第25話 集め始めました
エアコンが故障かもと思って調べてたら少し遅れました。
7/31 題名追加
二回目のリード来訪の翌日は村の女たちで森へ採集があり、私もイルーナの代わりに参加した。
以前から何度か参加しているので見知った顔ばかりだし、何より私は他の子どもの数倍は採集するのでみんなから重宝されている。
「それじゃセシルちゃん、今日も頼むよ!」
「はーい。あと大丈夫だと思うけど獣が出たらすぐ私に知らせてね」
「あぃよ。流石はあのイルーナの娘だねぇ」
いつものおばさんと話した後、川の近くにやってきた。
少し前にディックが熱を出したことがあってその時に解熱剤のストックが無くなってしまった。熱冷ましの薬草がこの川の近くにあるはずなので、今日はそれを集めたいと思っていたのよね。
しばらく川の近くで熱冷ましの薬草を集め、時折傷に効く物や家にないハーブも採集してある程度まとまった量になった。たまたま近くに来た鳥を仕留めながら、家の花壇の広さを思い浮かべる。
薬草も家で栽培したいところだけど、熱冷ましの薬草は水辺の近くでないと育たないため毎回こうして採集に来ている。私の知識になるし嫌いではないが、ここに来る目的はもう一つある。
周りに人がいないことを確認したあとで靴を脱いで川に入る。まだ夏にはならないので水が冷たいのだが、私は熱操作で周囲の温度を快適に保っているので特に何も感じない。
ここの地理はいまいちよくわかってないのだけど、どうもこの川の上流はどこかの鉱山に繋がっているらしい。イルーナがディックを妊娠中に代理で来ているうちに前世で見たテレビで川から宝石を取っていたのを思い出して試したみたんだよね。
すると取れる取れる。うふ、ふふふ。これはすごいよ?一つ一つは全然大したことのないものばっかりだけど、宝石の原石がこれだけ集まることに私は感動を禁じ得ない。
もちろん細かいものばかりなので普通なら価値など全くない。多分パワーストーンのお店なんかにスプーン一杯いくらかで売ってるような、そんなクズ石ばっかりだ。
私は鉱物操作で川の中から宝石類が集まるように念じる。
ここで採れるのはガーネット、アクアマリン、水晶。前世では宝石とは全く無縁ではあったが、一応女子なので憧れだけはすごーーーーくあった。いや、ひょっとしたら普通の女の子よりも憧れが強かったかもしれない。いつも宝石の本を見てニヤニヤしてたからねぇ…でもそれが今は目の前にある!
そういえばいつか大きな宝石のついたジュエリーを身に着けてみたいとも、部屋中に飾りたいとも思ったものだった。
プラスチックでできた玩具のジュエリーを高校生くらいまで大事に持ってて、同級生が彼氏に貰ったっていう本物のアクセサリーを見て本当に羨ましかったっけなぁ。
懐かしい…でもあまり思い出したくない思い出は振り払ってしまおう。凹んでくる…私に彼氏とか無理ゲー過ぎたんだよ…。
さて、鉱物操作を使ってしばらくすると足下にザラザラと小石が集まってくる感覚がしてくるので、それを集めて地魔法で固めてただの石の塊にしか見えないよう細工する。これを後日取り出してまた加工するわけだ。主に中のクラックを消したり余計な不純物を取り除くことを重点に全ての小石をくっつけて大きくする。
早くキラキラの綺麗な宝石にお目にかかりたいね!そしたら部屋中に飾って毎日眺めて暮らすんだ…!
そのためにはカットのできる職人さんがどうしても必要になる。私の鉱物操作や魔法でもある程度形にはできるだろうけど失敗したくもないのでそういうことはやはりプロに任せるべきよね。
そこそこな量が採れたことを確認し、ホクホク顔で靴を履いていると「おーい!休憩にするよー」とまとめ役のおばさんの声が聞こえた。
お昼の用意をしなきゃいけないので声がした方に向かって歩いて行く。ご飯用に狩っておいた雉みたいな鳥もさっきしっかり解体しておいたし、いつもの野草スープよりはマシな昼食になるだろう。
「よーし、じゃあ今日はこんなもんだね!みんなー、帰るよー」
まとめ役のおばさんの声がして方々に散っていた採集のメンバーが集まってきた。
私も籠いっぱいになった薬草やハーブを種類別にまとめていた手を早めてそちらに合流する。さっき川で採集した宝石類を詰めた石の塊は籠の一番下に入れてある。
家に帰ったらこっそりかいしゅ…あ。
そうだ。
空間魔法で収納しておけばいいじゃん。石だから時間経過も気にしないで済むし、何より誰にも知られずに済む。
今までに同じように回収した石の塊が庭にいくつか転がっているが今後は自分で管理できそうだ。
それにしてもこういう私のトンデモスキルについていろいろ相談できる人がいると一番いいのになっていつも思う。道具とか魔法、この世界の常識もあって多少のお礼で済む人が理想だけどそんな人なかなかいるものじゃないよね?
「それなら魔石にそのスキルを付与して使ってみたらいいんじゃない?」
いたぁぁぁぁぁぁっ!!
「魔石?付与?」
「セシルならそのうちできるようになるかもしれないから今のうちから知ってて損はないと思うよ」
いつものように丘で訓練をしようとユーニャと二人でお喋りしてる時に昨日思ったことを何気なく話してみた。
よく考えたらユーニャはここより大きい町から来てるし商人の娘で道具知識もある。お礼もそんなに気になるほど要求されないだろうし打ってつけの人物だった。盲点だったよ。
ユーニャ曰わく、付与魔法を使える人なら魔石にスキルや魔法効果を付与、エンチャントできるらしい。
その場合、付与を行う人が持っているスキルや魔法でないとダメなのだそうだ。例えば空間魔法がエンチャントされた鞄は魔法の鞄となる。魔法の鞄は現在では空間魔法をエンチャント出来る人はほとんどいないのでとてもレアで高価な物だそうだ。
付与魔法自体はよくある魔法なので使える人は多いがレアなスキルや魔法をエンチャント出来る人は限られてくるし、高度なエンチャントを行うためにはそれに見合った魔石を用意する必要があるので普通はそうそうできるものじゃないと。
この場合の魔石とは魔力を多量に含んだ鉱石のことを差すらしい。ユーニャもあまり見たことはないようで冒険者から買い取るのが一般的とのこと。
それでもこれでずっと行き詰まっていた問題に光明が差してきた。
「それにしてもよくそんなこと知ってるね」
「セシルにそんなことを言われる日が来るなんて思わなかった…」
何気にユーニャも私の扱いがひどい気がします。
「付与魔法のことはコールのお姉さんから教えてもらったんだよ。あの人物知りだからね」
意外と私が知らないだけでそういう知識はありふれているのかもしれないとちょっと反省した。
多分イルーナあたりも知ってるんじゃないだろうか?
「あ、でも鞄にどうやって付与するのかな?だいたい付与魔法を使うのって金属にだからね」
「あー…うーん。どうするんだろう?鞄は布とか革でできてるもんね。留め金とか、かなぁ?」
「今度またリードが来たときに見せてもらおっか」
「そうだね。考えるよりも実物を見た方が早いよ」
とりあえずの結論が出たところで今日もユーニャの訓練に入る。今日は湿魔法をMP切れまで使う。使い切って回復して、を繰り返すことでもMPは少しずつ増えていく。私みたいに無理矢理伸ばして膨らませて増やしてもいいけど、こっちの方が簡単だとイルーナに聞いていたからね。
ユーニャに魔法を使わせつつ、私は自分の訓練に取り組むことにする。最近は魔物を倒さないとスキルレベルは上がらないし、慣れておきたいスキルもないので専ら使い道を考える作業になっているけど。
今日の課題はさっきユーニャに聞いた付与魔法。剣に魔力を通して威力や切れ味を増強させたことで獲得したスキルだったはず。私自身も今まではそのやり方しか知らなかったし、あんまり使い道のないスキルだなーとしか思っていなかった。実際金属にしか使ったことがないので自分の拳を強化するだけなら補助魔法でいいわけだからね。
でももしこのスキルで魔石にスキルの付与ができるならかなり重宝することになるんじゃないかな?
そして問題の魔石だけど、これは私がこっそり集めている宝石類で代用できるかもしれないと思っている。
本来の魔石がどのようなものかは知らないけど、「魔力を多量に含んだ鉱石」でいいなら付与魔法の要領でいけるはずだ。
何はともあれまずは実験だね。
私は空間魔法で穴から以前集めた石英の塊を取り出した。これは極小さな水晶をいくつもくっつけたもので大きさは今の私の親指くらいある。
「さて、じゃあやってみよっかな」
意気込みを込めて独り言を口にすると取り出した水晶を握りこみ付与魔法のスキルを使う。剣と同じように魔力が水晶に流れていく。但し剣と違って流入量は比べ物にならない。その上水晶が白く発光している。眩しさはないが突然の事態に慌てて水晶を落としそうなった。
私がいつも使ってる短剣に通せる魔力をMPで表すなら三百くらい。なのにこの小さな水晶には五千を超えてまだ入っていく。最終的に八千を超えたくらいで止まったが、まだスキル自体は付与していない。
ひとまずテストなので「MP自動回復」と念じて更に魔力を込めると更に千ほどのMPを消費して発光は止まった。
「これで…完成かな?」
「セシル!大丈夫?なんか光ってたけど」
「うん。ちょっと付与魔法を試してみたんだよ」
「セシル…いつかできるようになるかもって言ったけど、まさかもうできるようになるとは思わなかったよ」
心配して駆け寄ってきたユーニャだったけど、話してる内にどんどん呆れた顔になっていく。
「ねぇセシル?お願いだからあんまり人がびっくりするようなことはしないでね?」
「えー。そんなびっくりした?」
「当たり前だよ。付与魔法自体は特別なものじゃないけど、6歳で使うようなものじゃないんだからね?」
むー?そうなのか…。あまりに自分がいろんなスキルを覚えていくせいか自重を忘れてしまって…いや、最初からしてなかったっけ。
まぁいいか。
ユーニャの忠告は尤もだし、親友の言葉だ。しっかり胸に刻んでおこう。
「それにしてもユーニャって驚かないんだね。なんかちょっと嬉しいかも」
「十分驚いてるけど…」
「そうじゃなくて。私が馬鹿みたいに強かったり、いろんな魔法とかスキル使えるの怖がったりしないなーって」
「えー、だってセシルはセシルだし。私のお嫁さんになるんだからそんなの怖がったりしないよ」
前言撤回。やっぱりこの子はいつも通りちょっと残念な子だ。とっても良い子なのにね。なんでこうなったんだろう?…私のせいじゃない、よね?
両頬に手を当てて赤くなって悶えてる姿を見るのも慣れてきたけど、このノリは慣れないなぁ。私は至ってノーマルですからっ!
「だから女同士じゃお嫁さんになれないって…って聞いてないし」
相変わらず悶えたままくるくる回るユーニャが元に戻るのを待ちながら、私は手の中の水晶を太陽に翳して眺めていた。
今日もありがとうございました。
明日も仕事の都合で遅れるかもしれません。
そしてエアコンは故障していました…買い替えです…(泣)




