第212話 ユーニャ発見…でも
直接的な表現がありますので苦手な方はご注意を。
運営さんからNG出たら表現変えなきゃ(´・ω・`)
見つけた反応を頼りに走っていくとすぐにそれは見つかった。
上手く蔦や苔などでカモフラージュしているので、かなりしっかり調べないとわからないけど洞窟の入り口がある。
それにここまで近くに来ればこの中に人間がいることはわかる。
その数は小さなものが五つ。少し大きなものが十七。
それよりも大きなものが四つ私のかなり後ろから来ている。
稜線の狩人の皆さんだろうね。多分鐘半分もあれば追いついてくるはずなので、せめて入り口をわかりやすくしておけばいいかな。
私一人で全員を救出することも出来ると思うし、盗賊達を捕らえることも出来ると思う。
それにしたって協力者がいるに越したことはない。
こんなことを考えてる間にも入り口を覆っていた蔦や苔は植物操作で全て撤去してしまう。いざカモフラージュが無くなると獣の住処のようにも見える。フローライトの反応が無ければ今でも獣の住処かもしれないと思ってしまいそう。
念のため透空間を使うと警戒せずに中へと足を踏み入れた。
内部はそこまで狭いわけではないけど、ゴランガがいた洞窟に比べるとかなり狭い上に固い岩盤を避けて掘ったのか入り組んだ構造になっていたものの、ほとんど一本道だったので少し歩いていくと盗賊と思われる反応だけが固まっているのがわかる。
ちょうどユーニャ達からは離れているようなのでちょうどいい。
一気に走って近寄っていくとかなりの人数の大人達が酒盛りをしていたらしく、開けた場所ではアルコールの臭いが充満していた。
見つからないと思って油断していたんだろうね。ちょうどいい。
「痺倒響」
透空間を解除した私を見つけた数人が驚いた顔をして声を上げようとしたけど、それよりも私の魔法の方が早い。
彼らは結局一言も発することなく手に持った酒瓶を取り落としてその場に倒れた。
どうやらここにいる大人達はこれで全員みたいだ。
しかし、その中にどこかで見たことがあるような顔を発見したので、治癒光を使って麻痺した身体を自由にしてあげた。
「貴方、どこかで会ったことある気がする」
「…あ、アンタは…」
「何処で会ったんだっけ?」
「……三年前に、貴族院の野外演習があっただろ…その時だ」
…思い出した。
確かシュニマフ子爵家の長女ノイマーン様を攫おうとしていたところを私が助けに入ったんだっけ。
私はあの時と同じように指先に石射を作り出して彼に向けると殺意スキルを併用して尋ねることにした。
「あの時、二度と私の前に現れないって言わなかったっけ?」
「あ…や…こ、今回は、ア、アンタの方から…」
「私が何?」
あまり殺意スキルと強く使ってしまうとこいつらくらい簡単に気絶させてしまうのであくまで語気だけを強くしたのだけど、それすらも彼は委縮してしまって言葉が続かなくなってしまった。
「…それで、ここに攫ってきた子ども達がいるでしょ」
「…あ、あぁ…あっちに…け、けど…今は…」
言い淀む男に対してもう一度邪魔法で麻痺させると洞窟の奥へと足を進めることにした。
もう少しでユーニャに会える。
きっと助けにきた私に感激してくれるに違いない早く会いたい。
「な…。なに、こ、こんな…」
目の前には横たわった私と同い年の子ども達。
男の子二人と女の子三人。
だと、思う…。
どの子もみんな顔を何度も殴られたらしく大きく腫らせており、誰が誰か判別出来ない。
そして、全身泥だらけに汚れ、あちこちに擦り傷や切り傷、噛み痕もある上にこびりつく生臭い臭い。
男女問わず、全員が。
「ユ、ユー、ニャ…」
多分、髪の色からしてこの子だろうと思われる女子を助け起こす。他に水色の髪の子はいないので間違いはないと思う。
他の人よりも発育がよかったせいで、他の四人よりも盗賊達の劣情を身に受けてしまっていた。
その身体は全身が痣だらけで血塗れ、何本も歯が折られた口から浅い呼吸が洩れてコヒューコヒューと小さな音を立てていた。
なんでユーニャがこんなことに?
私が依頼に時間を取られたせいで?
私が宝石を集めるのに夢中だったから?
ゴランガとその後に時間かかったから?
ギルドマスターの依頼を受けたから?
私も一緒に国民学校に行ってれば、そもそも村から出なかったら…こんなこと…。
「…と、とにかく、ち、ちち治療を……えっと、なんだっけ、手当て、身体洗って…」
落ち着けって私!
今はユーニャ達の治療を!
魔法!
そう魔法を使うの!
「し、新奇魔法 聖光癒」
魔力が光になってユーニャと思われる子の身体を包むと全身についていた傷痕へと集中していく。そこから漏れた光が他の子達にも降り注ぎ彼らの傷も癒していく。ユーニャに使ったものの残滓みたいなものだけど、普通の人が使う大治癒と同じくらいの効果はあるので彼らの傷も治るはず。
少しずつ傷が塞がっていき、その痕が消えると私のよく知ったユーニャの顔が現れた。
目は開いてるものの、そこには何も映していないし、零れた涙の痕がくっきりと顔に刻まれており、切れた口から流れた血や吐しゃ物とも相まってひどく汚れてしまっていた。
「…新奇魔法 聖浄化!」
かなりの魔力を込めて浄化の魔法を使う。
さっきの回復魔法よりも多くの光が溢れてユーニャの身体だけでなく、他の子達、洞窟の床や壁までもが浄化されて綺麗になっていく。
そうしてようやく、王都を出る前に見たユーニャが私の前に現れた。
なのに。
「ユーニャ…。ユーニャ、助けに来たよ。ユーニャ」
呼びかけても、ユーニャはまるで返事をしてくれない。
光のない瞳、生気のない顔、力の入らない体。
全部、遅すぎたの…?
なんで、こんなことに…。
私が遅かったから?
依頼なんか受けたから?
後悔の押し寄せる頭の中に、一つの言葉が思い出される。
「だが、覚えておけ。お前が今日逃がした盗賊達が明日またどこかで人々を襲い、何の罪もないそれらの人々の命が奪われるかもしれないことをな」
これを言われたのはリードからだったっけ。
そう、ちょうど二年次の野外演習で……あいつらを私が見逃しさえしなければ…っ!
「私が甘かったからだ! 私がっ! 私がぁぁっ!」
拳を握り締め、ゆらりと立ち上がる。
力を入れすぎたせいで両手の爪が手のひらに食い込んで地面に赤い雫が落ちる。
私が駄目だったことは認める。
でも、それよりも。
「あいつらがっ…ユーニャををををぉぉおぉぉぉぉっ!」
無意識に魔人化が使われ、殺意が放たれ、魔闘術で強化される。
溢れる魔力が大気だけでなく地面をも震わせていく。
「…絶対に…ぜぇったいにぃ…絶対に許さないん、だからっ…!」
---新たなタレント「憎悪」が開花しました---
---新たなタレント「怨嗟」が開花しました---
腰ベルトから野営時に被る布を取り出してユーニャに掛けると、盗賊達を転がしたままにしている広間へと戻る。
そこにはさっきと変わらず麻痺させられたまま転がっている十七人もの男達。
通路側に理力魔法で壁を作ればもうここから逃げることも出来ない。
治癒光を使い、男達を麻痺から回復させてもかなり本気に近い戦闘状態になっている私に対して完全に怯んでしまって逃げるどころか立ち上がることも出来ないでいる。
「ねぇ。なんでこんなことしたの」
「なっ……なんでって…そりゃ、山ん中でガキだけで歩いてりゃ…俺達だって…」
「俺達だって…何よ」
「…溜まってんだからやりたく……」
カチン
「はあぁぁぁっ?!」
「あづっ! あ……ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
私に答えていた男は全身に火がついて地面を転がり出した。
他の者は燃え移るのが嫌だったのか火を消すどころか近寄ることすらしない。
動きが鈍くなってきたところで火を消して回復魔法を掛けると転がっていた男は呻き声を上げながら壁際まで四つん這いのまま逃げていった。
「ねぇ、三年前に逃がした後もずっとこんなことしてたの」
「あ…あぁ……いっ、いや! こ、今回はたまたまだっ!もっ、もうこんなことはしねぇっ!神に、いやアンタに誓う! だっだから今回も見逃してくれ! なっ?!」
男は自分の頭を地面に擦り付けながら大声で叫ぶ。洞窟内に反響したその声は不快なノイズとなって私の顔を歪ませた。
それにしてもこの人何を言ってるんだろう?
まるで言葉が通じない相手と話している気になってしまい、それが迷ってる風に見えたのか以前見逃した男は更に言葉を重ねてきた。
「や、優しいアンタのことだ。お、俺達を殺したくなんかないだろ? こ、今度こそ俺達ここ、心をいれっ、入れ替える! だからっ…勘弁してくれ!」
今度こそってなに?
ユーニャにあんなことして生きてられると?
「私って今まで人を殺したことがないように見える? そんなに優しそう?」
ゴランガは最終的に人をやめてしまっていたからノーカウントということにするけど、部下の盗賊達のほとんどはあの広場にいたので殺してしまっている。
思った以上に感慨がわかないものだと不思議に思ったくらいにあっさりと殺してしまった。
「あ、あぁっ! ま、まるで御伽噺の女神様みたいだぜ! ……許して…くれるのか?」
「私は貴方が何を言ってるかわからない。ここで死ぬのにどうして『今度』なんて言ってるの? 許してもらえるようなことだと本気で思ってるの?」
「へ……。な、なんでだよ! 前は見逃してくれたじゃねぇかっ!なんで今回は駄目なんだよ!」
男がやたら吠えているけど、なんかもうどうでもいい。
自分達が生き残ることをしか考えてない。自分達の罪とか無かったことにしてもらおうとしか考えてない。
「だって、貴方達は生きてる価値ないもん。痛烙印」
この場にいる盗賊達全員に対してアイカから教えてもらった邪魔法を使った。
拷問しないといけない時や殺さないけど許せない相手に使えばいいって言われてた魔法。
身体のどこかに現れる紋様。罪を犯した者へ与える断罪の烙印。文字通り、その罰は痛みで与えられる。
「「「ぎゃああぁぁぁぁぁっ!」」」
「いでぇぇぇっ!いでぇぇぇぇぇぇっ!」
「うあぁぁぁぁぁっ!」
痛みが現れない箇所はないと聞いているので、彼等が今受けているのは全身隈無く襲い来る激痛のはず。
アイカ曰わく、神経を引っ張り出してヤスリで擦ってるようなもの、らしい。
ユーニャが受けた苦しみ、何倍にもして返してあげるから思う存分味わうといいよ。
痛みにのたうち回る男達を見下しながら次の罰を考える。
何も感じない。
非道いことをしているはずなのに、悲しいとか苦しいとか思わない。
ただこいつらをどれだけ苦しめて殺すかしか、私の頭の中にはそれしかなかった。
今日もありがとうございました。
普段は当然少し先の話を書いてるのですが、ちょっと生みの苦しみを味わっています(_ _)
なんとか年内に貴族院編を終わらせたいので頑張ります(≧▽≦)




