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第23話 子どもだけの魔法訓練

7/31 題名追加

「お、セシルは魔法も使えるのか?」


 また「お前」って言いそうになったね?寸前で思い留まったみたいだし?聞かなかったことにしてあげよう。

 怪我がないことを確認したリードは剣を仕舞いながら聞いてきた。ユーニャは食事の続きをとるために火を熾し直している。


「うん、母さんに教えてもらったからね」

「…そうか、魔法か…」


 今度は会うときは魔法を覚えてたりしてね?いつになるかわかんないけどさ。

 火を熾したユーニャの近くへ行き、お湯を沸かすフリをして3つのカップにハーブティを入れると木で作った台の上に乗せた。さっきお昼ご飯を食べていたときにも使っていた私の作った簡易テーブルだ。


「とりあえず、落ち着くためにお茶にしよ」


 二人にお茶を勧め、自分も台の前に座ってカップを手に取る。お茶の香りは心を静める最良の薬だと思ってる。異存は認めるけども。

 ゆっくりとお茶を啜ると鼻腔から抜ける香りに癒されて心がほっこりしてくる。ついさっきまで木剣を振り回して男の子を叩いてたとは思えないほど落ち着くね。

 リードも台の前に座ると私が入れたお茶をしばらく見つめた後恐る恐るといった感じで口を付けた。


「ほぉ。これは変わった香りのお茶だな。色味も普段飲んでる紅茶と違って薄い黄色のようだし、何というお茶なんだ?」

「ハーブティーだよ。今日のはカモミールだね」

「ハーブティーか。初めて飲んだが、これはこれで良いお茶だな」


 前回同様、勝負さえ終わればリードはなかなか良い子だ。良い物は良いと言える素直さは大事だよ。

 それにしても、だ。


「リードはいつもは紅茶なの?いいなぁ、高いお茶が飲めて」

「そうだよね。私達の村じゃ紅茶なんて村長かコールのお父さんくらいしか持ってないもん。それだって身分の高い人が来た時用でしかないからね」

「なんだ?紅茶が欲しいのか?ならば今度来た時に持ってきてやろう」

「ほんとにっ?!」

「うむ。今日の勝負も負けてしまったからな。前回のように鞄と言われるよりは全く大したことない」


 リードの提案に喜んだのは私だけじゃなくユーニャもまた満面の笑みをこぼしている。多少質の悪い紅茶だったとしても村に入荷することが稀なのだそうで、ユーニャ自身引っ越して来てからは一度も口にしていないとのこと。

 リードから紅茶を貰ったらユーニャと一緒に飲む約束をして、私達は再度お昼ご飯を食べ始めた。

 ちなみに食べ始めてすぐリードも興味を持ったらしく、一口食べたら私達の分のお肉を半分ほど平らげてしまったことにはちょっと腹が立った。


 お昼ご飯の後はユーニャに魔法の訓練をするわけだけど、今日はリードもいるのでどうしようかと悩んでいたら


「僕のことは気にしなくていい。僕には魔法の才能がないらしいからな」

「そうなの?」


 イルーナからは「魔法の才能」なんて聞いたこともなかったので私は首を傾げる。練習さえすれば誰にでも出来そうなものだけどなぁ?


「普通は火や水、風や土などを発生させたり操ったりするのに才能があるものならすぐにできるそうなのだがな。僕はそういった物には恵まれなかったらしい」


 珍しく自嘲気味なリードが視線を足元に落とす。

 なるほど、それで剣で認められたいって言ってたわけね。でも私だって最初から出来たわけじゃないし、ユーニャも魔力感知から魔力操作とかを覚えて使えるようになったんだしリードもそうかもしれない。


「ねぇリード。魔法を使うには魔力が必要なのは知ってるよね?」


 私が問いかけると彼は「もちろん」と言って首肯する。聞いた感じだと魔法が使えるかどうかは試してみたようだしね。


「魔力はみんなの中に必ずある力って私は聞いてるよ。こんな感じなんだけど…何か感じる?」


 私は手の平の中央に魔力を集中させて小さな竜巻のように渦巻かせてみせたり、炎のように揺らめかせてみせる。


「む?何かはわからないがそこに力が集まっているような感じがするな」


 やっぱり。魔力を感知することはできるようだ。これはユーニャも同じだったけど、これがわかるならこの先の覚えも早いはずだ。


「この魔力を使って、自然界にある現象を急激に発生させることを広い意味で『魔法』って言って、『魔法』を自分の意図した通りに使えて、四つの属性を使える人のことを『魔法使い』って言うんだよ」


 私はかつてイルーナがやってみせたように手の平に出していた魔力をテニスボールくらいの火の玉に変えた。そしてそのまま続けて水の塊に変え、手の平で渦巻く風に変えた後にぎゅっと手を握り込みもう一度開くとサラサラと砂がこぼれていった。


「こんな感じね?」

「おぉ…セシルは魔法使いだったのだな」


 リードはキラキラした目で私を尊敬の眼差しで見つめてきているが、このくらいのことでそんな目を向けられるとちょっと困る。

 実際どの属性も今ではイルーナより遥かに強力なものになっているわけだし。でも特異魔法を使い続けるとMPがすぐ無くなってしまうのは難点かな?尤も、それこそ数千とか数万の魔物が来ない限りは大丈夫だとは思うけどね。


「それじゃリードはまず自分のお腹、特に臍の辺りに魔力があるのを感じてみてくれる?」

「臍、なのか?」

「うん、多分そこが一番わかりやすいはずだから」


 リードが集中して魔力を感じ取ろうとしている側でユーニャと魔法の訓練はできない。こんな近くで魔法を使ってしまったら感知に不慣れなリードでは自分の小さな魔力を感じ取るとこができなくなってしまうからだ。

 私の魔力感知にもリードに魔力があるのは感じるが、ユーニャのそれよりも小さいためかなりの集中は必要になるだろう。

 ユーニャを見ると両手を握りしめて応援しているようだし、本人の訓練にはならないけど楽しそうだからいいかな。でもあんまり力むと魔力が膨らんだりするから落ち着いて応援してほしいね。


「なにか、臍のあたりにもやもや?ぐねぐね?したようなものを感じる」


 しばらく眺めているとリードからそんな申告があった。


「もやもやしてるそれの輪郭をはっきり感じ取れるようにもう少し集中してみて」


 追加で助言するとリードは再び黙って集中し始めた。

 ここまでかれこれ一時間くらいだろうか。なかなか頑張るね。

 ただ結局彼は輪郭を掴むまでには至らず、集中力が切れてしまったようで突然「あーー!」と叫ぶと大の字になって寝転がった。

 そんな彼に輪郭を掴めたら空気を入れて膨らますような、引っ張って伸ばすような感覚でその塊を大きくするイメージを持つように伝えた。これは私もそうだったけどユーニャも同じ感覚で魔力の塊を大きくできたのでやらせることにした。これは家でもできる訓練だし、何よりMPの最大値が上がるのでやっておくに越したことはない。


「よし、じゃあリードはこのあとは見学ね。次はユーニャの訓練をやるよ」

「うん、セシル先生お願いします!」


 うんうん、ユーニャは素直で可愛い。たまに変な方向に暴走するけどとても良い子だね。


「セシル先生ぇぇ?おま、セシルが先生なのか?」

「えー、リードだって今セシルから魔法の使い方教えて貰ってたじゃない」

「あ、いや…まぁそうだな。すまない」

「うん?わかればいいのよ」


 ユーニャは私が貶められるような言い方をされると必ず反論する。

 私自身が気にしないのもあるからその分怒ってくれてるのかもしれないけど、これが元で余計なトラブルに巻き込まれなきゃいいなぁ。お姉さんちょっと心配だよ?


「それじゃ前回の復習ね」


 ユーニャに魔法の使い方として教えているのはあくまで生活で使えるレベルのもの。火を熾したり、水を出したり、または風を吹かせたりが出来れば様々な面で役に立つ。

 今はまだ熱魔法や湿魔法程度なので実際の自然現象の補助するくらいのものでしかないけど、火、水、風、光魔法までは何とか教えてあげたいね。


「ふむ。すごいものだな。彼女は僕とあまり歳も違わないのだろう?」

「ユーニャは私と一緒で6歳だよ」

「そうか、ならば僕とも同い年ということだな。なのにこれだけ使える魔法に差があるのか」

「ユーニャは4歳からやってるし、今日始めたばっかりのリードとは違ってて当たり前だよ」

「…ならばセシルはどれほどの化け物ということに…」

「え?何?」

「い、いや。何でもない」


 なんか不穏な言葉が聞こえた気がするんだけどなぁ?小声だったからよく聞き取れなかった。

 でも藪をつついてもいいことはないのでこのまま聞こえなかったことにしておこう。


「大人になる頃には二人ともちゃんと使えるようになるはずだよ。まだあと14年もあるんだからさ」

「む?何を言っている?この国の成人は15歳ではないか」

「え?…あー、そうだった。ごめんごめん、勘違いしてたよ」

「20歳など成人でも一人前、女性に至っては嫁の貰い手に困るほどだと聞くぞ」


 マジですか。15歳って…。高校生になる頃に成人?しかも20歳で行き遅れとか女にとってハードモードすぎやしませんかねこの世界はっ!そう思うのは私だけ?


「ま、まぁほら。それでも9年あれば生活で使う分には困らない程度にはなれるよ。訓練次第では魔物だって魔法だけで倒せるようになるかもね」


 私の言葉にリードは気合いが入ったようで「家に帰っても今日の訓練を続けるぞ」と息巻いていた。

そんな話をしている内にユーニャは使える属性の魔法を一通り使い、今はまた熱魔法を使っている。ユーニャの右手を中心に温度が上がって辺りの景色が揺らめいて見える。そのためリードは手で顔を扇いでいる。

 私は四則魔法の熱操作で自分の周りの気温を調整しているのでいつだって快適に過ごすことが出来る。範囲を広げることも可能だけど、そこまで危険な暑さでもないのでリードは放置しておく。ちなみに4歳時では意識しないと使えなかったものの、今ではほぼ無意識に常時発動可能だ。なのでうっかり冬場に薄着で外出しようとしてイルーナに怒られたときはバレそうになって焦ったっけ。

 しばらく待つとユーニャの熱魔法が切れて辺りの気温が徐々に下がってきた。リードも安心したようにその場にしゃがんで大きく溜め息をついた。

今日もありがとうございました。

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