぁ…とんでもない魔法やな」

「実際使ってる私もびっくりだけどね」

「そらそうやろな。…アンデッドの気配はせんようになったけど、それでもなんかおるな」


 アイカの言う通り、私の魔法で浄化されたのはあくまでもアンデッドだけだ。

 屋敷の中からは一つだけ何かしらの気配を感じる。

 それが何なのかはわからないけれど、非常に強い力を持つ『何か』であることは間違いない。


「一先ず、油断せずに行くぞ。ユーニャ、お前も何があってもいいように制限を外しておけ」

「わかりました」


 クドーはユーニャに指示を出すと門の前に立ち、魔法の鞄から取り出した一振りの剣を構えた。

 というか、あれは剣ではなく…刀?


キンッ


 甲高い音がしたかと思うと、カチンとクドーの手元で刀が納められていた。

 速すぎてほとんどぼやけてしまったけど居合かな?

 どんな刀を使っているのかすらわからないほど凄まじい速度で振るわれた刀は鍵ごと鎖を断ち切り、その場に落ちた。


「おぉ…久々に見たなぁ、クドーの天翔けるなんちゃら」

「あ、それ私も知ってる」

「お、ホンマか? ほんなら青髪でリンゴごと斬る侍はどないや?」

「…さすがにそれは知らない…」


 少しだけ落ち込むアイカを無視して私はクドーと共に門を潜った。

 ユーニャが優しく慰めているけど、変なこと言うと前世の話をやたら長く聞かされるからそんなことしなくていいよ。


ギィィィ


 何事もなく庭を横切り、玄関まで来たところで勝手に扉が開いた。

 当然だけど、生き物の気配は全くしない。

 使用人がいて開けてくれたわけではないのに、観音開きの自動ドアとかあり得ないでしょう。


「歓迎されてるのかな?」

「それならもっと華やかにしてほしいね」


 廃墟の中に佇む、どんより淀んだ雰囲気を醸し出す豪邸。

 そんなのお化け屋敷か心霊スポットじゃんか。

 けれどいつまでも四人で玄関前で足止めされているわけにもいかないので、軽く溜め息を吐くと私が先頭に立って屋敷の中へと足を踏み入れた。

 二百年も放置されていたと感じさせない建物ではあるが、それでも絨毯は朽ちてボロボロだし、木製の家具や手摺りなんかも朽ちかけている。

 天井に吊り下げられていたと思われるシャンデリアも今では私達の足元に無残な残骸を晒すのみだ。

 しかし、というかやはりというか中には誰もいない。

 生物の気配すらもないし埃や汚れが見当たらないのはさっきの『聖浄化(ホーリークリーン)』によって軒並み浄化され尽くしてしまったと思われる。

 ちなみにアンデッドの巣窟になっていたので普通の生物がいるはずもなく、ここにいたのは虫一匹にいたるまで全てがアンデッドだったのは言うまでもない。

 だから普通の人はアンデッド退治を嫌がるんだよね。臭いも移るしさ。


「なんもあらへんなぁ」

「…でもこのシャンデリア、壊れちゃってるけどすっごく高い物だよ。無事だったら多分白金貨五枚くらいはすると思う」

「金持ちだったのは間違いないだろうな。仮にも大公というのだし、国王にかなり近しい者だったはずだ」

「そら呪い掛けてきそうな相手なんて吐き捨てて焼き芋作れるくらいおるわな」

「さっきからアイカの絶妙な滑り具合の方が私は気になるけどね」


 さあっと青褪めるアイカは放置して屋敷の中を見渡す。

 入り口の目の前には大きな階段があって、二階の廊下が続いている。ここは玄関ホールなのでかなりの広さがあり、天井も高い。こんなに廃れていなければとても立派な豪邸に見えたことだろうね。

 今じゃ見る影もないけれど。

 私達がそれぞれ周囲を見渡していると、ユーニャからそろそろ他の部屋も見に行ってみようと提案され全員揃って頷いた。

 確かにいつまでも玄関ホールにいてもどうしようもない。

 何かしらの気配は感じるものの、どこにいるか全く掴めない。

 それは私の時空理術だけでなく、アイカの神の眼でも全く同じであり、クドーもさっきから視線を泳がせていることから何かを感じてはいるのだと思う。

 当然ユーニャだけは完全に置いてきぼりなわけだけど、それは仕方ない。彼女は戦闘能力は高いけれど探知系のスキルは魔力感知くらいしかないのだから。

 全員で一階を片っ端から見ていこうと話が纏まり、さあ移動しようとしたところでようやく()()は現れてくれた。


「それ以上この屋敷を踏み荒らすことは許可しません」


 それなら最初この屋敷に入った時に言いなさいよ。

 浮かび上がるように出てきた女性に対し、私が最初に思ったことはそれだった。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >お、ホンマか? ほんなら青髪でリンゴごと斬る侍はどないや? あー。 あの病弱とか言いながら、シリーズに何度も何度も登場する、元気な右京さんね。 >浮かび上がるように出てきた女性に対し…
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