第228話 エイガン戦決着
予約忘れてました(゜Д゜;)
試験終わって油断した。゜(゜´Д`゜)゜。
さっさと終わらせる。
そう宣言した私は短剣を構えて魔闘術だけを使い全身と短剣に魔力を纏わせる。
もう様子見は済んだ。
遠慮はしない。
ドゴッ
理力魔法を使わない私の踏み込みは訓練所の地面を踏み砕いて加速する。
私とエイガンの間にあった距離は一呼吸するほどの時間でゼロになる。
「なっ?!」
あまりの速度にエイガンは持っていたバスタードソードで防御することも忘れ私の一撃をその身で受けることになった。
ゴッ
とは言え一太刀で切り捨ててしまってもあまり意味はない。
咄嗟に短剣の刃ではなく柄頭をエイガンの鳩尾に叩きつけてやると私の突進の速度そのままに後ろへ三十メテル以上吹っ飛んだ。
「ごふっ?! はっ! かはっ!」
急所に入れられたせいか呼吸がままならずに蹲ったままなんとか酸素を取り込もうと必死に身体を振るわせるエイガンに対し、
「嵐旋柱」
追撃で放った天魔法の竜巻が彼の身体を締め上げる。
風の刃で切り刻むようなことはしない。
未だに酸欠状態で苦しんでいるので、それを更に後押しするためにかなり速い風速に巻き込んで息をすることも出来ない状況を作り出した。
竜巻で打ち上げられたエイガンの身体はそのまま五メテルほどの高さまで上がるとフッと魔法の効果が消えて落ちてきた。
「ぶぇっ?!」
何やらカエルが潰れたような声が聞こえたけど、また辛うじて意識もあってなんとか呼吸も出来るようになったらしい。
地面にうずくまったままぜぇはぁと荒い呼吸を繰り返しながら必死に酸素を求めてる姿は水面から顔を出した金魚のようでなかなかに滑稽だと思う。
「ちょっと力入れただけでこんなに力の差があるなら決闘なんかしなくてもよかったんじゃない?」
「…く、くそ…」
剣を杖代わりに立ち上がるとエイガンは再び剣を構えた。
驚いたね。
まだやる気があるとは思わなかった。
「仕方ない…俺の奥の手を使わせてもらう!」
「そんなのがあるなら早く出しちゃいなよ。それでも貴方は私に勝てないけどね」
「ほっ…」
「ほ?」
「ほざけえぇぇぇぇぇぇぇっ!」
エイガンはさっきよりも鬼気迫った表情を浮かべるとその身から溢れるほどの魔力を放出し始めた。
ここから一体どんな奥の手が出てくるのかちょっとだけ興味がある。
私の知らないスキルとかなら是非とも拝見して私も手にしてみたい。
「魔人化!」
と思ったら、私もよく使うスキルだった…ちょっと拍子抜け、かなぁ。
尤も、私の場合は戦帝化の下位互換でしかない魔人化はノーリスクで使うことが出来るけど。
エイガンの使ってる魔人化はMPを底なしに使い続ける非常に燃費の悪いスキルなので、彼の少ないMPではもう何分も戦っていられないだろう。
しかしその短い発動時間の中でエイガンは勢いよく私に迫ってきた。踏み込んだ地面が私がしたそれと同じように踏み砕いて抉れている。
ガギィィィィィン
「くっ…」
魔人化を使ったエイガンの一撃はさっき受けた攻撃よりも更に重く鋭くなった。
さすがステータスを跳ね上げる反則級スキルだけのことはある。
「ぐっ…ぐぐっ…ふ、ふははははは! どうだ私の力は! さすがの貴様もこの力には敵うまい!」
強引に剣を押し込んでくるエイガンに対し、私は魔闘術だけの状態で受け止めた。
あっちの方が体格も良いし、武器の重量もある。その上で魔人化を使った攻撃となればさすがの私の手も若干の痺れを感じる。但し最初の勢いは殺しているのでそれ以上になることは決してない。
それをエイガンは私が苦戦していると見えたのか口調が元に戻り、醜悪な笑みを浮かべていた。
「そうだ…これだ! 私よりも弱い者を甚振る快感だ…何も出来ず私に命乞いをする者を無残に切り捨てるのは何にも代えがたい興奮を与えてくれる!」
「…こっ…の、変態!」
魔人化を使ったことによる高揚感だと思うけど、突然そんなことを口走るエイガン。
鍔迫り合いをしているせいで顔がとても近い。
ニタニタと笑うその顔は比喩のしようがないくらいものすっごく気持ち悪い!
「強者は弱者を好きに出来る権利がある! さぁ…命乞いしろ! 脅えた目を見せろ! その上で貴様の首を斬り落としてやる!」
「…今まで違法奴隷を連れて行くときもそんなこと言って殺してたっていうの?」
「当たり前だ! 私に、強者に与えられた当然の権利なのだ! どいつもこいつも絶望の悲鳴を上げて首を落としていったぞ? その断末魔の表情が張り付いた首を眺めるのは最っ高の気分だあっ!」
下衆が。
駄目だね。本当に救いようのない屑だ。
ただ自尊心が高いだけの自称最強くらいなら去年みたいに放っておいてもよかったけど、こいつはもう完全にアウトだ。生かしておくことに何の利点もない。
「…魔人化」
ガキン
私からも吹き上げる魔力の奔流。それと同時に弾かれた剣を離さなかったのは称賛に価するけどほんの少しだけ寿命が延びたくらいのものでしかない。
私から吹き出る魔力は再び私に吸収されてMPは全く消費されないのでエイガンの使っているものとは性能が違いすぎる。
もっと絶望的な力の差をわからせるために戦帝化を使ってもよかったけど、エイガンにそこまでの価値はない。
「なに?! きっ貴様も魔人化を…」
「エイガン。貴方もう何も話さないで。何を喋ったところで私は貴方を絶対に許さない」
今度こそちゃんと両手に魔力を集中させて私は周囲に数十枚の理力魔法で障壁を作った。
一度踏み込めば容易に割れてしまうし反発もないただの壁。
それと同時に使う、カイザックにも味わってもらった絶望の魔法。
「新奇魔法 精霊の舞踏会!」
私とエイガンを取り囲む数百発もの全属性の魔力弾の数々。
「ま、まさか…これが入学試験で見せたという…」
噂くらいは聞いていたようだね。
でもカイザックに使った時よりも数は少ないし威力も無ければ速度も遅いから。
貴方なんかに全力なんて出してやらない。
だからこそ出来る、拷問に等しいこの攻撃が。
前傾姿勢になって魔闘術で全身を強化し続けていくと変わっていく私の魔力の色。
それが金色になったとき、周囲に浮いた魔力弾は順番にエイガンへと降り注ぎ始めた。
「貴方が弱者と蔑んだ私の力を思い知ればいいよ」
「うっ…うるさい! 死ねぇぇぇぇぇぇっ!」
最早破れかぶれでしかないエイガンは剣を振り上げて私へと向かってきた。
しかしそれよりも私の技の発動の方が遥かに速い。
「金閃迅!」
足元に障壁は作らず思いっきり踏み込んだことで地面が爆散する。
その勢いのままにエイガンに迫る。
ガイン
しかしまだ魔人化の解けていないエイガンは何とか私の初太刀を防いだ。
でも攻撃は前からだけじゃない。
ドン
エイガンの側頭部へと当たる炎魔法で出来たバレーボールほどの大きさの弾丸。
その衝撃に苦悶の声と表情を浮かべているけど、私ももう止まれないからじっくり見てあげることも出来ない。
私がパリィンと障壁を踏み砕く度に一太刀ずつエイガンに攻撃が入っていく。そしてその間もずっと精霊の舞踏会の攻撃は続いている。一度に降ってくるのは一発ずつに調整したけど、その間隔は徐々に早くなっていく。
次第に全ての攻撃を防ぐことが出来なくなったエイガンは倒れることも出来ずに私の魔力弾と斬撃を全てその身に受けることになった。
「があああああああああああああっ!!!!」
ザザザザザザザザザザザッ
最後の斬撃を当てた後、振り抜き様に駆け抜けた私はエイガンから五十メテルは離れてしまっていた。
後ろからドサッという音がしたのはそのすぐ後だった。
魔人化は解いていなかったので本気でやっていれば灰になっていただろうけど、ギリギリ生きていられるくらいの手加減はした…はず。
魔人化も解いて後ろを振り返ると仰向けに倒れたエイガンの胸が僅かに上下している。
なるべく殺さないようにしようとは思ったけど、別に殺してしまっても構わない威力だったのでエイガン自身の実力は本物だったのだろう。
私は短剣を握ったまま歩み寄ると地面に倒れ伏すエイガンを冷たく見下ろした。
「とんだ『弱者』ね。貴方なんて私が殺す価値すらないけど、いい加減不快だから死んでね」
右手の短剣を観覧者達にも見えるように高く掲げる。
遠くの方でキラビーノム様が何か叫んでいるのが聞こえたけど文句があるなら自分で決闘の場に立てばいい。
「や…べでぐ…で…。ご、ごろざ、ばいべ…」
とっくに気絶していると思っていたエイガンだったけど、どうやらまだ意識があったようだ。
何度か執拗に顔面へと岩弾砲レベルの地魔法の弾丸を打ち込んでおいたので彼の苛立たしい綺麗な顔は潰されたトマトみたいになっている。
見える限りの歯はほぼ折れて両目の瞼も腫れ上がっているので女生徒の憧れの的だったかつての美顔は跡形もなく粉砕されている。
それをしたのは勿論私だし、意図的に顔を狙ったのは間違いない。
当然それを見ていたエイガンのファンであろう女生徒達からは悲鳴と私に対するブーイングが巻き起こっているけど知ったことじゃない。
文句があるならいつでも受けて立つ。
さて、そんなことよりも今は目の前のエイガンだ。
「随分身勝手なこと言うんだね。今まで貴方はそうして命乞いをしてきた人達を助けたことがあったの?」
私の問いに対して彼は全く答えることなく、さっきと同じように命乞いの言葉だけを繰り返している。
聞くに堪えない戯言でしかない。
「…本当に私が殺す、いえ…生きてる価値もないね」
あまりにもみっともなく、あまりに憐れ、そして薄っぺらで無価値な男。
私は大きく溜め息をつくと結界の外に出た審判に対して声を張り上げた。
「審判! エイガンから命乞いがあった!」
私から呼ばれた審判役の先生は急いで結界を潜り抜けてくると私とエイガンの間に入った。
そしてエイガンの傍で屈んで彼から聞き取りをしている。
あまりに憐れでなかなか話も進みそうにないので私が小治癒で少しだけ回復してあげるとさっきいよりはマシに話せるようになったようだ。
「セシル、エイガンから降参の申し出があった。受け入れるか?」
あれだけ私を殺すとか死ねとか言ってたのに自分が追い詰められるとあっさり命乞いをしてくる。
本当にどうしようもない屑だね。
「もう私が戦うほどの価値もないです。死にたくないなら勝手に生きればいい。騎士だかなんだか知らないけど恥知らずの卑怯者に用はありません」
「…わかった。勝者、セシル!」
「「「オオオオオオオオォォォォォォォォォォッッッ!!」」」
審判が私の名前を上げると観覧席から訓練所を響かせるほどの怒号が上がった。
その真ん中で寝ているエイガンに対して視線を送ることなく私は自分が出てきた通路へと戻っていった。
後ろから呪い殺さんばかりの憎しみを込めた視線を送ってきているエイガンを無視して。
自分が殺意スキルを得たせいか、他人に向けられる殺意にも少しだけ敏感になっているのかちゃんと気付いてはいた。
けれどあれだけ無様に負けて命乞いまでした相手にすぐそんな目を向けられるとは思わなかった。
てっきり私に脅えて二度と近寄らないようになってくれればいいと思ったんだけどな。
けれどこの時あっさり殺しておけばよかったと後悔することになるとは思えないほど実力差もあったし、これですっきり解決かな!
今日もありがとうございました。
次回は予定通り22日に投稿します。
はい、忘れません_| ̄|○




