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第204話 宿への襲撃

 いつの間にか眠っていたけど、深夜になり物音がして目を覚ました。

 眠い目を擦りながら身体を起こすと嫌な予感はやっぱり的中していて、部屋の床に転がる数名の黒装束達。

 服装から察するに前回の冒険者達とは別枠みたいだ。

 その証拠に彼等の懐を探っても何も入ってなかった。

 せいぜいがナイフなどの武器と暗器、それと中身不明の薬品類…まぁ毒だろうね。私には全く効かないけど。

 しかしみんな仲良く行動不能になってるし、回復させれば話すことくらい出来るだろうけど…多分喋ってくれないよね。

 それかまだ無事な人に聞いてみるしかないか。

 脱いだまま椅子に掛けておいたスカートを身につけ、ハンガーに掛けていたジャケットを羽織った後、腰ベルトを装着すると部屋に貼っていた絶対領域(アブソリュートエリア)を解除した。

 今から使う結界系の魔法は二重で使えないのが難点だね。

 でも念の為監視役だけは最初に排除しておかないと。


「ショット。それと新奇魔法 逃走制限(リストリクション)


 窓を開けて離れた位置にいた彼等の仲間と思われる人を石射(ストーンシュート)で狙撃した。石の弾丸はかなりの固さにしたので額に当てて意識を刈り取ることに成功。念のためにフラついたところに第二射で顎を撃ち抜いたので脳震盪まで起こしている。

 その直後に新奇魔法で結界を作成。

 物理的に私が指定した範囲から脱出出来なくなるので、アイカ曰わく「ボス戦仕様」とのこと。なるほどと思った。

 とにかく宿全体と怪しい動きをしている人達全員を巻き込むほどの範囲で使ったので広範囲になったし、その分MPも消費したけど問題ない。

 とりあえずさっさと済ませてしまうとしよう。




ドサッ


 また一人私の攻撃を受けて黒装束の男が地面に倒れた。

 後ろから短剣を突きつけて雇い主を聞いているんだけど、さっきから誰一人として話してくれない。

 私って尋問下手なのかな?

 ちょっと凹んでたけど考える間も無く、別の黒装束が音も立てずに近付いてくるのが探知に引っ掛かった。

 全員が隠蔽のスキルを持っているのはさすがだと思うけど、誰もが私の探知よりレベルが低いから全然隠れられてない。

 そんなわけで私も次の標的に向かっていくことにした。

 廊下の角からこっそり様子を見ながら自分の身体を投げ出すように動く影で出来た獣を思わせるような身のこなし。

 それは本当に凄いと思うんだけど、隠蔽を使った上に彼の真上で理力魔法で作った足場の上に立つ私のことをまるで見つけられてない。

 音を立てずに彼の後ろに降りた後、短剣を首に添えた。


「動かないで」

「…っ…」


 小さく息を飲む声がすると、黒装束は両手を上に上げた。


「さっきからいろんな人に聞いたけど誰も答えてくれなくてね。教えてくれない? 誰に言われて来たの?」


 当然こんな聞き方では誰も何も言わないことはわかってる。

 案の定、目の前の黒装束も一言も喋らない。


「話してくれたら貴方が受け取るはずだった報酬の倍は払うよ?」


 ここまで気絶させてきた男達と同じことを話してみるけどやっぱり効果はないようだ。


「それとも…死んだ方がマシだってくらいの地獄を見てみる?」


 口だけでそんなことを言っても意味がないことはわかっているけど下手に威圧なんてスキル使おうものなら簡単に居場所がバレてしまう。

 本当に面倒くさいなぁ。

 その後も仕方無く死なない程度に電撃を浴びせてみたりしたけどまるで反応してくなかったので結局今まで同様気絶させて放置することにした。

 探知で探ると残りはあと一人。

 宿の入り口あたりからずっと動いてないところを見るとこの人が隊長とか責任者とかかな?


透空間(ステルス)


 今日はやたらと出番の多い空間魔法を使って姿を消すと全く警戒することなく宿の入り口まで歩いていくことにした。

 そこには深夜だと言うのに宿の入り口には鍵もかけられておらず開け放たれたドアの前に黒装束を着た人が一人立っていた。

 あれではさすがに後ろを取ることは出来ない。

 この宿の窓は全て嵌め殺しになっていたため、あのように入り口を塞がれてしまうと外に出る手段が無くなる。

 ひょっとしたら従業員用の裏口くらいはあるかもしれないけど、こんな風に鍵を開け放っておくような宿だし、黒装束達とグルになっていると思う。

 仕方ない。

 そう思って溜め息を漏らしたところ、黒装束はこちらに視線を送ってきた。


「…何者だ」


 どうやら私が吐き出した息で出来た空気の流れから気配を掴んだらしい。

 他の奴等とは明らかに違うようなので、私も姿を現すことにした。


「こんばんは」

「…随分厄介な魔法を使うようだな」

「そうでもないよ。これでも姿を消せるまで時間かかるからあんまり戦闘には向かないしね」

「それをそのまま信じろと?」


 外から入る月明かりのせいで逆光になり、相手の顔は全く見えない。折角他の連中と違って顔まで黒装束で覆っていないというのに。

 まぁ気絶させた人達は全員顔にぐるぐる巻きにしていた黒い布を引っ剥がしておいたけどね。


「別にどっちでもいいよ。それで、貴方があの黒装束達のリーダーでいいのよね?」

「そう言うからには部下達は全て殺されたと見ていいようだな」

「殺してないよ。ちゃんと全員生きてる」

「それをそのまま…いや、寧ろ生きていることが奴等の罪だ。我らはしくじったら速やかに死ぬことも仕事なのだからな」


 表情は相変わらず見えない。

 でも声に苛立ちと嗜虐的な笑みが含まれているのを感じる。

 実力はともかく、ヤバい人なのは間違い無さそうだ。


「失敗しただけで死ななきゃいけないような職場なら転職を薦めるね」


 腰ベルトから右の短剣を逆手で引き抜いて正面で水平に構えた。


「良い仕事があるなら是非薦めてやってくれ。生き残れたら、だがなっ!」


ガキイィィィン


 彼の手にはいつの間にか剣が…いや、篭手から伸びた剣が突き出していた。

 前世の友人宅で読んだ本の中にあんな武器があった気がする。

 なんでまたそんなマニアックな武器を選ぶの?!


「防ぐか。面白い」


 接近したお陰で彼の表情がよく見えるようになった。

 年は四十前後だろう。威圧感のある眼が印象的な悪そうなおじさんだ。

 そしてその顔が愉悦に歪んだかと思えば手を引き、両手から剣を出してあらゆる角度から斬りつけてきた。


ギキィン 


 私はまだ短剣を一本しか抜いていないのでいちいち馬鹿正直に受けていられない。

 それぞれの攻撃を紙一重で避けながら、甘い攻撃だけを短剣で弾き返す。


「ふっ、いいぞ! そうだ、もっと避けろ! 当たれば死ぬぞ!」

「っ! たく、もうっ! 調子にっ、乗るなっ!」


 下から斬り上げて相手の剣を弾くと、がら空きになった胴体へ前蹴りを当てて吹き飛ばした。

 ちょうどドアが開いていたのでそのまま外へと出ていった男。

 でも私が割と遠慮なく蹴ったはずなのに骨を折るような感触は無かったし、どちらかというと分厚い鉄板を蹴ったようだった。

 警戒しつつ私も外へ出るとちょうど彼も起き上がるところだった。


「くっ、ふふ、ふははっ。いい蹴りだ…遠慮のない殺すための技だな」

「貴方ならそのくらいじゃ死なないでしょ。というかよく無事だったね」

「まぁな。仕事のために鍛えているからな」


 とは言え、彼はさっきからずっとお腹を手で押さえているので全く効果が無かったわけではないだろう。

 それがやせ我慢なのかどうかはどうせすぐにわかる。


「さぁ、再開しようじゃない、かっ!」


 男は体を前かがみにすると同時に踏み込んで私へと肉薄してきた。走りながら両手を不自然に振りつつ、私への最短距離を進んできており、篭手から伸びた剣が真っ直ぐ私へと突き付けられ数瞬後には私に刺さる。

 その剣を()()()()避けながら後ろを振り向き、夜の闇に紛れて飛んできた小さなブーメランのような刃物数枚を短剣で叩き落した。

 さっき不自然に両手を振っていたのはこんな暗器のような武器を周囲にばら撒いて手数を増やしていたのだ。普通なら夜の闇に紛れて見えなくなるところだけど、残念ながら私には丸見えだ。

 男はそれに動揺することもなく後ろを向いた私へと突きを放ってきたが、探知を狭い範囲で使ってる今の私には後ろを向いていてもその動きが手に取るようにわかる。


「なっ?! これも躱すというのか?」

「喋ってくれるなら誰から言われて私を狙ってるかを話してくれない?」

「ならばこれでっ!」


 半歩下がって鋭い突きを何度も繰り返してくるけど、当然それも全部見えてる。

 それにしても私の話は無視したね。わかってたことだけどさ。


「くっ!」


 いい加減しつこいのでもうちょっとだけ実力の差を教えてあげよう。

 魔闘術で右手を強化して防御力を上げた私は迫りくる剣をそのまま素手で掴むと軽く引き寄せて男の体勢を崩した。


「よっと」


 倒れかかっている男の脇腹目掛けて右足を少し強めに叩き込むと、膝から少し引いて同じ場所へと蹴りを追加で五発打ち込んだ。

 一発目で既に乾いた木の枝を折ったような音がしたけど、蹴りを追加するごとにどんどん増えていき最後には何か潰れたような音がしたので、右足を浮かせたまま手を離した。


「がっ、はぁぁ……」


 脇腹を抑えて蹲る男の右肩に浮かせたままだった右足の踵を振り下ろすと肩甲骨から鎖骨までをまとめて粉砕してしまった。

 ちょっと慈悲が無さ過ぎたかな?


「これでもまだやる?」

「……く、ぐう…。ど、どうやら…本物のば、化け物だったよう、だな…」

「自分が弱いのを棚に上げて化け物呼ばわりは酷いと思わない?」

「ふ、ふふ…弱い、か…そんなことをい、言われたのは修行時代、以来だ…。だ、だが…お前もぶ、無事では済まんぞ」

「うん?」

「俺のけ、剣には大型の魔物すら殺すほどの、も、猛毒が仕込んである…さっき、素手で掴んだお前もすぐに…」


 猛毒ねぇ。さっきそんなようなことを言ってたからわかりやすくするためにわざと素手で掴んだのをわかってないみたいだね。

 手のひらを見ても皮一枚も切れてないし、確かに少し粘度のある液体が付いてはいるけど体には何の影響ない。HPが減るようなこともなければ気分が悪くなることもない。

 更にぺろっと手のひらを舐めてみたけど少し苦いくらいでやっぱり影響はない。


「…それで?」

「…ど、毒……は…?」

「効かないみたいだよ? どうする?」


 男は左腕の肘だけで体を支えながら蹲って答えた。


「…殺せ…」


 だから私もすぐに答えた。


「お断りします」

今日もありがとうございました。

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