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第242話 貴族になるの?

戦いが終わって…。

最近戦闘描写が多かった気がするので、しばらく日常的なパートが続くと思います。

「んっ! …~~~~~っ、はぁ」


 ベッドから起き上がると両手を上に突き出して大きく伸びをした。

 戦場から戻った私達は領主様に連鎖襲撃(スタンピード)を殲滅したことを告げた。

 けれど私の意識が保てたのはそこまでで、話をしている間にすっかり眠ってしまったようだ。

 確かに眠る前に柔らかいベッドで眠りたいって話したことは覚えてるんだけど、本当にベッドまで運んでくれるとは思わなかった。

 それにわざわざ制服を脱がせて寝間着にまで着替えさせてくれるオマケ付きで。

 けど肌触りはいいけど、この寝間着ちょっと薄くない? うっすら下着が見えそうなんだけど…。

 私はその姿のままベッドの縁に腰掛けるとまだ少しぼーっとする頭を振ってなんとか覚醒しようと頑張った。


コンコンコン ガチャ


「あ、セシル様! お目覚めになられたのですね!」


 ノックがして領主館に勤めているメイドさんが入ってきた。

 というかこの声は。


「ファムさん? うん、おはよう」

「あぁ…よかった…セシル様…。本当によかった…」


 ファムさんは部屋の入り口から私に飛びかかってくると力一杯抱き締めてきた。

 その目には涙が浮かんでおり、漏れてくる嗚咽から相当に心配を掛けたことは間違いない。

 でも、あれ?

 なんでただ起きただけでこんなに泣かれるの?


「ファムさん大袈裟だよ。ちゃんと無事に帰ってきたんだし、そんなに泣かなくても」


 彼女の肩に手を置いて慰めているとばっと顔を上げて鼻がくっつきそうなくらい近くで睨んできた。


「…セシル様が魔物との戦いを終えて戻られたのはもう二日も前なんですよ?」

「……え…」


 二日も眠りっぱなしだったの?

 …確かに寝ずにずっと戦い続けてたけど…あれ? 私って何日くらい戦ってたんだっけ?


「あ、あのファムさ…」


くぅぅぅぅぅ


 ファムさんにそのことを尋ねようとしたけれど、その前に私のお腹が限界だと言わんばかりに盛大に鳴ってしまった。

 あまりに大きな音だったのでいたたまれなくなって顔がすごく熱くなってきた。


「…ふふ。何はともあれ、先に食事にしましょう。モースにすぐ作ってもらいますから、出来上がるまで湯浴みでもいかがでしょう?」

「出来れば、すぐ食べたいところだけど…お風呂もずっと入ってないしね。うん、それでいいよ」

「はいっ。では私も用意して参りますので、セシル様もしばらくそのままでお待ち下さい」


 そう言うとファムさんは私から離れ、優雅に礼をして退室していった。

 というか、やっぱり一緒に入るんだね? 私も、なんて言ってたし間違いないだろう。けど、心配掛けちゃったしお姉ちゃん役のファムさんが甘やかしてくれるのなら、しっかり甘えておいていいよね。




 湯浴みも食事も済ませた私は制服ではなく領主様が用意してくれたという服に着替えて応接間へとやってきた。

 久々に領主館のお風呂に入ったけどやっぱり湯船が広いのは良いよね!

 ファムさんも一緒に入って洗いっこもしたし、あのマスクメロンも勿論堪能しました。

 けど彼女の身体よりも驚くべき変化があったんだよね…。


ガチャ


 そんな妄想に近い回想に耽っていると急に応接間のドアが開いた。


「おっ、セシル。やぁっと目ぇ覚ましたんか」

「随分疲れていたようだな」

「ねえね、おそよう」


 入ってきたのはアイカとクドー、それに村から連れてきたディックだった。

 ディックはともかくアイカとクドーもまだ領主館に滞在していたのは意外だった。

 どっちかというと二人ともマイペースだし、あまり貴族が好きな風でもないしね。用が済んだらさっさと自分たちの家に戻ってるとばっかり思ってたよ。


「思ってたより疲れてたみたい。でもしっかり寝たしもう大丈夫だよ」

「さよか。まぁそれならえぇんや」

「セシルも起きたことだし、俺達は今日の内に王都に戻るつもりだがセシルはどうする?」


 クドーからの話もあって私は脳内で先送りにしていた問題を思い出した。

 一番悩むのはディックの扱いだ。

 住むところは貴族院自体はもう卒業式がすぐだろうから、しばらく宿を借りてしまえばいい。なんなら一軒家を借りてもいいし買ってもいい。

 ただ私が冒険者として不在にすることが多くなる以上、ディック一人で家に置いておくのは不安でしかない。


「うーん…」

「まぁそないに急かさんでもえぇやん。この後クアバーデス侯爵と話があるんやから、それからみんなで考えたらえぇねん」


 多分百面相しながら考えていたと思うけど、ケラケラと笑うアイカがそう言ってくれたので問題を再び先送りにした。


「ねえね、僕がいると邪魔じゃない?」


 しかしディックは自分が原因で私が悩んでいることをしっかり感じ取ったらしく不安な顔で私の隣にやってきた。

 そんな彼の頭にぽんっと手を置いて撫でると優しく微笑んであげた。


「そんなわけないよ。ディックが生きててくれただけで嬉しいから。ちゃんとみんなが納得出来る方法考えるから安心してね」

「ねえね…。うん、ねえねすごいの知ってるから大丈夫! でも僕ちゃんと一人でも何とかするから」

「だぁめ。貴方はまだまだ子どもなんだからちゃんと私に守られなさい」

「…はぁい」


 だからなんなんだこの可愛い生き物は。

 堪らなくなってディックを抱き寄せると彼は私の腕の中で恥ずかしそうに身悶えた。


ガチャ


「待たせたな」


 ディックとじゃれあってしばらくすると領主様がやってきた。

 すぐ後ろにクラトスさんとゼグディナスさんも続き、領主様が席につくと彼らは後ろに控えた。


「すまんな。各村の被害状況の確認やら町からの陳情の対応で手一杯だったんでな」

「いえ。私こそすっかりお世話になってしまって…おかげでしっかり休めました」

「そうか。とりあえず仕事も一段落して後はナージュに任せられるはずだ。それより詳しい話をもう一度聞かせてほしい。そちらの二人やディックからも話は聞いたが、セシルからの話も聞いておきたい」


 私は頷くと領主館を飛び出してから起こったことを一つずつ話し始めた。

 途中クラトスさんが紅茶のお代わりをいれてくれたり、ナージュさんが報告書を持ってきた後同席したり。

 一通り話し終わって紅茶を飲み干すと領主様は「うぅむ」と大きく唸った。


「…村のこと、両親のことは残念だったな」

「…はい。でもちゃんと仇は討てたので…」

「そうか…。村の者達の埋葬にはこちらから人を出したからセシルが貴族院の卒業式を済ませた頃には落ち着いているだろう。後日行ってやってくれ」


 そう話す領主様自身も無念に顔を歪ませていた。

 彼にとっても私の両親は元パーティメンバーなのだから、その想いも一入だろうね…。


「さて、一応これからのことを話しておかねばならん。心して聞いてほしい」

「これから?」

「あぁ。今回セシルが防いだ…いや殲滅させた連鎖襲撃(スタンピード)だが、総数約八万という報告が上がっている」


 八万?!

 そんなにいたっけ?

 私が驚いているとナージュさんが報告書を出してきた。


「こちらの兵が確認出来たものだけでそれだけの数になる。跡形も残らないような殺し方をしたのであれば実際はもっと増えるはずだ」


 彼の差し出してきた書類を見ると確かに脅威度の低い魔物も全て入れるとそのくらいになっていた。

 新奇魔法で灰にしたのもかなりいるから実際はもうちょっと多くなりそう。


「そしてその中に脅威度Aの魔物が千匹弱、脅威度Sの魔物が百匹程度。はっきり言うぞ、化け物かっ」

「…えぇ…。領主様酷い…」


 私の不満なんてどこ吹く風。

 呆れた顔を隠すつもりもない領主様は眉間に指を当てて唸っている。

 あんまり深く考えると白髪増えるよ?


「お前の規格外ぶりは知っていたつもりだったが、ここまでとは私も思っていなかった。それでだ」


 すっと表情を元に戻すと姿勢も改めて一枚の書状をテーブルの上に置いた。

 それを視線だけ向けて読むと驚くべきことが書いてあった。


「えっと…今回の騒動を解決した功績を讃えたいから王城に来るように…アルマリノ王…って書いてあるように読めるんですけど…」

「その通りだ」

「…なんで?」

「なんでも何もあるかっ。あれだけの魔物の集団をほぼ単独で殲滅したんだ。英雄に祭り上げられても不思議ではないだろう?」

「じゃなくてなんで王様が知ってるのかってことです」

「あれほどの騒動になったのだから陛下がご存知なのは当たり前だろう」


 頭に血が上っててそんなこと何も考えてなかったよ。

 そりゃそうだよね。普通は万を超えるような魔物を一人の人間…あ、もう人間じゃないけど、殲滅させられるわけないよね。

 困ったように視線を天井に向ける私に周りから讃えるような、呆れるような言葉が降り注ぐ。


「さすがセシル様でございます。領内から英雄が出るとは…感無量でございますな」

「あんなドラゴンが暴れた跡みたいな戦場にするセシル嬢ちゃんなら英雄どころか魔王認定でもおかしくないなっ! ぐははははっ」

「セシルぅ…しゃあないってわかっとるけど、自重せなあかんとこはせな…」

「まぁセシルだからな」


 最後の方はなんかかなり酷い言われようだよね?!


「ともかく今回これだけの活躍、これまでの実績、従者クラスとはいえ貴族院に通っていたことも踏まえれば叙爵されるのも当然だろう」

「は?」

「うん?」

「え、ナージュさん今なんて?」

「叙爵のことか?」

「…聞き間違えじゃなければ『ジョシャク』って…?」

「おい、貴族院で習っただろう? 叙爵とは…」

「そうじゃなくて! え? 私がっ?!」


 ナージュさんが理由やら貴族になる場合の注意事項なんかを話している気がするけど、私はそれどころじゃない。

 折角リードのお目付役から解放されて晴れて自由の身になるはずだったのに、なんでそんな面倒なものに縛り付けられなきゃならないのよ!


「セシル、面倒臭いと顔に出すのはやめろ。お前の思うところはあるだろうが叙爵は避けられんぞ。それに関しては諦めろ」

「えぇ……。私どっか別の国行った方がいいかなぁ…ディックも一緒に行かない?」

「僕はねえねと一緒ならどこでもいいよ」

「ウチらもセシルが他の国拠点にするんならついてったるわ」


 よし弟の許可は取った!

 アイカもクドーも頷いてくれているし、助かるね!

 あとはユーニャだけどあの子もきっとついてきてくれるに違いない。


「おい、勝手に話を進めるな。ちょっと落ち着け」


 領主様が慌てて私達の話を遮ってきたけど私は聞こえないふりをしておいた。

今日もありがとうございました。

年末年始毎日投稿中です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スタンピード起きて何もして無かった領主がよく偉そうにできるよね。 てか普通に領地を守れなかった領主何て打首では? しかも村を見捨てるしね。 基本的にゴミ貴族しかいない国の貴族とか何の罰…
[一言] 初めまして水咲様、読者の粛正長官と申します。 この度は、こちらの作品はまだ投稿数が少ない時から読ませていただいて、ストーリーもかなり進展してまいりましたので、感想の方を書かせて頂きました。 …
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