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第213話 因果応報

前回の続きなので直接的な表現が多いかもしれません。

「いでぇ…もう勘弁してくれぇ…」


 暗い洞窟内に男達の呻き声だけが響く。

 痛烙印(スタグペイン)を使った後、炎で片足を焼き落とし、凍傷にさせてもう片足も落とした。

 真空刃で片腕を輪切りにもした。

 残った片腕は先端から巨大な岩で押し潰していった。


「もう殺してくれよぉ…許してくれぇ…」

「…貴方達はユーニャがそう言った時も許してあげたの? 違うでしょ。もっと苦しめばいいよ」


 再び痛烙印(スタグペイン)を使ってみたけど、もうまともな悲鳴すら上げなくなってしまった。

 さっきは殺してくれって叫んでいたのに、あぁだのうぅだのしか言わない。

 今は全身の至る所だけでなく、失ってしまった両手足の幻肢痛にも襲われているだろう。

 いい気味だと、そう思えれば十分だと思っていた。




 数十分ほどして、もうほとんど反応のない男達。

 私はあれだけのことをしたのに心に何の呵責もなく、まるで画面越しに繰り広げられている映画を観ているような気分でしかなかった。


 バン


 この映画にもそろそろ飽きてきたと思ったところで、理力魔法の障壁を叩く音が聞こえてきた。

 そちらを見ると懐かしい顔触れだった。

 いや、懐かしいと思うのはおかしい。

 この洞窟を探すまでは一緒だった稜線の狩人の面々だ。

 小さく溜め息を吐くと殺意スキルや魔人化を解いてから障壁を解除して彼等を広間へと招き入れた。


「セシル! 一人で行くのはあぶな……な、なな…んだ?」

「うっ…何このすごい臭い……っ!」

「うごえぇぇぇぇぇっ!」


 四人の内吐かなかったのはリーダーの男性だけで他の三人は来た道を駆けていって盛大にリバースしている。

 まぁ確かにぐっちゃぐちゃだし、いろんなものが吐き出され垂れ流されているので無理はない。

 私は既に麻痺してしまって何も感じなくなっている。


「……こいつらが、生徒を攫ったのか?」

「…うん」

「…盗賊は見つけ次第殺すのが鉄則だけどな。これはやりすぎだ」


 リーダーの彼は大きく息を吐き出すと私の頭にポンと手を置いた。

 振り払うこともせずに、そのままにさせておいた。


「…ユーニャが、すごく酷いことされてた」

「セシルの知り合いか?」

「私の親友。一緒にお店やろうって話して、私のこと大好きっていつも言ってくれて…」


 とても悔しくて悲しいはずなのに涙は一滴も出ない。


「それじゃ仕方ねぇ。金閃姫を本気で怒らせたこいつらが全部悪い。だからそろそろ終わりにしようや」

「……うん、ありがと」


 私は理力魔法で彼等の体を一か所に集めると、その下に大きな穴を開けて全て落とした。

 痛烙印(スタグペイン)は解除しない。死んでからも、生まれ変わっても苦しみ続ければいい。

 私は絶対に許さない。

 最後に彼等の上から地魔法で細かい砂を盛っていき、穴が埋まるほどになったところで岩盤で蓋をした。

 その後洞窟内に広がっている悪臭を消すために脱臭(デオドラント)を使った後、私は四人を連れてユーニャ達の元へと戻った。


「…見た目は服がボロボロなだけで綺麗だし、傷も無さそうね」

「…あんな状態にいつまでもしておけるわけないよ。すぐに治療もしたし、綺麗にしたよ」


 私が絞り出すように話すと背が高い方の女性は「そう」と短く答えて、未だに起き上がる気配のない五人のそばにしゃがみ込んだ。


「…うん。セシルの言う通り治療は完璧ね。ただ衰弱が激しいわ。碌に食べ物も貰ってなかったんじゃないかしら…」


 …やっぱりあいつらもっと苦しめるべきだったかな。

 再び灯る憎しみの炎に殺意スキルが発動しそうになったせいか、魔法使いっぽい女性が青い顔で私の肩を叩いてきた。


「おお、落ち着こうセシル」

「……うん。とにかくいつまでもこんなとこにユーニャを置いておけない。一刻も早く連れて帰りたい」

「あぁ、そうだな。よし、そうと決まれば早いとこ下山して町に戻るか」


 リーダーがまず男子生徒一人を背負い、残りのメンバーも一人ずつ生徒を背負ったり抱いたりした。

 勿論私はユーニャをお姫様抱っこして帰る。


「ここの盗賊の貯め込んでた物はまた取りに来るしかねぇな。そん時にゃセシルにも声を掛けるからな」

「私はユーニャさえいればそれでいい。こいつらの物なんか触りたくもないからそっちで好きにして」


 早く帰ろうって話になってるんだから、そんなことどうでもいい。

 私の話は終わりということで一人洞窟の出口へと向かう。

 他の生徒も大変だったと思うけど、ユーニャに比べたら災難でしたねの一言で済ませられる。


「けどこの時間じゃ途中で野営する必要がありそうだな。他のパーティで馬車を引いてきてるところがないか山を下りてから確認しよう」


 馬車?

 冗談じゃない!

 なんでそんな悠長に帰らないといけないの?


「私は一刻も早くユーニャを休ませてあげたいから先に帰る」

「先に帰るって…貴女、いくら二つ名持ちだとか有名になってるからって無茶は駄目よ! ちゃんと先輩の言うこと聞いて、その子も馬車で連れて帰った方が…」

「うるさい。ギルドへはちゃんと報告する。もういいから放っておいて」


 彼等を振り切り、急ぎ足で洞窟を出ると同時に私は飛び上がった。

 王都の入り口まで、全力で飛んで行けば三十分もかからない。

 ユーニャに負担が掛からないように空間魔法で保護しつつ、少しでも早く帰るために魔人化も使う。

 空間自体を操作しているため物理的な現象は起こらないけど、これを天魔法で再現したら間違いなく衝撃波も出てしまうだろう。

 飛び続けること約三十分。

 そんなに離れていなかったはずだけどやけに王都が遠く感じた。

 そのまま門のすぐ近くに下り立つと、門番をしている衛兵が駆け寄ってきた。


「君は…昨日の少女か」

「あ、昨日のおじさん」


 門番をしていたのは昨夜見回りをしていた衛兵だった。

 けどあれからかなりの時間が経っているのにまだ勤務中なのだろうか?

 兵士というのもかなりのブラックなんだね。


「攫われた国民学校の生徒を見つけたの。とりあえず私は一人だけ連れてきたけど、残りの子達は稜線の狩人が連れて来るよ。出来れば食べ物とか持って迎えに行ってあげてほしい」

「本当かっ?! いや、君が抱えているその子を見れば間違いないのだろうな。よし、迎えはこちらで手配する。君はまず冒険者ギルドで報告を頼む!」

「はい!」


 私は門番のおじさんから優先的に通されて町の中に入ることが出来たので、そのままの足で冒険者ギルドへと向かう。

 時間は五の鐘が鳴って少し。まだまだ混み合う時間じゃなかったおかげでスムーズにクレアさんのいるカウンターまで行くことが出来た。


「セシルさん、その方は確か貴女のお友達ではなかったでしょうか?」

「国民学校の野外訓練で行方不明になっていた子を助け出したの。すぐにギルドマスターに会わせて!」

「っ! わかりました。私も同行します」


 そう言ってクレアさんは立ち上がるとカウンターに「休止中」の札を立てて私をギルドの奥へと案内してくれた。

 階段を上がってまっすぐ進み、ギルドマスターの執務室の前に立つとクレアさんはノックすらせずにドアを開けた。


「クレアさん、いつもここに入る時にはノックをするようにと…セシル?」

「マスター、セシルさんが国民学校の生徒を救出したそうです」

「あ、あぁ…その抱いてる子がそうなのか?」

「うん。この子は私の大事な友だちだからすぐに連れてきた。他の子達は稜線の狩人が連れてくる。門番の兵士に事情を話して迎えに行ってもらうようにお願いしておいたから、ギルドマスターからもフォローしておいてくれると助かるよ」

「わかった。クレアさん、聞いての通り。AランクとBランクのカウンターは閉めて構わないので、エミルさんと一緒にすぐに兵士の詰め所へ行ってこちらとの連携を図るように」

「わかりました。セシルさん、では」


 クレアさんはギルドマスターに礼をすることなく執務室からすぐに出ていった。

 この人の礼儀の無さはどの人に対しても有効なのかな。


「さて…詳しい話を聞きたいところだが、それよりも先にその子を休ませることが先だな。セシルの今の宿は?」

「まだ取ってないけど、多分『巡る大空の宿』に行くと思う」

「明日にでも私が直接行くから、今日のところは彼女を早く休ませてやってくれ」


 それだけを聞くと私もギルドマスターの執務室を後にするべく振り返った。

 さすがにクレアさんのようにはせず、「ありがとう」とだけ言って頭を下げるとドアも閉めずに出ていった。

 後ろで「私はそんなに威厳がないかね…ドアくらい…」とか聞こえたけど、知ったことじゃない。

 ユーニャを抱えたまま冒険者ギルドから出るまでに何人かの冒険者とぶつかりそうになったけど、全て理力魔法の障壁で弾き飛ばして出口まで一直線に向かう。

 冒険者ギルドを出てからも遠慮はせずに建物の屋根伝いに巡る大空の宿へと文字通り一直線に向かったので、ギルドマスターと別れてからここまでは五分もかからなかった。

 早くユーニャを休ませたい一心で、後先は何も考えていなかった。




 巡る大空の宿に着くとちょうどブリーチさんが滞在している時だった。

 とてもタイミングが悪い。

 このことを切っ掛けにユーニャとの取引に影を落とす可能性があるからだ。

 せめてユーニャが卒業するまでは現在の取引は続けておいてほしい。

 しかし彼は私とユーニャを見ると、いち早く状況を把握して従業員に対しすぐ部屋を用意するように指示して貴族用の部屋を開けてくれた。

 何故と尋ねた時、彼はこう言った。


「私は今後ともユーニャさんとセシルさんとは良いお付き合いをしたいだけですから。お二人の才能は潰れてしまうには勿体無さ過ぎます」


 ユーニャはともかく私に関しては買いかぶりすぎだと思う。なんせただのチートでしかないのだし。

 でも良い部屋を開けてもらったのは助かるので、礼だけ言ってすぐにユーニャを部屋に連れていった。

 ユーニャをやたらと広いベッドに寝かせるとすぐに浴室で湯を張った。

 体を綺麗にしたとは言え、やはりちゃんとお風呂に入るのは全然違う。

 去年ネイニルヤ様にも言ったけど、風呂は命の洗濯らしいからね。

 ユーニャを湯舟に連れて行く前に部屋の前に待機していた貴族室付きのメイドさんにお金を渡してユーニャの着替えを買ってきてもらうようにお願いすることも忘れない。ずっと布を被せているままだけど、これを取れば彼女はほぼ全裸に近いボロボロの格好で着替えもない状態だからね。

 とにかく普通の平民や商人の服と大人用の下着も用意してもらう。

 この世界にはブラジャーなんて気の利いた物はないから、コルセットのような上半身用の下着しかない。これでもちゃんとつけないと形が崩れて大変なことになる。

 一応私もちゃんと着けてる。ユーニャに比べたら随分起伏の無い構造だけど…そのせいもあって今回ユーニャは酷い目に遭ってしまっているのだから、やっぱり大きいのも良いことばっかりじゃないんだね…。

今日もありがとうございました。

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