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閑話 名もない冒険者

閑話はまだ続きます。

昨夜上げ忘れたので変な時間で申し訳ないですm(_ _)m

 よぉ。

 あん?

 なんだよ、いつもの挨拶じゃねぇか。

 それより俺が最後か? 違う? ちっ、誰だよ俺より遅く来るような馬鹿はよ!

 あぁ? お前ももっと早く来いだと? 馬鹿言うんじゃねぇよ。早すぎるのは女に嫌われるぜ?

 おっと、ようやく最後の一人が来たな。

 それじゃ今回はこの五人で出発だ。依頼の内容は当然覚えてるよな?

 飲み過ぎて忘れただと?

 馬鹿かテメェはっ?!

 いいか、仕方ねぇから俺がもう一回説明してやる。

 今回の依頼はベオファウムから南に広がってる大森林の調査だ。去年から定期的にギルドから出てる依頼さ。

 大森林に行って魔物が増えすぎていないか、もしくは強力な魔物が出現していないかを調査して報告するだけの簡単なお仕事さ。別に討伐する必要もねぇが、調査が仕事だから生きて帰るのが一番重要になる。

 そんなことどの依頼も一緒だろうって?

 そりゃそうだがこの依頼は出始めてからずっと受けてるが、大森林の奥まで行くからな。中には脅威度Bの魔物に遭遇することだってあるんだ。だから油断したら簡単に魔物の餌になっちまう。二回目の依頼の時一緒にいたメンバーは俺以外誰も帰って来れなかったからな。今頃は仲良く魔物の腹ん中で組んず解れつよろしくやってるだろうよ。

 ビビらせちまったがこの依頼の報酬はかなり高い。

 どこかの金持ちが自分可愛さに頻繁に調査させてるって噂もあるが、ギルド職員の話からすると高ランクの冒険者が自腹を切ってやらせてるらしい。

 心配性で臆病な金持ちがすぐ逃げられるように準備するためなのか、高ランク冒険者が稼いだ金を俺達に回すための慈善事業なのかは俺達にとっちゃどうでもいいことだがな。




 ベオファウムから出て半日くらい経ったがようやく大森林の前に着いたな。

 ったく途中にゴブリンの群れなんか出なきゃもう少し早く着いたのによ。

 あ? ゴブリンが街道の真ん中に群れで出ることなんて滅多にないって?

 そりゃたまたま今回がその滅多にないことが起こっただけさ。

 仕方ねぇ。そろそろ夕方になるし、今から野営の準備をして大森林に入るのは明朝すぐにする。

 大森林の近くだからたまに強めの魔物が出ることもある。薪集めや食料を探す時でも一人で行くんじゃねぇぞ。

 おい、お前。そうだお前だよ! 一番遅く来たお前! お前は俺と一緒に薪集めだ。他の連中はみんな食料探しに行っちまったよ。

 気付かなかったって?

 本当にトロいなお前は!

 なんだかんだこのトロい兄ちゃんを連れながら薪を集めた俺を褒めてやりたいぜ。

 お? けど竈の作り方は一人前だな。もうちょいと周りに気を配れるようになれば冒険者としても一流になるだろうな。俺のようにな!

 俺はこれでもCランク冒険者さ。ゴールドのギルドカードなんてベオファウムでも何人もいねぇんだぜ?

 まぁ数年前にはガキのくせにあっという間にBランクまで駆け上がった奴もいたがあんなのは異常さ。普通の人間が脅威度Bの魔物を単独で討伐なんて出来るわけもねぇ。

 ギルドの流したプロパガンダだろうって?

 馬鹿言うな。俺はそのガキと話したこともあるんだ。普通のガキにしか見えねえが、絶対敵に回しちゃいけねぇ奴ってのを初めて知ったぜ。

 お、食料探しに行った連中も戻ってきたみたいだな。さぁ飯だ飯だ。

 飯を済ませたら見張りの順番も決めるからな。

 お前はぼーっとしてるから最初だな。

 あ? 最初からなんて酷いだと?

 最初と最後が一番まとまった睡眠を取れるから楽なんだ。馬鹿なこと言ってねぇで飯の支度を手伝いやがれ!




 んん? おぉ…交代か?

 何? 様子がおかしい?

 そういや…なんでお前が起こしに来たんだ?

 …どういうことだ。もう日が上る時間じゃねぇか。他の奴等を起こしに行くぞ!


 どうやら二番目の奴が俺を起こしに来る前にどこかに行ったきり戻ってねぇみたいだ。

 まぁそれに気付かずにぐーすか寝ちまってた俺達も悪かったがな。

 なんでどこかに行ったってわかるかって?

 荒らされた跡も無いし、焚き火の燃えカスとそのままだ。どうせ小便でもしようと森の近くに行ったんだろうさ。

 うん? あぁ、やっぱり森の近くに血の跡があったか。こりゃ決まりだな。

 奴がイチモツを取り出したところを一撃ってところだ。

 ただ解せないのは奴が声の一つも上げることなくやられちまったってことだな。

 あいつは酒飲みで女好きの馬鹿だがDランクでも上位の力はあったんだ。それを瞬殺するってことは最低でも脅威度C。下手すりゃそれ以上だ。

 このまま帰ってギルドに報告するってのも良いが、俺達はまだ森の調査を終わらせてねぇ。つまり報酬は無しになっちまう。

 少なくとも森の外縁部にどんな魔物がいるか調べるくらいのことはやっとかねぇと。

 命あっての物種だと?

 いいこと言うじゃねぇか。そんなこた俺だってわかってる。

 けど俺達が調べておかねぇと魔物にやられた奴も浮かばれねぇし、何より町も危ねぇんだ。ちょっとくらい根性見せなきゃならんだろう。

 いいか、一人欠けちまったがこのメンバーで調査は行う。

 あいつは戦闘力だけはあったが正直この仕事にゃ向いてねぇと思ってたから別に構わんだろう。

 仲間が一人死んだのに悲しくないかって?

 そんな感傷に浸りてぇなら一人でやってろ!

 ちっ…。

 俺が今まで何人の仲間と()()()と思ってんだ。

 どいつもこいつも馬鹿ばっかでどうしようもない奴等だったがな。…いい奴等だった。

 くそ…この馬鹿のせいで調子が狂っていけねぇ。

 さっさと終わらせて酒呑んで女でも抱いて忘れちまおう。

 ふむ。

 どうやら森の外縁部にはほとんど魔物はいないようだ。

 そうするとやっぱあの馬鹿が死んだのはよほど運が悪かったとしか言えねえが…それでも外縁部まで脅威度Cの魔物が現れるなんてのはちょっと異常だ。この大森林の奥によほど強力な魔物でも出たか?

 よし、もう少し奥まで行こう。但し危険な魔物や見たことのない魔物がいた場合には即離脱、町まで全力で帰る。いいな?


 大森林に入って既に半日。

 今まで一度も魔物に遭遇していない。

 どういうことだ?

 普通ならとっくに何度も戦闘になっててもおかしくないのに。

 どうする、帰還するか?

 いや…せめてどこに魔物がいるか把握しないことには調査したとは言えない。

 くそ…まだ夏にもなってねぇのに今日はやたら蒸し暑いな…。なんだか空気が身体に絡みついてきやがるみたいだ。

 しかしそろそろ日が傾いてきてもおかしくない時間だ。

 暗くなってから野営の準備をしていたら間に合わないから今日はこのあたりで休もう。

 少し拓けたところでもあればいいんだがな。

 食事は持ってきた携帯食だけで済ませてあまり離れないようにしよう。

 おい、お前。今日も竈作ってくれ。せめて火を熾して干し肉を炙るくらいしたいからな。

 いいか、昨日のこともある。

 小便くらいなら全員から見えるところでしちまえ。

 何度か交代することになるが見張りも二人ずつにしよう。


 ん? あぁ、交代だな。

 ふぁぁ…自分で言っておいてなんだが、これじゃ休まらねえな。

 まぁ仕方ねぇさ。

 それより明日はもう少しだけ奥に行ってみるが、昼まで進んでも魔物に会わなかったら帰還するぞ。

 これだけ魔物に会わないことがそもそも異常事態だ。

 こんなことはベオファウムで活動するようになってから初めてだ。

 前はどこにいたのかって?

 ザッカンブルグ王国の王都さ。

 ちょいときな臭い話を耳にしてな。アルマリノ王国なら安全だろうと思ってやってきたのさ。本当なら交易都市ワンバにでもいようと思ったんだがな。少しザッカンブルグ王国から距離を取りたくなったのさ。

 止めとけ聞くんじゃねぇよ。知らなくていいことまで知ってると無駄に命を落とすぜ。

 お前さんはどうなんだ?

 ほぅ、歳の離れた弟や妹がいるのか。そりゃ頑張って稼がないとな。

 ん? あぁいいとも。この仕事が終わったらまた一緒にやろうじゃねぇか。お前がいりゃ野営の準備で楽が出来そうだしな!

 …おい、なんか妙に寒くなってきてないか?

 いくら森の夜が冷えるっていってもよ。それになんだか霧が出てきてないか?

 あっ、おい! 竈の火がっ?!

 …消えちまった…。

 おい、武器を手放すなよ?

 俺はテントで寝てる二人を起こしてくる。お前もテントの前にいろ。よし。

 …おい、起きろ。何だか様子がおかしい。

 俺の頭はいつもおかしいだと? 馬鹿野郎、寝ぼけてんじゃねぇ。いいから起きて武器を持ってろ。何が起きてもおかしくない。


 ギャリリン


 うぉっ?!

 な、なんだ?

 …テントの外のあいつか。

 あれほど言ったのに武器を落としやがった。

 緊急事態だからこそ落ち着いて行動しなきゃならんというのに。

 って、どこ行った?

 ついさっき、俺がお前達を起こしにくるまで一緒だったんだ。

 テントのすぐ入り口に立って見張ってたんだぞ?!

 …ヤバいな。

 とにかくヤバい。

 おい、武器だけ持って町まで全力で帰るぞ。

 夜の森を走るなんて自殺行為だと?

 じゃあじっとしたまま死ぬか?

 いつどうやって連れ去られたかわからんあいつのように、俺達もいつの間にか一人ずついなくなっていくか?

 それより僅かかもしれない可能性に賭けてみる方がよほど生き残れそうだがな。

 …あいつの剣は拾っておいてやるか。ギルドに聞けば弟達のことくらいわかるだろうし、遺品くらい渡してやりてえ。

 よし、来る時は魔物に会わなかったし急いで……って、おい。後ろにいたもう一人はどこ行ったんだ?

 俺達が目を離したほんのちょっとの間に連れ去られたってのか?!

 おい、走れ!

 このままここにいたら死ぬぞ!

 ちくしょう!

 なんだってんだ!

 どうなってやがんだ!

 木の根っこで走りにくいし、藪のせいで全身細かい傷だらけだ。それでも死ぬよりマシだ。

 せめて森を出るまで頑張れば…。

 くそ、魔物に会わなかった時点で帰還するべきだった!

 ん?

 なん、で…走ってるのが俺だけなんだ…?

 さっきまで後ろを同じくらいの速度で走ってた、よな…?

 なんでさっきから音も立てねぇで殺せるんだよ。

 い、一体何が…。

 う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁっ!


 そこで俺の意識は完全に失われた。

 勿論、二度と戻ることはなかった。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] む、エイガンの匂い……(何でもかんでもエイガンのせいにしたがるお年頃) 似たようなのだと、軍用ロボットの演習模擬戦で【ぐりふぉん参上】と書き残した奴を思い出しますわ(古っ!)
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