第226話 いよいよ
「それともう一つ。負けた方は陛下の御前に出向き、相手の言い分通りの内容で罪を告白するというのはどうかな?」
「…面白い。ならばエイガンが負けた場合私はリードルディ卿の言う通り家族の罪に荷担していたと告げると約束しよう」
「私もキラビーノム卿の言う『クアバーデス侯爵家は反逆を企んだ』と言おう。これで負けた方は全てを失うことになる」
「望むところだ!」
しばらく決闘の内容について詰めていた二人だったけど、全て決め終えた後管理棟の方へと歩き出した。
あそこには管理局といって職員室や学生課のようなものが役割をする部署がある。
そこで二人から決闘の申請書を出すことで貴族院側も私闘と判断せずにちゃんとした決闘として受理される。
そうすることで処罰もないし、お互い納得のいく結果が生まれる…らしい。
私も貴族院に入ってから二桁に迫る回数の決闘を受けたけど面倒臭いだけだった。
殆どが「俺のものになれ」って内容で、こちらからの要求は「私が貴族院を卒業するまで接触しない」というもので受けた。
一人だけ決闘に負けた後も接触してきて退学になってたはず。
当然誰のものにもなってないので受けた決闘は全戦全勝なわけだけど。
彼等が管理棟へ行ってから周りにいた生徒たちはあれこれと噂を立てていたけど多分自分の家に報告するために情報の摺り合わせでもしていたのだろう。
私はミルルと合流したカイザックと共に管理棟へ向かうことにして、リードが出てくるのを待つことにした。
「しかし本当にリードルディ様の筋書き通りに進んでいますね」
「えぇ。あれならお父上を超える日も近いのではないかと」
「お嬢様が仰るのであればそうなのでしょう。しかし超えられるかどうかは…」
そこまで言ってカイザックはチラリと私を見た。
言いたいことはわかる。
もう舞台は整ってしまった以上、私が負ければ全てを失ってしまう。
それはあちらも同じではある。
そして従者は負ければそのまま死ぬことになるから私としても負けられない。
「大丈夫。絶対に負けないから」
待つことしばらく。
先にキラビーノム様が出てきたところ、彼は私達を見つけると「ふんっ」と鼻を鳴らして立ち去っていった。
てっきり絡まれるかと思ったけどあっさり引き下がった。
その後すぐにリードもやってきたので私達は三人で声を掛けた。
「リードルディ様」
「あぁセシル、出迎えご苦労」
「リードルディ卿、いつものガゼボへ行かれませんこと? 今日は日射しもあって暖かいかと存じますわ」
そうしてミルルの勧めもあって私達は四人でいつものお茶会を開くガゼボへと行くことにした。
「おぉ待ちかねたぞ」
ガゼボに着くとそこにはババンゴーア様が後ろにサイード殿を控えさせて待っていた。
いくら日射しがあって暖かいとは言え、真冬に外で待っていたら風邪を引くよ。
ほらサイード殿の唇なんて紫色になってる。
リードとミルルが席に着いたのを確認すると私は熱操作でガゼボ全体を包み温度を調整していく。サイード殿がかなり冷えてしまっているので少し温度は高めにしてある。
そしてお茶の用意をしてリードの後ろに控えたところで遮音結界で音漏れを防ぐと彼等に対して頷いた。
「さて、用意も出来たことだし話を始めよう」
「えぇ。とは言えもうほとんど話をする必要はなさそうですわね」
「あぁ、俺も把握している。ようやくキラビーノム卿が動いてくれたとな」
「予想より騎士団の動きが遅かったが、その後奴の動きは早かったがな」
本来なら冬が本格化する前に動くと予想していたので、僅かに遅れが生じている。
エイガンはその場で何とかするとしてもキラビーノム様を処罰するために早い段階で王城へと連れて行きたかった。
普通はかなり面倒な手続きや証拠集めに奔走することになるのだけど今回の決闘でそこまでの条件を付けたことで時間は大幅に短縮される。
それも出来れば私達が成人する前に済ませておくのが最善だったのだ。
未成年であれば陛下との謁見に保護者を連れていくことが出来るが成人するとそれも出来なくなる。
リードだけでも問題ないだろうけど、最善手としてクアバーデス侯爵がその場にいればより万全となるはずだからだ。そしてそのあたりの根回しは既に済ませている。
「あとは決闘でセシルがエイガン殿を抑えてくれれば全ては筋書き通りだ。出来るな?」
リードは首を捻って私を見る。
当然私もそれに応えるように大きく頷いた。
「相手は王国騎士団長すら倒すほどの手練れだ。セシル殿の強さは身に染みているが、勝算はどれほどか?」
「どんなに最低でも五分五分です」
エイガンは鑑定阻害スキルかアイテムを持っているようでステータスを確認することが出来ない。
なので百%絶対とは言い切れないけど、その最低ラインは私が事前にMPを使い切った上でegg持ちと戦って満身創痍、という条件が重なった場合だ。まずそんな状況が有り得ない。
あとはゴランガの持っていた魔人薬をエイガンも持っていて使われた場合だけど…そんなことをしたら貴族院の訓練所でも結界が破壊されて周囲に甚大や被害が出ることになる。
「ふむ…セシルが五分五分と言ってるなら九割方勝算があると見ていいだろうな」
「えぇ、間違いないかと存じます」
「だろうな」
…なんでハードル上げるのよ。
確かに想定している通りの強さであればまず負けることはない。魔人化も使うまでもない。
但し魔人薬を持っていた場合は戦帝化まで使う必要があるだろうね。
「そこまで悩むなセシル」
「え?」
「奴は例の変な薬は持っていないはずだ。他人に使わせることは戸惑うことなくやるだろうが自分では使わない。奴はそういう人間だ」
「そうですわね。私もそう思います」
「仮に使ったとしてもセシル殿ならば勝てるのだろう?」
ババンゴーア様の問い掛けに私は素直に頷く。
ゴランガと戦った時よりも私は強くなってるし、最初から遠慮無く戦帝化を使っていればあんなに苦戦することはなかったはずだ。
「ならば気負うな。お前は僕の従者で貴族院最強、いや王国最強の冒険者なのだからな」
「リード…」
この場では従者としての立場を優先して話さないようにしていたけど、リードの言葉につい口が開いてしまった。
あ、と思って口に手を当てたがその様子を私以外の五人は微笑ましく見ていた。
むぅ…なんか納得いかない。
それからしばらく日が過ぎて、ついに決闘の当日を迎えた。
私はリードやミルル、ババンゴーア様らとともに訓練所に来ていた。
普通に決闘するだけならこんなことしないけど、今回は私とエイガンという貴族院でも一、二を争う二人の勝負ということでこの場が用意された。
おかげで観覧席は満員御礼。
リードは決闘の結果次第で陛下の元に行かないといけないし、勝負を見守る意味も込めてここに来ている。
他の四人はやっぱりなんだかんだ言っても心配だからなんだと思う。
サイード殿に関しては自分が決闘するわけでもないのに緊張し過ぎて青い顔をしている。
「セシル、いよいよだ。頼むぞ」
「はっ、お任せ下さい」
ここには私達以外にも決闘の立会人として貴族院の先生が数人来ているので余所向けの言葉遣いで話す。
「今回の決闘ではお互いの命を賭けることとしているが、無理に相手を殺めることはない。そして自分の命もだ。みっともなく命乞いしてでも生き残っていれば挽回することは出来る。決して粗末にしてはならん」
そう話してくれているのは従者クラスの担任であるゾブヌアス先生。
従者同士が代理で決闘する、しかもお互いの命を賭けてと聞いて駆けつけてくれた。
勿論エイガンの方にもあちらの担任が行ってるはず。
「大丈夫です。私にはまだまだやらなきゃいけないことがたくさんありますから」
そう。
もっともっとたくさんの宝石を集めたいし、ユーニャとの約束も果たしたい。アイカ達と旅に出て管理者のことについても知りたい。
だからこんなところで死ねない。
「時間だな。セシル、準備はいいか?」
「…はい。いつでも大丈夫です」
「よし。何度も来ているからわかっているだろうがあそこの扉を出れば訓練所に出る。セシルとエイガンが揃った時点で結界が張られ、誰も中には入れなくなる。我々も結界の外から二人の決闘を見守ろう。どちらが勝っても、どちらが負けても王国にとっては大きな損失になるだろうが…」
ゾブヌアス先生は決闘についての説明をしていたが、段々と私情が多分に含まれていく。
エイガンが勝ったら王国にとって損失しか残らないとは思うけどね。
「先生、それはこの決闘が申し込まれた時点でわかっていたことです。僕達にも目的と譲れぬものがある」
ゾブヌアス先生の言葉にリードが割り込んだ。
その言葉にミルルもババンゴーア様も同意して頷いている。
それを見て、私から何か言うことはないので立ち上がって訓練所に繋がる扉へと向かう。
そんな私の背中にリードが話し掛けてきた。
「負けるとは思っていない。セシルの強さは誰よりも僕がよくわかっているつもりだ」
「…ご安心下さい。貴方は今、私の主人なのですから。ただ一言『勝って帰ってこい』と仰ってくだされば良いのです」
私も振り返らずにそう答えるとリードからの返事を待たずに今度こそ訓練所へと歩き出した。
訓練所に出ると観覧席は聞いていた通り満員御礼。
人に見られていることは慣れてきたのでそれで緊張することはないけど、観覧席の一番高いところにレンブラント王子と隣にはオッズニス殿が立っていた。
なんでわざわざ観に来てるんだろ。
あ、でもそこから少し離れたところにネイニルヤ様とウェミー殿もいる。
ネイニルヤ様は私が見ていることに気付いたのか小さく手を上げてくれた。
さすがに同じように手を上げることは出来ないけど、手を胸に当てて騎士の礼を取ると彼女は満足そうに微笑んだ。
隣にいるウェミー殿は拳を握り締めて叫んでいる。
普通は聞こえないんだろうけど私の耳は「気合いだ!」と叫ぶ彼女の悲鳴にも近い声援を拾ってきた。
どこぞのプロレスラーかいっ。
「準備は出来たか?」
「…えぇ、いつでも始められるよ」
「そうじゃない。…死にゆくための遺言などは用意したかという意味だ」
舐めてるね。
私はエイガンに向き直るとその目を射抜くように見つめ返す。
「私は死なないから必要ない。その言葉、そっくり返してあげるよ!」
今日もありがとうございました。




