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第248話 叙爵

ようやく貴族になります。

 あれよあれよと言う間にSランク冒険者に認定されてしまった。

 困るものじゃないけどあまりにとんとん拍子に私の立場が上がっていくことに戸惑いを隠せるわけもなく、レイアーノさんから差し出されていたギルドカードを震える手で受け取るのが精一杯だった。


「うむ。ではランディルナ子爵を王国最強戦力として認め、また冒険者としての活動も支援することとする。そしてSランク冒険者となったランディルナ子爵には新たな爵位として至宝伯を授ける。伯爵と同じ立場となることを皆には伝えておく」


 まだ地位が上がるのっ?!

 お願いだからそのくらいにしてください…。前世でも一般市民だったのに、というかかなり底辺にいた私がいきなりそんな立場になったらどうしていいかわからないよ。


 その後はよくわからないままに儀式は進み、何を与えられたかよく覚えてない。

 でも儀式の後に改めて文官から説明があると聞いているから、その時にちゃんと聞いたらいいよね。




「いきなりの大出世だなセシル…っと、今はもうランディルナ伯だったな」

「…いいですよ『セシル』で…。って絶対領主様知ってましたよね?!」

「おいおい、お前はもう王都在住の法衣貴族なんだ。私を領主様呼ばわりは誤解を招くぞ?」

「…むぅぅぅっ…」


 私が困っているのをとても楽しそうに見つめるクアバーデス侯はさっきから何度も笑いをかみ殺している。

 笑い過ぎて腹筋攣っちゃえばいいんだ。

 今私達は文官に案内された応接間にいる。

 もう少ししたらいろんな説明をする文官が来てくれるそうなのでそれまで紅茶を飲みながら待っているところだ。

 私だけならともかくクアバーデス侯を待たせるなんていくら上位文官でもまずいんじゃないのかな?


ガチャ


 そんなことを考えていると突然ドアが開いた。

 王宮で、しかも侯爵がいる部屋のドアをいきなり開けるなんて普通有り得ない。

 例外が一つだけあるのだけど、今回はその例外だった。


「へっ、陛下?!」


 ドアを開けて入ってきたのはアルマリノ王国国王陛下。

 私は咄嗟に椅子から立ち上がりその場で跪こうとしたが、やんわりと陛下に止められた。


「良い良い。もうここは謁見の間ではないのだ。楽にせよ」

「は…はぁ…。では失礼致します」


 促され椅子に座り直すと私の正面の席に陛下も着席した。

 隣にはレンブラント王子と文官、逆隣にはベルギリウス公も座っている。


「さて、堅苦しい言葉遣いなども不要だ。改めてランディルナ伯…いや、ここはセシーリアと呼ばせてもらおうかの」

「きょっ、恐縮です。陛下に名前を呼んでいただけるなど…」

「ふむ? では『セシル』と呼んだ方が良いかの?」


 普通貴族が愛称で呼び合うのは余程親しい仲でなければ有り得ない。

 いきなり馴れ馴れしく愛称で呼んでしまうのはタブーとされる。これは立場がどうこうではなく、相手の名誉のためとされている。

 ちゃんと相手の許可を得てから呼ばないといけないのだ。

 それには王族であろうとも例外は認められない。


「陛下の…ご判断にお任せ致します」

「ふふ…少々悪戯が過ぎたか。さて、レンブラントよ。セシーリアに今後の話をしてやると良い」

「わかりました。久し振りだな『セシル』」


 レンブラント王子は私を家名でも名前でもなくいきなり愛称で呼んできた。

 ずっとそれで慣れているので気にしないし、私も以前の調子で話すことが出来そうだった。


「お久し振りです、殿下。お元気そうで何よりでございます」

「君はもう貴族になったんだ。それにさっき陛下も言われた通り堅苦しい言葉遣いは必要ないからな」


 そうして私に釘を刺すと手元に用意してあった紙を広げ、少しだけ真面目な顔になると読み上げ始めた。


「さて、まずこちらから授与されるものについて説明する。大きなものだけになるので、細かいところは書面を確認するか文官に聞くなりするように。一つ目、『至宝伯』という新たな爵位について」


 レンブラント王子が語る内容をまとめると、『至宝伯』の名の下に王国内の鉱山へ視察が出来ること。また領主との交渉次第でそこで産出された宝石類や金属を徴収できる。

 何それ私のためにあるような権利じゃない?

 但し、毎年の税では規定の金額と同時に宝石類の納品も義務付けられる。

 ふむ…。まぁ原石のままでもいいみたいだからこれは問題無いよね。加工して納めるなら金額が跳ね上がっちゃうし。


「二つ目、今回の叙爵とSランク冒険者への支援として聖金貨五枚が与えられる」


 伯爵に対して五枚というのが多いのか少ないのか判断しかねるところだけど、拠点になる屋敷を購入したり使用人を雇ったりすることを考えれば多少でも貰えるのは有り難い。

 冒険者としての活動資金は自分で稼ごうと思えば稼げるし構わない。


「…三つ目……陛下、これは…」

「…仕方あるまい」


 レンブラント王子が三つ目を読み上げようとしたところで初めて言葉が詰まった。

 その様子に今までただ聞いているだけだったクアバーデス侯も何事かと前のめりになった。


「…三つ目、セシーリア・ランディルナ至宝伯に王都での拠点としてジュエルエース元大公家の屋敷を与える」

「…お屋敷が貰えるんですか?」


 なるほど、それでさっき聖金貨五枚っていう微妙な数字だったんだ。

 屋敷を買わなくていいなら十分過ぎるほどの報酬と言える。

 しかも名前が良いよね!

 ジュエルエースって!

 しかも大公家が使ってた屋敷となればそれなりに立派な物だと思う。


「ジュエルエース大公…? 陛下、それは誠でございますか?」

「やむを得ん。新しい貴族を平民から、しかも伯爵家と同格なのだ。全てこちらの思う通りに進めることは難しいことは理解していよう?」


 何の話かと首を傾げていると陛下の隣にいるベルギリウス公から補足説明が入った。


「ランディルナ伯が今回叙爵されるに当たって、一部の貴族から反対の声があってね。彼等の条件も飲むことで実現したという事情があるんだよ」


 ミルルのお父上であるベルギリウス公のわかりやすい説明はとても助かる。

 けれど肝心なところが抜けている。


「その事情はお察しします。それとこのジュエルエース元大公家の屋敷とどういう関係があるのでしょう?」


 当然の質問にベルギリウス公だけでなく、レンブラント王子、クアバーデス侯、更には陛下までもが苦い顔をして口を噤んだ。

 反対派閥がいるのなんて当たり前だし、どんな組織だって一枚岩じゃないことくらいわかる。

 そんなものがあるとすればカルト教団と変わらない。いかに王政を布いていると言っても自分が王に取って変わりたいと思う輩なんてどこにでもいる。

 けど、なんで屋敷についてみんな話してくれないのかがわからない。


「まぁ…どのみちすぐわかることだから話すが…。ジュエルエース元大公家はな、呪われたことによって二百年前に断絶した家なんだ。その後屋敷をなんとかしようと教会の力も借りて試みたことはあったんだが…」

「あぁ…うまくいかなかったんですね」


 私の呟きにも等しい言葉にレンブラント王子は小さく頷いた。

 ここで呪いというものについて、アドロノトス先生からの教えや貴族院で勉強したことをまとめてみる。

 基本的に、そして一般的な『呪い』とは『カース』という状態異常だ。その内容は多岐に渡り、体力や魔力が落ちるものや様々な感覚が鈍くなるもの、HPやMPが回復しなくなるなどなど。

 但し今回のようなケースでの『呪い』とはその土地に使用することによって、そこにいる全ての者に効果を発することが出来る。それこそ徐々にHPが削られていくなんて呪いなら一族郎党どころか使用人すら皆殺しに出来てしまう。

 その代わりそんな『呪い』の代償は凄まじく、術者本人だけでなく数人から数十人もの生け贄が必要になる。

 まぁ大公なんていうくらいだから意識しないところで恨まれたり妬まれたりしたんだろうね。


「すまぬな。この屋敷の管理もセシーリアにしてもらう必要がある。ほとんど放置しているのだが、定期的に周辺を浄化せねば王都中に亡霊どもが溢れることになってしまうため教会に払う金も馬鹿にならん」

「さっきの聖金貨五枚というのも本来もっと多く払うのだけど、『屋敷をやるのだからそこまで払う必要はない』と財務大臣から強く言われていてね…」


 なるほど。

 つまりもっと多くお金を出しておいて、定期的な浄化の費用をしばらくの間王家が持つという体を取ろうとした、と。

 しかし財務大臣が誰なのか知らないけど、その人も陛下とは違う派閥の人なのかもしれないね。それかただケチなだけか。


「ランディルナ伯、財務大臣をしているローレンス侯はケチではないよ」


 ベルギリウス公は私の表情から考えていることを読んだらしい。

 私ってそんなにわかりやすい表情してるかな?


「とりあえず事情は把握しました。『呪い』については私に一任されるということでよろしいでしょうか」

「うむ…。すまんがこちらからはこれ以上のことは出来そうにない」


 これ以上この話をしていても場が暗くなるだけなので、レンブラント王子に屋敷までの地図を貰い、次の話を続けてもらった。

 そこから先は上位貴族としての権利と義務についてだった。

 例えば王宮には紋章を見せることで自由に出入り出来ることなんかがそれに当たる。

 ちなみにランディルナ至宝伯家の紋章はラウンドブリリアントカットをテーブル側から見た図面のものにしてある。

 キューレット側でも良かったけどやっぱりブリリアントカットと言えばこれだし、宝石といえばこの形だよ。

 他には商会を立ち上げる場合に登録費用がかからないことも権利の一つ。

 義務としては納税だったり、年に一回は登城すること、戦争の時は従軍すること、儀式への参加などなど。

 いろいろ細かい話があったけど、それらはレンブラント王子から渡された書類に一通り記載されているらしいので、時間のある時にちゃんと読んでおこう。

 そこまで話してようやく解放される流れになった。

 ちなみにジュエルエース元大公家の屋敷の鍵はしっかりいただきました。

 今日この時から管理責任は私に委譲されることになるんだってさ!

 本当に無理矢理もいいとこだよ。

今日もありがとうございました。

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