第202話 Sランク冒険者
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さっきから引っ切り無しにゴランガが攻撃を仕掛けてくる。
右手の大きな斧を片手剣のように振ってくるし、その合間には左手に持ったハルバードをまるで小枝を扱うかのように突いてくる。
どんな腕力をしてるんだか。
普通の人ならハルバードだけでも両手で扱う武器を勢いよく振るってくるものだから、金属で出来てるはずなのにしなっている。
それより信じられないのが大きな斧。
クドーの使う斧よりも小さいとは言え常人が持てる重さじゃない。
その二本の超重量武器を振るいながらも私を追い詰めるために素早く動いている。全身が分厚い筋肉で覆われているのにこれだけ素早く動けるとなれば、なるほどSランク冒険者としての名に嘘はない。
「どうしたぁっ! 避けてばっかじゃ俺様には勝てねぇぞ!」
そうね。
さっきからすごい勢いで私のすぐそばを通り過ぎていくゴランガの攻撃。
今も「びゅぅおぅ」という音を立てて私の耳の横を掠めていく。
「というか、まるっきり子どものチャンバラね」
「ほざけぇっ!」
そう、ゴランガの攻撃は確かに速いし威力も申し分ない。
けど、鋭さがまるでない。
一応戦斧スキルや槍術スキルは高いレベルになっているというのに技術は無いに等しい。
だからさっきから攻撃がワンパターンでちょっと退屈になってきた。
「はぁはぁはぁ…あ、当たらねぇ…なんでだ」
「そんな力任せに振るってるだけの武器になんて当たるわけないでしょ」
けど、当たったらさすがにちょっと痛いと思う。
最初の攻撃と違って今は身体強化も使っていれば、魔闘術で武器も強化している。
しかも戦闘時間が長くなってきているので戦闘マニアの効果でゴランガの攻撃力と防御力はどんどん上がってきている。
それに加えてレジェンドスキルがまずい。
暴君:自身の膂力と体力、与ダメージを三十五倍にする。敵を殺した数によって上昇値が増える。
何なのよそのぶっ壊れスキルはっ?!
多分最初に私に攻撃してきた時よりも今は百倍くらい威力の高い攻撃を繰り出してるに違いない。
…やっぱり痛そう、だよね?
「そろそろおっかないから終わりにするよっ!」
ゴランガから一旦離れてこちらも魔力を全身に行き渡らせる。加えて魔人化も使用。
足元に理力魔法で硬い足場を作ると全力で踏み込んでゴランガへと接近した。
「はっ?」
短剣から金色の光で出来た刃が伸びてゴランガの体へと吸い込まれていく。
ゴランガ自身は私がいきなり消えて目の前に現れたように見えたようで、視線が全く追いついてない。
斬りつけると同時にゴランガは洞窟の壁へと猛スピードで吹き飛ばされた。
ドオオォォォォォン
洞窟全体を震わせるような轟音が響き、天井からガラガラと割れた岩が崩れ落ちてきた。
ゴランガの体はその岩に埋まってしまい、ここからだとその体を見ることは出来ない。
「…ちょっと、やりすぎたかな…」
一応手加減はしたので、探知で探ってみれば彼の反応を感じることが出来たので間違っても殺してはいないようで一安心だ。
リードからは昔「盗賊は見つけ次第殺せ」って言われていたけど、やっぱり殺さずに済むならそれに越したことはないからね。
でもゴランガの攻撃のとばっちりを受けて広間に転がしておいた盗賊の大半は悲惨な状況になっていた。岩に押し潰されていたり、ゴランガの斧やハルバードの攻撃を受けて身体が二つ以上に分かれていたりと、ここまで来るとさすがに治療も出来ないしもう事切れているだろう。
思えば私もこういうことの耐性が高くなったものだなぁ。
息のある人達は治療してあげるとしても亡くなった人はせめて弔うくらいのことはしてあげようと思い、広間の地面に穴を開けようと手を翳したところでゴランガが倒れている方から音がした。
「…あんまり無理しない方がいいと思うよ?」
「へっ、へへへ…。こんなすげぇ一発を食らったのは久々だったぜ。ファロッティにぶちのめされた時以来だ」
ゴランガは岩を押しのけながら肩をゴキゴキと回しながらこちらへと歩いてきた。
思ったよりも手加減しすぎたかな?
ファロッティとは確かSランク冒険者の「銀月鬼」と呼ばれていた人だ。なんでぶちのめされたのかは知らないけど。
「ま、それでも俺様を一発で殺さなかったことを後悔させてやるくらいの力は残ってるがなぁ?!」
言い終わるよりも早くゴランガは再び斧を手に私に飛び掛かってきた。
ハルバードは吹き飛ばされたときにどこかへいってしまったようだ。
さっきよりも速い動きになったゴランガだったけど避けられない攻撃でもない。見てからの対処でも十分に間に合う程度なので振り下ろされる斧、斬り返し、時折体術も混ぜて蹴りや突進も仕掛けてくるけど一度も当たることはない。
速くはなっているけど、どれも一度以上見せられたものだから対処は難しくない。
なのに執拗に攻撃を仕掛けてくるゴランガは本当にしつこい。
「もう…しつ、っこいっ!」
ゴランガの攻撃を躱したところで隙だらけになっている脇腹に素手で強めに殴りつけた。
手に伝わってくる肋骨を折り砕く感触。
私の魔人化と魔闘術だとゴランガくらいの強化では何の役にも立たない。全く強化していない人相手に同じことをしたら素手で身体を引き裂いてしまうくらい強力な一撃だから、ちゃんと相手に沿った攻撃をしている自覚はある。
「ごっ…か、はぁ…」
「もうやめなってば。貴方じゃ私には勝てないよ」
「お、お前…なんなんだ。…ド、ドラゴンにだってお、俺様は勝てるん、だぞ…」
「そのくらい私にも出来るよ」
「く、くそ、ったれがああぁぁぁぁっ!」
破れかぶれでゴランガは殺意の籠った拳を私に向けてきた。
正直本当に面倒臭いだけでしかない。
ダンッ
「なっ?! なんだこりゃっ?!」
ゴランガの拳は私がいつも足元に使う理力魔法の足場と同じ壁に阻まれた。
私の魔力で出来ているからとても固い。クドーの攻撃だって一回だけなら防げるくらい。
それをクドーよりも遥かに劣るゴランガが拳で殴ったくらいではびくともしないのはわかりきっていることだ。
そんなことはゴランガにはわからないだろうけど。
「くそっ! ちくしょうっ! 俺様は! Sランク冒険者! なんだっ!」
喚きながら繰り返し理力魔法の壁を殴りつけるが、何度殴ろうとも壁に罅一つ入れることが出来ない。
肋骨も複数個所骨折していて力が入らないはずなのによくやるよ。
「Sランク冒険者だからって、やっていいことと悪いことの区別くらい出来るでしょ。私は貴方を捕縛します」
「Bランクのガキが! 俺様にそんなことしてみやがれ! タダじゃ…」
「もういいでしょ。痺倒響、剥感覚」
いい加減ゴランガの言葉を聞くのも嫌だし、実力の違う相手との戦闘にも興味はないのでとっとと邪魔法で身体の自由を奪っておくことにした。
ゴランガは異常耐性のスキルを持っているけど、ここまで負傷している上に私の邪魔法とのレベル差があるので問題なく魔法にかかり静かになってくれた。
やっぱりレベル差があるのは大きいみたいでSランク冒険者でも大人と子ども以上の実力差があったようだ。
「やれやれ…。さてと」
広間に転がる盗賊達と盗賊だった物。
ゴランガに邪魔されて穴を掘るのが中断されてしまったので、続きをやることにした。
少し魔力を込めただけで直径十メテル、深さ五メテルほどの穴が空く。これだけあれば多分足りるだろう。
直接触りたくないので理力魔法を使って息があるものを集めてその中心に立つ。
「新奇魔法 聖光癒」
続いてまとめて回復魔法をかけると出血や骨折していた者達は全て治癒された。
身体が元に戻ろうとする力を使うので非常に強力な回復魔法ではあるものの、残念ながら欠損までしてしまったものを治すことは出来ない。
千切れた腕などがあれば治せるかもしれないけど、彼等に対してそこまでしてあげる義理は無い。
ちなみにあくまでも回復魔法なので邪魔法でかけた状態異常までは治らない。それは聖魔法の「正異常」を使わないといけない。
使えるけど使わない。
じゃないと今からやることを見られるのは困るしね。
「さて…折角の洞窟だし久々にやりますかっ!」
まだ捕らえられてる女の人はいっぱいいるけど、探知で見る限りは今すぐに命の危険があるような人はいない。
時間に余裕があるならば、やらねばなるまい。
というかこれに時間を掛けたくてリッチの討伐は早めに終わらせる予定だったんだけど、思った以上に時間がかかったし予定としては押してるんだよね。
でもやる。
「てことで、『探知』スキル全開っ!」
言ってはみたけど、とにかく広範囲を探すようにしただけで。
当てずっぽうでも鉱物、鉱石を探すのに適しているのは間違いない。
と探ってるところにいきなりヒット!
「細かいのがいっぱい……これはガーネットだね」
岩の中にいくつも小さな粒が混じっているみたいなので、ガーネットだけを鉱物操作で集めていく。
まるでエスコートするかのように自分の前に差し出した手のひらの上に赤い粒が光を纏いながら集まってきた。
そしてそっと乗せられた若くて背伸び盛りの令嬢の手のように、私の前に手のひらサイズのガーネットが現れた。
地魔法や鉱物操作を駆使して不要な不純物とクラックを取り除いていくと、透明度のとても高い深い赤を纏った宝石が私に初めましての挨拶をしているかのように手のひらで転がった。
「あぁ…素敵…。本当にお転婆なお嬢様みたいね、貴女は」
今すぐここでこの子を愛で回したい衝動に駆られるけど、それでまだ終わりじゃない。
引き裂かれるような思いでガーネットを腰ベルトに入れると作業を続けることにした。
探知を使い隈無く探っていくとアメジストのクラスターが固まっている場所を見つけた。
「なんかすごく密集してるような? ひょっとして…晶洞?」
晶洞がそのままあるなら是非とも持ち帰りたい!
ここから千メテルくらい地下にある。以前の四則魔法(下級)で使っていた鉱物操作ではそこまで離れてしまうと操作出来ないし、何より今回の晶洞は直径が二メテルはあるので大きすぎて動かせなかっただろう。
今なら出来るけどね!
だからやる!
鉱物操作に向ける意識を強くすると指定した範囲のアメジストがそのまま移動してくるのがわかる。
岩の中を岩を移動させている…よくわからない言い方になるけど、そうとしか説明出来ない。
しばらく集中して移動させていると地面から歪な卵形をした岩がにょきっと生えてきた。
残念ながらこれを割ると価値が下がってしまうけど、割らないとこの美しさはわからない。
とりあえず今ここでやってしまうと私はしばらく動けなくなってしまうので、これもさっきのガーネット同様腰ベルトにさっさと収納した。
さて、まだまだやるよ。
今日もありがとうございました!
次回からはいつも通り三日に一回のペースになります。




