第203話 救出と報告
盗賊達を一掃した後、岩山や洞窟に入った際いつも行う宝石採集に夢中になっていた私。
これだけはやめられない。
ダンジョンに入っていろんな宝石や魔石を手に入れるのも楽しいけど、やっぱりこういう天然物を見つけるのは全く別の喜びと感動と興奮があるもの。
そしてある程度満足がいくまで採集したところで最後に出てきたものに目を奪われていた。
「ふぁ…綺麗な薔薇色…」
ロードクロサイト。菱マンガン鉱とも呼ばれるマンガンを採取するための鉱石で、そのうち今見つけたみたいに赤い色を持つものは宝石として扱われることがある。
ただ硬度が低くて脆く、壊れやすいのであんまり装飾用としては向かないんだよね。
それでも部屋に飾るのは最高だし、私なら透明度の高い水晶でコーティングしてしまえば十分装飾品にも耐え得る。
あまり量は多くないものの、閃亜鉛鉱と黄鉄鉱を母岩として採集出来たのは僥倖だ。
宝石じゃないけど黄鉄鉱の結晶はキューブ型をしてるから見ていて楽しいしね。これもコレクションとして飾っておきたい一品なのは間違いない。
んで。
黄鉄鉱が出てくるってことは。
私は更に集中して探知を使い、地中深くまで探っていく。
黄鉄鉱が手元にあるから同じ反応のものを見つけるだけの作業になるのでかなり探しやすい。
「……みーつけたっ!」
釣り上げるように見つけた鉱石を手元まで引き寄せると、それは本当に水から釣り上げた魚のように地面からポンっと飛び出してきた。
「セレスタイン! いやぁぁん…すごい、空を閉じ込めたみたいな水色だぁ…」
手元で輝く綺麗な水色、いや空色をした鉱石。別名天青石と呼ばれる。
さっきのロードクロサイトよりも少し浅いところを重点的に探したらやっぱり見つかった。
ここの地下かすぐ近くに温泉でもあるのかもしれないね。
お風呂は好きだけど、それよりも宝石の方が大事。温泉が近くにあるなら火山が近いということ。つまり宝石がいっぱい埋もれているということ。
ゆっくりお湯に浸かってる場合じゃないでしょ?
ちなみにセレスタインはストロンチウムが主成分のため、こんなに綺麗な空色をしているのに炎色反応は当然赤になる。ちょっと不思議だよね。
ロードクロサイトと同じで硬度が低くて脆いので装飾品には本来向いてないけど、どっちも折角だし飾る用と装飾品用のルースを作ってみようかな?
これからのことを考えるとウキウキして顔がにやけるのを止められない。
「はぁ…やっぱり綺麗で素敵…。宝石達がいるだけで私はとっても満たされるよ」
結局見入ってしまい、そこそこ時間が経ったところでようやく我に返った私は採集した宝石を全部腰ベルトに収納した。
パンパン
気分を切り替えるために自分の頬を叩くと「よしっ」と声を出し、顔を前に向けた。
そこにあったのは相変わらず私の邪魔法で動けなくなっているゴランガと盗賊達。
死んじゃったのはちゃんと埋めたし、とりあえず纏めて運びやすいようにしておこうかな。
念の為彼等の懐を確認して数枚のギルドカードを回収、ゴランガの持っていたSランク冒険者のギルドカードも忘れずに抜き取っておいた。
「うーん…こんなんでどうかな? …ぷっ…くくっ、変な格好」
地魔法を使って岩の塊の中に彼等の身体を埋め込んでいくとさすがに人数が多いせいでかなりの大きさになってしまった。
昔のアニメでよくスキーをして転んだら身体が雪だるまになるシーンを思い出したのは仕方ないことだと思う。
そのくらい彼等の姿は面白い。
けどちょっと大きくなりすぎちゃったし、出る時にも地魔法でトンネル作った方が良さそうだね。
盗賊達をそのままに私は捕らわれている女性達の元へと戻ることにした。
ガチャン
「「ひっ?!」」
鍵が掛かったドアの取っ手を無理矢理捻り切って開けると中の女性達の何人かから悲鳴が上がった。
私が中に入ると女性達はほっとした表情を浮かべたけど、さっきまでいろいろ話してくれたリーアだけは驚いた顔をしていた。
「セシル! え…貴女、なんで…?」
「お待たせリーア。さっき話したでしょ? 『もうこれ以上悪いことにならないようにする』って」
「えっと…どういうこと?」
「そのままの意味だよ。もう盗賊達は何も出来ないから安心して出てきて」
私はまずはリーアを促して部屋から外に出した。
彼女が出たことで他の女性達も続いてくれることに期待したけど、まだ疑ってるみたいでなかなか動こうとしてくれない。
「仕方ないか…。リーア、盗賊達がどうなったか一緒に見に行かない?」
「…本当に大丈夫、なのよね?」
「大丈夫だよ」
探知で探ってみた感じでは彼等は以前岩の中で合体中だ。
リーアを伴って広場に着くと、彼女は唖然として岩の塊を見上げていた。
「ふ…ふふ、あはっ! あはははははっ! すごい! すごいわセシル! このっ! このっこのっ!」
しかししばらくそうしていたかと思えば今度はお腹を抱えて笑い始め、次に一番下で岩に嵌まっていた…確かノズとか呼ばれてた男の頭を蹴り出した。
気の済むまでやらせてあげたいところだけど、やりすぎると殺してしまうかもしれない。
「リーア、そのくらいで」
「なんでよっ?! 私こいつらのせいで! こいつらにっ……」
「…ごめんなさい。リーアの好きにさせてあげたいんだけど、ギルドに突き出さないといけないから」
「…っ…! …うぅ…」
息を飲んだ声にならない声がしてリーアを見るとうっすらと涙を浮かべていた。
きっと私が想像出来ないくらい酷い目にあったんだろうけど…出来ればこんな奴等のためにリーアの手を汚してほしくはない。
「…いいわ。こいつらを倒したのはセシルなんだし、私の恨みを好きにぶつけていいものじゃないものね」
「そういうわけじゃ…」
「いいの。…さ、もう安心だって他の子達にも話しに行きましょ」
そう言うとリーアは岩の塊…盗賊達磨に背を向けて歩き出した。
ちなみにリーアに散々蹴られたノズの頭からは血が出ていたので小治癒で治しておいた。
さてようやく町に着いた。
えぇここまで来るのにすごく大変な思いをしたよ。
後ろを見れば盗賊達磨と冒険者崩れ達磨、そして女性達が乗った木で出来た巨大なソリ。
それを一人で轢いてここまで戻ってきたんだよ。
「あ、あのセシル…? 本当に大丈夫?」
「え…あ、うん。平気平気。あとちょっとだから頑張ってね」
私は捕らわれていた女性達をソリに乗せたまま自力で引っ張ってきた。
栄養失調気味な女性ばかりとは言え、十数人ともなればそれなりの重量にはなる。
ここでもやはり上がりまくったレベルが役に立ったのは言うまでもない。
おまけに岩に挟まったままの盗賊達もいるとなれば総重量は大型トラック並みの重量にはなる。
ここでだけは言わせてもらいたい。
重いよっ!
しばらくソリと岩達磨を引っ張ること数十分。ようやく冒険者ギルドに着いた。
気付けば辺りはすっかり夜の帳が落ちている。
昨日もそうだったけど、この町は夜になるとただでさえ悪い治安がもっと悪くなる。
変なのに絡まれる前にとっとと冒険者ギルドに渡して私自身も宿で休みたいところだ。
門を通る時には門番に怪訝な顔をされ、先触れとして冒険者ギルドへと人を走らせてくれたけどその場で待つこともなく私は盗賊達と女性達を冒険者ギルドへと連れていった。
「まさか…一人でこれだけの人数を…しかもゴランガさ…ゴランガまで」
「確か『行ったら駄目だ』って言ってた気がするけど、これでとりあえず解決ってことでいいんだよね?」
プイトーンの町の冒険者ギルドの担当者は私が町に来た時と同じサブマスターを務めていた男性だった。
名前は…なんだったかな?
あまりにも印象が無さ過ぎて覚えてないや。
「…そう、ですね。それではこの方々の身柄はこちらで預かります」
「わかった。一応明日また様子を見に来て、その後私も王都の冒険者ギルドで報告してこちらにも人を寄越すように言っておくよ」
なんだか不穏な気配しかしない冒険者ギルド。
他の町ではこんな気配なんかしたことなかったけど、明らかにこの冒険者ギルドは異常だと思う。
でもこれだけの大人数を王都まで連れていくことは出来ないのでこの人に任せるしかない。
後ろ髪を引かれる思いだったけど、私は宿屋を探すために外に出ようとしたところでリーアから声を掛けられた。
「ありがとうセシル。貴女がいなかったら私達はあそこできっと死んでしまったかもしれないわ」
「大袈裟だよ。それに、困ってる人を助けるのが冒険者なんだから当たり前のことをしただけだよ」
「セシル…。本当に感謝します。このことは私生涯忘れないわ」
いつまでもお礼を言い続けるリーアを宥めながら冒険者ギルドを後にすると、そのまま夜の町へと向かっていった。
「ほんっとうに、治安が悪いね!」
宿を探して歩きまわっているといろんなところから声を掛けられる。
普通のナンパならまだ可愛いものだけど、スリもいるしカツアゲもいる。誘拐未遂や最初から刃物をチラつかせて脅してくる犯罪者まで。老若男女問わずってどうなってるのよ。
しかもさっきから衛兵らしき人をほとんど見かけない。
この町の町長も貴族様もまともに仕事してないんじゃないの?
左手で掴んだまま引きずってる男に聞き出した宿の情報も元に歩いていくと町の中心に近い場所、町長の屋敷のすぐ近くに綺麗な宿屋を見つけた。
かなり裕福な人向けの宿みたいだけど、お金に困ってるわけじゃないしたまにはいいよね。
掴んだままだった男を通りに放り投げると宿の中へと足を進めた。
中は外よりも更に綺麗にされており、あちこちに過度な調度品が並んでいた。
こんな風に飾ってたら、治安の悪いこの町じゃすぐ盗まれるんじゃないの?
そんな疑問を持ってキョロキョロと見回していた私へと宿の従業員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。お泊りでしょうか」
「あ、はい。今夜一泊だけお願いします」
「承知しました。一泊小金五枚となります」
たかっ?!
払えなくはないけど昨日泊まった宿の二十五倍ってどうかしてるでしょ…。
でも疲れたし、今日はいろいろ揉めるよりも早くベッドに横になりたい。
納得出来ないものがありつつも腰ベルトからお金を取り出し従業員に渡すと彼も鍵を渡してくれた。
「今夜は満室に近い状態でして、一階の奥の部屋となります」
「わかりました。じゃあおやすみなさい」
女性に一階の部屋を勧めるってどうなのよ。
満室に近いって言ってるんだし仕方ないけど…でも宿の中にも護衛みたいな人がいるし大丈夫かな。
昨日の宿と同じく部屋に入るなりすぐ絶対領域を展開して、腰ベルトを外しジャケットを脱いでベッドへとダイブした。
なんだろう。
倒して終わりとか、採集してきて終わりの依頼なら楽なのに、人が絡むだけでこんなに面倒になるものなんだね。
「はぁ…今日は早めに休もうっと…」
今日もありがとうございました!




